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意見発表

  • 石川 准(静岡県立大学国際関係学部教授/全国視覚障害者情報提供施設協会理事)
  • 浅利 義弘(全日本ろうあ連盟理事)
  • 高岡 正(全日本難聴者・中途失聴者団体連合会理事長/CS障害者放送統一機構副理事長)
  • 高田 英一(NPO法人CS障害者放送統一機構理事長)
  • 山中 香奈(兵庫県LD親の会代表)
  • 橋本 操(日本ALS協会副会長)
  • 田中 久徳(国立国会図書館総務部企画課電子情報企画室長)
  • 市橋 正光(大活字文化普及協会事務局長)



静岡県立大学国際関係学部教授
全国視覚障害者情報提供施設協会理事
石川 准

だれもが自由に読みたい本が読める社会を

1.著作権法改正の意味
今回の著作権法の改正で、政令で認められた機関が電子データによる複製を行い有資格の読者に貸し出すことが可能となった。
この改正の意味は計り知れず、関係者の長年の努力に心より敬意を表したい。

2.現状での電子図書制作の流れ
だが、電子図書の制作には、図表を含まない単純な構成の本でも、少なくとも10人日ほどの工数は必要であり、本改正によっても利用者が自由に読みたい本を読める環境になるわけではない。
電子データによる複製は以下の作業工程を経る。

  • 電動カッター等で背表紙を裁断する。
  • スキャナーで画像ファイルにし、OCRソフトでテキスト化する。
  • OCRソフトが誤認識した箇所を原本とつき合わせて修正する。
  • テキストDAISYと呼ばれる電子図書の形式にするためのオーサリング作業を行う。
  • 郵送もしくはオンラインでの電子図書の貸し出しを行う。
  • 利用者はDAISYプレイヤと呼ばれるハードウェアもしくはソフトウェアで読書する。

3.出版社からの電子データ調達の可能性
出版社あるいは印刷会社には印刷用のDTPデータがある。
一般にDTPデータはテキストデータやxmlデータに変換できる。
バリアフリーは上流で実現するのが合理的。
ユニバーサルデザインと福祉サービス、支援技術の共同作業。
情報提供施設が出版社から電子データを調達できれば、制作作業は大きく短縮される。
有償での調達、出版バリアフリー法、国会図書館の果たすべき役割などを検討する必要がある。

4.ユニバーサル電子出版への期待
AmazonのKindleには音声読み上げ機能が標準で搭載されている。
Barnes & NobleもNookという電子ブックリーダーを発売する。
Wi-Fiや3Gデータ通信カード搭載の電子ブックリーダーは新聞、雑誌、書籍などをいつでもどこでもダウンロードして読める。
日本でもユニバーサル電子出版のブレイクに期待する。



全日本ろうあ連盟理事
浅利 義弘

家族で楽しくてテレビを楽しみたい。緊急時を始め世界中の情報を周りの人々と同じように共有できるようにしてほしい。私たちは人間として当たり前の事を強く求めてきました。
この願いを、世界中で実現し権利として国際的に認めたのが国連障害者の権利条約です。また、ろうあ者は日常的に手話を言語として生活をしています。私たちの長年の要望であった手話を権利条約は言語として明確に規定しました。
日本の改定著作権法では手話という文字はありません、また放送の基本目標である、総務省の「視聴覚障害者向放送行政指針」には字幕や解説の目標は書かれていますが手話の目標はありません。
改定著作権法ではこれらの問題は解決するのか。私たちの願いは実現するのか大きな期待を持って見てきました。しかし次の課題の解決が重要な課題として残っています。

その第一は  複製物へのコピーガードなどを義務付けないことをもとめます。

第二に  法律では、字幕や手話だけの送信を認め、著作物の根本を成す映像については何も明記がありません。映像に字幕や手話を付与した一体とした複製物を送信できることをもとめます。

第三に  その他に複製作業に障害となる物を一掃することは必要な処置です。複製する作品の入手などが何処でも手に入れることができることを保証することや補償金などと言う権利条約でも明確にしている「追加の負担を伴わない」処置を強く求めます。

第四に  改正著作権法は障害者の著作物へのアクセス権の平等化を目指そうとするものです。日本のデジタル放送は手話の付与放送ができません。放送技術とその技術規定における差別が存在します。改正著作権法は手話の送信を認めました。その実践の第1歩としてデジタル放送技術の差別を解決する一歩となるように、聴覚障害者が総務省に提案してきた目で聴くテレビでの手話補完放送を実現させる処置をもとめます。



(社)全日本難聴者・中途失聴者団体連合会理事長
NPO法人CS障害者放送統一機構副理事長
高岡 正

聴覚障害者の著作権問題について

1.聴覚障害者の情報バリアー
著作権法第37条2項で、聴覚により利用する著作物を聴覚著作物としています。毎日テレビやラジオで放送番組、インターネットで流れるニュース。DVD、CD。演劇などに字幕や手話、手話通訳がほとんど付かない。災害時のテレビ情報に字幕も手話も付いていません。

2.著作権法の改正
改正著作権法は、中途失聴者、難聴者にとっても身体障害者手帳の有無を問わず、その聴力デシベルの程度、利用の程度によらない、広く難聴者の情報アクセスに道を開いたという大きな意義があります。また聴覚著作物に字幕や手話を付加して貸出しすること、字幕と手話の公衆送信に著作権制限が認められたことは大きな前進です。

3.一方、改正著作権法は、聴覚障害者団体は障害者権利条約からみると極めて不十分と考えています。
一つの問題が自動公衆送信です。聴覚著作物に手話と字幕を付けてインターネットで配信しようとすると映像は送信できないとされていることです。しかし、聴覚障害者は手話通訳だけでは利用出来ず、「聴覚障害者等が利用するために必要な方式」とは、手話通訳と音声を含む映像との一体的複製しかあり得ません。
二つ目の問題として、著作物に字幕と手話を付加する場合、原板の入手方法が問題になります。放送事業者や制作メーカーなどに提供を受けて字幕等を制作するとなると特に災害時等の放送は時機を逸してしまい、社会の中で情報を等しく得る機会が保障されません。
三つ目の問題は、複製物の貸し出しにあたって著作権者に相当の金額を支払うことになっていますが、字幕や手話を挿入するのは全国に無数のボランティアのグループが行っています。これらの方々に補償金を求めるならば制作が止まってしまうでしょう。 まだまだ多くの問題がありますが、当事者を交えた協議で解決することを強く望みます。



NPO法人CS障害者放送統一機構理事長
高田 英一

改正著作権法の目的は、障害があることによる情報へのアクセスの困難を解決し、広く情報共有の権利を保障することにある。そのための複製物の製作が容易にできるように、権利制限を加えようとするものである。これに反する政令などによる処置には反対する。特に複製物へのコピーガードの義務化や、法律で明記した、映像と障害者に必要な字幕や手話などを分離した送信などは、高齢者が多い中で、一体どれだけの聴覚障害者が、パソコンを操作して、テレビや映画を楽しむことができるのか、改正の精神に反し差別を残すものであり、認められない。

 わが国が批准を目指す、国連障害者の権利条約第4条締約国の一般的義務とした
 1のb)障害者に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し、又は廃止するためのすべての適当な措置(立法を含む。)をとること。
 から見ても、このままでは、条約の批准はできない。
 特に映像と字幕、手話などを分離して送信する処置は、特定の技術的方法によってのみ利用可能な方法を障害者に押し付ける法的処置であり、

 同国連障害者の権利条約、第2条定義
「ユニバーサルデザイン」とは、調整又は特別な設計を必要とすることなく、最大限可能な範囲ですべての人が使用することのできる製品、環境、計画及びサービスの設計をいう。にも反する法制化である。
 さらに、複製された著作物を障害者に提供する方法その保障についても「合理的処置」が求められる。2011年7月を区切りに進められている日本のデジタル放送技術では手話を付与した映像は見ることができない。CS障害者放送統一機構はそれを指摘すると共に当面の解決策として、日本で唯一手話付与放送の出来る「目で聴くテレビ」で手話の補完放送をするように提案しその予算的処置を総務省に要望してきた。今年に入ってようやく、予算を要求する方向で話が進み始めた。
ぜひとも手話による補完放送に対する障害者の要望を実現されるようにお願いする。国連障害者の権利条約の批准をマニフェストとする民主党政権が行わなければならない、「法的整備」及び問題解決の一歩としてほしい。



兵庫県LD親の会代表
山中 香奈

息子は二人とも発達障害があります。発達障害の中でも読み書きに困難がある学習障害(ディスレクシア)です。視力はありますが文字がうまく「読めない・書けない」という状態です。長男は6年生ですが2学年下の漢字でもあやふやです。

息子の漢字テストは0点ばかり、授業についていけない状態でした。家庭では漢字にルビうち、文節で区切りを入れ少しでも学習が少しでも学習が楽になるように指導しておりました。息子も「分かりたい。できるようになりたい」という思いが強い子どもでした。しかし、努力が中々身につかないそれが学習障害の困難さでもあります。

そんな折、息子はデイジー教科書に出会い、水を得た魚のように毎日パソコンでデイジー教科書を読みました。「ママ、学校で先生の言っていることが分かるようになったよ。先生がどこを読んでいるのか分かるようになったよ。質問にも答えられたよ」と満面の笑みで報告してくれました。この子どもたちにはデイジーが必要であると実感した瞬間です。

現在、息子には国語と社会の教科書が日本障害者リハビリテーション協会さんから提供されていますが、製作はボランティアベースでありその提供を保障されたものではありません。学校の進度より遅れて提供される時もありました。そんな時、息子は本当に困ってしまいます。本の教科書はあっても読めないのだから、息子にとっての教科書が無いに等しいと感じます。

読みに困難のある子どもは2.5%いるとNHKのニュースで言っていました。約26万人もいるということになります。学習の基本である教科書は年度初めに提供されますが、同じように2.5%もいる読み困難を持つ子ども達にデイジー教科書の提供をしていただきたいと思っています。

また、著作権法上の理由から現在点字図書館のデイジー図書は借りることができません。今回の著作権法改正により、この子達が公共図書館や学校図書館で気軽にデイジー図書を借りることができる環境が、早急に整備されることが必要であると思っております。



NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会
日本ALS協会
橋本 操

ALS療養者 読書する。

ALS・筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせい・そくさくこうかしょう)は、ニューヨーク・ヤンキースの鉄人ルー・ゲーリック選手が罹患したことから、米国では「ルー・ゲーリック病」として広く知られています。(残念ながら、彼は発病後3年で亡くなりました。約70年も前のことです。)宇宙物理学のホーキング博士も著名な患者の一人です。国の定める特定疾患、いわゆる難病のひとつです。運動神経をつかさどる細胞だけが選択的におかされ、終末期には呼吸筋も眼球も動かなくなる病気です。国内の患者数は8000人強。病態や進行は個体差が大きく、発症の年齢も様々です。

読書のかたち

進行性の神経筋疾患なので、文字を読む行為に大変な努力をしています。毎日、新聞を読む人は専用の台を作り視野に応じて介護者が読書を介助しています。専門書を読むとなると更に複雑で、本の個性に合った書見台と読み手の個性に合った介助が必要です。電子図書のサイトも利用は可能ですが、作品は限定されます。障害者用のパソコンと連動したページめくり機もありますが、高価なものです。日本ALS協会は、数台の機械を保有して期間限定で貸し出しています。

ALS患者が望むこと

健康な人が書店や図書館で本を手にするように自由に本を選びたい。その本を自分の速度で自分の力で読むことのできるツールの開発を進めて欲しい。

私の読書環境

現在は、障害者用のパソコンで電子図書を読む。ブログに読みたい本の名前を載せてブログの検索機能で読みたい本のサイトに飛ぶ。短い本は、介護者に読んでもらう。 この3つの方法で本を読んでいます。しかしながら、動く場所が右足の中指だけなのでワンスイッチで全ての作業をしなければなりません。全てを読み終わらないと好きなページに戻れません。しかもほとんどは著作権の切れたもので新刊は読めません。それはそれで楽しいのですが、人生において大きな忘れ物をしていると感じることも多くあります。



国立国会図書館総務部企画課電子情報企画室長
田中 久徳

(注)口頭でのご発表となります。



活字文化普及協会事務局長
市橋 正光

全ての人に読書する機会を提供する具体的な方法は、2010年1月から施行される著作権法改正によって、海外の例にもあるように国会図書館に納本された図書がテキストデータでも所蔵・配信されることになれば、国の予算により、整備・運営されている障害者専用の読書データ配信システム等を通じて点訳・音訳データに媒体変換して配信提供したり、大活字図書やマルチメディアデイジー図書として出版流通させることで、国民の1人1人が、最も読みやすい方法で本を選んで読書することができるようになるという方法です。 この方法の実現を確実なものにするために、近日中に、要望書を出版団体や著者団体等に提出して賛同を得た上で、国立国会図書館が主体として進める国家事業としての実現を求めてまいります。

「国立国会図書館の蔵書アーカイブ事業に関するお願い」

1.視覚障害者等、読書することに困難がある全ての人に読書機会を提供するために、国立国会図書館にて蔵書データ化を行う際には、画像データ化と同時にテキストデータ化し、外部委託機関にてテキスト校正作業を行い、国立国会図書館の厳正なる管理化の元で、データの所蔵と配信を行うことに、ご賛同をお願い致します。

2.国立国会図書館に所蔵された画像データとテキストデータを、外部委託機関を通じて、国家予算によって運営されている障害者専用の配信システム等に無償で提供し、デイジー図書データや点字図書データ等に媒体変換し、無償配信することに、ご賛同をお願い致します。

3.国立国会図書館に所蔵された画像データとテキストデータを、外部委託機関において、大活字図書やDAISY図書として出版流通し、読書することが困難な人に有料で販売する場合には、販売代金の一部を印税として著者と出版社にお支払いする仕組みをつくることに、ご賛同をお願い致します。

「読むこと、生きること、情報は命なり」という言葉があります。生きること自体が、難しくなってきた、この混迷の時代の中で、「読むことは」、情報は命なりという言葉にあるように、生きることにつながります。