フラワービジネスを通してともに働ける喜び~一般社団法人アプローズの取り組み

「新ノーマライゼーション」2023年2月号

一般社団法人アプローズ 代表理事
光枝茉莉子(みつえだまりこ)

1. 南青山のフラワーショップ「APPLAUSE GARDEN」

「APPLAUSE GARDEN」は、2021年6月に東京都から認証をいただいたソーシャルファーム事業所です。港区の南青山で小さなフラワーショップを運営しています。

母体の一般社団法人アプローズは、これまで障害者支援に特化した事業を展開してきており、設立から間もなく10年目を迎えます。現在法人内には、ソーシャルファーム以外に就労継続支援B型事業所やグループホーム、自立生活援助事業などがあります。

「障害者の社会参加と経済的自立」を理念に掲げるアプローズでは、これまでも特に就労支援に力を入れており、企業への就職というかたちで、毎年卒業生たちを輩出してきましたが、今後さらに障害者スタッフたちを社会へと力強く後押しすべく、一般就労へのステップのひとつとして、法人内に「福祉的就労」でも「一般就労」でもない、「中間就労の場」をつくれないかと考えていました。そんな時、創設された東京都ソーシャルファーム制度の理念と法人の目指す方向性が重なったことから、新しい可能性に希望を持ち、認証事業者として手をあげさせていただきました。

2. 彩り豊かな個性派スタッフたち

こうして始まったAPPLAUSE GARDENですが、しごとの内容は、まさに「街のお花屋さん」と同じです。花束やアレンジメント等を制作し、企業の受付やホテル、ショップ、レストランなどにお届けしています。また、外務省からも仕事を受注しており、大臣同士の記者会見や会食、海外の要人のレセプションパーティーなど、外交に華を添える装飾の仕事を一手に引き受けています。公の舞台だけあって、求められるクオリティも高いため、スタッフたちは、日々緊張感をもって業務に励んでいます。

働いているスタッフは、障害のある方、障害児の母、シングルマザー、元ひきこもり経験者など、それぞれに抱える就労困難な事情はさまざまです。年齢も性格もばらばら、個性豊かなスタッフたち(便宜上「就労困難スタッフ」と呼びます)が、ごちゃまぜになって働いています。

彼らをサポートするためのスタッフは配置していますが、福祉事業所と違って、「支援する側」「支援される側」の線引きが基本的にはありません。目の前の仕事を遂行するために、スタッフみんなで協力し合い補い合いながら働く。これがAPPLAUSE GARDENのスタイルです。

3. コロナで大ピンチ!

APPLAUSE GARDENが開設されたのは、2021年6月の、まさにコロナの流行真っただ中でしたので、恐れていたとおり、次々と苦難がやってきました。

納品先であったホテルから、宿泊客減少を理由に花の契約を打ち切られ、同じく取引先であったレストランが閉店し、予定していた各種イベントも軒並みキャンセル続き。花屋業界全体に大打撃を与えたコロナインパクトは、着実にAPPLAUSE GARDENの経営にも影を落としました。

また、スタッフがコロナに罹患したり、自宅待機者となったりしたことが運悪く重なり、瞬間的な人手不足も発生しました。外務省の大事なイベントでの装飾が控えているのに、お花を生け込めるスタッフがいない、ドライバーがいない、とにかく人手が足りない…!

私たちが青ざめた時、立ち上がってくれたのは、就労困難スタッフたちです。本来であれば、就労困難スタッフは、自身の体調や家庭の事情等により、みんなそれぞれ週10時間程度の就労時間をなんとか確保することがやっとの状況です。そんななか、スタッフ同士で自主的に相談をし合い、シフトを調整したり勤務時間を延長したりしながら、なんとか業務に穴を空けまい、お客様の信用を失うまいと、必死で踏ん張ってくれました。おかげで、無事にイベントは成功し、そのニュースをテレビで観て、スタッフ一同、深いため息とともに、ほっと胸を撫でおろしました。

この時私は、スタッフたちの間に「困った時はお互い様精神」が自然に芽生え、浸透していることに感動を覚えましたし、これこそソーシャルファームの醍醐味なのかもしれないと、確かな手応えを実感しました。

4. 活路は受注拡大のみ

素晴らしいチームワークが醸成されつつあるAPPLAUSE GARDENですが、目の前に必ず乗り越えなければならない大きな課題があります。それは、「5年間で自立をすること」です。

私たちの事業所は、東京都からソーシャルファームの運営費補助金をいただいており、人件費や家賃など大部分の販管費はこれによって賄われています。この補助金は5年間の期限付きであり、また、補助率も補助額も、5年の間で段階的に縮小していきます。つまりこの間に、完全に事業の売上だけで採算がとれるよう、事業体として力をつけなければなりません。

APPLAUSE GARDENはフラワーショップですから、そのためには、とにかくお花の売上を上げる=受注を拡大することが必須です。現在売上アップを目指して、各企業や行政等への営業開拓に力を入れるとともに、ブランドの魅力を高めPRする体制を構築するため、東京都から派遣していただいた専門家(コンサルタント)の力をお借りし、ブランディングやマーケティングにも集中して取り組んでいるところです。

給付費によって経営が成り立つ障害福祉サービスとは仕組みが異なりますので、この点は、私自身に頭のシフトチェンジが必要だと感じています。この先も長く事業を継続していく責任も大きいですが、これもアプローズにとって新しい挑戦だと思い、楽しんで取り組みたいと思います。

5. ともに生き、ともに咲く

APPLAUSE GARDENの名前の由来は、その名のとおり庭です。色とりどりの個性豊かな花が自然に共存する庭をイメージしています。GARDENで働く就労困難スタッフたちの多様性を内包しながら、ともに働き、彼らを社会に送り出していけるような、そんな存在になれたらと考えています。

芽吹いた種がやがて花を咲かし、種を飛ばしてまた新しい世界へ旅立っていくように、就労困難スタッフたちもAPPLAUSE GARDENからいつか巣立っていってくれたらと願っています。

まだまだ誕生したばかりのAPPLAUSE GARDENですが、みなさまどうぞ、今後を見守りいただけましたら幸いです。

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