地域で暮らす・支える-地域生活支援拠点等の整備-鹿児島県鹿児島市における地域生活支援拠点整備の取り組み

「新ノーマライゼーション」2022年8月号

社会福祉法人ゆうかり業務執行理事 地域生活支援拠点ゆうかり管理者
相談支援専門員(地域生活支援拠点事業コーディネーター)
塩満創(しおみつはじめ)

社会福祉法人ゆうかり

昭和42(1967)年に開設されたゆうかり学園は、最大定員110名の入所施設でしたが、現在定員を40名に縮減し、グループホーム等への地域移行を推進してきました。平成19(2007)年には、すべての子どもを受け入れるというコンセプトでゆうかり保育園を開設し、インクルーシブ保育に取り組んでおります。そして、平成29(2017)年に、地域生活支援拠点ゆうかりを開設しました。

鹿児島市での取り組み

鹿児島市障害福祉計画第4期計画における地域生活支援拠点(以下、拠点)等の整備に関する平成29(2017)年度の目標値は、1つ以上整備することを目指すことになっておりました。鹿児島市は、拠点整備に向けて検討部会を立ち上げ、鹿児島市の拠点のイメージを考えることからスタートしました。

その礎は、平成24(2012)年10月に設置された鹿児島市障害者基幹相談支援センター(以下、基幹)の発足から現在に至るまでの相談支援および地域移行支援にかかる取り組みへとつながっています。

地域生活支援拠点と基幹相談支援センター

基幹や拠点で受けた緊急相談(緊急一時保護につながりそうな)事例は、タイムリーに拠点や行政機関と情報共有できる連絡体制で対応しています。基幹や拠点がキャッチした緊急相談や一時保護の可能性のある当事者の情報は、相互に相談受付票や関係機関等の作成した支援関係書類等をベースに共有しています。基幹と拠点の双方が情報把握しやすいように、相談受付票は共通様式となっています。

事前登録制はとっていませんが、基幹に情報を集約して、必要時に情報をお互いに確認できる連絡体制を構築しています。緊急一時保護につながる可能性が少しでもある方からの相談が入った際に、すぐに共有できるようにしています。

緊急相談につながる可能性が高いケースでは、行政や基幹の担当者より、拠点のコーディネーターおよび拠点宿直者へ事前の情報提供があります。基幹が開所していない時間帯に、緊急相談があった際に、スムーズに対応できるように基幹と拠点はもちろん、行政機関や関係機関が必要な情報の共有を行うための連絡体制を整えて、当事者および家族からの相談に即応できるように備えています。

また、定期的な情報共有の場として、自立支援協議会定例会の事務局会議および定例会の場等(各月1回)も活用しています。拠点で一時保護を行う場合に、どのような受け入れ条件とするか、受け入れ中にどういった方向性で今後の生活を検討していくか等、一時保護につながる前までに検討できることを関係者(基幹や行政機関等含む)間で協働して事前にイメージの共有を図っておくことがとても重要です。結果的に一時保護につながらないことも多いですが、そういった平時からの情報やコミュニケーションの積み重ねが、いざという時の安心感へつながっていると日々実感しています。

24時間365日の支援体制整備を拠点として担っていますが、なかでも夜中の電話対応は緊張を伴います。拠点での宿直業務は相談支援専門員または管理者クラスが担います。その場での判断が必要となるためです。緊急一時の受け入れ等、翌朝、もしくは週明けに基幹、ならびに障害福祉課等への事後報告をしています。

重責ではありますが、実は宿直業務の引き継ぎ事項の連絡先リストには、鹿児島市障害福祉課係長の携帯番号も掲示されています。判断に迷う時や重大案件の際に相談するためです。24時間365日対応となると、係長の負担が気になるところですが、それを必要と認めてくれる障害福祉課は、本当に頼りになります。保健支援課(保健所)や拠点事業に協力協定を締結している法人、その他地域の関係機関等へ必要時に連絡が取り合える体制ができつつあります。

行政とのパートナーシップが大切、といわれますが、鹿児島市の場合はそのことを体現しつつ課題解決に向けて共に取り組んでいただいています。

多機能拠点整備型であり面的整備型でもある体制

基幹の受付時間以外は、虐待通報の対応も請け負っています。宿直者は木造4階建ての拠点1階にある宿直室に待機してもらうのですが、第一報は上階のグループホームの夜勤者が受電し、緊急度合いに応じて宿直者に内線で連絡し対応してもらうという仕組みです。基幹の運営協議会を構成する市内の60法人のうち、17法人と当法人が連携協定を締結しています。連携協定法人は、それぞれの事業所で緊急一時保護等の受け入れを担ってもらうほか、月に数回は拠点で宿直業務に入ってもらいます。開設前は「なぜ、ほかの法人の事業を手伝わなくてはいけないのか?」という意見もあったのですが、開設1年目のある夜のこと、緊急対応をした方を日常的に支援している事業所の管理者が、「大変な時に助けてもらった。ぜひ、手伝わせてほしい」とやってきてくれました。うれしい限りであり、このように、じわりじわりと仲間が増えてきています。

宿直者には引き継ぎの時点で、お泊りセットが手渡されます。手提げ袋の中身は、クリーニングされたシーツセット、公用車や宿直室、エレベーターの鍵がついた宿直ファイル、そして電話の子機です。宿直室の電話は外線の呼び出し音が鳴らないように設定してあり、何もなければ仮眠できます。内線の呼び出し音が鳴れば、即対応してもらわなければなりません。しかし、トイレ等で宿直室を離れる場合には、先ほどの電話の子機をオンにして持ち歩く、というルールにしています。

緊急対応事例

◎緊急一時保護:4月〔1泊2日〕 当事者より電話相談あり

【対象者2名】
身体障害 女性 50代
知的障害(A2) 女性 20代

※同居家族からの虐待の疑いあり
※母子ともに緊急対応のケースのため、対象者が2名

【主たる支援内容】当事者より、虐待防止転送電話へ助けを求める連絡が入る。拠点相談員が対応。警察に相談して、警察が現地へ向かい拠点まで同行し、一時保護となる。

⇒ 地域生活を再構築するため、一時的に緊急一時保護および短期入所のサービスを活用して、次の事業所へのつなぎを行う。

☆ 所轄の警察署へ相談して協働で対応(警察に介入してもらい、同居家族への説明と情報集約を担う)

「自覚者は責任者」(=「社会の課題や矛盾に気づいた人が社会を変える責任者になる」という『社会福祉の父』である糸賀一雄氏の言葉)、そうありたいと目指しつつも、個人ではどうしようもないので、エリア内の関係各所、事業所、そして鹿児島市を含むチーム一体となって取り組んでいく必要を感じています。

図 相談(緊急対応)基幹相談支援センターの時間内拡大図・テキスト

図 相談(緊急対応)基幹相談支援センターの時間外拡大図・テキスト

地域生活支援拠点に寄せる期待~鹿児島市モデルの課題とこれからの取り組み

拠点は、一法人の取り組みでは成り立たないため、多機能拠点整備型をベースに面的にもネットワークを広げていく必要性を感じています。鹿児島市行政と基幹センターとの密接な連携を中心に、地域の事業所(相談を含む各障害福祉サービス事業所)との協働が必須です。

鹿児島市モデルの課題として、1.体験の場の提供および周知不足2.教育機関との連携3.緊急時受入等において、生活保護課との連携強化(主に生活困窮者等:シェルターや救護施設等の既存の社会資源の活用を広げていくのも大切)等が地域生活支援拠点部会で挙げられています。

これからの取り組みとして、1.既存の社会資源の活用(警察、消防、救護施設、DV相談や対応する機関、女性相談、児相、等々)2.児童関連の緊急対応の課題3.医療機関との連携4.入所施設との連携5.拠点事業の周知の5つがあります。このような課題を連携する機関と共に解決していきたいと考えております。

「鹿児島市全体を地域生活支援拠点にしないといけない」。開所年度時の鹿児島市障害福祉課の課長の言葉が今も印象に残っています。この考え方を皆で形にしていかないといけません。親亡き後、といわず、今も、これからも暮らしやすい社会(まちづくり)のために、鹿児島市の取り組みの一つとして根付かせていきたいと考えています。

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