神奈川県立あおば支援学校における取組み

「新ノーマライゼーション」2022年9月号

神奈川県立あおば支援学校長
横澤孝泰(よこざわたかひろ)

1. コミュニティ・スクールとして開校したあおば支援学校

本校は、神奈川県教育委員会が推進するコミュニティ・スクールとして、「ともに生きる社会」の実現を目指すという基本コンセプトを掲げて開校準備を進め、令和2年4月1日横浜市青葉区に開校した、神奈川県立として29番目の特別支援学校です。小学部、中学部、高等部の3学部それぞれに、肢体不自由教育部門、知的障害教育部門の2つの課程を設置、今年度高等部3年までそろい、児童・生徒数は188名となりました。

本校の基本理念を、『思いを紡ぐ 優しいあおば』とし、「一人ひとりの確かな学びを支えること」と「地域とともに歩み、地域に貢献すること」を柱に、認め合い、助け合い、支え合う、共生社会の実現を図っていくことを目指しています。

2. 地域のコミュニティの拠点としての意義

学校が地域のコミュニティの拠点となることにより、児童・生徒が地域で豊かに暮らし、働くことにつながる指導・支援に結びつくと考えています。児童・生徒は、自立と社会参加に向け、本校で地域とのつながり方を学び、さらに、居住している地域での結びつきへと発展していくことを期待しています。

開校準備にあたって、地域のコミュニティの拠点となる意義は何かと考えていた時に、東大社研『地域の危機・釜石の対応 多層化する構造』に出会い、この中で玄田有史教授が書かれている、「小ネタが紡ぐ地域の未来」にヒントをいただきました。学校が誰でも自然と集まれる場となり、常日ごろからちょっと楽しい小ネタを提供することで、本校の子どもたちだけでなく、地域を含めたみなさんの学びにもつながるようにします。学校という場で、「ひと・もの・じかん」を共有し協働を積み重ねることによって、学校が地域のコミュニティづくりに貢献する一つの方法になるのではないかと考えました。

小学校や中学校は、その地域に居住すると、自らが通学し卒業したり、子どもが通ったりすることで自然に愛着が湧いてくるものです。では、特別支援学校はどうでしょうか。あらためて、本校と地域の関わり方を考えている時、『特別支援学校が地域との密着性が弱いのは、親近感がなく、愛着形成ができにくいからではないか。それゆえ、限られた人との関係が多く、特定の人しか集まらず、地域からの経済的な支援も弱いという実情があるのでは』という意見に出会いました。これは、実際に学校運営協議会が始まり、委員さんから教えていただいたことで、私は、正直驚きました。もしかしたら、特別支援学校が地域に密着してきたと思ってきたのは、私の幻想だったのかもしれません。

学校が地域のコミュニティとして持続していくには、学校のために何かをしようと思ってくれる人が多く集まり、さまざまな資源(人、もの、資金)が集積される必要があります。そして、この資源の活用方法を学校運営協議会で熟議を重ね、学校経営に活かすとともに、それを実践していく地域学校協働本部の役割が大きいと考えています。

図1 あおば支援学校グランドデザイン
図1 あおば支援学校グランドデザイン拡大図・テキスト

3. 学校運営協議会の体制・特色・工夫など

学校運営協議会委員については開設の準備段階で、ローカルコミュニティ(地縁組織)とテーマコミュニティ(学校の特色・課題に対応した視点)の両面から候補者を絞り込みました。その結果、委員は本校のある青葉区を中心に活動している町内会自治会、医療、福祉、大学、NPO、保護者、区役所、近隣中学校等多彩な立場の方にお願いしました。正直なところ、青葉区中心に絞ってよいのかという懸念はありました。しかし、地域に密着したメンバーで進めることで、話がより具体的に進むことや、このメンバーに深くつながればつながるほど、他の学校区である都筑区や緑区とも自然につながり、必要があれば、委員に働きかけていただけるということが分かり、当初の懸念は吹き飛びました。そして、地域の方々が学校の運営に主体的に参画していただくことができ、このような人選による効果はとても大きかったと実感しています。

本校のコミュニティ・スクールは、委員と思いを紡ぎ、ともに生きる社会の実現を目指すとしており、当事者意識と帰属意識を持っていただくために、「みなさんの学校です」ということを最初にお伝えし、その一例として校長室には、学校運営協議会の会議スペースを設け、委員の個人ロッカーを用意し、学校に少しでも愛着を感じていただけるようにしました。

また、学校運営協議会の組織としては、学校関係者評価を行う「評価部会」、県立特別支援学校全校共通の部会である「切れ目ない支援部会」、本校独自の部会として、「地域連携部会」と「地域協働部会」を設置しています。

4. 各部会の活動

〇「切れ目ない支援部会」では、本校を取り巻く現状と課題を挙げ、この地域には卒業後の就労先が少なく、特に、肢体不自由教育部門の卒業生の受け入れ先がほとんどないという課題が出され、熟議をしました。解決の方向性の一つとして、医療関係者である委員から、設置の方向性を探るという提案があり、具体的に進めていくことになりましたが、設置までにはさまざまな課題が多く、この部会で継続して取組んでいます。これは、特別支援学校単独の提案では、このようには進みません。コミュニティ・スクールの存在の大きさを感じさせていただいています。

〇「地域連携部会」では、学校開放事業について熟議をし、従来学校が担っていたものを地域が主体で運営することが提案され、今年度その運営組織が立ち上がりました。これは、県立特別支援学校では、数少ない事例でもあり、教員の業務軽減にも大きく寄与しています。放課後や休日に施設を開放し、在校生も利用する機会があれば、卒業後ももうひとつの「居場所」ができ、生涯学習の場、地域の多彩な人との出会いの場となることでしょう。また、この部会では、本校を福祉避難所として活用することについて、委員から青葉区役所と連携して、設置を進めることの具体的な提案がありました。

〇「地域協働部会」では、地域学校協働活動推進員2名が活動、教員本来の業務ではないと言われながらも担ってきた地域協働のコーディネートを、学校運営協議会の協議に基づき担うようになりました。また、委員である地域の連合自治会長から、特別支援学校が地域と密着していくための方策や資金の集め方などをご提案いただき、今年度から、地域協働部会で具体的な検討に入っていくことになりました。地域などから集められた資金を一つにまとめ、基金(ファンド)を設立し、子どもたちだけでなく、地域に還元する仕組みを模索中です。

5. 今後に向けて

地域との協働活動を体験することは、特別支援学校の保護者にとってまたとない機会となります。今後、保護者自身が子どもの在学中に地域とつながる方法や楽しさを学ぶことで、居住地の地域とのネットワークが広がり、さらに地域コミュニティに入りやすくなるのではないかと考えています。

開校3年目でまだスタートしたばかりの実践ですが、学校だけでは簡単に進まないことが、委員のもつ知見やネットワークを最大限に活かし、それぞれが「当事者」として解決の方向性を示していただき、コミュニティ・スクールならではの今後の姿が示され、学校経営を支える大きな存在となっています。

本校で学ぶ子どもたちの学びと体験がより豊かになり、さらに卒業後も社会の一員としていきいきと過ごすことができるよう、保護者、先生、地域の方と共に、コミュニティ・スクールと地域学校協働活動の意義をみんなで感じ、高め合っていきたいと願っています。さらにあおば支援学校の存在が、地域社会におけるノーマライゼーションの理解を深めることにも寄与していけるものと、大きな期待を抱いています。

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