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知的財産立国に向けた著作権制度の改善に関する調査研究

―情報通信技術の進展に対応した海外の著作権制度について―

三井情報開発株式会社 総合研究所
平成18年3月

第2章 調査結果

I.権利制限規定

2.障害者福祉

(4)知的障害者や発達障害者等向けの翻案(要約等)


イギリス フランス ドイツ アメリカ
明文規定の
有無
× ×
条文番号 74条(1)
45条a(1)
翻案可能な者 指定団体
制限なし
対象著作物 テレビジョン放送又は有線番組
制限なし
知的障害者の定義 精神障害者
知覚障害により作品の理解ができない、またはかなり困難である人々
条件 ・字幕入りの複製物その他聴覚障害者等の特別の必要のために修正されている複製物を提供することが目的
・知覚障害により作品の理解ができない、またはかなり困難である人々のため、またそうした者への作品の普及のため ・利益を目的としない

 


カナダ スウェーデン オーストラリア
明文規定の
有無
条文番号 32条(1) 17条 135ZS条(1)
翻案可能な者 知覚障害者の求めを受けた者、または非営利団体 全ての者 知的障害者支援機関またはその代理の者
対象著作物 文学作品、音楽作品芸術作品、演劇作品
※手話の場合は下線部を除外
出版されている文学作品、音楽作品、視覚的芸術作品 適格物品またはこれに含まれる著作物もしくは権利対象物
知的障害者の定義 理解力に関わる障害のある状態 特になし 特になし
条件 ・団体の目的のために行う
・当該作品、複製物が特に知覚障害者のニーズを満たすための形態において市販されていない
・障害者が作品を楽しむために必要な形態
・規定に従った複製の作成、配布、伝達が商業的目的でない
・規定で言及された目的以外で使用しない
・当該団体が関連権利管理団体に対して行った補償通知が効力を有している
・知的障害者支援のために使用される
・135ZX条(1)、(3)ないし135ZXA条の規定(表示の仕方に関する規定)に従う

(a) イギリス

◆規定の概要

Copyright, Designs and Patents Act 1988の74(1)において、「指定団体は、聾者若しくは難聴者又はその他身体障害者若しくは精神障害者である人々に、字幕入りの複製物その他それらの人々の特別の必要のために修正されている複製物を提供することを目的として、テレビジョン放送若しくは有線番組又はそれらに挿入されている著作物のいずれの著作権をも侵害することなく、テレビジョン放送又は有線番組の複製物を作成し、及び複製物を公衆に配布することができる。」と規定されている。

したがって、特定の団体が、専ら知的障害者・発達障害者のために、テレビ放送、有線番組等を字幕等によって翻案することは、著作権侵害にあたらない。

なお、「指定団体」は、74条(2)で「所管大臣の命令によりこの条の目的上指定される団体をいう。同大臣は、その団体が営利を目的として設置され、又は運営されていないことを納得しない限り、その団体を指定しない。」と定められている。

(b) フランス

明文規定はない。

(c) ドイツ

◆規定の概要

Urheberrechtsgesetzの45条a(1)項に、「知覚障害により作品の理解ができない、またはかなり困難である人々のために、またそうした者への作品の普及目的の場合に限り、利益を目的としない作品の複製は認められる。」と定められている。したがって、知的障害者、発達障害者のための利益目的でない翻案は、著作権侵害とならないことになる。

また、45条a(2)項においては、「単なる個人的利用を目的とした一部の複製を除き、作品の複製と普及に対して、著作者にそれ相応な補償が支払われる。利用者団体を通してのみ、その要求は主張されうる。」と規定されており、(1)項に基づいた複製ないし普及に対しては、著作権者への補償制度が設定されている。

◆運用実態

Urheberrechtsgesetzの45条a(2)項に基づく補償金は、VGWortにより、一作品あたり15ユーロと定められている。(⇒資料12 remusホームページ参照)

(d) アメリカ

明文規定はないため、107条のフェアユース規定による複製の許諾が考えられる。プリントアウトの可否は、フェアユースの成立要件である「使用の目的および性質」、「利用された著作物の性質」、「利用された著作物全体の中に占める利用部分の質と量」、「使用が、利用された著作物の潜在的な市場ないし価値に与える影響」に基づいて、個別的に判断されると考えられる。

(e) カナダ

◆規定の概要

Copyright Act第2条には、「“知覚障害”とは、文学作品、音楽作品、演劇作品、芸術作品を元の形のまま読んだり聞いたりすることが不可能、あるいは困難な状態を指し、以下のような状態を含む。(a) 視覚・聴覚における重度あるいは全体的な障害、または、焦点・視点の移動ができない状態 (b) 本を手に持ち扱うことができない状態 (c) 理解力に関わる障害のある状態」と定められており、第32条(1)項の規定は知的障害者、および発達障害者にも適用される。

したがって、知的障害者や発達障害者向けの翻案は著作権侵害とならない。

なお、「(1)項は、当該作品、録音が特に知覚障害者のニーズを満たすための形態において市販されている場合には適用しない。」(32条(3)項)という条件が付されている。

(f) スウェーデン

◆規定の概要

Act On Copyright In Literary And Artistic Works第17条の規定は、「障害者」全般について定められており、知的障害者や発達障害者についても同様である。したがって、知的障害者や発達障害者のために、公表された著作物について翻案を作成することは、だれにでも可能である。

(g) オーストラリア

◆規定の概要

Copyright Actの135ZS条(1)において、「適格物品またはこれに含まれる著作物もしくは権利対象物に対する著作権は、以下の場合には、知的障害者支援機関によりまたはこれに代わり行われる当該適格物品のコピーの作成または送信によっては侵害されない。」と定められている。

すなわち、知的障害者支援機関、およびその代理人が、適格物品またはこれに含まれる著作物もしくは権利対象物を、知的障害者、発達障害者のために翻案することは、著作権侵害にあたらない。

なお、135ZS条(1)の規定には、「(a) 当該団体が関連権利管理団体に対して行った補償通知が効力を有していなければならない。 (b) 各複製の作成または伝達が、当該機関またはその他の者による知的障害者支援のために使用されなければならない。 (c)当該団体が、各複製または送信に関して135ZX条(1)、(3)ないし135ZXA条の規定に従わなければならない。」という条件が付けられている。