地域で暮らす・支える-地域生活支援拠点等の整備-県南エリアコミュニティ地域生活支援拠点 県南ありのまま舎の取り組み

「新ノーマライゼーション」2022年12月号

亘理ありのまま舎施設長
白江浩(しらえひろし)

1. 亘理町(わたりちょう)の概要

亘理町は宮城県南部に位置し人口約33,000人(2020年)の町で、町の総人口は減少傾向ですが障碍のある方(児者を含む。以下同じ)は増加傾向です。2020年の3手帳の所持者は1,825人(18歳未満94人を含む)、指定難病医療受給者は277人(令和元年)です。

2. 亘理町地域生活支援拠点整備の経緯

社会福祉法人ありのまま舎(以下、法人)が亘理町に地域生活支援拠点を構想したのは、法人の新5か年計画策定途中で、東日本大震災が発生し、策定の見直しが行われたことと国で2012年に出された地域生活支援拠点構想に当時から着目していたことがあります。

こうした背景の下、東日本大震災直後、法人の県内被災者支援の中で、被害状況、障碍・難病の方々の状況、支援過程での関係構築、障害福祉を中心としたサービス資源状況、地理的状況、長期支援の必要性等を鑑(かんが)みて、亘理町と名取市に相談支援事業所を立ち上げ、深く地域事情を把握し支援を継続することを明記した新5か年計画を策定しました。そして3年間相談支援を行い、法人として亘理町地域生活支援拠点構想を策定しました。それと亘理町で策定された地域生活支援拠点計画の方向性(障碍関係の社会資源が少なく、多機能拠点型での機能構築等)が一致し、事業者公募に応募し、自立支援協議会の審査を経て採択いただきました。

図拡大図・テキスト

理念ともいえる考え方として、東日本大震災支援活動の中で、いずれの被災地域でも被災者同士の支援活動が見られました。一方的に支援を受けるのではなく、相互関係の中でケアされていく関係が構築されているように感じました。法人の理念である、一法人だけでなく相互関係(支え合い)による自己実現という本来の「ケア」の考え方に基づくコミュニティづくり、すなわち『ケアコミュニティづくり』が実践できる素地を感じました。言い換えると復興に向けたケア力の可能性とともに、進められればと考えました。

3. 亘理町地域生活支援拠点機能(現状)

地域で安心して暮らすとはどういうことなのか。そのために何が必要なのか。亘理町自立支援協議会での議論、法人での議論を踏まえ、国が示す5つの機能(「体験の機会・場」「緊急時の受け入れ・対応」「相談」「地域の体制づくり」「専門的人材の確保・養成」)に加え「災害時支援」「虐待防止・人権擁護」を加えた7機能の実現を目指すことになりました。事業体制としては、多機能拠点型で30名の障害者支援施設と亘理町の基幹相談支援センターが同居する拠点に、20名の通所の生活介護、緊急を含む5室のショート、障碍のある方の医療支援を目指す診療所と訪問看護、現在休止中ですが緊急時の駆け付けと重度訪問介護支援(パーソナルアシスタント)を目指すヘルパー支援体制でスタートしました。それから3年が経過しましたが、そのほとんどの時間がコロナ禍にあって、思うように実現していません。いずれも質量とも不十分な状態ですが、少しでも実施したことを報告いたします。

1.「体験の機会・場」としては、ショート利用者の日中活動利用体験、支援学校卒業前の生活介護等体験、ショートと外部の日中活動体験、入居者の外部日中活動体験、グループホーム利用体験等への支援が挙げられます。

2.「緊急時の受け入れ・対応」については、緊急ショートを中心に行っています。この1年の緊急ショートの稼働率はほぼ1室は使用されており、2室使用したこともあります。登録を前提にしていますが、状態・状況によって受け入れ可能であれば登録のない方の受け入れを行ったこともあります。以前緊急ショートを利用した方が、家族とけんかして行くところがないからと突然来られたこともあります。職員が24時間体制でいますので、基幹相談支援センターを中心に連携して受け入れました。

3.「相談」は基幹相談支援センターが自立支援協議会事務局を担っていますので、相談部会等において意思疎通を図りながら、困難事例への関与や指定相談事業所等への支援を行い、関係構築を図っています。

4.「地域の体制づくり」については、コロナ禍も影響し、福祉関係資源以外の地域のさまざまな人材・資源との接触ができておらず、十分とは言えませんが、近々地域の町内会の方々と拠点関係者との懇談も予定しています。

5.「専門的人材の確保・養成」としては、基幹相談支援センターによる出前講座等が行われており、地域のさまざまな障害福祉・介護事業者の研修等を実施しています。また、コロナ禍で拠点内の研修は内部職員に限定されてきましたが、今後医療的ケアやさまざまな専門職(医師・看護師・セラピスト・管理栄養士・介護福祉士等)による地域開放型の研修を計画しています。

6.「虐待防止・人権擁護」については、基幹相談に虐待防止センターも委託され、拠点自体が人権擁護や虐待防止の発信拠点を目指しています。すでに基幹相談支援センターにおいて虐待防止研修や虐待事例への対応等を行っています。また、拠点内での虐待防止研修やさまざまな取り組みの蓄積ができつつあり、今後障害福祉関係者だけでなく、地域住民と共有したいと考えます。

7.「災害時支援」については、2021年の法改正後指定福祉避難所の協定を締結し、2022年から個別避難計画策定に取り組んでいます。災害時はご家族も一緒の避難ですので、人工呼吸器の方でも避難受け入れは可能です。非常時の電源はソーラー発電と蓄電、中央配管設備(全12室)による酸素吸入・喀痰吸引等(経管栄養含む)への体制を整えました。仙台市内のもう1つの障害者支援施設に倣っています。1室約20m2で全室個室の39室あり、30名を除く9室がショートや生活介護、避難時の居室です。入居者・利用者・地域住民100人が7日間過ごせる備蓄も準備しました。

医療的ケアの必要な方の受け入れは、看護師の24時間体制がまだ整っておらず人工呼吸器使用の方は現段階では入居とショートでは受け入れができません。ただ生活介護ではその方の状態によりますが、受け入れは可能です。人工呼吸器以外の医療的ケアについては、入居・ショート・生活介護とも可能ですが、その方の状態や人数等に制約もありケースバイケースになります。

4. 今後の取り組み(課題と対応)

いずれの機能も起動はしていますが、支援の質・量・連携は不十分です。また、この間の取り組み、対応の検証も必要と考えます。

「体験の機会・場」では、その方の望むさまざまな居住形態や福祉サービスのみならず、幅広い日中活動のあり方を体験できる体制が必要になると思います。

「相談」では、特定相談、一般相談、基幹相談とそれぞれの役割を整理しつつ、情報把握を適切に行い、限られた資源をいかに連携し、相談資源の枯渇を招かないように努めるのも拠点の役割だと思います。

「緊急時の受け入れ・対応」については、質量ともにどう強化するか、また、緊急にしない普段の支援力強化が必要です。

「専門的人材の確保・養成」については、専門職の養成とともに地域住民の理解を深める努力も必要かと思います。

「地域の体制づくり」においては、福祉関係以外の資源(人的資源を含む)へのアプローチが必要と考えます。

「虐待防止・人権擁護」については、地域の体制づくりや専門的人材の確保・養成とのリンクも必要です。また強度行動障害の人への理解を進めるための取り組みも必要と考えます。

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