[厚労省]強度行動障害者の地域支援体制に関する報告書を公表

令和5(2023)年3月30日、厚生労働省は、「強度行動障害を有する者の地域支援体制に関する検討会」報告書を公表しました。

強度行動障害とは、自傷、他害、こだわり、もの壊し、睡眠の乱れ、異食、多動など本人や周囲の人の暮らしに影響を及ぼす行動が、著しく高い頻度で起こるため、特別に配慮された支援が必要になっている状態です。

自閉スペクトラム症や知的障害の方で強度行動障害を有する人は、その特性に適した環境調整や支援が行われない場合には、本人の困り事が著しく大きくなって行動上の課題が引き起こされるため、個々の特性に応じた関わり方や環境の整備など適切な支援の継続的な提供が必要です。

しかし、現状では、障害福祉サービス事業所で受入体制が整わず、同居する家族の大きな負担となっていたり、受け入れた事業所でも適切な支援を提供することができていないということ等があり、社会保障審議会障害者部会の報告書(令和4年6月)でも、強度行動障害を有する者への支援についての取り組みの必要性が取り上げられました。

こうした状況を踏まえ、「強度行動障害を有する者の地域支援体制に関する検討会」が、令和4年10月4日に設置され、8回にわたる検討の結果がとりまとめられました。

報告書の概要は、次の通りです。

1.支援人材のさらなる専門性の向上
●強度行動障害の障害特性を正しく理解し、根拠のある標準的な支援をチームで行うことを基本として、予防的な観点も含めて人材育成を進めることが重要。
●標準的な支援を踏まえて適切な支援を実施し、組織の中で適切な指導助言ができる現場支援で中心となる中核的人材(仮称)の育成が必要。
●困難事例について中核的人材等に対して指導助言が可能な、高度な専門性により地域を支援する広域的支援人材(仮称)の育成が必要。
●地域における支援者が互いに支え合い連携して支援を行うことや、率直な意見交換や情報共有等の取組を進めるため、人材ネットワークの構築が必要。
2.支援ニーズの把握と相談支援やサービス等に係る調整機能の在り方
●市町村は、本人とその家族の支援ニーズを適切に把握して支援につないでいくこと、(自立支援)協議会の場を活用しながら地域の支援体制の整備を進めていくことが重要。その際、支援につながっていない本人、家族を把握、フォローしていくことが重要。
●相談支援事業所、基幹相談支援センター、発達障害者支援センター等の相談支援機関が、それぞれの役割や強みを活かしながら、相談支援やサービス等に係る調整を行っていくことが重要。
3.日常的な支援体制の整備と支援や受入の拡充方策
●通所系サービス(主に生活介護)、短期入所、訪問系サービスが地域で安定的に提供されるよう体制の整備を進めていくことが重要。
●強度行動障害を有する者の居住の場として、グループホームにおける受入れの体制整備を進めていくことが必要。
●障害者支援施設では、地域移行に向けた取組を進めつつ、標準的な支援や建物・設備環境を含めた支援力を一層向上することが必要。
●本人、家族が地域で安心して生活できるよう、市町村は地域生活支援拠点等の整備と緊急時対応や地域移行等の機能の充実に取り組むことが重要。
●障害支援区分認定調査における行動関連項目の評価が適切に行われるよう、認定調査員の強度行動障害に関する理解の促進を図ることが重要。
●行動関連項目の合計点が非常に高い者等、支援が困難な状態像の者がサービスの受入れにつながっていない状況も踏まえ、受入拡大や支援の充実の観点から、より高い段階を設定して、報酬面に反映していくことが必要。
4.状態が悪化した者に対する「集中的支援」の在り方
●強度行動障害を有する者が状態の悪化により在宅やグループホームにおいて生活が難しくなった場合には、障害特性や行動の要因分析等の適切なアセスメントを行い有効な支援方法を整理した上で環境調整を集中的に実施し、状態の安定を図る「集中的支援」の取組を進めることが必要。
●集中的支援の具体的な方策としては、以下のようなものが考えられる。
①広域的支援人材が事業所等を集中的に訪問等してコンサルテーションを実施、適切なアセスメントと有効な支援方法の整理を共に行い環境調整を進めていく方策
②グループホームや施設入所、短期入所を活用して、一時的に環境を変えた上で、適切なアセスメントを行い、有効な支援方法を整理した上で元の住まいや新たな住まいに移行する方策
●集中的支援については、支援ニーズや専門性のある人材の実情を踏まえれば、各都道府県・指定都市や圏域単位といった広域で実施体制を整備していくことを基本とすることが考えられる。この場合であっても、各市町村における地域の支援体制と連動させて、全ての地域を漏れなく支援できるよう、体制を構築することが必要。
5.こども期からの予防的支援・教育との連携
●幼児期からの個々のこどもの特性と家族の状況に応じた適切な関わりが、将来の強度行動障害の状態の予防につながると考えられる。幼児期からこどもの強度行動障害のリスクを把握し、家族を含めてライフステージを通して地域生活を支えていく体制づくりが必要。
●幼児期・学童期・思春期の支援にあたっては、福祉と教育が知的障害と発達障害の特性に応じて一貫した支援を連携して行い、障害特性のアセスメントや環境の調整に取り組むなど、行動上の課題を誘発させない支援を提供していくことが必要。
●在宅の強度行動障害を有する児を支援するため、専門性を有する人材が、家庭や事業所、学校 、医療機関等を訪問して調整を行ったり、複数の事業者の定期的な連携会議に参加して情報共有する等、ライフステージや関係機関の支援を隙間のないような形でつないでいく取組を進めることも重要。
6.医療との連携体制の構築
●強度行動障害の状態の背景にある疾患や障害を医療により完全に治すことは難しく、医療の充実と併せて、福祉や教育と連携した支援を進めることが必要。
●精神科病院への入院については、移行先を見据えた介入を行い、入院中から福祉との連携を行うことが重要。また、入院の長期化を防止する観点からも、精神科医療における標準的支援の実践を進めていくことが重要。
●強度行動障害を有する者が身体疾患の治療を受けられる体制づくりを進めていくことが必要であり、治療に係る負担も踏まえた報酬上の評価について検討を進めることが必要。また、日頃から福祉と医療の相互の連携を強化していくことが重要。

詳しくは次のサイトをご覧ください。(寺島) 
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32365.html

menu