快適生活・暮らしのヒント-義足ユーザーの暮らしの中での工夫

「新ノーマライゼーション」2022年10月号

新潟医療福祉大学義肢装具自立支援学科
佐藤未希(さとうみき)

私は17歳の時に交通事故で右足の膝から上を失い、義足をつけて暮らしています。お恥ずかしい話ですが、当時はコギャルブームの終盤で、案の定私もミニスカートにルーズソックスが定番の高校生でしたから、一夜にして足を失うことへの喪失感はひどく、不安な日々を過ごしていました。

そんな日々を4か月ほど経て、初めての義足が出来上がりました。義足がないと両松葉杖もしくは両ロフストランド杖を使用し、杖を使用しない場合はケンケンか車いすでの移動となりますが、ケンケンは危険すぎますし、若かった私に車いすの選択肢はありませんでした。「杖無しで、少しでも上手に、早く、友達と同じように歩きたい」という想いから、父に送ってもらい通院していましたが、運転免許を取得し、週2回自主的にリハビリに通うようになりました。練習を重ねるうちに杖無しでの義足歩行を獲得し、両手の自由を得た私は、積極的に外へ出るようになりました。その喜びはとても大きく、私の行動範囲は拡大し、社会生活に戻っていくことができました。

切断して20年、私にとって義足は生活の必需品であり相棒だと思っています。しかし、相棒との生活にはちょっとした工夫も必要となります。義足と切断した足(断端)の間にはシリコーンライナーというインサートを装着することが主流で、シリコーンライナーはウエットスーツと似たような素材のため夏場は特に大量の汗をかきます。汗をかいたまま義足を付けると断端が滑り、ひどい場合には義足が外れ転倒の危険性があります。また、断端にもあせもや擦過傷が生じ、傷が悪化すると義足が履けなくなるため、母乳パットを入れ対処しています(図1)。授乳の際に余った母乳パットが断端の形状に合っていることに気がつき、入れてみると汗による滑りが改善され、快適に夏を過ごせるようになりました。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図1はウェブには掲載しておりません。

また、よく「どんな時に義足を脱ぎますか」と質問されます。答えは睡眠時と水場に入る時です。水場は毎日のお風呂、たまに温泉や海などのシーンです。切断当初の私では有り得なかったと思いますが、今では何の気兼ねもなく義足を外し、温泉や海に入ります。私には13歳の息子がおり「子どもにはなるべく他の子と同じような経験をさせてあげたい」という気持ちが大きなターニングポイントであったように感じています。特に海では外した義足に砂がつかないよう、テントの中に厳重に保管し、その上からタオルをかけて熱を防ぎます(図2)。テントは海辺からなるべく近い場所に建て、自分で海辺から戻ってこられるよう工夫することで、海遊びも楽しむことができます。ここには書ききれませんが、正直、義足での暮らしは面倒で不便な点も多々あります。しかし、残り50年近くの人生を義足と歩んでいくことへの不安より、日々ちょっとした工夫での生活を楽しみ、人生を謳歌することが今の私の目標です。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図2はウェブには掲載しておりません。

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