トピックス-コロナ禍での新しい生活様式に関する取り組み

「新ノーマライゼーション」2023年2月号

公益財団法人共用品推進機構
田窪友和(たくぼともかず)

1-1. 新たな日常に活かすアイデア・工夫用品展

公益財団法人共用品推進機構は、毎年秋に東京ビッグサイトで開催される国際福祉機器展(H.C.R.)において、主催者特別企画の1つ「日常生活支援用品コーナー」の企画・運営に携わっています。2021年は、コロナ禍で人々の生活に欠かすことができなくなった「マスク」をテーマに行い、2022年は、コロナ禍をテーマに『ご存じですか?「新たな日常に活かすアイデア・工夫用品展」』というタイトルで行いました。

1-2. 展示製品

2022年の展示製品は、日本障害フォーラム(JDF)の加盟団体ご協力のもとに実施したアンケート調査『コロナ禍での新しい生活様式に関する不便さ・ニーズ等調査』であがった中で、アクセシビリティに配慮された製品をH.C.R.に出展している企業を中心に選定しました。

展示は、「消毒する」(感染予防・消毒関連)、「測る」(検温などの測定関連)、「伝える」(コミュニケーション関連)の3つに分類して行いました。アルコールが苦手な人でも消毒できるノンアルコールタイプの消毒液やウェットティッシュ、携帯できる消毒液、手でも足でも押せる消毒スタンド、振動で検温結果を知らせる非接触の体温計、検温結果の温度で液晶パネルの色が変わる体温計、消毒と検温が一度にできる非接触式のディスペンサー、透明度が高く低遮音のパーテーション、人と人との距離が分かりやすい足跡マーク、コンビニのレジカウンターに貼る耳マークを表示した指差しシート、マスクが着用できない方の意思表示バッジ、口元が見える透明なマスクなどです。

各コーナーを説明するパネルは、関心を持って読んでもらえるようにスマートフォンでSNSを表示しているデザインにしました。

1-3. 来場者の感想・意見

来場者からは「消毒商品が多数あり、いろいろなニーズに応えられる選択肢があるのはとてもいい」「体温を測るのを嫌がる高齢者がいるので短時間に測定できるタイプはありがたい」「話した言葉を文字に変換される機器の需要がある」とのご感想やご意見をいただきました。

今回テーマにした「新たな日常に活かすアイデア・工夫用品」は、コロナ禍が終わった後も活用できるモノやコトを多く確認できた展示会でした。

2. 「コロナ禍での新しい生活様式に関する不便さ・ニーズ等」アンケート調査

ご紹介した展示会のもとになっているのは、JDFの加盟団体にご協力をいただき、全盲、弱視、ろう、難聴、盲ろう、上肢障害、下肢障害、上下肢障害、パーキンソン病、知的障害、発達障害、精神障害、認知症等356名から寄せられたコロナ禍における不便、便利、希望するモノやコトに関する4000以上のコメントです。

次にいただいた回答の一部を場面ごとにご紹介します。

2-1. 買い物

1.不便なこと:「レジに並ぶ位置を示す足マークがわからず不便(全盲)」「店員さんがマスクなので話していることがわからない(ろう)」

2.良かったこと:「嫌な顔を全くせずにスーパーの店員さんが買い物につきあってくれる(全盲)」「店先に消毒薬が置かれているところが多く、安心(精神障害)」

3.あったらうれしいこと:「『カードありますか』などの指差しで意思疎通できるシート(ろう)」

2-2. 交通機関

1.不便なこと:「声掛けや誘導してくれる人が減ったこと(全盲)」「つり革やポールに触るのが不安(精神障害)」

2.良かったこと:「駅員の方や周りの方が、声をかけてくれる(全盲)」

3.あったらうれしいこと:「手話ができる運転士がいればうれしい(ろう)」「窓を開けて換気をしていると安心して電車に乗れます(発達障害)」

2-3. 仕事・勉学

1.不便なこと:「複数人でのオンライン会議の内容が分からない(ろう)」「オンライン会議が、アクセシビリティが高いものばかりではなく、操作に手間取る(弱視)」

2.良かったこと:「筆談をしてくれるから助かる(ろう)」「資料のテキストデータ事前配布(全盲)」

3.あったらうれしいこと:「手話・字幕の用意があるとうれしい(難聴・中途失聴)」「行っている配慮を検索できるサービスがほしい(弱視)」

2-4. 情報取得・発信

1.不便なこと:「文字の情報が少ない(ろう)」「触手話なので、都度消毒が必要で困る(盲ろう)」

2.良かったこと:「Zoomの扱い方を覚えたら、シンポジウムなどに参加できるようになった(全盲)」

3.あったらうれしいこと:「もっといろいろなサイトで、アクセシビリティが進むと良い(全盲)」「生放送で手話通訳設置があったらうれしい(ろう)」

今後はこの調査を現状と課題にまとめ、解決案を提示していく予定です。

3. アジア15か国「コロナ禍での新しい生活様式に関する不便さ・ニーズ等」調査

コロナ禍の拡大は、日本だけでなく世界各国に新しい生活様式の導入が求められました。共用品推進機構では、国内調査と共にアジア15か国に向けてその実態調査を行いました。

調査は、アジア各国の障害者団体との連携が深い佐野竜平教授(法政大学)ご協力のもと、障害当事者・家族・専門家へ記入式アンケートおよびオンラインでの聞き取り形式で調査を行いました。集約すると次の6項目が明らかになりました。

1.感染予防のために使用する機器が、どこにあるか、どのように使うか、障害者・高齢者が分かるようにしてほしい。2.感染予防のために行う「人と人との距離をとる」等のルールは、障害者・高齢者も実行可能な方法にしてほしい。3.複数の人が触れる機器等に関しては、ウイルスが付着しないようにしてほしい。4.各種情報は、障害者・高齢者が理解できる方式で提供してほしい。5.各種サービス(人的応対を含む)は、対象とする障害者・高齢者のニーズにあっているものにしてほしい。6.感染蔓延により通常の方法で行うことが困難な集まりを代替様式で行う場合(例:会議→オンライン会議)は、障害者・高齢者が利用できる様式で行ってほしい。

4. まとめ

私が所属する共用品推進機構では、前身の市民団体E&Cプロジェクト(1991年~1999年)の頃から、日常生活における「不便さ調査」を、2013年からは「良かったこと調査」を障害当事者団体と共に行ってきました。そして、今回コロナ禍において障害のある人たちのニーズを調べ、展示会で関連する製品を紹介しました。今後は、調査で確認できた課題とその解決策を今のうちに文書化し、将来同じような状況の際に参考になればと思っています。

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