2 障害をもつ子どもとは?
障害には、知恵おくれ、肢体不自由、自閉症、聾、盲、弱視、脳性まひ、脳損傷など、数多くの診断がくだされています。今、私たちは障害をもつ子どもたちを社会生活に参加させるうえで、子どもの本が果たす役割を考えようとしているのですから、障害そのものについてではなく、その障害が、話しことばの発達や、本を読んで理解する能力にどのような影響を与えるかを知らねばなりません。
障害をもつ子どもは、ほとんどの場合、人の話すことばを理解する、自分でことばを話す、という両方の面でことばの発達がおくれます。その結果、たぶん、情緒的にも社会的な発達にも、さしさわりがでてくるでしょう。読む力を発達させることもむずかしくなります。
さらに、読む力がたりないことだけが主な問題である失読症*4と呼ばれる子どもたちもいます。その他、移民の子どもや発展途上国の子どもなど、文化を奪われたために*5話しことばが十分発達せず、かつ読む力もおくれている子どもも、急増しています。このような、ことばや読む力に問題を抱えている子どもは、世界中の子どものうちでかなりのパーセンテージを占めています。
このような子どもたちは、ことばに問題を抱えてはいても、なによりもまず第一に子どもであり、子どもとしての基本的な要求があります。そのうえに障害をもっているのですから、特にこういう子どもたちの成長をたすけるような本、たとえば、ことばの発達や社会的・情緒的成長を促してスムーズな人間関係を維持し、集団になじみ、社会生活ができるようにする本や、豊かな心を育てる本が求められます。一般の児童書の中にも使えるものはありますが、こういう子どものために特別につくられた本も必要です。
私たちの関心は、個々の障害を一つ一つとりあげることではありません。重要なのは、障害をもつ子どもの多くが直面している共通の問題を見きわめることであり、それは、ことばのおくれという問題です。
ことばがおくれている子どもとは
- ―聾(耳がまったく聞こえない)か難聴の子ども。こういう子どもは、人の話したことばをほとんど模倣できません。
- ―知能面でのおくれがあって、ふつうに話されることばが難しすぎ、理解できない子ども。こういう子どもも、他の子どもと全く同じように、さまざまな経験をし、成長したいという強い願いをもっています。
- ―発達性失語症*6や自閉症の子ども。この子どもたちは、ことばをコミュニケーションの手段としてとらえることができません。
- ―目が見えない子ども。この子どもたちにとっては、視覚に関係があったり、「見る」という経験と結びついていたりする無数のことばを理解するのは困難です。
私たちのほとんどにとって、話しことばは、他人とのつながりを保つ絆です。社会的・知的発達全体が、ことばの正しい発達に依存しています。もし、しつけやあらゆる学習を含む広い意味での指導のために、ことばや抽象概念の助けを借りられないとすれば、学ぶことや教えることがどんなに困難か、想像もつかないほどです。
子どもの発達において、ことばの果たす役割がどれほど大きいかは、ことばをめぐるさまざまな問題をかかえている子どもの状態、あるいは、その間題が成長につれて年ごとに深刻さを増していく有様を見ていると、よくわかります。こういう子どもたちは、何よりもまず、ことばを学ぶことに専念させなければなりません。ことばは、心の道具として、もっとも大切なものなのです。
人の声が聞こえる子どもにとっては、子守歌やわらべ歌、童謡が、ことばを刺激しますし、目の見える子どもならば、絵本がことばの発達を促すことが、経験的にわかっています。
子どもはみな誰でも、本を求めています。中でも障害をもつ子どもたちは、切実に、本を必要としているのです。