ひと~マイライフ-踏み出したその先に

「新ノーマライゼーション」2022年12月号

鈴木祐花(すずきゆうか)

1990年、福島県生まれ。未熟児網膜症や緑内障、白内障のため、現在は右目は光を感じられる程度、左目は失明。福島県立盲学校(現視覚支援学校)高等部普通科卒業後、四天王寺大学人文社会学部人間福祉学科で社会福祉学を専攻。

2013年から福島県職員として勤務。盲導犬ユーザー。日本視覚障害者団体連合青年協議会常任委員。

「大学へ進学して、健常者とともに学び、働きたい」

これは、高校3年生の秋、第77回全国盲学校弁論大会全国大会で優勝した際の弁論の一部です。高校2年生の時に、私立高校の夏期講習に参加した経験から得た気づきをもとに、「踏み出す」という演題で発表しました。この弁論大会の審査員長は全盲の方で、当時、四天王寺大学の教授でいらっしゃいました。この先生との出会いが人生の転機となりました。私は福祉を学ぶことができ、全盲の先生がいらっしゃる大学ならば、視覚障がい者が学びやすい環境が整っているのではないかと思い、大阪にある四天王寺大学を受験しました。

大学では、社会福祉士の取得を目指し、福祉の法律や制度、相談援助のスキル等を学びました。3年生の時には1か月間の福祉施設での実習にも取り組みました。

そして、2011年3月、東日本大震災と福島第一原発の事故が発生し、地元福島に戻り就職したいと強く思うようになりました。県職員になれば、いろいろな部署があるので、やがては福祉の部署で障がい者の相談支援ができるのではないかと思い、採用試験の受験を決意しました。

しかし、当時の福島県の身体障がい者を対象とした選考予備試験では、点字受験が認められていませんでした。受験すらできないとわかり諦めそうになりましたが、家族や大学の先生方のアドバイスをいただき、要望することを決心しました。3年生の1月に要望をしましたが、なかなか回答を得られませんでした。そこで、点字新聞の「点字毎日」に投書したことをきっかけに、地元の当事者団体をはじめ、多くの支援者の皆さんにご協力をいただき、4年生の12月に点字で受験することができました。合格発表で受験番号を見つけた時のうれしさと、諦めなくてよかったと、ほっとした気持ちは今でも忘れられません。

早いもので、今年で勤続10年目になりました。現在は障がい福祉課で、障がい者の芸術作品展の企画や身体障害者補助犬の育成貸与事業等を担当しています。時には県民の皆さんから相談を受けることがあります。丁寧に応対し、最後に「聞いてもらえてよかった。ありがとう」という言葉をいただいた時にやりがいを感じます。

私が職場で使用しているパソコンにはPC-Talkerという画面読み上げソフトを入れており、パソコンの音声を聞きながら、ワードやエクセル、メール等を使い仕事をしています。点字の電子手帳でメモを取ったり、紙の文書はスキャナーとOCRソフトでテキストに変換し、内容を確認したりもしています。また、他の職員にサポートをしてもらっており、文書のレイアウトや漢字の変換のチェック、手書きの書類の読み上げ、代筆等をお願いしています。サポートをお願いする時には、何をしてほしいのかを具体的に伝え、積極的にコミュニケーションを取ることを心掛けています。

私は、盲導犬のエナと生活をしています。白杖を突きながら神経を擦り減らして歩いていた道も、エナが障害物を避けてくれるので、安心して歩くことができます。一人での外出でも自信がつき、行動範囲が広がりました。しかし、まだまだ盲導犬の受け入れを断られてしまうこともあります。その都度、身体障害者補助犬法によって補助犬の受け入れが義務付けられていることや、盲導犬は訓練を受けておりお客さんに迷惑を掛けることはないことなどを説明すると、多くの施設でご理解をいただいています。

私が充実した日々を過ごすことができるのは、家族や友人、先生方、当事者や支援者の皆さんのおかげです。今後も感謝の気持ちを忘れず、誰もが暮らしやすい共生社会の実現を目指し、微力ながら努力していきます。明るい未来へ向かって、エナとともに「ストレート ゴー!」

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