なんでも創る・みんなが楽しい-新しいパラスポーツ「フレームフットボール」の紹介

「新ノーマライゼーション」2023年10月号

NPO法人サッカー&ライフエスペランサ
網本さつき(あみもと)

イングランド発祥のパラスポーツ

「グラスルーツ宣言」をご存知でしょうか。年齢、性別、障がい、人種などに関わりなく、誰もが、いつでも、どこでもサッカーを身近に心から楽しめる環境を提供し、その質の向上に努めることを宣言するもので、2014年には日本サッカー協会も宣言を行いました。国際サッカー連盟は、加盟国にグラスルーツの実践的な取り組みを勧めています。

フレームフットボールは、2014年にイングランドで誕生した歩行が困難な子どもたちのための歩行器を用いた5人制のサッカーです。発祥の地イングランドでは、2015年には、イングランドサッカー協会のグラスルーツプログラムの承認を受け、開発チームのもと約20のチームが誕生しています。その後、日本を含め10か国ほどに広がりつつあるこれからのパラスポーツのひとつです。

日本での取り組み

2019年2月、NPO法人サッカー&ライフエスペランサ(以下、エスペランサ)では、国際脳性麻痺サッカー協会のCEOを招き、我が国初となるフレームフットボールの体験会と指導者養成講習会を開催しました。2019年11月から月1回のフレームフットボール教室を4回開催しました。その後、コロナ禍で中断しましたが、2020年10月から、感染対策を行いながら教室を再開しています。教室は多摩センターのフットサル場で行ってきました。加えて2022年度からは、障害者スポーツ文化センター横浜ラポールスポーツ課の主催でも、月1回の体験会が開催され(エスペランサがプログラムを運営)、現在に至っています。

対象となる障がいレベル

任意の距離を歩くために杖や歩行器などの補助具を必要としているものが対象ですが、条件として歩行器で移動できる能力が必要です。フレームフットボールに参加し、楽しめる障がいのレベルについて説明させていただきます。クラス分けはまだありませんが、粗大運動能力分類システム(GMFCS)による脳性麻痺の運動機能の分類が使われています。運動機能は1~5の5段階に分けられ、図のようにフレームフットボールはレベル2・3・4のものが対象となります(図1)。図にありますように、レベル1・2のものは脳性麻痺者7人制サッカーの対象となり、レベル4・5のものは電動車いすサッカーの対象となります。フレームフットボールは、その中間に位置しています。

図1 粗大運動能力分類システム[GMFCS]での肢体不自由者における障がい者サッカー(切断を除く)
図1 粗大運動能力分類システム[GMFCS]での肢体不自由者における障がい者サッカー(切断を除く)拡大図・テキスト

フレームフットボールで使用される歩行器と主なルール

前方に支えのある歩行器ではなく、後方で骨盤を支持し、前方にはスペースがあり、持ち手は体の横にある歩行器が使用されます。このことで、ボールを蹴ったりドリブルしたりすることが可能です。必ずこのようなタイプの歩行器を使用しなければなりません。前輪はキャスターかロックかを選べ、後輪の制動も選べます。これらは、参加者の能力に応じ理学療法士が選定します。

試合は5人制で、コートの広さと試合時間は年齢と障がいのレベルに応じて調整されます。オフサイドルールは適応されません。ミニゴールを使用しフットサルボールの使用が推奨されています。リスタートはキックインで行われ、1オフェンダーに対しては1ディフェンダーのみが対峙します。歩行器同士の接触、1人のディフェンスに対し3m以内に2人のオフェンスが重なった時などは、審判が試合を止めてから再開することになっています。

エスペランサでの活動の紹介

小学生以上を対象に行っており、小学生、中学生、高校生の参加が主ですが、成人の方もいます。

フレームフットボール教室での活動プログラムは、概ね1.ウオーミングアップ(ゲーム性のあるもの)2.歩行器を用いてのストレッチや準備体操3.基本的なボールコントロール4.パス練習5.ドリブル練習6.シュート練習7.ミニゲームで構成しています。特に、歩行器で移動しながらの方向転換はとても重要ですので、シュート練習やドリブル練習にその要素を組み込むようにしています。

これらを約1時間15分の練習時間で行っています。写真はミニゲームでゴールが決まった瞬間です(図2)。スタッフは、サッカー指導者とサポートスタッフ(理学療法士を含む)で構成されており、安全面や運営面を考慮すると、ほぼ参加者と同数のスタッフが参加して行っています。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図2はウェブには掲載しておりません。

参加しての感想や参加者の変化

参加者から「楽しい」「またやりたい」「やり切った」という感想はとても多いですが、保護者の方からよく聞かれるのは、「これほど長い時間歩行器で動いたことはない。大丈夫なんですか?」といった驚きの声です。参加者の変化としては、キャスター歩行器でうまく操作できなかったものが、安定して移動できるようになった、練習後半になると疲れて脚がもつれていたけれども、体力がついて最後まで安全に動けるようになった、といった変化が見られます。何より、ボールを蹴ったり運んだりするサッカー技術の向上や、ゲームでのポジション取りなどに良い変化が見られます。また、チームに分かれて競うことで、仲間意識や自尊心に成長が見られます。

フレームフットボールの展望と課題

歩行器を使うことから、上肢よりも下肢の障がいが重いものに適したスポーツではありますが、従来の車椅子を使ったスポーツと違っている点は、残存機能ではなく、より障がいの重い下半身を使用するという点にあるということがいえます。脳性麻痺のうち、両下肢の麻痺が強い両麻痺は片麻痺に比べて30~40歳に、歩行機能の低下を引き起こしやすいといわれています*。学校在学中は歩行器で移動していた場合でも、卒業すると車いす生活がメインになる例が多く見られます。ですから、より筋肉量の多い下半身を使うことで体力的に維持され、身体機能も維持できるかもしれないといった可能性を秘めたスポーツでもあります。

教室を運営していく中では、安全面に配慮しながら行っていくという側面と同時に、参加者の自主性を損なわずにサポートしていくといった側面が常に反省点として上がります。また、日本国内にチームとしてはまだ一つしかなく、フレームフットボールを楽しみたい子どもたちのために、各地に広まるような方策を考えていかなければなりません。加えて、エスペランサでは歩行器を貸し出していますが、歩行器自体は安価なものではないため、場所と人が確保できれば始められるものではないという点も解決していく必要があると感じています。

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【参考文献】

*Arve Opheim et al. 2009. “Walking function, pain, and fatigue in adults with cerebral palsy. a 7-year follow-up study.”Dev Med Child Neurol . 51 : 381-388.

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