今から考える10年後の自分

「新ノーマライゼーション」2023年1月号

吉成健太朗(よしなりけんたろう)

eスポーツという言葉を皆さんはご存じでしょうか?昨今は国内でも多くの大会やイベントが開催されているので、どこかで言葉を聞いたことがある人もいると思います。ゲームの世界で競い合い勝敗を決める競技のことです。

私はこのeスポーツを多くの人に知ってもらうために活動をしてきました。今までいろいろなことを話し伝えてきましたが、一言で伝えるのならこう言います。「このコミュニティーは障がいのある人が障がいから解放されることができる場所」

私は生まれつき脊髄性筋萎縮症を患っています。これまで27年生きてきましたが、一度もサッカーボールを蹴ったことはないし、地面に足をつけて走ったことはありません。周りの人がスポーツを楽しんでいたとしても見ていることが当たり前で、頑張っても審判で参加することが精一杯でした。

ですが、eスポーツはどうでしょうか? ゲームをプレイする環境をつくることができると身体的なハンデが大きく影響することはなくなるのです。

ゲームが上手ければ結果が残せますし、その結果を出すために必要なのは練習です。自分が頑張った分は結果になって帰ってきます。それは当たり前なことだと思う人もいると思いますが、そもそも、練習して頑張るためにはスタートラインに立つ必要があります。サッカーや野球などでそのラインに立つことはとても難しいことだったのです。

そんなeスポーツの魅力を伝える活動は多くの人たちに広がり、今では同じような志をもって活動してくれる方々が増えてきました。もちろん今後も私にできる限りの発信をしていくことに変わりはありませんが、これから自分がどのような生き方をしていくのかを考え直すタイミングでもあると考えています。

「今の自分のままで10年後も生きていけるか?」このようなことを日々考えます。今は企業に就職してテレワークで働くことができているのですが、10年後も同じように働いている姿を想い描くことができません。脊髄性筋萎縮症は進行性の疾患なので、恐らく10年後は身体的には衰えていることでしょう。実際に10年前の自分を思い返すと今はできないことが増えたと実感します。

働くことは辞めるつもりはありませんが、もう少しやり方を考える必要はあると考えています。「自分自身に価値を付ける必要」があると思うのです。障がいに関係なく人は衰えていくことは理解していますが、衰えていくスピードは圧倒的に速いです。恐らく10年後は今やっているような作業も時間がかかるようになっていることでしょう。速さを求められることを続けることは難しいです。もちろん身体的負担が大きい作業もできません。

果たしてそんな自分に10年後仕事はあるのでしょうか? 世間的には新型コロナウイルスの流行をきっかけにテレワークという働き方が浸透してきており、仕事の選択肢も以前よりは増えてくれました。ですが、私は今のままではダメだと思っているのです。もっと自分に付加価値を付けなければいけません。

仕事をする時もクライアントが「多少時間がかかってもいいから吉成健太朗にお願いしたい」と思ってもらえるようにならなければいけないのです。そのようになるためには自分の武器が必要です。動画編集や3DCGを独学ではありますが勉強しています。現段階ではまだ自分だけの武器と呼ぶには経験が足りていません。それでも「いつまでも同じように過ごしていられる」とは考えずに未来を目指す必要があるのです。

障がいがあるからできないと思っていたことは、テクノロジーの進歩によって不可能ではない世界に変わってきています。恐らくこれからはもっと速いスピードでできなかったことを可能にしてくれる世界がやって来ることでしょう。そんな世界で自分だけの武器を持っていることができれば、障がいを障がいと思うことがなくなることでしょう。

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