行政の動き-「障害者の就労支援について」の見直しの検討に参加して思うこと・期待すること

「新ノーマライゼーション」2022年10月号

全国就労移行支援事業所連絡協議会 会長
酒井大介(さかいだいすけ)

このほど社会保障審議会障害者部会は障害者総合支援法改正に向けた報告書をまとめました。ここでは、この報告書が示す就労支援分野見直しのポイントに対する私の見解、そして、今後、制度の創設や見直しを行う上で私が感じる展望や課題を述べていきます。

就労支援分野においては、この見直し議論の前に厚生労働省において「障害者雇用・福祉施策の連携強化に関する検討会」(令和2年11月6日~令和3年6月4日(計7回))が開催され、現状の課題や今後の方向性を障害福祉サービスにどのように反映させるべきか検討されました。障害者部会の報告書はこの検討会に基づいています。

検討ポイントは、1.就労アセスメントの強化、2.就業中の就労系障害福祉サービスの利用のあり方、3.障害者の就労支援に携わる人材育成のあり方及び地域における就労支援体制等について、でした。

就労アセスメントの強化は、新たに就労選択支援(仮称)を創設し、就労系福祉サービス(就労移行支援・就労継続支援A・B型)利用前に、作業場面やケース会議等の場面を通して、本人が客観的な就労能力を知り、その後のサービス選択等の参考にしてもらう、というものです。企業等で働く能力がありながら就労系サービスに滞留している例が数多くあるため、この制度の必要性については大いに感じています。一方で、制度化に向けては、全国的にある程度統一したアセスメント結果の見解や視点が必要であり、アセスメントを行う人材の養成が課題です。人材養成がこの事業の成否を握っているといっても過言ではないと思います。

2点目は利用者像に関わっています。就労系サービスは企業等での就労が困難な者へのサービス提供という位置づけだったため、すでに就職している者への利用は想定されていませんでした(就労定着支援を除く)。今回の案では、企業就労後の短時間就労から段階的に勤務時間を増やしていく場合や休職から復職を目指す場合において、就労系障害福祉サービスの一時的利用を法令上可能にするという方向性が示されました。これらの対象者について、すでに柔軟に支給決定をしている自治体もあり、地域格差是正という点で実態に即した対応だと考えます。しかし、就業中の就労系福祉サービスの利用期間が3か月~6か月程度と示されており、これでは利用ニーズが限られるのではないかと懸念されます。また、就業中の利用の取り扱いは自治体裁量の部分が大きかったわけですが、制度で整理されることにより、現行利用できていた者が制限を受ける可能性もあります。

最後の人材育成については、発達障害をはじめとした対象者層の拡がり・事業者増による支援の質の低下といった課題を踏まえて、研修体系の大きな変更を予定しています。雇用と福祉の横断性という観点から、就労に関わる事業のさまざまな担当者が基礎的研修の受講対象必須者として位置づけられたことは意義深いと思います。また、地域における就労支援ネットワークの強化や就労定着支援の整備拡充が示されたことについても期待したいと考えます。

今回の見直し議論は障害福祉全般を議論するもののため、各分野についての審議時間は非常に限られたものでした。そのため、就労支援体系そのものや、就労継続支援A型の今後のあり方等について十分に議論を尽くせたとは言いがたく、積み残された課題でもあると感じています。これらについて次期見直し議論や報酬改定時に取り上げられることを切に願います。

本年6月13日に、「障害者総合支援法改正法3年後の見直しについて~社会保障審議会障害者部会報告書」が提出されました。報告書でまとめられた13の論点の中から「障害者の就労支援について」の見直しのポイントや期待することについて、同部会の委員の方にご意見をいただきました。

編集部

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