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知的財産立国に向けた著作権制度の改善に関する調査研究

―情報通信技術の進展に対応した海外の著作権制度について―

三井情報開発株式会社 総合研究所
平成18年3月

第2章 調査結果

I.権利制限規定

2.障害者福祉

(2)視覚障害者サービス(録音図書の公衆送信)

  イギリス フランス ドイツ アメリカ
明文規定の
有無
× ×
条文番号 31B条(1)

121条
対象機関 認可を受けた機関

許諾を得た団体
対象著作物 商業用に作られた文学作品、演劇作品、音楽作品、芸術作品

既発行の非演劇的言語著作物
視覚障害者の定義 ・目の見えない者
・特別な措置なしには読書ができない、回復不能の視覚障害がある者
・肉体的障害により本を取り扱えない者
・焦点を合わせたり眼球を移動させたりできず、読書ができない者


1934年3月3日に承認された「成年視覚障害者に書籍を提供するための法律」と題する法律(U.S.Code Title2 Chapter5 Section135a)に従って、特殊な形式で作成された書籍その他の出版物を受領する資格を有しまたは資格を有する可能性のある個人 (⇒資料11U.S.Code Title2 Chapter5 Section135a 参照)
“公衆送信”を表す ワード “supply”

“distribute”
条件 ・全部又は一部の合法的な複製物を所有している
・障害ゆえにその複製物へのアクセスが不可能な視覚障害者の私的利用のため
・利用可能な形の複製が商業的に利用可能でない
・当該規定に基づいて作成された旨の表示と十分な認識を伴う


・視覚障害者その他の障害者が使用するためのみの特殊な形式で頒布される
・特殊な形式以外の形式でさらに複製しまたは頒布することは侵害にあたる旨の注意書を伴う
・著作権者および原発行日を示す著作権表示を含む

 

  カナダ スウェーデン オーストラリア
明文規定の
有無
×
条文番号
17条 135ZP条(1)(2)
対象機関
政府が特定の場合において認可した図書館や組織 視覚障害者支援機関またはその代理の者
対象著作物
出版されている文学作品、音楽作品、視覚的芸術作品 言語著作物または演劇著作物
視覚障害者の定義
特になし ・視力のない者
・視力に著しい障害を有する者
・書籍を持つことまたは眼の焦点を合わせもしくは動かすことができない者
・識字障害者
“公衆送信”を表す ワード
“distribute”
“communicate”
“communication”
条件
・障害者が作品を楽しむために必要な形態
・規定に従った複製の作成、配布、伝達が商業的目的でない
・規定で言及された目的以外で使用しない
・当該団体が関連権利管理団体に対して行った補償通知が効力を有している
・視覚障害者支援のために使用される
・135ZX条(1)、(3)ないし135ZXA条の規定(表示の仕方に関する規定)に従う

(a) イギリス

◆規定の概要

Copyright, Designs and Patents Act 1988の31B(1)において、「認可を受けた機関が、商業用に作られた文学作品、演劇作品、音楽作品、芸術作品の全部又は一部の合法的な複製物を所有している場合、障害ゆえにその複製物へのアクセスが不可能な視覚障害者の私的利用のためにアクセス可能な形の複製物を作成および提供することは、著作権侵害にはあたらない。」と規定されている。

また、「認可を受けた機関」は、31B条(12)項において「教育機関および非営利団体を指す。」と規定されており、視覚障害者情報提供施設等において、専ら視覚障害者向けの用に供するために、公表された録音図書を提供することは著作権侵害にあたらない。ただし、「提供(supply)」に「公衆送信」が含まれるか否かは明らかでない。

なお、「利用可能な形の複製が商業的に利用可能である場合、特定の視覚障害者のための複製に対しては(1)項の規定は適用しない。」(31B条(4))、「アクセス可能な複製を作成する場合には、この条の規定に基づいて作成された旨の表示と十分な認識を伴わなければならない。」(31B条(5))といった条件が付されている。

(b) フランス

◆規定の概要

直接的規定はないが、Code de la propriete intellectuelle の311-8条に、「私的複製に対する報酬は、記録媒体が次の各号に掲げる者によってその自己の使用又は製作のために取得される場合には、返還されることとなる。」とあり、その第3項は、「(3) 視覚障害者又は聴覚障害者に対する援助を目的として記録媒体を使用する法人又は団体であって、文化担当大臣によって指定されるもの」となっている。

すなわち、公表された著作物の「複写する者の私的使用に厳密に当てられる複写又は複製であって、集団的使用を意図されないもの」(122の5条2号)のうち、レコード又はビデオグラムに固定された著作物の複製については、著作者ないし実演家による報酬請求権が認められている(311の1条)が、指定された団体が、視覚障害者または聴覚障害者に対する援助を目的として私的複製を行う場合には、私的複製に伴う補償金が免除されることになる。

(c) ドイツ

◆規定の概要

Urheberrechtsgesetzの45条a(1)項に、「知覚障害により作品の理解ができない、またはかなり困難である人々のために、またそうした者への作品の普及目的の場合に限り、利益を目的としない作品の複製は認められる。」と定められている。したがって、視覚障害者のための利益目的でない複製は、著作権侵害とならないことになる。ただし、「複製(Vervielfaltigung)」が認められるにとどまり、「公衆送信」は認められていない。

また、45条a(2)項においては、「単なる個人的利用を目的とした一部の複製を除き、作品の複製と普及に対して、著作者にそれ相応な補償が支払われる。利用者団体を通してのみ、その 要求は主張されうる。」と規定されており、(1)項に基づいた複製ないし普及に対しては、著作権者への補償制度が設定されている。

◆運用実態

Urheberrechtsgesetzの45条a(2)項に基づく補償金は、VGWortにより、一作品あたり15ユーロと定められている。 (⇒資料12 remusホームページ参照)

(d) アメリカ

◆規定の概要

Copyright Law of the United States of Americaの121条(a)項において、「第106条 注釈6 および第710条 注釈7 の規定にかかわらず、許諾を得た団体が既発行の非演劇的言語著作物のコピーまたはレコードを複製しまたは頒布することは、視覚障害者その他の障害者が使用するためのみに特殊な形式においてかかるコピーまたはレコードを複製しまたは頒布する場合には、著作権の侵害とならない。」と定められている。

また、121条(c)項(1)において、「「許諾を得た団体」とは、視覚障害者その他の障害者の訓練、教育または朗読もしくは情報へのアクセスの需要に関する特殊サービスを提供することを主たる任務とする非営利的団体または政府機関を意味する。」と定められており、視覚障害者情報提供施設等が、専ら視覚障害者のために非演劇的言語著作物の複製を公衆送信することは、著作権侵害とならない。なお、複製の作成または頒布における条件としては、「視覚障害者その他の障害者が使用するためのみの特殊な形式以外の形式で複製されまたは頒布されてはならない。」(121条(b)(1)(A))、「特殊な形式以外の形式でさらに複製しまたは頒布することは侵害にあたる旨の注意書を伴わなければならない。」(121条(b)(1)(B))、「著作権者および原発行日を示す著作権表示を含まなければならない」(121条(b)(1)(C))などが規定されている。

「特殊な形式」の定義は、121条(c)(3)において「視覚障害者その他の障害者が使用するためのみの点字、音声またはデジタル形式の文書」とされている。

◆運用実態

米国議会図書館の行っているNLS(National Library Services for the Blind and Physically Handicapped:盲人・身体障害者全国図書館サービス)では、視覚障害者等の利用のために録音図書やその再生機器の購入・維持・補充することがUnited States Code Title2 Chapter5 Section135a,135a-1,135bによって定められており、利用資格を持つ者に貸し出しを行っている。

また、NLSでカバーされない専門的録音図書のサービスを行うRFBD(Recording for the Blind & Dyslexic)、読書に障害のある人にオンライン上でアクセシブルなデジタル形式の図書を提供するブックシェアという二つの民間機関もある。 (⇒資料13「デジタル環境下における視覚障害者等図書館サービスの海外動向」(国立国会図書館)参照)

ホームページ:http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/report/category.php?categoryid=1

(e) カナダ

◆規定の概要

視覚障害者のために著作物を頒布・公衆送信することを認める明文規定はない。

◆運用実態

CNIB(Canadian National Institute for the Blind)は、印刷形式のものを要求に応じて点字や録音図書に翻案し、知覚障害者に対して販売するというサービスを提供している。(⇒資料14 CNIBホームページ参照)

ホームページ:http://www.cnib.ca/en/Default.aspx

(f) スウェーデン

◆規定の概要

Act On Copyright In Literary And Artistic Worksの第17条では、「録音以外の方法により、だれもが、障害者が作品を楽しむために必要な形態において、出版されている文学作品、音楽作品、視覚的芸術作品の複製を作成することが可能である。その複製物を障害者に配布することができる。また、政府が特定の場合において認可した図書館や組織は、以下のことが可能である。1. 最初の段落で言及した複製物を、作品を楽しむために複製を必要としている障害者に伝達すること 2. 録音により、障害者が作品を楽しめるように、出版されている文学作品の複製を作成すること、およびその複製物を障害者に配布、伝達すること 《以下省略》」と定められている。

したがって、政府が特定の場合において認可した図書館や組織は、出版されている作品の録音図書を作成すること、およびそれを公衆送信することが可能である。 「政府が特定の場合において認可した図書館や組織」として録音図書の製作が許可されているのは、スウェーデン国立録音点字図書館(Talboks-och punktskriftsbiblioteket:TPB)、レーン図書館、図書館サービス株式会社(Bibliotekstj nst AB : BTJ)、視覚障害者連盟(Synskadades Riksf rbund:SRF)、SRF録音点字製作所(SRF Tal & Punkt AB)のみである。(⇒資料13「デジタル環境下における視覚障害者等図書館サービスの海外動向」(国立国会図書館)参照)

ホームページ:http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/report/category.php?categoryid=1

なお、17条の規定には、「この条の規定に従った複製の作成、配布、伝達は、商業的目的で行ってはならず、この条で言及された目的以外で使用してはならない。」との条件が付されている。

◆運用実態

Act On Copyright In Literary And Artistic Worksの第17条には、「図書館、組織が作品の複製を障害者が保有可能な形で障害者に配布、伝達する場合には、作者は報酬を得る権利を有する。だれかが、最初の段落の二番目の文に従って障害者に多数の複製を渡す場合にも同規定を適用する。」という規定があり、録音図書の貸出しについて著者に補償金を支払う公貸権制度がある(一般図書と同様である)。国が公共図書館・学校図書館での貸出し数に比例して、スウェーデン著作者基金に補償金を支払い、作家がその配分を決定するという形態が採られている。また、スウェーデンの図書館は、録音図書の製作、収集に積極的で、 DAISY 注釈8 (DAISY Digital Accessible Information System)録音図書(デジタル形式での録音・保存・転送・読み取りが可能な録音図書)への移行など、より良い録音図書サービスの提供を推進している。

(g) オーストラリア

◆規定の概要

Copyright Actの135ZP条(1)において、「言語著作物または演劇著作物に対する著作権は、以下の場合には、視覚障害者支援機関により 注釈9またはこれに代わり行われる当該著作物またはその一部の録音物を収録した複製物の作成または送信によっては侵害されない。」と定められている。また、135ZP条(2)では、「言語著作物または演劇著作物に対する著作権は、以下の場合には、 視覚障害者支援機関によりまたはこれに代わり行われる当該著作物またはその一部の点字版、大型活字版、写真版または電子版の作成または送信によっては侵害されない。」と規定されている。

すなわち、視覚障害者支援団体、およびその代理人が、文芸著作物ないし演劇著作物を複製し、あるいは点字、大活字等に変換し、それを公衆送信することは、著作権侵害にあたらない。

なお、135ZP条(1)、135ZP条(2)の規定には、「(a) 当該団体が関連権利管理団体に対して行った補償通知が効力を有していなければならない。 (b) 各複製の作成または伝達が、当該機関またはその他の者による視覚障害者支援のために使用されなければならない。 (c)当該団体が、各複製または送信に関して135ZX条(1)、(3)ないし135ZXA条の規定注釈10に従わなければならない。」という条件が付けられている。


6 第106条では、複製権、頒布権、上演権など、著作権のある著作物に対する排他的権利を定めている。

7第710条では、視覚障害者および身体障害者の使用のための複製における、任意的使用許諾の書式および手続を定めている。

8 “DAISY”は、“Digital Accessible Information System”の略称である。

9 「INFORMATION SHEET G60」(Australian Copyright Council)によると、「視覚障害者支援機関」は、Commonwealth Attorney-Generalが「視覚障害者の支援のための機関」として認めた機関とされている。

(⇒資料13 「INFORMATION SHEET G60」(Australian Copyright Council)参照)

ホームページ:http://www.copyright.org.au/

10 135ZX(1)、135ZX(3)、135ZXAの規定はいずれも、管理団体向けの表示の付し方に関する規定である。