災害から身を守るために~個別避難計画の作成と地域での活動

「新ノーマライゼーション」2022年8月号

自立生活センターSTEPえどがわ 事務局長
土屋峰和(つちやみねかず)

私の住む江戸川区は、荒川、江戸川という大きな川と東京湾の三方を水で囲まれています。しかも区内陸域の7割が海抜ゼロメートル地帯(満潮時の水面より土地が低い)とされています。もともと土地が低いため、通常の雨でもそのままでは排水できず、ポンプを使って排水しているそうです。

こういった特徴のある土地で水害が起こった場合、江戸川のほぼ全域が浸水の危険性があるとされ、広い範囲で3m以上の浸水、場所により5m以上とされているところもあります。また、浸水後の水が引くのにも1~2週間、長ければそれ以上という場所も多く示されています。江戸川区のハザードマップには「ここにいてはダメです」と衝撃的なことが書かれています(図1)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図1はウェブには掲載しておりません。

近年では毎年のように災害が起こり、その中で観測史上最大というようなことを、よく聞くようになりました。これって、いつ自分のところで同じようなことが起きても、何らおかしくはないということだよな…?と思った時、ゾクゾクっとしたのを覚えています。近年よく見る氾濫の映像。映像の中でも、何十年住んでいてこんなの初めて…、といったこともよく聞くような気がします。あれがもしもここで起きたら…。

私は頸髄損傷で常時簡易電動車椅子を使用しています。一人暮らしをしていますが、障害により食事や入浴、排せつなどの日常生活動作等、自分ではできないことも多いため、ヘルパーさんをお願いしながら生活しています。仮に避難が必要な状況になったとしても、自分一人ではできないため、介助者が必要です。また避難したとしても、そこで過ごすためには、やはり介助者が必要(食事や排せつなどで)となってしまいます。もちろん避難所には大勢の方が避難しているため、ちょっとしたことをお願いすることはできるかと思います。しかし、排せつ等の技術が必要な介助となると、そうもいきません。

これまではどこか他人事のように思っていた避難ですが、あらためて考えてみると、わからないことや解決方法が浮かばないことだらけだということに気付きます。やはりその時にどうするのかを予め決めておかなければ、その時が来たとしても、何もできず困ってしまうのが目に見えているように思いました。その一つが個別避難計画かとも思いますが、ポイントは、誰とどこへ逃げるか、を決めておくことだと思います。でも、考えてみると、これがとても難しい。個別避難計画の中に何度か出てくる言葉に「家族等」という言葉がありますが、私の場合は一人暮らしをしていて、近くに親類等もいません。また、隣近所とのお付き合いもないのが現状です。

そんな中で「誰と」と考えると、やはり普段から介助をしていただいているヘルパーさんが一番安心できるのでは、と思いました。しかし、ヘルパーさんと避難所へ避難したとしても、そのままそのヘルパーさんがずっといられるかどうかは、また別問題となります。先に書いたように私にはさまざまな介助が必要ですが、ヘルパーさんにも都合があり、家族がある場合もあります。急にしばらく一緒に滞在ということをお願いするのは、さすがに難しいと感じます。仮にしばらく一緒にいられたとしても、ずっと介助をお願いすることは相当厳しいと想像します。

これは福祉避難所に避難したとしても同様だと感じています。江戸川区では一時避難所、在宅避難の難しい方で、福祉避難所の指定を受けると、直接福祉避難所に避難できる仕組みができました。でもこれはあくまでスペースのみの提供であって、ベッドはもちろんその他の物資や、十分な介助が受けられるわけではないとのことでした。また、同行者(介助者)は1人までとされているため、仮に家族がいたとしても家族でそこへ避難ということはできません。そもそも福祉避難所のある場所も、ハザードマップでは浸水の危険性はあるとされています。その浸水の深さは私の自宅のそれとほぼ同じであり、用意されているものも無いとなると、そこへ行く意味がどのくらいあるのか疑問も感じています。

自立生活センターSTEPえどがわ(以下、STEPえどがわ)では、ヘルパー派遣を行う事業所として以前から少しずつ災害時の対応を検討していました。発災時には当然のことながらヘルパー派遣はとても難しくなります。というより安全を考えるとできません。利用者さんの中には、私のように独居の方も多く、日常的に介助を受けている場合、ヘルパーさんが来られなくなると生活ができなくなるばかりか、命にかかわる可能性すらあります。

このようなことを踏まえ検討した結果、STEPえどがわでは集団広域避難という方法を、選択肢の一つとして試してみることにしました。ヘルパーさんやその家族等も含めた集団で避難することで、これらの多くの問題は解決できるのではという期待があります。この集団広域避難は、私を含むSTEPえどがわスタッフや区内在住の防災専門家、建設コンサルタント等の有志で活動している、江戸川みんなの防災プロジェクト(EMINBO:えみんぼう)とも協力しながら検討をしていました。

そんな中、令和元(2019)年台風19号が発生し、これを大きなきっかけとしてその必要性を痛感したのです。そして同年12月に、まずは最初の訓練として小規模(総勢12名。うち車椅子ユーザー4名、子ども1名)にて山梨県の清里への避難訓練を行いました。

これにより想定ではなく、より現実的なさまざまな課題を見つけ、検証することができました。これを活かし、さらに現実的な試みとして今年6月には、総勢約50名(車椅子12名(うち呼吸器ユーザー1名)、視覚障害1名、知的障害1名、子ども2名)まで規模を拡大し、清里への集団広域避難訓練を行いました。リフト付きの大型観光バスを貸し切り、体育館にみんなで泊まってみるという、他では聞いたことのない試みでした(写真1、2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1、2はウェブには掲載しておりません。

避難は避難して終わりというわけではなく、長期にわたる可能性もあります。その場合、そこでの生活も考慮しなくてはいけないと強く思います。障害をもっているとさまざまな弊害も出てきやすいように感じるからです。避難計画だけではなく避難生活も含めて考えておかなければ、私たち障害のある者(障害者に限らずですが)にとっては、そこでの生活がすぐに破綻してしまう怖さを感じます。

ただ、課題も山積しています。その一つが費用です。今回は事情により遠方の清里への訓練でした。助成金等も活用し実施しましたが、それでは全く足りず事業所としての負担も大きいものでした。避難をためらわせる(難しくする)要因の一つは、費用とも感じます。江戸川区では広域避難をした場合、1泊3,000円、3泊まで助成する制度もあります。こういった制度も活用しながら、区のいう「ここにいてはダメです」をどうクリアしていくか。行政との連携はうまくできていないのが現状ですが、私たちにできることは積極的にやりつつ、制度の拡充にもつなげていければと思っています。

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