障害のある人が作った魅力的な雑貨が福祉と社会をつなぐ~セレクトショップ「マジェルカ」

「新ノーマライゼーション」2022年10月号

編集部

はじめに

東京・吉祥寺の商店街の一角に障害のある人たちが作った雑貨のセレクトショップ「マジェルカ」があります。マジェルカ代表の藤本光浩さんにマジェルカの取り組みについてお話を伺いました。

福祉事業所で作られた魅力的な自主製品との出会い

マジェルカは、全国の福祉事業所(以下、事業所)で作られている雑貨の自主製品を扱っているセレクトショップです。

私が、事業所で作られた自主製品に出会ったのは、今から10年くらい前でした。当時バイヤーの仕事をしていた私は、偶然から魅力的ですてきな雑貨に出会いました。後にその雑貨は障害のある人たちによって作られたものであることを知りました。それをきっかけに事業所の自主製品を調べてみると、全国各地の事業所で自主製品を作っていることを知りました。しかし、当時は事業所で作られた自主製品は主にバザーや福祉ショップなどで販売され、購入するのは障害当事者やその家族、知り合いなどの関係者で、それ以外の人たちにつながる機会がほとんどありませんでした。

私は、この魅力的な製品をもっと多くの人たちに知ってほしいという気持ちから、全国の障害のある人たちが作った製品を販売するセレクトショップ「マジェルカ」を始めることにしました。それが2011年です。

ウェルフェアトレードの普及活動

マジェルカでは、自主製品の価値を正当に評価して、その商品に見合う適正な価格設定をして販売しています。商品が売れればそれを作った障害のある人たちの工賃に反映され、働く意欲もさらにあがり、社会参加が進み、障害理解も広がります。これらのしくみを私たちは福祉のフェアトレードと捉えて「ウェルフェアトレード」と呼んで活動をしています。

「買いたい」「ほしい」製品作り

お店では常時50か所くらいの事業所の製品を扱っています。マジェルカを始めてから今までに250か所ほどの事業所の製品を扱ってきました。お店を始めたころは、全国の事業所やバザー会場を回り、取り扱う製品を探していました。現在は自分の事業所の製品を扱ってほしいという連絡をいただくこともあります。

マジェルカで扱う製品は、丁寧に作られたものであることはもちろんですが、何よりも「(福祉目線ではない)お客様目線」で見て、製品としての魅力と価値があるかどうか、ということを大切にしています。お客様が「買ってあげる」ではなく「買いたい」「ほしい」と思ってもらえるようなものをそろえています。私たちが作り手の技術や素材を生かして、製品の魅力を引き出す提案をする場合があります。逆に事業所から提案をいただく場合もあります。そのため製品がお店に並ぶまでに長い時間かかる場合がありますし、事業所と私たちの考え方が一致しなくて製品化に至らない場合もあります。

お店の場所のこだわり

全国から集めた魅力的な製品を多くの人に買っていただきたい。そのためにお店の場所にもこだわりました。2011年にオープンしたお店は東京都杉並区西荻窪でしたが、2014年に現在の吉祥寺に移転しました。

吉祥寺のお店は商店街の一角にあります。障害のある人たちが作った製品を扱っているお店だと気づかずに来店して、気に入ったものを購入していただく。そんなお店を目指しています。お店の入り口には季節を意識した製品をディスプレイして、店内を見やすく入りやすい工夫をしています。また、製品の売れ方は、見せ方によっても大きく変わるので、展示レイアウトは日々工夫しています。

お客様の声を届ける

マジェルカのことを知らずに来店して購入されたお客様には、障害のある人たちによって作られたものであることを何気なくお伝えするようにしています。それを知ったお客様からいただく「それは良い買い物ができた」「だったらなおさら大事にします」といった声はとてもうれしく印象に残っている言葉です。お客様からの声を事業所の方に伝えることで、さらに良い製品作りにつながっています。

また、気づかされることもあります。障害のある人が作ったことを知って感動したお客様から「もっと高くてもいいのに」と言われますが、福祉関係の方からは「結構いい値段ですね…」という声もいただきます。さまざまな声がある中で、製品の販売をどう展開していくかは課題の一つです。

さまざまな活動

販売活動のほかに、事業所や企業、行政などからの依頼を受けて、売れる自主製品作りに関するセミナーやワークショップを実施したり、自主製品の販売会なども企画しています。このような機会を通して、魅力的な自主製品作りにチャレンジしてほしいと考えています。

コロナ禍での新たな取り組み

新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2~3年前から売り上げが下がっています。コロナ禍でお店に来るお客様が減り、それが売り上げに影響して現在も厳しい状況が続いています。コロナ禍を生き延びるためにオンラインショップにさらに力を入れています。製品の魅力を伝えるコメントや製品を作っている障害のある人たちのことも紹介しています。また、SNSも積極的に活用して情報の発信に努めています。

おわりに

かつての私がそうであったように、障害者と普段関わる機会がない方たちが、マジェルカに並ぶ雑貨製品を見たり知ったりしたことで、それまで全く知らなかった障害のある人たちのことを知る。多くの人にとってそんなきっかけを提供する場になりたいと考えています。

障害のある人に対して、特別深く理解を学んだり行動を起こすのではなくても、ただ優しい目線をもつだけ、同じ社会の中で身近な存在として感じられるだけでよいと考えています。そして、そういう人が世の中に増えることで誰にも優しい社会になるのではないかと考えています。

【マジェルカのウェブサイト】 https://shop.majerca.com

(取材後記)

マジェルカに伺ったのは、7月末でした。店内は、Tシャツやバッグ、アクセサリーや食器類などが所狭しと並んでいて、店内はカラフルな色の製品で溢れているように感じました。色使いがすてきなバッグや個性的なイラスト入りTシャツが気になったので、今度はゆっくりほしいものを探したいと思いました。

さて、残念なお知らせがあります。マジェルカの藤本さんから、今年11月末をもって店舗での営業を終了するという連絡がありました。店舗はなくなりますが、オンラインショップでの販売は引き続き行っていくそうです。最近は販売の形態も多様化して、オンラインショップは一般的になっています。今後はオンラインショップの利点を生かして、より多くの人たちに魅力的な製品を紹介していってほしいと思います。販売以外のセミナーやワークショップなどの情報もマジェルカのウェブサイトでお知らせするとのこと。これからの新しい形での活動に期待したいと思います。

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