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WIPO 著作権及び著作隣接権に関する常設委員会 第22回セッション
世界知的所有権機関(WIPO)代表ら、条約テキストに合意

出典: DAISY Consortium http://www.daisy.org/
The DAISY Consortium's Monthly Newsletter - June 2011
WIPO Delegates Reach Agreement on Single Text
http://www.daisy.org/planet-2011-06#a2

昨年末開催された第21回世界知的所有権機関(WIPO)著作権及び著作隣接権に関する常設委員会(SCCR)の結論書に明記されているように、6月のSCCR、WIPO著作権委員会第22回セッションは、3日間延長された。公式会議に先立つ3日間が、「印刷物を読むことに障害がある人々およびその他の読みの障害を抱えている人々のための権利の制限と例外規定に関する討議に充てられた。」6月20日から24日まで開催されたSCCR公式会議の議題も、これと同じ課題に取り組む内容であった。

著作権の制限と例外規定を扱う条約をめぐる課題に関する予備情報は、DAISYプラネット(DAISY Planet)の『WIPO著作権委員会:行き詰まりの打開(WIPO Copyright Committee: Stalemate Ends)』という記事から得ることができる。追加情報へのリンクも、同じ記事の中で紹介されている。

「非公式文書」

報告によれば、最初の3日間は比較的緩やかな滑り出しであった。しかし、6月17日金曜日が終わる頃には、代表らは、多くの支持を得て月曜日からの第22回セッションに提出されることになる非公式文書を作成していた。(注:非公式文書はPDFでアクセシブルではない。)この「非公式文書」の作成にあたり、2008年11月に世界盲人連合(WBU)によって提案された「全盲、弱視およびその他の読字障害者のアクセス改善のためのWIPO条約」をはじめとする、過去のセッションで提出されてきた4件の提案の再検討が行われた。4件の提案へのリンクは、DAISYプラネットの『WIPO著作権条約:得られない合意(WIPO Copyright Treaty: Consensus Not Reached)』という記事の中で紹介されている。これ自体、小さな、あるいは簡単な課題ではなく、関係者全員による多大なる妥協と理解を必要とするものであった。

私たちの「声」

条約案や勧告案の文言に関して(また、それを条約にするべきか、勧告にするべきかについても!)、開発途上国代表の見解と比較して先進国代表の視点はさまざまであり、きわめて多様な意見が出された。しかし、このプロセス全体を通じて一貫した強力な「声」が一つあった。それは、WBU、DAISYコンソーシアムとその会員、ナレッジ・エコロジー・インターナショナル(KEI)国際図書館連盟の印刷物を読めない障害がある人々のための図書館サービス分科会(IFLA/LPD)など、アクセシブルな出版物の国境を越えた貸借と、印刷物を読めない障害がある人々の情報への平等なアクセスを支持する機関の声である。

DAISYコンソーシアムの河村宏会長は、最初の3日間、会議に参加し、6月16日にDAISYコンソーシアム代表として声明を発表した。

「DAISYコンソーシアムは、著作権で保護されている資料のアクセシブル版の、国境を越えた貸借の問題に対処する、強制力のある法的枠組みを全面的に支持することを伝えておきたい。強制力のある法的枠組みを通じてのみ、世界各地の印刷物を読むことに障害がある人々は、著作権で保護された作品への、持続可能で費用対効果の高い方法による平等なアクセスが可能となる。DAISYコンソーシアムは、この会議(第22回SCCR)のすべての代表に対し、国連障害者権利条約で定められた義務を果たすために必要な、強制力のある法的枠組みについて、迅速に合意に達することを心から求める。」
2011年6月16日の第22回SCCRにおけるDAISYコンソーシアム代表河村宏会長による声明の書き起こし全文(Statement on behalf of the DAISY Consortium by Hiroshi Kawamura 16 June 2011 at SCCR 22nd:英語)は、DAISYのウェブサイトで入手できる。DAISYコンソーシアムは特別認定機関として、引き続きSCCRに参加していく。

提案

6月20日から1週間、代表らは非公式文書について討議した。そのWIPO/SCCR第22回セッションの成果が、『印刷物を読むことに障害がある人々のための制限および例外規定に関する国際法についての提案(Proposal on an international instrument on limitations and exceptions for persons with print disabilities)』である。この文書は、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、チリ、コロンビア、エクアドル、欧州連合とその加盟国、メキシコ、ノルウェー、パラグアイ、ロシア連邦、アメリカ合衆国とウルグアイによって、6月22日にSCCR/22/15 Rev.1(英語)として提出されたもので、WIPOのウェブサイトに掲載されている。また常設委員会議長が作成した提案の最新版は、SCCR/22/16 Prov.1(英語)として、KEIのウェブサイトに掲載されている。このファイル名は、SCCR22/15の改訂版が、SCCR22/16 Prov.1という新たな文書へと発展したことを明示している。ほとんどの部分で内容と意味はまったく変更されていない。一部のWIPO/SCCR代表らが示した明確化に関する懸念と要望がProv.1に盛り込まれていることが、主な相違点である。

前文(暫定案)

前文中の特筆すべき内容として、以下があげられる。

「視覚障害のある人々や印刷物を読むことに障害がある人々のために、情報、文化および通信への完全かつ平等なアクセスを提供したいと願い、その目的に向けて、アクセシブルなフォーマットによる作品の数を増やすというニーズと、それらの作品へのアクセスを改善するというニーズをともに検討し」
「世界の視覚障害のある人々や印刷物を読むことに障害がある人々が利用できる、アクセシブルなフォーマットによる作品の数を増やし、その範囲を広げるとともに、視覚障害のある人々や印刷物を読むことに障害がある人々の、他の者との平等を基礎とした完全かつ効果的な社会参加を支援するための、情報と通信への完全かつ平等なアクセスの確保に必要な、著作権法における必要最低限の柔軟性を提供し、このような人々の創造的、芸術的かつ知的な可能性を、自らの利益と社会を豊かにするために促進し、活用する機会を確保するために必要な、国際的な法律や共同勧告、条約の重要性を考慮し」
D条およびE条では、特にアクセシブルなフォーマットによる作品の、国境を越えた貸借や輸入を取り上げている。

結論

SCCR/22の活動と成果は、同セッションの結論書(英語)(*注)で紹介されており、WIPOのウェブサイトで見ることができる。前進への取り組みの重要なポイントは以下のとおりである。

「5.委員会は、SCCR第21回セッションで採択された予定表に従い、委員会のメンバーがSCCR第23回セッションにおいて、印刷物を読むことに障害がある人々のための著作権の制限および例外規定に関する国際法についての提案に同意し、これを完成させるために議長文書SCCR/22/16に関する討議を継続することを、WIPO総会に勧告することで合意した。」
「8.委員会は、権利の制限および例外規定の項目を、引き続きSCCR第23回セッションの議題とすることで合意した。」
提案と結論書はどちらもWIPOのウェブサイト(ページの一番下付近)で見ることができる。提案は英語、フランス語、スペイン語、アラビア語および中国語で掲載されている。現時点では、結論書は英語のみ掲載されている。

未解決の問題

提案の文言に関する合意はほぼ得られたが、今なお未解決の問題がある。一部のWIPO加盟国は、(WBUが要求している)WIPO外交会議ではなく、二段階にわたるプロセスを提案している。しかし、二段階にわたるプロセスは遅延をもたらし、法的強制力のある条約を採択する可能性が減るものと考えられ、異議が唱えられている。さらに、このような長期にわたる集中的なプロセスにより、「甘く」強制力のない「勧告」ではなく、法的強制力のある条約を作ることができるのかどうか、いまだに合意や判断が得られていない。

大きな躍進

懸案事項があるとはいえ、今回のSCCRでは大きな進展が見られた。関係者全員が、今や(4件の提案ではなく)単一のテキストに取り組んでおり、未解決の問題はごくわずかで、甘い勧告ではなく、強制力のある条約に対する支持が増えつつある。

「アメリカ合衆国、EU、アフリカグループ、そしてWBUが提出した、大いに異なる4件の提案から、WBUのオリジナル条約草案にきわめて近く、また「本不足(Book Famine)」の克服へと私たちを導く強制力のある国際法について、SCCRの合意を得るためのキャンペーンの最終行程へと進むのにほぼ十分な、単一のテキストを作成することができ、実に勇気づけられた。」
クリス・フレンド(Chris Friend)
WBUアクセシビリティ戦略目標リーダー、WBU読む権利グローバルキャンペーン代表、サイトセイバーズプログラム開発アドバイザー


掲載者注:
DINFでは結論書を翻訳(抄訳)し、以下に掲載しています。
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/copyright/wipo_sccr_22.html