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関係者のニーズと期待

クリストファー・フレンド(Christopher Friend)
世界盲人連合(WBU)アクセシビリティ戦略目標リーダー
WBU読む権利グローバルキャンペーン代表
サイトセイバーズ・インターナショナル プログラム開発アドバイザー (ロンドン)

諸閣下、事務局長、シン(Singh)大使、ご出席の皆様、私は今日ここで、世界盲人連合、視覚障害者教育者国際協議会(International Council for Educators of the Visually Impaired)、IFLA印刷物を読めない人々への図書館サービスセクション(IFLA’s Libraries for Persons with Print Disabilities Section)、そして最新の録音図書システムを開発したDAISYコンソーシアムを代表し、視覚障害者セクター全体の代理としてお話ししております。私の同僚であるDAISYコンソーシアムのディペンドラ・マノーシャ(Dipendra Manocha)氏も、後ほど、特に開発途上国の視覚障害のある読者のニーズと彼らが直面する課題についてお話ししてくださるでしょう。今朝皆さんにお話しできる時間は10分間しかありませんので、すぐに本題に入りましょう。

今から200年前、ルイ・ブライユ(Louis Braille)はパリで生まれました。彼が開発した6つの点に触れて読み書きをするシステムは、視覚障害者のために、図書や情報・知識への扉を開きました。

世界には、目が見える人々と同様に、視覚障害者が容易に図書を読めるようにする点字やDAISY技術があるのに、出版される作品全体のたった5%しか、視覚障害者が読めるアクセシブルなフォーマットで製作されてないという事実から明らかなはなはだしい差別が、なぜいまだに存在するのでしょうか?

私たちには技術があります。そして、私たちに今必要なのは、視覚障害者とその他の印刷物を読めない読者が、平等な機会を得られるようにする政治的意思です。それは、大通りを歩いて行って、公共図書館や本屋に入り、ほかの皆が読んでいる最新の図書を借りたり買ったりする機会です。そのような図書がデジタル音声や大活字、あるいは点字フォーマットで利用できると知っていればできることです。

世界盲人連合は最近、WIPOの著作権・著作隣接権常設委員会に、このような図書の不足に対する政治的解決策を見出すための2本立てのアプローチの一環として、著作権と視覚障害者に関する条約案を提出しました。一方では、出版ソフトへのアクセシビリティ機能の統合など運用上の問題や、デジタルマスターファイルの共有における安全性の問題について、権利所有者との対話を継続し、意見の合致を見出そうとしており、これらはどちらも今後、アクセシブルな図書出版の増加につながると期待されています。

他方では、権利所有者は著作権の例外に同意していませんが、私たちはこの条約案には明確な正当性があると信じています。この条約案によって、アクセシビリティを妨げる多くの状況が特に改善されるでしょう。たとえば、著作権の例外のもとで法律に従って作成された、現在私たちが独自に所蔵する図書の、国境を越えた貸出と共有もその一例です。しかし、現行の著作権法ではこれが禁じられているのです。たとえ権利所有者が、彼らのすべての図書の95%について、アクセシブルなフォーマットでの出版をしないことを自主的に選択することによって、自らの経済的な利益の積極的な追求を留保するというもっともなビジネス決定を下したのだとしても。

この条約案が実施された場合、視覚障害のある数百万人の読者に即座に及ぼす影響について、皆さんと一緒に考えてみましょう。たとえばスペインでは、視覚障害者の全国組織であるONCEが、10万タイトルを超えるアクセシブルなフォーマットによる図書を所有しており、アルゼンチンでは、Tiflolibrosが5万タイトルを超えるアクセシブルなフォーマットによる図書を所有しています。そして、ラテンアメリカ19カ国のスペイン語圏の国々に住む、視覚障害のあるすべての読者のために、双方の間で図書の共有と貸出を行いたいと考えています。これは著作権のために現在行うことができませんが、条約案ではこれができるようになるのです。

同様に、アメリカ合衆国、カナダ、イギリス、オーストラリアおよびニュージーランドにも数十万もの蔵書があり、英語が第一言語あるいは第二言語として話されているその他60カ国の、文字通り数百万人の視覚障害のある読者が、これらの無料で使用できる蔵書にアクセスし、恩恵を受けることができます。これもまた、著作権のために不可能なのですが、条約案では可能となります。

フランス、カナダ、ベルギー、ルクセンブルグおよびスイスも同様に、フランス語圏アフリカ諸国の図書に飢えている視覚障害者と、フランス語の蔵書を共有することができるでしょう。ブラジルとポルトガルもまた、アンゴラ、モザンビーク、東チモールやマカオなどのポルトガル語圏の国々と共有することができます。アラビア語、ロシア語およびその他のあらゆる言語圏で、同じことができるのです。ここでもまた、現行の著作権法ではこれを禁じていますが、条約案では可能になります。

別の例として、世界中に巨大な国外移住者のコミュニティを持っている中国とインドがあげられます。最近、カナダ国立盲人協会では、カナダに住む新たに失明したアジア系移民らから、アクセシブルなヒンディー語の図書数冊のリクエストを受けましたが、現行の著作権法のために、盲人協会は、ニューデリーの図書館からアクセシブルなフォーマットの図書を貸出用に送ってほしいと、ディペンドラ・マノーシャ氏に電話して依頼することはできませんでした。

3億1400万人の視覚障害のある読者が、図書がない世界に幽閉されているというのに、政府は傍観しているとは、ひどく残酷な行為ではないでしょうか?ブラジル、エクアドル、そしてパラグアイの条約案では、著者および出版社の経済的権利を全く損なうことがない場合、すでに利用可能なこれらの教育、娯楽および文化的作品の蔵書への、世界中の視覚障害者によるアクセスを妨げ続けるのか、あるいは許可し始めるのかを決定するよう、各国に求めています。

視覚障害のある読者のコミュニティは、権利所有者と現在協力することにより、将来さらに多くの図書がアクセシブルなフォーマットで出版されることになると希望を持って生きていますが、権利所有者が過去のビジネス決定を覆し、突然、過去に出版された図書のアクセシブル版を、文字通り数百万、再版することは決してありません。しかし、視覚障害者団体は、現在これらの過去の作品をアクセシブルなフォーマットで数十万、蔵書として独自に所有しており、世界中の視覚障害のある読者すべてに、はるかに豊富な図書の選択肢を提供するために、国境を越えた共有と貸出を望んでいます。現在、著作権がこれを阻んでいますが、これを可能にするということが、条約案の利点の一つです。

最後に、著作権の現状について、そのさらなる影響を明らかにしましょう。現行の著作権管轄区域は国レベルであり、権利所有者はこの方がよいと考えていますが、視覚障害者団体にとっては、それぞれの国でアクセシブルなフォーマットによる図書の複製マスターファイルを無駄に製作することになるため、コストが倍近くになってしまいます。たとえば、J.K.ローリング(J.K.Rowling)の『ハリーポッターと秘密の部屋(第2巻)』が出版されたとき、世界中の英語圏の視覚障害者団体は、5つの異なる国で点字のマスターファイルを製作し、8つの異なる国でDAISY音声マスターファイルを製作しなければなりませんでした。この複製のために無駄に使用した経済資源・製作用資源で、世界中で共有できる4タイトルの点字図書と、7タイトルのDAISY音声図書を新たに製作できたでしょう。

この理由のために、WBUへの働きかけがあり、ブラジル、エクアドルおよびパラグアイが、この無用な図書不足を解決する政治的手段を提供するため、著作権と視覚障害者に関する条約の必要性を支持しているのです。知識へのアクセスを否定することは、基本的人権の否定であるということを世界が理解するようになるまで、私たちはどのくらい待たなければならないのでしょうか?

現行の著作権体制は、創作者の権利と視覚障害のある読者の人権との間の弁解の余地のないアンバランスを確実にもたらし続けます。そしてこの条約案に対する皆さんの支持が、権利所有者に経済的な不利益を与えずに、このアンバランスを修正するのに役立つことでしょう。権利所有者と協力しながら、条約案を推進していくという相補的な2つの方式による2本立てのアプローチがあいまって、完全な解決策を生み出す真のチャンスをもたらすのだと、私たちは信じています。