地域で暮らす・支える-地域生活支援拠点等の整備-中讃東圏域(香川県坂出市・宇多津町・綾川町)における地域生活支援拠点等整備の取り組みについて

「新ノーマライゼーション」2022年11月号

社会福祉法人若竹会 相談支援事業所わかたけ 管理者兼相談支援専門員
森亮治(もりりょうじ)

1. 圏域および地域自立支援協議会の概要

中讃東圏域は香川県の中央に位置し、坂出市、宇多津町、綾川町の1市2町で構成されています。土地面積は約210km2(県全体の11.2%)、人口は約91,243人(令和4年3月末時点)です。また、圏域内に住む障がい者については、身体障害者手帳所持者数3,779人、療育手帳所持者数751人、精神障害者保健福祉手帳所持者数676人です。障がい福祉サービスについてはほぼ100%相談支援専門員による障がい福祉サービス等利用計画の作成ができています。

中讃東圏域地域自立支援協議会は、圏域内の1市2町の障がい福祉行政や委託相談支援事業所4か所、特定・児・一般相談支援事業所6か所が中心となり、本会、運営部会、事務局会、専門部会を定期的に開催し、地域の障がい福祉について協議を行っています。

2. 地域生活支援拠点等の整備プロセス等の概要

平成27年度より中讃東圏域地域自立支援協議会の運営部会を中心に協議を開始し、平成28年12月より同協議会に行政と圏域内の相談支援事業所を中心としたプロジェクト会を設置しました。おおむね月1回の開催の中で、実施主体の行政や圏域内の障がい福祉事業所等が互いに機能を分担・協力する面的体制の整備によって、住み慣れた地域で安心して暮らしていけるよう、さまざまな支援の提供を行っていくことを確認しました。

平成29年6月には、圏域内の障がい福祉事業所に対して説明会を行い、緊急時受け入れについて協力依頼を行いました。その後協力可否についてアンケートを実施するとともに、協力可能である事業所と順次契約し、現在契約しているのは38事業所です。

平成29年10月1日より本格的に事業を開始し、1市2町からの協同委託により、相談支援事業所わかたけが緊急時受け入れの調整などの「コーディネーター機能(実人数2名、他事業と兼務)」を担うとともに、当事業の整備促進に資する取り組みを行っております。

3. 必要な機能についての具体的内容、取り組み状況について

1.相談

圏域内の行政や相談支援事業所が主な窓口となり、相談支援事業所わかたけのスタッフがコーディネーターとして夜間等24時間365日の相談や緊急時受け入れの対応を行っています。

2.体験の機会・場

地域移行支援の体験宿泊や体験利用、共同生活援助の体験入所、短期入所等を利用して体験の機会・場としています。

3.緊急時の受け入れ・対応

圏域内の障がい福祉事業所(38か所、令和3年度末時点)にて、緊急時受け入れ・対応を行っています。

平成29年10月の事業開始から令和4年3月までの受け入れ事例の実績としては、坂出市、宇多津町、綾川町の障がい者計11名の緊急時受け入れを行いました。理由としては、虐待5件、家族の入院や死亡3件、DV1件、災害1件、インフルエンザ感染症1件となります。受け入れ形態別としては、短期入所施設や小規模多機能施設などでの受け入れ10件、ヘルパーにおける在宅支援1件となります。その後の対応として、親族やサービスの調整を行い在宅に戻っての地域生活の継続となったのが6件、施設入所や一人暮らしに移行したのが5件となります。

4.専門的人材の確保・養成

地域の多様なニーズに対応できる地域の体制整備や確保、人材養成を自立支援協議会の専門部会において協議・検討しています。

精神障がいにも対応した地域包括ケアシステムの構築については地域包括ケア部会において、地域の精神障がい者に対する理解・啓発を目的とした地域の会への参加や、ピアサポーターと一緒に民生委員や地域住民を対象にした研修を実施しています。

医療的ケア児等の体制整備においては医療的ケア部会において、圏域内の現状や課題の把握を行い、ネットワークづくりの検討を行っています。

5.地域の体制づくり

相談支援事業所わかたけのスタッフが地域生活支援拠点等コーディネーターとして中讃東圏域地域自立支援協議会の事務局となり、地域の体制整備のための運営を実施しています。

4. 現在の課題と今後の展望

地域生活支援拠点等事業の開始から5年が経過し、障害福祉計画にも記載のある当該事業の検証・評価の一環として、緊急時の受け入れ事業所の現況確認を準備しています。事業開始当時は圏域内の障がい福祉サービスに対する説明会を行ったり、厚生労働省や香川県地域自立支援協議会から事業を推進していく流れがあったため、事業の目的や内容などが圏域内の障がい福祉サービス事業所に十分理解してもらえていた状況でした。しかし、事業開始から5年が経過し、障がい福祉サービス事業所におけるサービス管理責任者等の異動や、5年の間に圏域内に立ち上がった新規事業所の状況などから、圏域内のすべてのサービスの担い手に事業の目的や内容が十分理解してもらえていない状況があるのではないかと考えているところです。

そのため、現在すでに緊急時受け入れ事業所として各市町と契約している障がい福祉サービス事業所に対して、事業の目的や内容を再度認識していただき、障がい者の緊急時受け入れを今後も継続して行ってもらえるか確認するアンケートを予定しています。また、地域生活支援拠点等事業開始以降に新規に立ち上げられた障がい福祉サービス事業所に対しては、事業の目的や内容を説明し、障がい者を緊急時受け入れしてもらえる事業所として契約してもらえるか聞き取りを進めます。

また、現在まで緊急時の受け入れ・対応を実施した障がい者の状況を振り返ると、1.障がい福祉サービスを利用しているが障害支援区分を取得していない、2.介護保険を利用しており障害者手帳を保持しているが障がい福祉サービスは利用していない、3.以前に障がい福祉サービスを利用していたが現在は就職や地域で一人暮らしをしており、障がい者就業・生活支援センターや町保健センター、社会福祉協議会等が関わっているといった状況が多くみられました。問い合わせも本人や家族からではなく、関係機関からの連絡が100%を占めています。事業が始まる前はどこにも繋がっていない障がい者からの問い合わせが多くなるのではと予測していましたが、実際には福祉と何らかの関わりを必ず持っていた障がい者への対応が中心となっています。このことから、圏域内の障がい者には何らかの形で障がい福祉が行き渡っており支援が充足されているか、もしくは支援が必要な障がい者に地域生活支援拠点等事業の情報が行き届いていないのではないかと考えているところです。アウトリーチによる障がい福祉サービス等を利用していない障がい者の把握については、以前から圏域内における基幹相談支援センターの設置検討会等において議論されてきましたが、それらの実現までには至っていません。

さらに圏域内の1市2町それぞれで重層的支援体制整備事業について準備や協議が進められており、当該事業にはアウトリーチ等を通じた継続的支援事業といった項目もあります。その中で、地域における障がい福祉の体制において、中長期的に地域生活支援拠点等事業がどのように位置づけられるべきか、また、子ども・障がい者・高齢者・生活困窮者等の横断的な支援に連携・協力していきながら、支援がまだ行き届いていない障がい者へ支援が充足するよう、今後も議論を重ねていきたいと思います。

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