経験を開かれた未来につなげる

「新ノーマライゼーション」2023年1月号

特定非営利活動法人支援技術開発機構
小澤彩果(おざわあやか)

私は、小学校2年生の春休みに、ディスレクシアと診断されました。私の症状はひらがなを読むのが苦手で、どの文字で区切れば意味のかたまりとなるかを認識するのが難しいです。文字をとらえる時、図の左の画像で示すように、きょうときのうの「よ」と「の」のくるっと回る部分が似ているため、区別が難しいです。また、長い間読むと疲れてしまい、図の右の画像のように、焦点がずれて、文字がぼやけたように見えてしまいます。しかし、ディスレクシアといっても人それぞれ見え方は違います。

図拡大図・テキスト

小学校3年生から6年生まで、大阪医科大学LDセンターに通い、「できることを伸ばし、できないところをカバーする訓練」をしました。その後、小学校5年生の冬にDAISYと出会いました。文字のハイライトと音との連動はとても助けになり、教科書の内容もよく理解できるようになりました。

中学校では特段の支援はなく、試験では、相変わらずつらい思いが続きました。しかし高校に入学すると、定期テストで用紙拡大、時間延長、別室受験などの特別配慮がされるようになりました。そのおかげで成績はアップし、その後、大学入試センター試験では、問題のDAISYでの出題の配慮要請を拒絶されましたが、特別入試で大学に現役で合格、大学院まで進学することができました。大学での支援は、定期試験に関しては、PC読み上げ、別室という配慮を受け、授業に関しては、課題はできるだけデータで提供されていました。

現在私は、支援技術開発機構で、自分の体験を活かしてDAISYを広めるための講演会やDAISY教科書製作、再生ソフトの検証に携わっています。また、活動の一環で、出版社からアクセシブルなEPUB3(注)という形で出版されるように、日本DAISYコンソーシアム技術委員会に参加しております。

近視や遠視になれば誰しもメガネをかけるように、ディスレクシアの人にとって、メガネは、DAISYなどICTインフラ、教育環境(親の姿勢、教師の姿勢やスキルなど)、そして社会政策を組み合わせた生活環境全体に相当します。こうした生活環境が保障される社会が実現することで、障害と今呼ばれていることが障害と感じなくなり、それぞれが自信のある分野で活躍できる世の中になればいいと思います。

少しでも多くの困っている方が必要な支援を受けられる環境にすることが、高校生の頃から今までぼんやりと追ってきて、これからも目指してく目標です。また、あと1年半以内に障害者差別解消法による合理的配慮提供義務が民間にも義務化されます。まずは、今までのように講演会にできるかぎり参加することで、多くの方にDAISYやディスレクシアを知ってもらい、困難を克服するための選択肢を増やすことにつながればと願いつつ、目標にたどり着くには、ひとりですべてを行うことは難しいので、困難だと思うことは支援を受けながら、少しずつ背伸びしてチャレンジしてできることを増やしたいと思います。また、SNSや学校、図書館など、さまざまな人が日常的に立ち寄る場所を通して情報発信することで、ディスレクシア等の障害がある同世代および異なる世代とつながりをつくり、その方たちの希望を乗せて、出版社、図書館、ボランティア、政府、学校、たくさんの人が協力できるように、積極的に行動する1年にしたいと思います。


(注)アクセシブルなEPUB3は、出版社が使う電子書籍のファイル形式であるEPUBに、EPUB開発当初から参加していたDAISYの開発者たちの貢献もあり、DAISYと同じ機能を持つように開発されました。

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