同志社大学 スチューデントダイバーシティ・アクセシビリティ支援室における取り組み

「新ノーマライゼーション」2022年7月号

同志社大学 スチューデントダイバーシティ・アクセシビリティ支援室
チーフコーディネーター 土橋恵美子(つちはしえみこ)

はじめに

同志社大学は、2000年5月に障がい学生支援制度を発足し、2020年に20周年を迎えました。同支援制度では、本学に在籍する障がいのある学生が他の学生と等しい条件のもとで学生生活を送れるよう、修学環境を整えてきました。また、支援を受ける学生と支援するサポートスタッフがともに支え合う中で自律的な成長ができるよう、障がい体験を取り入れた講座やキャンプを行うなど、さまざまな取り組みを重ねてきました。

20歳を迎えた障がい学生支援制度は、2021年4月に、スチューデントダイバーシティ・アクセシビリティ支援室(以下、SDA室)改組となっています。ダイバーシティにあふれるキャンパスを視野に入れる必要性が出てきたことによる組織改編です。ここで申し上げるダイバーシティキャンパスの視点というのは、障がいの有無に限らず、国籍、性別、性的指向・性自認、文化、宗教、思想信条といった「多様性 (ダイバーシティ)」を尊重した互いの関わり方を指しています。

支援を必要とする学生とコーディネーターの20年の変化

障がい学生支援制度が発足した2000年当時を振り返ると、障がいの有無に限らないダイバーシティを尊重する時代が来ることは想像もしていませんでした。当時は、まだ大学には「障がい学生支援コーディネーター」という言葉はなく、日本の大学のほとんどが、障がい学生の把握さえできていませんでした。

コーディネーターである私は、障がい学生の「私は、ただ他の学生と同じように勉強したいだけなのです」という訴えを代弁する形で各学部や先生方へ、配慮のお願いをしてきました。それが、2016年に施行された障害者差別解消法によって、障がいは「心身の中にあるのではなく、社会と個人の間にあると捉える」という考えが生まれました。コーディネーターの役割は、障がい学生の学ぶ権利を本人に代わって伝える代弁者から、法によって守られることになった障がい学生の学ぶ権利を仲介的な立場でつなぐ仲介者へ転換することになったのです。つまり、法律ができたことによって、「組織のコンプライアンスとして学生と大学をつなげる」という役割を担うことになりました。

そして、障がいのある学生は、自身の自助努力のみによって克服するのではなく、多数派のために整備された社会側にある障壁を除去(または削減)するために、「私は、(上肢障がいによって)書くことができないので代わりにノートをとってほしいです」と、支援の必要性を自ら表明することになりました。以降、支援を必要とする学生は法律によって学生の学ぶ権利が保障され、大学も合理的配慮としての支援体制を整えていくわけですが、2020年に入ってまもなく、新型コロナウイルス感染拡大という未曽有の事態に直面しました。

コロナ禍によって生まれた支援

法の施行から4年目の2020年度春学期は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、すべての授業がオンラインとなり、入構も制限されたことにより、授業だけでなく、関わり方も遠隔という形に急変しました。そうした中で、私たちを根底で支えてくれたのは、障がい学生の「大学で学びたい」という強い思いと、「障がい学生の思いに応えたい」という教職員やサポートスタッフの思いでした。

一例を紹介しますと、視覚教材を中心に進むオンライン授業において、全盲学生の受講は難しいと考えられていた科目がありました。なぜなら目の見える晴眼者も直接見たことがない地球の動きや地中の変化を視覚教材から学ぶ授業だったからです。それが対面ではなくオンライン授業で行われるのですから、概念として理解できても、視覚的に理解する学生と等しい学びは難しいだろうことを当該学生に説明したところ、「それは想定内です。そのうえでこの科目を学びたいので、履修中止の予定はありません」と即答されました。

科目担当の先生は、全盲学生の思いに応えるために、地表や地球の状態や動きがわかる海洋底の模型や大陸パズルを手作りしてくださり、試行錯誤の結果、海洋底の動く方向や大陸名などを点字シールにして貼り、凡例を点訳して添えました。

約3万人在籍する本学学生の多様性と、コロナ禍によって生まれた支援の可能性がミックスされた一例で、遠隔による支援の可能性の考え方を変えるきっかけとなりました。

現在の支援内容

先にも述べましたとおり、本学は2021年度にSDA室へ改組しました。身体に障がいのある学生支援に加え、精神・発達に障がいのある学生や、多様な性別や性的指向・性自認のある学生が、学生生活を送るうえで必要かつ適切な支援と機会を得られるよう、また学生が相互に多様な人格と個性を尊重し合いながら共生できるよう、障がい種別ではなく、困りごとベースで支援を行うことを意識しました。修学上、どの場面で困り感があり、どのような支援が必要かヒアリングをして、具体的な支援内容を検討していきます。

本学での支援内容は図1のとおりです。

図1 同志社大学 学生支援センター スチューデントダイバーシティ・アクセシビリティ支援「案内パンフレット」から抜粋
https://challenged.doshisha.ac.jp/attach/page/CHALLENGED-PAGE-JA-22/162591/file/sdapan2022.pdf

○きくことへのサポートが必要な方

サポートの例:情報保障(PC通訳・ノートテイク・手話通訳)、音声認識ソフトの利用、映像文字起こし、消耗備品の支給(ルーズリーフ・ペン)、ノイズキャンセリングイヤホンの使用

○見ることへのサポートが必要な方

サポートの例:授業資料・試験問題などのテキストファイル文字校正、拡大コピー、点訳、対面朗読、代筆、代読、ガイドヘルプ(学内移動)、授業補助、授業の参加方法の調整

○動くことへのサポートが必要な方

サポートの例:代筆、車椅子介助(学内移動)、トイレ介助、食事介助、駐車証発行による車両入構、ストレッチ用休憩室の利用

○読み書きへのサポートが必要な方

サポートの例:PC筆記、代筆、筆記試験の時間延長

○コミュニケーションへのサポートが必要な方

サポートの例:情報の具体的な提示、重要な情報の強調、実験やグループワーク時の役割の明示

○注意・集中へのサポートが必要な方

サポートの例:代筆、レジュメ等の再配布、重要事項のオンラインによる提示

○その他へのサポートが必要な方

サポートの例:別室受験、授業の途中入退室(オンライン授業の途中離席)、ガイドヘルプ(学内移動)、駐車証発行による車両入構、学内シャワールームの使用、着席場所の調整、発表方法の変更

そして、コロナ禍によって、急速に普及したオンラインにより、これまで対面で行っていた支援を遠隔で行うようになり、現在は遠隔での支援も選択できるようになりました。

例:対面でのパソコン通訳 →オンラインでのパソコン通訳
  対面での代理タイピング→オンラインでの代理タイピング

また、オンデマンド型の授業は、先生から動画の視聴許可をいただくとともにデータを提供いただき、サポートスタッフが自宅等で視聴しながら、文字起こし/ノートテイク/代筆/ポイントテイクすることも増えました。

おわりに

2022年度からは、対面授業が全面的に始まる中、障がい学生支援においては、オンラインと対面の利点を活かした支援を展開しています。オンラインの受講が可能となったことで、コロナ禍による配慮としてではなく、障がいや突発的に病状が悪化した学生からそれらを原因とするオンライン受講の合理的配慮を求める声がでてきました。

文部科学省は「大学設置基準」で、現在、卒業に必要な124単位のうち60単位をオンライン等の遠隔授業による修得単位数の上限としています。大学のディプロマポリシーにも関わることから、学内でもオンライン授業の上限は重要な案件となっていますが、先般、文部科学省は、大学で取得できるオンライン授業の単位数の上限について、条件つきで緩和する特例制度の骨子案を文科相の諮問機関・中央教育審議会の分科会に示しました。そして、早ければ2023年度から特例が適用されます。

本学SDA室としましても多数派のために整備された社会側にある障壁にアンテナを張って適切に改善するよう努める所存です。

menu