地域発~人をつなぐ地域をつなぐ-京都の伝統産業の継承を障害のある人の力で~京くみひもの担い手育成と商品開発~

「新ノーマライゼーション」2022年7月号

特定非営利活動法人SEED きょうと プティパ
前田奈津季(まえだなつき)

特定非営利活動法人SEEDきょうとは、平成23年に「摂食障害からの回復のために、手を取り合ってできること全てを」という理念のもと、京都で活動を開始しました。今回紹介させていただく京くみひもの取り組みは、SEEDきょうとが運営する就労継続支援B型事業所プティパに通所する利用者Aさんの思いから始まりました。

「摂食障害をはじめとする精神疾患をもつ女性が安心して社会への一歩を踏み出し、自分らしい生き方ができるようサポートしたい」という思いで活動をしているプティパで、Aさんは、コロナの感染拡大で緊急事態宣言が発令され、在宅での利用が可能になったことをきっかけに利用頻度、より高いレベルの作業にも取り組まれるようになり、「就労を目指してもっとステップアップしたい。伝統産業分野に興味がある」とスタッフに自ら希望を伝えたことが発端でした。

スタッフが京都市主催の伝統産業イベントを知り、Aさんを誘い一緒に参加したところ、「京くみひも」の実演を見てその美しさに魅了され、Aさんはくみひもにとても興味を抱かれました。実演されていた昇苑(しょうえん)くみひもにAさんの見学希望の思いを伝えたところ、快く受け入れていただき、実際に商品を見ながら職人の話を伺い、作業工程や職場見学の機会をいただきました。見学を通じて、「この職場でくみひもづくりに携わりたい」と、Aさんはより一層思いを強められました。そのため、就労に向けた京くみひも体験を昇苑くみひもに相談し、伝統産業の担い手育成に係る補助を受けることができる京都市の「伝福連携担い手育成支援事業」を申請しました。体験がスタートしたのは2021年7月。くみひもを使った商品作成の工程を一通り体験した後は、工房と自宅で訓練を積まれました。

始めたころは、楽しさからハイペースで取り組まれ、1か月、2か月経つと疲れが出てきました。それでも、自ら体調を整えるために試行錯誤したり、事業所スタッフや体験担当者との振り返りを通して、徐々に「頑張りすぎない、ちょうどよいペース」を見つけられました。数か月後には、商品づくりにも携わり始め、事業が終了する2022年3月末には、難易度の高い技術も含めてさまざまな技術を習得することができました。

翌4月、「このままこの企業で就労したい」という思いが膨らんだAさんと、Aさんの熱心さや強い思い、努力、身に付けてきた技術を認めてくださった昇苑くみひもの双方が合意して、パートタイマーとして就労を開始することになりました。初めての就職で「頑張りすぎてしまう傾向」が出てしまったりと、社会人 1年目に誰もがぶつかる課題にしっかりと向き合いながら、職場で交流をしたり、会議で発言をされるなど、着々と活動の幅を広げています。また、プティパとしても、昇苑くみひもとのご縁で京くみひもに触れる機会が生まれ、京くみひもの結びを指導いただいたことにより、少しずつ新商品ができています。

一職員として私も、このような機会をいただいたことをとてもありがたく感じています。昇苑くみひもからも、「手作りの地味な作業をコツコツ続けてくださる人が減ってしまう現代において、伝統工芸という仕事を残していくことの難しさも感じていますが、今回の取り組みを通じて、新しいチャレンジの可能性を強く感じました」とありがたい言葉をいただきました。

歴史ある京都に事業所を構えていることから、身近に伝統産業に触れる機会は多く、興味がある利用者もいます。これまでは、敷居が高い印象を抱いていましたが、今回の取り組みを通じて、福祉事業所と伝統産業が一緒に組めば新しい可能性が生まれることがわかりました。現在も、昇苑くみひもより、内職の仕事を頂戴したり、プティパで新商品を検討する際にアドバイスをもらったりと関係は続いています。今後も福祉と伝統産業で手を取り合い、利用者の働きがいの創出や、京都の伝統産業に興味のある方が担い手になる機会を得られるように働きかけていきたいと思います。

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