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電子教科書:アメリカにおけるアクセシビリティー関連法及び諸問題

シンシア・ワデル
インターネット国際障害者問題解決センター ディレクター

項目 内容
会議名 2004年 C-SUN会議(障害者支援技術会議”テクノロジーと障害者”)
発表年月 2004年3月 カリフォルニア州 ノースリッジ(アメリカ)
備考 英語版:原文

序論

アメリカ合衆国では、視覚障害或いはその他の印刷物を読むことに障害がある学生にとって、教科書へアクセスできることは市民としての権利である。しかし、アクセシブルな電子教科書の利用は、従来の学習環境、また通信教育による学習環境のどちらにおいても、今なお難しい問題となっている。本文書では、執筆時点での、連邦及び州の法律と電子教科書を取り巻く最新の諸問題の全般的な概要を、現状改善を求めて提出された連邦法案とともに紹介する。

連邦市民権

多数の連邦市民権に関する法律で、障害がある学生が学習環境に平等にアクセスする権利を規定しているが、その条項は学生により、また対象となる機関によって異なっている。例えば、1973年のリハビリテーション法セクション504は、対象となる教育プログラム或いは活動が連邦からの経済援助を受けている限り、あらゆる場合に適用される、非差別を謳った法令である。別の連邦法である、個別障害者教育法(IDEA)は、教育を受ける資格のある全ての障害児達に対し、公立の学校が、個人のニーズに合った、制約が最小限に押さえられた環境のもとで、無償で適切な公教育を受けられるようにすることを求めている。セクション504及び障害を持つアメリカ人法(ADA)の第2章の強力な実施には、アメリカ合衆国教育省市民権局が責任を負っている。しかし、IDEAは、この複雑な法令中の様々な機構を通じて実施されている。

電子教科書

活字メディアが、身体障害、感覚障害或いは認知障害など様々な障害がある学生にとってアクセシブルでない場合は、単に全ての学生に教科書を提供するだけでは十分とはいえない。例えば、印刷された形式による教科書を提供することは、ディスレクシアの問題を抱える学生にとっては障害となるし、視覚障害がある学生にとっては教科書が全く利用できないことになる。現在このような教科書は、アクセシブルな電子フォーマットへと変換する技術により、アクセシブルにすることができる。デジタル・フォーマットは、コンピューターやスクリーン・リーダーによって読み上げられる上、点字プリンターで印刷することもできるので、障害がある全ての学生のニーズを満たす柔軟性を広く提供する。しかし、アクセシブルな電子教科書を障害がある全ての学生に配布することをめぐっては数多くの問題点があげられる。本書ではそのような問題点のいくつかを探っている。

1996年の著作権法改正 ― チェーフィー(Chafee) 改正

アメリカ合衆国著作権法に対するこの画期的な改正により、著作権を保護された作品を利用する者は全て、作品を複写或いは配布する前に許可を得なければならないと言う一般的な規則に例外が認められるようになった。つまり、ある特定の認可機関については、視覚障害者或いはその他の障害者が特に利用できるように、既に出版されている幅広い範囲の文芸作品のコピーを、点字、音声又はデジタル・テキストなどの特別なフォーマットで複写し、配布できるようにしたのである。認可機関は、コピーの受領者を選別し、利用資格のある個人がこれらの作品のコピーを入手できるよう計らわなければならない。

この法令でいう「認可機関」とは、視覚障害者及びその他の障害者の研修、教育、障害に適応した読書、或いは情報へのアクセスに関するニーズに関わる特別なサービスを提供することを主な任務とする、非営利団体或いは政府機関である。

州の法律及び出版社への影響

多くの州では、教育の場面でアクセシブルな教材の提供を求める法律を採択してきた。しかし問題へのアプローチの仕方は、法律により、また各州のやり方によって、異なっている。アクセシブルな電子フォーマットへ教科書を変換することは、以下にあげる3つの方法のいずれか一つによって達成することができる。

  1. テキストをコンピューターのワープロにタイプして入力し直す。
  2. テキストをスキャンしてコンピューターに入れ、ファイルを編集する。
  3. 出版元から教科書の電子ファイルを入手する。

アクセシブルな電子教科書の配布システムについて規定した州の法律は、全国で大きく異なっており、電子標準規格或いはフォーマットに関しては全く一貫性がない。例えば、2003年7月1日に施行されたケンタッキー州の法律では、教科書の代替フォーマット(デフォルト・フォーマットとしてXML)を提供する出版社を優先的に斡旋業者としており、また公立学校の教科書出版社に対し、印刷された自社の教科書の電子版を製作するように求めている。一方、カリフォルニア州の法律では、幼稚園から高校までの指導教材出版社に対し、州が採用した文芸出版物について、そのコンピューター・ファイル或いはその他の電子版を州に提出するよう要求するとともに、障害がある学生に適したフォーマットで教材を編集し、複製し、修正し配布する権利を認めている。また、テキサス州の法律では、出版社に対し、印刷された教科書の電子版を要求に応じて提供することを求めており、メリーランド州では、アクセシブルな代替フォーマットを提供する出版社から出版物を購入するよう州当局に要求している。

通信教育による学習の分野でも、例えばミネソタ州では、ウェブサイトをアクセシブルにすることと、1998年のリハビリテーション法改正の際にセクション508を強化するために制定された、連邦電子情報技術アクセシビリティー基準に従うことを求めている。この要件は、ミネソタ州の主要な短大及び大学のウェブサイト、学部サイト及びオンライン指導教材の全てに適用される。

州政府及び地方政府の要件をまとめると、出版社は自社の教科書或いはその他の指導教材それぞれについて、様々なフォーマットによる複数の電子ファイルを製作する準備をしておく必要があるといえる。現時点では、出版社が指導教材の最終的な制作に広く使っているファイル・フォーマットは、特殊なフォーマットで教材を複製する際に利用するため変換することができない。このため、出版社では電子ファイルへの変換のために非常に手間のかかる作業をしなければならない。出版社はまた、自社の教科書が、許可なしに複製され、配布される危険にもどんどんさらされることになる。

電子教科書の標準規格

現時点では、電子ファイルへの変換について、統一された標準規格は何もない。この問題を解決するために、コネチカット州の上院議員、クリストファー・ドッド氏(Christopher Dodd)によって法案が提出された。この法案は2002年指導教材アクセシビリティー法(Instructional Materials Accessibility Act: IMAA)と呼ばれ、障害がある学生の教科書へのアクセスを劇的に改善することになるであろう。IMAAでは標準的かつ全国的な電子ファイル・フォーマットの採用を義務づけており、指導教材の出版社は、ユニバーサルなファイル・フォーマットによる全ての教科書の電子ファイルを提出することが要求される。ドッド上院議員は約26の州が既に出版社に対し、点字に変換する際役に立つ、電子フォーマットによる教科書を提供することを義務づける法律を可決したと指摘した。しかし、このような方法を統制する基準がこれまで何もなかったので、学校側は様々な種類のフォーマットによる教科書を受け取り続けている。法案では、教育省に対し、下記の条件を満たす指導教材アクセシビリティー標準規格を開発するよう求めている。

  1. 特別なフォーマットへと効率よく変換するのに適した電子ファイルを準備する際に、指導教材出版社が使用できる、全国的に統一された電子ファイル・フォーマットについて、明確な技術的条件を規定する。
  2. 特別なフォーマットを制作するために使われる電子出版及び翻訳技術に関する既存の基準及び新たに作成された基準に従い、かつこれらを基本とする。

電子教科書はこのアクセシビリティー標準規格に従って制作されるので、教育機関は一貫した高品質の教材の提供により利益を得ることになる。そして学校にとっても指導教材をアクセシブルなフォーマットに変換しやすくなる。

IMMAではまた、著作権法の制限に従いつつ迅速にファイルにアクセスできるよう、これらのファイルの中心的な保管場所を作るために100万ドルの資金を用意することを規定している。更に、州及び地域の教育機関に障害がある学生がファイルにアクセスできることを保証する州全体に渡る制度を開発、実施することも規定している。これらは、IDEA及び1973年のリハビリテーション法に従って行使されてきた権利とその実現手段及び諸手続きを通して、実施することができるであろう。

デジタル録音図書の標準規格が既にNISOによって承認されていることから、IMMAの採択についても、NISOが指導的な役割を果たす可能性がある。

IMMAの草案作成は、米国盲人委員会、アメリカ盲人協会(AFB)、アメリカ視覚障害者印刷所、アメリカ出版社協会(AAP)、視覚障害者教育リハビリテーション協会、全米盲人協会、視覚障害者及びディスレクシアのための録音団体、その他多数の全国的な団体の協力により行われた。

結論

今こそ、障害がある学生が電子教科書に平等にアクセスすることができるよう保証するために、全国的な標準規格と手段とが必要とされている。

参考文献

  1. National Library Service Fact sheet on Copyright Law Amendment, 1996: PL 104-197 http://www.loc.gov/nls/reference/factsheets/copyright.html
  2. State Braille Laws http://www.tsbvi.edu/textbooks/afb/state-laws.htm
  3. Erica S. Perl, "Federal and State Legislation Regarding Accessible Instructional Materials," http://www.cast.org/ncac/index.cfm?I=3122
  4. "Blind and Print-Disabled Students Will Have Equal Access to Textbooks: Instructional Materials Accessibility Act Introduced in Congress," AFB Press Release at http://www.afb.org/info_document_view.asp?DocumentID=1705

注: 無断複写・転載を禁じます。この文書を印刷して使用する際には、シンシア・ワデルの許可を得ること。

シンシア・ワデル
法学博士、インターネット国際障害者問題解決センター所長、MCS教育サービスにおいて、障害を持つアメリカ人法(ADA)と508条監視サービスのエグゼクティブ・ディレクターとして政府、大学、企業にコンサルタント・サービスを提供。

Eメール: CynthiaWaddell@mcsed.com