海外情報-障害のある仲間同士のサポートが生むインパクト~パラグアイでの国際協力活動を通して~

「新ノーマライゼーション」2023年1月号

JICA長期専門家/障害者の社会参加促進アドバイザー(フェーズ2)
合澤栄美(あいざわえみ)

2021年10月末からパラグアイの国家障害者人権庁でJICA専門家として活動しています。本稿では、前半で同国における障害者の状況を、後半では、私たちの事業の特徴を紹介します。

パラグアイにおける障害者

南米の中央に位置するパラグアイは、日本の約1.1倍の国土に750万人ほどの人口が住んでいて、平均年齢は約27歳、65歳以上は人口の約7%。豊かな自然資源と若い人口に恵まれた国です。首都のアスンシオンは緑が多く美しい街ですが、障害のある人をあまり見かけません。新しいショッピングセンターには、障害者優先トイレやリフトが設置されていますが、歩道には段差や穴など多くのバリアがあり、点字ブロックや音響式信号機もありません。障害のあるパラグアイ人に聞いてみると、単独で出かけるのは難しく、介助してくれる家族に遠慮して外出を我慢する障害者も多いとのことでした。

障害者に関する統計はあまり整備されていませんが、国勢調査(2012年)iによれば、3分の1の家庭に1人以上の障害者がいるとのこと。また、別の調査iiでは、学齢期(6~18歳)人口の教育の状況を比較してみると、障害のない人の8割以上が通学していますが、障害のある人では4割以下。障害者のうち、小学校を卒業した人の割合は17%です。また、パラグアイには、公的機関の障害者雇用率を最低5%と定める法律がありますが、公的機関の4割が1人も障害者を雇用しておらず、雇用率を満たしているのは、わずか6%に過ぎませんiii

さらに、公共にオープンされている建物や空間は障害者にアクセシブルにすることを定める法律(2013年施行)や、障害者は公共交通機関を無料で利用できるとする法律(2020年改正)などがありますが、新設の建築物もアクセシビリティ規格を満たしていないことが多く、障害者の運賃無料化を知らないバスの運転手もいます。パラグアイ政府は2008年に国連の障害者の権利条約に批准し、国内法の整備を進めているものの、政府や自治体の関係者がその内容を理解して必要な予算の配分や人材の育成をするに至っていません。

中南米地域で、障害のある仲間が共に支え合う

このような状況の中、私たちのプロジェクトでは、障害者の社会参加を促進すべく、「自治体に設置された障害者人権事務局の強化」「物理的アクセシビリティの改善」「自立生活実現に向けた障害者の能力強化」に取り組んでいます。自治体が前述の法律を遵守し、地域のステークホルダーと協力してインクルーシブな地域をつくっていくこと、その過程に障害者が中心的な役割を担って関わることを目指しています。

中でも、自立生活に関する活動は、障害のある仲間同士の協力と中南米の域内協力が大きな特徴です。中心となっているのは、JICAの招聘で来日し、自立生活センターで研修を受けた、障害のあるパラグアイ人たち。重度障害のある人が地域で生活している姿を見て、自国でもそれを実現させようと、「パラグアイ自立生活協会テコサソ」を2021年に立ち上げました。

彼らを支援しているのは、コスタリカの自立生活センター・モルフォです。モルフォは、JICAの技術協力や兵庫県のメインストリーム協会による草の根技術協力事業を通じて、介助者の育成や制度化、ピアカウンセリング、地域のアクセシビリティ改善、行政との連携、障害者の自立生活に関する法案の制定など幅広く活動しており、中南米地域における自立生活のパイオニアです。テコサソのメンバーにも、オンラインでセミナーを開催するなど、協力を続けてきました。

そして2022年8月末、10日間にわたり、テコサソのメンバー9人(車いす利用者の男女4人ずつと介助者1人)がモルフォを訪問し、自立生活を送っている障害者の経験から学び、センターの機能などについて理解を深める研修が実現しました。ほとんどの参加者にとって、飛行機に乗ることや家族と離れて過ごすことは初めての体験です。最初は不安な表情で口数が少なかったメンバーも次第に顔色が明るくなり、質問や発言が増えていきました。研修の後半には、「自分のことが前より好きになれた」「障害も含めた自分らしさを大切にしたい」という発言もあり、「他の障害者のためにも頑張りたい」と積極的に学んでいました。

短期間でしたが実り多い研修が実現できた最大の要因は、研修を提供する側も参加する側も障害者が中心となっていたことです。社会のバリアに直面してきた経験、自分自身を受け入れることや家族から自立することの難しさに対する共感など、共通の土台があり、思いを分かり合えるため、パラグアイとコスタリカのメンバーはすぐに関係を築き、意見を率直に交わせるようになりました。障害のあるピア同士であることに加え、スペイン語で意思疎通が可能であること、また、自立生活をコスタリカでどのように実現しているかを見て、パラグアイで自分たちがどのように活動を進めるかをイメージしやすいということも、中南米域内の協力ならではの利点です。参加者は帰国後、自分たちの経験をメディアや地域の集まりで紹介して、自立生活の実現に向けた思いを多くの人に伝え始めました。

このような一連の取り組みを通じて、「日本が途上国を支援する」「障害のない人が障害者を支援する」というアプローチではなく、同じ中南米地域に住む、障害のある仲間同士の協力だからこそ、大きなインパクトが出ていると感じました。私はアドバイザーとして派遣されていますが、主な役割は、障害のある人たちが可能性を発揮する機会を一緒につくることだと考えています。冒頭に述べたようにパラグアイには多くの課題がありますが、違いを包容し、他者に優しい国民性という大きな強みもあり、障害者がどんどん街に出ていけば、仲間を増やして社会を変えていけることでしょう。そんな彼らに伴走し、学び合う国際協力を続けたいと思います。

パラグアイで実施中のプロジェクト「IMPACTO」のFacebookページ:
https://www.facebook.com/proyectoimpactopy


【引用文献】

i “Características sociodemográficas de los hogares particulares con personas con discapacidad 2012” Instituto Nacional de Estadíística

ii “Plan de Acción Nacional por los Derechos Humanos de las Personas con Discapacidad, 2015-2030” Secretaría Nacional por los Derechos Humanos de las Personas con Discapacidad

iii “Informe sobre Inclusión Laboral de las Personas con Discapacidad en el Sector Público a Marzo de 2020” Secretaría Función Pública

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