社会で働きにくい人たちと力を合わせてチャレンジする埼玉福興グループの取り組み

「新ノーマライゼーション」2023年2月号

埼玉福興グループ 代表取締役
新井利昌(あらいとしまさ)

はじめに

私は、社会で適応が困難な障害のある人などが「働く」ことで社会での役割を果たし、社会から必要とされる環境づくりをしていきたいと考えています。そして働くことだけではなく、一生涯の暮らしを考えたトータルな支援を創造し続けることを目指して、常にチャレンジする精神を持って、障害者雇用・就労支援の輪を広げていきたいと考えています。

埼玉福興株式会社(以下、「弊社」という)がソーシャルファームを意識し始めたのは、農業を始めた2004年頃でした。それまでは企業の下請け作業を請け負っていましたが、企業の海外移転や単純作業が機械化され、受注が減り仕事自体がなくなりました。そこで機械化できない仕事で作業に人手が必要とされることや担い手不足といったことから、農業こそが生き残れる道ではないかと思い、農業に舵を切りました。

2007年に埼玉県で初めて異業種からの農業生産法人の認可を得ることができました。以来、約15年農業を中心に障害のある人をはじめ、社会の中で働きにくい人たちと一緒に力を合わせて取り組んできました。現在ではその輪の広がりがソーシャルファームであり、そのソーシャルファームの理念の進化を日本から興すことが、埼玉福興グループの新たな使命となり、取り組みとなっています。

本稿では、ジャパンソーシャルファームとして世界を目指す、弊社の地域の中の企業としての取り組みを紹介します。

会社が目指していること・事業内容

弊社におけるソーシャルファームの考え方は、単に働きにくい人たちを雇用するだけではなく、ソーシャルファームが生まれた社会的背景、それではいけないと行動した人々の背景から生まれたトータル福祉としています。弊社が初めから掲げているスタンスで、人としてのソーシャルファームがそこにあります。

弊社で働くメンバーは、障害者、シングルマザー、若年性認知症、神奈川医療少年院からの受け入れ、ニート、引きこもり、高齢者など、社会の中で生きにくい、働きにくい人たちを受け入れています。初めから彼らを対象にしていたわけではなく、受け入れる人を断ったら福祉ではないということでさまざまな相談に応えた結果、福祉的に困難なケースの方々を受け入れることになりました。

事業の内容は、基本的には障害福祉サービス事業者としての役割を徹底し、働く場としては「農福連携」の組織として、現在は埼玉県、群馬県、長野県で農園を営んでいます。弊社は社会的に働きにくい人たちを雇用する社会資源でありながら、社会課題を解決していく社会貢献組織として、みんなで世界を目指す組織に成長しています。今では若い世代も関わりだし、ホストファミリーとしての形も生まれてきています。

事業は、就労継続支援B型と障害者雇用での農業を行っています。「社会の中で労働力の主体となって働く」という理念のもと、障害の種別に応じて、3つの形の農福連携を展開しています。1つ目は毎日同じ仕事が続く水耕栽培。飲食関係、仲卸等へ出荷しています。2つ目は、毎日の天気の変化に合わせて仕事が変わる露地栽培。トラクター、草刈機、マルチ張り等、すべて障害メンバーだけで生産しながら、玉ねぎ、白菜などを石井食品、東海漬物等へ原料の供給を行っています。3つ目は、ネギ苗の生産。現在では300件の農家さんの苗の生産を行い、障害メンバーが農業の担い手として、農家を支えています。弊社の取り組みは単に障害のある人たちの支援にとどまらず、障害メンバーが地域の農家を支えたり、農業を通じた地域活動など、社会に貢献しながら事業を展開しています。

数々の賞を受賞

さらに、すべての人が働けないために、2004年からは、スローライフで生きていこうとオリーブの栽培をひらめきました。それは居場所づくりであり、グリーンケアとして、働く概念を変えなければという思いからでした。そんな思いをみんなで見守り続けながら、自分たちの手で搾ったオリーブオイルは、OLIVE JAPAN 2016で世界で金賞受賞を果たしました。今ではオリーブ農家さんと連携して、オリーブオイルやオリーブリーフパウダー、オリーブハーブティを製造しています。

ソーシャルファームで農福連携に取り組んできたことが評価され、保護観察所の所長より感謝状をいただきました。2019年には、地域一体での農業とソーシャルファームの取り組みが評価を受け、山崎記念農業賞受賞。2020年には農福連携のコンソーシアムにて、ノウフクアワード優秀賞を受賞しました。

これ以外にも障害メンバーと共に地域に貢献してきた活動の評価をいただきました。2018年グレーター熊谷オーガニックフェスの主催者として、障害メンバーと社会的なイベントをお手伝いすることが始まりました。全国的なおしゃれなイベントではなく、私たちと障害メンバー等が主催者側で、誰も排除しない「有機的な人のつながり」、本当のSDGsとはを示す、唯一のイベントを運営することができました。

そのイベントでは環境省と実行委員でスタートアップオーガニック宣言を実現させ、社会のオーガニックシフトへのスタートを切ることが実現しました。オーガニックフェスに私たち福祉分野の人たちがいたことで、何が一番大事なのか、それは「人」が一番大事だと、その人たちの「有機的な人のつながり」がオーガニックであることを45,000人の来場者の前で示すことができました。

新しい取り組み

そこから生まれた地域一体となった取り組みがあります。それは、弊社が農福連携圃場として、熊谷市が目指している日本農業遺産を応援するため、教育、福祉、企業、地域の農家さん等をまとめ、自然栽培米を地域全体で栽培をしています。2023年1月17日、日本農業遺産発表のうれしいニュースが届きました。また、今年で4年目となる公立小学校との取り組みもあります。自然栽培でお米を一緒に育て、収穫祭では最後に生徒300人と我々メンバーたちと一緒におにぎりを食べる取り組みで、毎年関係団体が増えています。

生産者として、小学生や先生をはじめ、私たちソーシャルファーム、福祉施設2団体(就労支援事業)、特例子会社(障害者雇用)、買取を支えてくれる上場企業、地域の企業と一緒に、地域一体での「社会的農場」のスタイルを生み出し、農福連携で子どもたちの未来を生み出しています。

誌面の関係で紹介はできませんが、さらにJAとの取り組み、オリーブ農園、トスカーナとの提携の話など、進めていく過程を見学するなどソーシャルファームの取り組み自体をエデュケーションツアーとし計画しています。それが新たな観光でのソーシャルファームをつくり、関係人口を増やし、農業者がいなくなる地域の維持と繁栄を両立させ、次の世代のために取り組みを広げていく活動を、働きにくい人たちと共に進めていきます。

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