肥前精神医療センターにおける多職種チーム医療での取り組み

「新ノーマライゼーション」2023年10月号

国立病院機構肥前精神医療センター 統括診療部長
會田千重(あいたちえ)

1. 肥前精神医療センターのご紹介

当院は佐賀県にある国立病院機構の精神科病院で、さまざまな精神疾患・障害の方の10病棟(504床)での入院治療と、外来治療を行っています。その中で、強度行動障害を伴う方の入院治療は「療養介護・障害児入所支援指定医療機関」事業所でもある2病棟(100床)の専門病棟で行っています。医師、看護師、療養介助専門員、心理療法士、児童指導員、保育士、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士などのスタッフと、特別支援学校訪問部の学校教諭も入って多職種チーム医療を行っています。

2. 多職種チーム医療とは?

2019年の日本精神神経学会シンポジウムで、筆者は強度行動障害を伴う方の治療について以下のように述べました。

「精神科医療において『強度行動障害』を伴う患者(多くは知的障害を伴う自閉スペクトラム症)の治療をする際、主治医は『医師が一人でできることは限られる』ことをまず意識しなければならない。患者は生来または常に行動障害を呈しているわけではなく、一つ一つの行動障害は、ある場面、あるきっかけ、そしてある『機能』を持って呈される。表面上の『行動』を氷山モデルと応用行動分析によって分析し、『行動』のベースにある障害特性と、環境・状況設定・介入の効果を検証しなければ治療はできない。患者の24時間の生活に接する多職種で行うチーム医療、及び医療と福祉・教育・行政等の密な連携による治療が原則である」

医療では、1)身体的疾患の受診・入院、2)一時的な緊急避難も含めたレスパイト入院、3)行動障害そのものを軽減するための治療、の3つがあります。中でも2)のニーズが高いのですが、在宅や施設に戻れなくなる事例もあり、医療機関が次の患者の受け入れに消極的になるという悪循環がまだまだ見られます。

入院治療となると、生活支援や採血・心電図・レントゲンなどの検査も含め、一つ一つに事前の情報と工夫が必要です。最初にTEACCHR®自閉症プログラムに基づく「構造化」の工夫をなるべく行い、余暇活動や適応的な活動としてできるものも積極的に取り入れていきます。

長期的な治療では、行動療法的な介入等、いろいろな治療介入が同時進行で重なり合いながら進んでいきます。行動観察や介入方法についてカンファレンスをしながら治療していきます。福祉施設への移行、地域への移行を目指していくとなると、環境調整や行動拡大もしていくことになります。

そして、入院治療中も「行動援護」などの福祉サービスを並行して利用することで、福祉支援者の対応や患者さんの違った表情を知り、逆に入院中の状態を福祉の方に見ていただくことができます。一定の条件を満たす場合に利用できる「行動援護」ですが、入院中も外出扱いで入院病棟から支援員さんと病院の内外を散歩したりすることができ、患者さんの生活のリズムづくりにも大変役立ちます。福祉サービスも入院治療も相互に乗り入れてやっていくことが、今後の医療と福祉の連携で重要だと思います。

3. 多職種チーム医療の実際~ある日のスタッフカンファレンスより(架空事例)

実際の多職種チーム医療はどのように進んでいくのでしょうか?

例えば、元々こだわりや不穏から四肢の自傷が著しく、精神保健福祉法に則った拘束対応をやむなく継続していたAさん(架空事例)について、カンファレンスの様子を記載してみます。最近拘束対応をやめたところ、脱衣や更衣要求が激しくなってきているという想定です。

担当看護師:長期間、自室での拘束対応が続いていましたが、解除してホールや自室で昼夜とも過ごしてもらっています。ただし、拘束解除したことで夜間も衣類が気になる場合はホールで徘徊して過ごされ、睡眠がとれないばかりか、スタッフ詰所のドアを激しく叩く、大声で叫ぶなどして他の患者さんも覚醒してしまっています。日中は療育活動を積極的に行っていて、ホール見守りスタッフが声かけしているので、今のところひどい自傷はありません。

主治医:更衣へのこだわりについては、以前絵カードで「好きな服に3回までおきがえできます」と提示してみた経過がありますが、今回も再度やってみるのはどうでしょう?

看護師A:以前は、絵カードを提示してもあまり注目できなかったり、次々に要求があって最終的には3回の更衣では持たなかったりといった様子がありました。

療養介助専門員:スタッフ詰所に内側からスケジュールを貼っておいて、着替えの回数を提示しておくのはどうでしょう? 着替えるタイミングは食後や水分摂取の後など、時間の概念が分からないAさんでも分かるタイミングが良いと思います。

主治医:食後だと毎食後に着替えないと分かりにくいですが、夜寝る前にも着替えたいですよね?

担当看護師:午前のお茶、午後の牛乳摂取後と寝る前なら分かりやすいと思います。

保育士:提示用の写真カードならすぐ作れます。

主治医:日中活動の工夫はどうでしょう?

保育士:現在はパズルグループ、散歩グループ、全体の行事やカラオケなどの集団療育に参加しています。他にも参加できるものがないか考えてみます。

看護師B:そもそも、なぜ更衣要求をするのか、分からない時もあります。お気に入りの洋服を数セット準備しているのですが、更衣要求をすぐされたりします。

看護師C:ほつれや破れがあると更衣要求しているようです。今の洋服のセットの中にも、新しいものと古くなったものがあります。

担当看護師:保護者に連絡して新しいセットをいくつか揃えてもらいます。

主治医:では、新しい洋服のセットが届いたら新たな介入方法でやってみましょう。いつも情緒的に不穏ということではないようですが、定期薬の増量はせずにまず介入方法を変更してみるというやり方でいいでしょうか?

スタッフ:いいと思います。

主治医:夜間どうしても覚醒して眠れない時は、頓服を与薬してください。

担当看護師:本人の更衣要求やその他の訴えがあった時に、統一して返答や対応ができるように、スタッフマニュアルを作り「Hinataファイル」(写真参照)に挟んでおきます。
※掲載者注:著作権等の関係で写真はウェブには掲載しておりません。

以上のようなやり取りをカンファレンス、もしくは普段の雑談中に行い、薬物療法以外の心理社会的介入も充実して行えるように心がけています。入院患者さんは24時間病棟の中で生活されていますが、関わるスタッフは勤務時間や曜日によってまちまちです。多職種のいろいろな視点を持ち寄り、その患者さんの障害特性や好みも配慮しながら、対応方法を決めて共有します。

4. 強度行動障害を伴う方への支援・治療のポイント

筆者が考えるポイントは以下です。

●幼少時からの自閉スペクトラム症・障害特性の理解と感覚特異性への配慮

●余暇活動やコミュニケーション(受容/表出)の継続的支援

●思春期以降の身体や情緒の変化への対応

●医療と福祉、教育の連携によるネットワーク~ICT:Information and Communication Technology(情報通信技術)も利用

●ライフステージ全体を通して他者を信頼できるような関わり

●行動障害出現の歴史を遡ってとらえること~トラウマとしての視点が必要な場合もあり

●長期的な影響を考えた薬物療法の適正化

5. 今後の課題

1)専門病院から一般精神科病院・身体科の病院へ、強度行動障害医療のすそ野を広げる

強度行動障害を伴う知的・発達障害児(者)は朝起きてから夜寝るまで、一般的な生活の中で当たり前に私たちが選べる「ふつうの選択肢」が数少ない状態であると思います。それは「専門機関」と呼ばれる病棟や施設でも、そう大きくは変わらない現状だと感じます。ある専門家は「意思決定をするために必要な経験さえしていない」「意思決定支援・意思形成支援の両方が必要」と言われました。最終的には、そのような「ふつうに選択できる暮らし」を目指すとして、まずは最低限必要な「情緒・行動面、身体面への医療」が全国の各地域で平等に受けられるような取り組みを、研修・研究等を通して進めていくことが求められます。また、その際には「氷山モデル」を念頭に、医療だけでなく、多機関とうまく共働することです。医療の側からは(どちらかというと教えてもらうような意識で)積極的に福祉や他機関に情報提供を呼びかけ、福祉の側からは受診・入院時にご本人の情報を(ダメ元でもいいので)一通り持参する、という姿勢が重要と考えます。

2)知的障害を伴う成人患者でも、児童・思春期同様に自閉症支援、心理社会的介入が可能となるように

児童・思春期時代に福祉や教育場面でせっかく行われている支援内容が、成人期以降は上手く活かされていないと感じます。高校・高等部から卒後の生活にスムーズに「移行」できるように、教育との連携強化も必要と感じます。教育機関の「個別の教育支援計画」には生徒の「できること」「可能なこと」の情報が記載されています。学校場面で行動障害が悪化する方もいますが、学齢の時期に個別に「開発」されたコミュニケーションスキルや作業・活動のバリエーションが、成人期以降のコミュニケーションや余暇を支えることも多いと考えます。

3)各地域での垣根を越えた多機関連携、入院が長期化しないために

強度行動障害の方へ必要な医療・福祉サービスの充足はまだまだと思われます。入院中に利用できる行動援護や重度訪問介護などの福祉サービスを導入してみてそれぞれのやり方を実感することも有用です。「数%ずつでも今できることを地域で取り組む」「できる範囲でいいので続けていく」ことが大切と感じます。

入院治療が長期化しないためには、以下の要件が必要だと思います。

1.入院時に退院時期を確定している~予定通り退院できる

2.退院時期は未定だが、退院(移行)先をコーディネート・協力する地域の機関やしくみが機能している~基幹相談支援センター・自立支援協議会・発達障害者支援地域協議会・発達障害者支援センター・発達障害者地域支援マネジャー、地域生活支援拠点等整備事業など

3.退院時期もコーディネート機関も未定だが、多機関連携し退院(移行)できる~行動援護や重度訪問介護などのサービスを福祉事業所と連携し入院中から利用・行動拡大する

4)1)2)3)に必要な施策への提言と実践

強度行動障害を伴う知的・発達障害児(者)は、身辺動作すべてに「要支援」な状態での医療提供が必要です。それらを可能にするための診療報酬への提言、調査・アセスメント手法、スタンダードな介入手法・研修の整備と効果の検証、他分野の専門研修や研究への相互乗り入れなど、今後も実践していければと思います。

6. 目指したいこと

強度行動障害を伴う方たちの治療・支援を医療モデルで考えてしまうと、「治療や行動障害軽減のあとに豊かな暮らしがあればいい」と思いがちですが、実際は「その人らしい豊かな暮らしを目指すことで、適切なアセスメントや治療・支援ができる」というのが本当だと思います。強度行動障害を呈してない時の知的・発達障害の方から、むしろ医療者・支援者のほうにもたらされる効果が多々あると感じています。自分の興味を精一杯、豊かな表情や仕草で、かつ正直に表現する人たちの姿に励まされたり、心を動かされたりする経験は、皆さん度々あるのではないでしょうか?


【参考書籍】

多職種チームで行う 強度行動障害のある人への医療的アプローチ、国立病院機構肥前精神医療センター監修、會田千重編集、中央法規、2020年

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