地域発~人をつなぐ地域をつなぐ-共に学び、共に繋がる知的に障がいのある人のオープンカレッジin松江

「新ノーマライゼーション」2023年2月号

島根大学人間科学部 准教授
京俊輔(きょうしゅんすけ)

「先生、何言ってるかわからん」「この漢字なんて読む?」「ノートに書いた字、間違ってないか添削して」、時間の許す限りいろいろな角度から質問や意見が出されます。これは私たちが取り組む「知的に障がいのある人のオープンカレッジin松江」(以下、オープンカレッジin松江)で当たり前のように見られる光景です。

2007年に取り組み始めたオープンカレッジin松江は、この3月で7期生が卒業します。このオープンカレッジin松江は2年を1期とし、秋と春にそれぞれ2日間ずつ開講している取り組みです。島根大学松江キャンパスを会場に、受講生である18歳以上の知的に障がいのある人たちが、「英語学」「心理学」「グループワーク」などの教養系の科目から「松江の歴史」「どじょうすくい」など地域の特色を活かした科目まで、バラエティに富んだ講義を受けに来ています。

「オープンカレッジin松江実行委員会」がこのプログラムを企画しています。中心になって企画するのは、島根大学人間科学部の学生を中心にした「学生スタッフ」です。さらにこの実行委員会には、松江市手をつなぐ育成会と松江市社会福祉協議会の皆さんが「社会人スタッフ」として参画しており、社会人の立場から多くの助言をいただいています。理念は「1.知的に障がいのある人の人権(教育を受ける権利の保障)、2.知的に障がいのある人の変化(発達)の可能性の保障、3.地域社会に対する大学の貢献」です。1998年に大阪府立大学(現在の大阪公立大学)でオープンカレッジに取り組んだ安藤忠先生が提唱したこれら理念を引き継いでいます。

オープンカレッジin松江では、受講生一人ひとりにボランティア「学習サポーター」が付きます。島根大学の学生に限らず、地域の皆さんも協力してくれます。当日は受講生の隣に座り、一人ひとりに合わせて、必要な時に必要なことをサポートしてくれています。彼らはただサポートするだけでなく、同じ講義を受ける学友でもあります。

この取り組みは、関わったすべての人を変えていきます。受講生の多くは、自ら稼いだ賃金や工賃を貯めてオープンカレッジin松江に参加しています。それだけに彼らの学ぶ姿勢は常に真剣そのものです。一人ひとりの参加や学びの形がありますが、講義や交流などを通じて教養や社会生活を送る上でのスキルなどを身に付けていきます。受講生の皆さんに会うたびに、変化が見られるのは何よりうれしいことです。

講義を担当する講師は、島根大学の教員に限らず、地域で活躍する方をお呼びしています。講義依頼時から当日を迎えるまで、講師の多くは「どんな配慮が必要?」「うまく伝わるか自信がない」など不安な様子を見せます。ところが講義終了後は「皆さん積極的だった」「真剣に聞いてくれる姿勢がうれしかった」という評価に変わります。学生スタッフや学習サポーターも「私たちが作っている『障がい』に気づいた」「学びたいという気持ちの大切さが分かった」などの気づきがあるようです。共通しているのは「受講生」が周りを変えているという点です。一人ひとりの持っている力に、私自身も毎回驚かされます。

人と人が繋がる、これも大事な点です。ある受講生は、スタッフや学生サポーターに毎回手紙を送ってくれます。学生スタッフや学習サポーターをした学生からは、街中で受講生と偶然出会い、思い出話に花が咲いたという話を聞きました。研修会に受講生が参加してくれていた、といううれしい報告をしてくださった講師の先生がいました。

オープンカレッジを通じて共に学び、共に繋がる。これからもそのような場であり続けることを目標に、また新しいオープンカレッジをつくっていきたいと思っています。

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