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著作権法改正と障害者サービス 第1回
DAISYを活用した図書館の学習障害者など発達障害者への新たな取り組み

野村美佐子

はじめに

 2009年6月19日に「著作権法の一部を改正する法律」が公布され,今年2010年1月1日に施行された。この改正で,DAISYに関して言えば,視覚障害者以外の学習障害者・発達障害者等の必要に応じた方式で,著作者に無許諾で図書や資料の製作と貸し出しおよび譲渡,自動公衆送信が可能となった。そのことは,点字図書館だけでなく政令で定めた図書館(国会図書館,公共図書館,学校図書館など)に対して認められるようになった。またマルチメディアDAISY化の際には,必要に応じて原作の変形や翻案も可能となったことを特筆したい。

 しかし,私が所属する日本障害者リハビリテーション協会(以降リハ協という)は,著作権法第三十七条第三項について「認められる者」でなく,申請により政令指定を受けた。このことは,DAISY製作の実績があるボランティア団体などにとっては,若干のハードルがあるが,それでも指定を受けられるということは大きな進歩である。

 今回の著作権法改正により,図書館は,学習障害者・発達障害者に対する新たな取り組みが可能となる。本稿では,図書館が始められるDAISYの活用についてリハ協の取り組みを踏まえながら紹介していく。

DAISYについて

 DAISY(Digital Accessible Information System)は,日本語では「アクセシブルな情報システム」と訳し,1996年に設立したDAISYコンソーシアムが開発・維持を行っているデジタル録音図書の国際標準規格である。当初は視覚障害者のために開発されたが,現在は,通常の印刷物を読むことに障害(print disability)がある人たちの情報アクセスの保障を目指した開発と普及に重点が置かれるようになった。

 DAISY図書には3つの基本的なタイプがある。①音声DAISY, ②テキストDAISY, ③マルチメディアDAISYだ。①は,見出し(ナビゲーション)と音声で作成された図書で,多くの日本の点字図書館,一部の公共図書館,ボランティア団体で製作されている。②は,音声がなく,構造化された(表題,見出し,本文などのスタイルをつけて階層構造をつくる)テキストによるDAISY図書。音声合成エンジンで読むとマルチメディアの図書になる。また,点字ディスプレイに読みこめる。アメリカではこのタイプが多い。③は,マルチメディア化したDAISY図書で,音声にテキストおよび画像をシンクロ(同期)させることができる。利用者は音声を聞きながらハイライトされたテキストを読み,同じ画面上で画像も見る。また再生ソフトでフォントやスピードの変更,背景と文字の色が変更でき,利用者のニーズにあったスタイルとペースで読むことも可能である。国内では,出版物や教科書として広がり始めている。

マルチメディアDAISYの活用

 リハ協では読みたくても読めない子どもたちに読書を楽しんでもらうために,絵本を中心としたマルチメディアDAISY図書の製作を行った。現在,こうして出来上がったDAISY図書を実費で販売しているが,置いていただける図書館も少しずつ増えてきたように思う。図書館員が発達障害者や知的障害者を対象としたマルチメディアDAISYの有効性を理解してくれるようになったからだ。

 また,視覚障害者への情報提供ネットワークシステム「サピエ」1)には,まもなく21,000タイトルの音声DAISYが登録される。テキストDAISYやマルメディアDAISYのデータは,これから徐々に増えていくそうだ。ここを利用して,新たな図書館サービスが可能になる。各図書館が,学習障害者・発達障害者など,視覚障害以外の利用者の利用を広めていくことは必要だ。

マルチメディアDAISYを作成してみよう

 マルチメディアDAISYが初めてという方は,リハ協DAISY研究センターのウェブサイト(http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/)から,無料の再生ソフト(AMIS)とサンプル図書のファイルをダウンロードして体験してほしい。

 また,作成してみたいけれども,専門知識がないという方には,簡単にDAISY資料が作成できる製作ソフト,DAISYトランスレータを紹介したい。このソフトは,DAISYコンソーシアムとマイクロソフト社が共同で開発したWordのアドインソフトウェアだ。日本語版は今年の4月から無償でリハ協のDAISY研究センターからダウンロードができる。2)Word 2007,Word 2003,Word XPに対応 するWordにインストールすることにより,短時間で簡単な「DAISY」の文書を作成することが可能だ。たとえば,音声合成エンジンを使用して,合成音声,テキスト,画像の入ったDAISY3規格のマルチメディアを作成することもできる。尚,音声合成エンジンは,非営利の目的であればマイクロソフト社に申請すれば入手可能だ。

 発達障害者を対象にした学校の先生の教材づくりに,また,図書館では,本の新着情報やウェブ上の資料もこのソフトを利用して作成してほしい。

マルチメディアDAISY教科書の取り組み

 2008年9月年施行の「教科用特定図書普及促進法(教科書バリアフリー法)」と「著作権法第33条の2」の改正により,リハ協では,ボランティア団体の協力により通常の教科書を読めない発達障害者などにマルチメディアDAISY教科書の提供を始め,現在(7月)では,約400名の利用者がいる。3)製作を行っている教科は,国語,社会,理科,算数,地理,公民 英語など140冊にも上る。

 多くの必要な児童・生徒に広く提供を行うため,DAISY教科書のCD-ROMでの配布の非効率性の解消をめざし,ダウンロードによる配布を文科省に申し出た。しかし,バリアフリー法がダウンロードによる配布の想定をしていなかったため,ダウンロードが認められなかった。その後,4月にリハ協が37条第3項の政令指定になったことを機に,文科省でダウンロードによる配布の検討が始まり,多方面からの要請も伴って,同条項と違った条件が課せられるが,8月19日に上記行為が認められることになった。朗報である。

 この提供事業に図書館の関与を期待したいところだが,今のところ,図書館にはリハ協からDAISY教科書は提供できない。しかし,図書館が作成することはできるので製作にも取り組んでほしいと思う。難しい専門書などは,大学図書館にお願いしたいところだ。または,前述のDAISY教科書の提供に関するチラシを図書館の目立つところに置いていただきたい。学校図書館にとっては,学校内の発達障害者などの児童・生徒に対するサービスの一歩になるだろう。

さいごに

 最近,国内外で「iPad」を始めとする「Kindle」,「e-Book Reader」などの専用電子書籍リーダーで読める電子書籍のフォーマットとしてEPUBが話題になっている。EPUBは,米国に本拠を置く国際デジタル出版フォーラム(IDPF)によって開発・保守管理されており,DAISYと互換性がある。次のバージョンでは,EPUBとDAISYが共同して改定するのでアクセシビリティを兼ね備えたフォーマットが完成する。わくわくする話だ。そういった観点からも国民読書年である今,図書館が発達障害など利用者拡大に向けてアクセシブルな図書館を目指した戦略ツールとしてDAISYに取り組んでほしい。また,そのためにも,図書館にDAISY資料を配置し,さまざまな情報障害者への情報提供を保障する事業の予算と支援を国に期待したい。

1)「サピエ」
https://www.sapie.or.jp/

2)以下のサイトからソフトと製作ガイドを無料でダウンロード
http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/software/save_as_daisy.html

3)「マルチメディアDAISY版教科書」について
http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/book/daisytext.html

(のむら みさこ:日本障害者リハビリテーション協会)

[NDC9:015.17 BSH:1.著作権 2.障害者サービス]


この記事は、野村美佐子.DAISYを活用した図書館の学習障害者など発達障害者への新たな取り組み.図書館雑誌.Vol.104,No.9,2010.9,p.616-617.より転載させていただきました。