ウイズコロナの学生生活からアフターコロナの社会人へ

「新ノーマライゼーション」2023年1月号

国際基督教大学4年
横山政輝(よこやままさき)

「ホンチョーサニオイテワ(本調査においては)…」、パソコンの電子音声を聴きながら、卒論を執筆していると、ふと3年前、マスクもつけずにはしゃいでいた1年生の頃を思い出すことがあります。以前、寄稿させていただいたのは、ちょうどそんな時期だったでしょうか。私は先天性の弱視で、普段は前述の音声パソコンを用いて勉学に励んでおります。専攻は文化人類学で、常用している「白杖」について、そのシンボル性や身体感覚など、エスノグラフィックな視点からの調査が卒業研究となります。振り返ってみると、私の大学生活は、ちょうど、コロナ前に始まり、半ばを混迷期に過ごし、今、新たな時代に向かう中で卒業しようとしているという、社会の過渡期にあたります。そんな中、再度、寄稿の機会をいただけたことに感謝するとともに、私の経験をお話できましたら幸いです。

一度目の緊急事態宣言の頃、私が在籍する国際基督教大学はいち早くオンライン授業の体制を整備し、つつがなく授業の受講ができました。よく「視覚障害者だと、オンライン授業で困ることが多いのでは?」と聞かれますが、「ディスカッションで誰が発言したのかわかりにくい」とか「サポートをその場でお願いするのが難しい」などの不都合がある一方、「投影資料が拡大表示できて見やすい」「紙媒体の資料のやりとりがなくなってアクセシブル!」など、案外、対面授業にない利点が多くあることにも気がつきます。そうは言っても、アウトドア派の私にとって、気軽に出かけたり、友人に会ったりといった行動が憚(はばか)られる自粛生活は過酷でした。特にこたえたのが課外活動の停止で、サークルにて取り組む予定だった「博物館のアクセシブルな展示作り」が中断されてしまったことには落ち込みました。

2022年になると、学内外の混迷もやや収まり、学園祭などさまざまな行事が再開されました。博物館との活動もなんとか再開にこぎつけ、最近は点字リーフレットの制作が進んでいます。さらに別の博物館からも個人的にお声がけいただき、触地図や解説方法の事前確認という形で、視覚障害者向けワークショップに携わらせていただいております。幼い頃から博物館が大好きで、「もっと博物館を楽しみたい!」という思いを抱いてきた私の夢が花開いた瞬間でした。これまで「博物館好き」を私らしさとしてきましたが、それを知り、ずっと応援してくれていた、盲学校の先生方、その他、多くの方々のおかげで、今回のような機会をいただけたのだと思います。

この流れで、これからも博物館と関わっていきたいところではありますが、来年度からは一般企業に就職し、新たな生活が始まります。社会人になることに不安がないわけではありませんが、アウトドア派な性格からか新しい世界に対する希望の方が勝っているように感じます。最近は、企業のビジョンについて学ぶことや、聴覚障害のある同期から、見えないながらに手話を習うことをとても楽しく感じています。当面の私の目標は、社会人として修練を積みながら、自立した生活を送るということになりそうですが、海外派遣や仕事以外の文化活動など、学生時代と方法は異なれど、外に飛び出す準備は欠かせません。自立した生活を実現するための意気込み、これまでの経験や人間関係、そして学び続ける姿勢、これらを大切に、目まぐるしく変動する社会の中でも、励んでいきたいと思います。

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