地域で暮らす・支える-地域生活支援拠点等の整備-熊本県菊池市における地域生活支援拠点整備

「新ノーマライゼーション」2023年1月号

社会福祉法人菊愛会 相談支援事業所コミュニティはうす明日 相談支援専門員
甲斐裕基(かいゆうき)

1. 社会福祉法人菊愛会について

昭和56年に法人を設立、翌年昭和57年に知的障害者更生施設「わらび学園」を開設し、現在は菊池市を中心に乳幼児から高齢者までのライフステージに応じたサービスを展開しています。これまでの先駆的な取り組みとしては、旅館業での就労継続支援A型、短期入所の運用を全国で初めて行ったり、放課後等デイサービスの前進となる預かりサービス事業を開始するなど常に新しいことに取り組んできました。

2. 菊池市の概要

菊池市は、熊本県北東部に位置し、北部の八方ヶ岳から東部の阿蘇外輪山の鞍岳まで山岳が連なる山林や、菊池渓谷を成す清冽な菊池川の源流などの豊かな自然に囲まれた地域で、菊池平野を中心に肥沃な土地を形成しています。

歴史も古く、南北朝時代には菊池一族が隈府を本拠とし、九州中部・北部における南朝方の一大勢力となり、現在でも市内の各所に多くの遺跡が残っています。江戸時代には穀倉地帯として知られ、菊池米は最高級の品質とされ当時の米相場を決定する際の基準とされるなど、良質なコメの集散地である商業都市として発展してきました。

人口は、47,153人(令和4年11月末現在)で高齢化率が34%と過疎化と高齢化が進んでおり、今後さらに少子高齢化や人口減少が懸念されている状況となっております。また、山間部においては、バスの運行が無く自動車等を所有していない方はタクシーまたは相乗りタクシーの交通手段に限られてしまう状況にあり、福祉サービスの利用希望があっても、送迎範囲の対象外により利用ができないといった課題があります。

3. 菊池市の地域生活支援拠点の整備について

菊池市の地域生活支援拠点の整備にあたっては、第5期菊池市障がい福祉計画において、地域生活支援拠点等の整備を重点項目として捉え、国から示される指針に沿っての整備の方向性を検討した結果、平成30年3月に菊池市から社会福祉法人菊愛会(以下、「法人」という)へ地域生活支援拠点等(多機能拠点整備型)の依頼を受けてスタートしました。

(1)相談支援機能

法人が運営する相談支援事業所コミュニティはうす明日が相談支援機能の役割を担っています。同相談支援事業所の特徴として、計画相談支援、障害児相談支援、地域移行・定着支援、自立生活援助の指定、障害者相談支援(委託相談)、菊池市障がい者虐待防止センターの委託を受けており、地域生活支援拠点において求められる24時間365日の体制が整っています。

入口を担う相談支援事業所の役割としては、緊急時の連絡を受けた際に、スムーズに必要な繋ぎができるよう7名の相談支援専門員がLINEなどのツールを活用しながら連携をとって対応を行っています。

(2)体験の機会・場の提供

これまでに障害福祉サービス等の利用が無い方が相当数いる中で、特に高齢の親はサービスを利用せずに長期間、自分たちで援助をされてきたため、利用に抵抗感を持たれるケースも多くあります。また、障害福祉サービスを活用されている在宅の方でも、「元気なうちは自分たちが面倒を見る」と考える親御さんも多く、現段階ではそのような環境下における世帯へのアプローチが進んでいない状況です。しかし、いつかは必ず訪れる親亡き後への備えの事前準備ができるように、地域や行政と連携してアプローチ方法(手段)を検討して本人または親御さんへの理解を求めていきたいと考えています。

(3)緊急時の受け入れ等の対応

緊急時に短期入所への繋ぎが必要なケースにおいては、法人が運営する短期入所(施設入所、養護老人ホーム、旅館)が3か所と充実しており、短期入所が必要な方の意思決定または年齢、状態に応じた事業所選択が可能となっています。

現在もコロナウイルス感染防止のため、緊急時の短期入所利用の際に、「陰性」を確認しての利用が必須となりますが、検査時に使用する抗原検査キットに関しては、菊池市のご厚意により、無償で提供していただいています。

現段階では、短期入所の事前登録制はとっていませんが、緊急時に短期入所が必要と判断された方で障害支援区分の認定を受けていない、または短期入所の支給決定を受けていない場合であっても、障がいを証明するもの(手帳等)があれば、菊池市が地域生活支援拠点において作成された指標に基づいて利用することが可能となっています。

(4)専門的人材の確保・養成

専門的人材の確保・体制づくりについては、熊本県から強度行動障害支援者養成研修の指定を受けており、法人内外含めて専門的人材を養成する人材を配置して研修を実施しています。また、菊池市障がい者虐待防止センターの取り組みの一環として、毎年、菊池市障がい者等虐待防止研修会を菊池圏域2市2町(菊池市・合志市・大津町・菊陽町)の障害福祉サービス事業所等を対象に開催しており、昨年は講師に元厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課の虐待防止専門官を招いて質の高い研修会を開催し、専門的人材の養成を行っています。

(5)地域の体制づくり

障がい分野以外にも多職種と連携する機会が多くなってきており、特に深刻なのが、障がいの有無を問わず、若者・高齢者の生活困窮に関する相談が増えてきています。社会福祉協議会や生活困窮者自立支援事業において援助ができないケースに関しては、熊本県社会福祉法人経営者協議会社会貢献事業として実施している生計困難者レスキュー事業において、主に衣食住に関する支援を展開しています(ただし、現にある社会資源の活用を最優先とし、今後の収入等の見通しが立っている方に限る)。

4. 課題

現段階では、他の法人等に地域生活支援拠点がほとんど浸透されていない状況であり、ネットワークを広げていくためにも、さらなる働きかけが必要であると考えています。地域生活支援拠点における5つの機能(相談支援機能、体験の機会・場の提供、緊急時の受け入れ・対応、地域の体制づくり等)の充実・強化を図っていくためには、1法人が実施する多機能拠点整備型では限界があると考えており、他法人と連携しながら今後、面的整備型または併用整備型による体制整備を行って機能強化を図っていく必要があると感じています。ただ、24時間365日いつでも対応を求めて協力を得ることへの難しさを痛感しており、今後どのようにして体制を強化していくかは、現段階では見通しが立っていない状況となっています。また、基幹相談支援センターが未設置の状況でもあり、緊急時の短期入所の活用においては、医療的ケアの方を受け入れる事業所が無く、現状として医療機関以外の対応ができない状況であるため、24時間看護師を配置しているフォーマルサービスまたは菊池市外の事業所への協力依頼を求めるなどの働きかけを官民共同で行いたいと思います。

結びにあたり、障がいを有する方々が地域において安心して地域生活を継続していくためには、地域に何を求めていかなければならないのか、また、地域生活支援拠点として、何をしなければいけないのかをチーム一丸となって考え、引き続き地域課題やニーズの吸い上げを行っていきたいと思います。

menu