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開会のあいさつ

スワシュパワン・シン(Swashpawan Singh)大使
WIPO 視覚障害者(VIP)イニシアティブ名誉顧問 (ジュネーブ)

事務局長、諸閣下、ご来賓の皆様、そして参加者の皆様、この重要な会議にお招きいただき、開会のご挨拶をさせていただけますことを光栄に思います。私たちは今日、何よりも留意すべき価値のある問題に注目し、意識を高めるために集まっています。この問題は、長い間放置されたままになっていた急務であります。視覚障害者は今なお、通常の印刷されたテキストにアクセスすることができません。これは彼らの基本的人権です。彼らには、ほかのすべての人と同様に、国境との関わりなく、情報および考えを求め、受け、および伝える権利があります。これは、彼らの地域社会における文化生活へのより完全な参加と、芸術の享受、そして科学の進歩とその恩恵の共有を可能にするでしょう。

良い知らせは、このニーズが緊急に解決されなければならないというコンセンサスが高まっているということです。あまり良くない知らせは、たとえこれが実現しても、視覚障害者は、情報、公共通信および文化的資料へのアクセスにおいて、多くの国々で、その国の開発レベルに関係なく、障壁に直面し続けるということです。

いくつかの事実が注目に値します。世界には1億6千万人を超える全盲あるいは弱視の人々がいると推定されています。このうちの90%以上は、開発途上国の住民です。そしてその中には多数の児童と女性がいます。彼らは皆、眼が見える人々に比べて、深刻な社会的・経済的制約を受けており、教育の機会の減少、雇用の見通しの低下、そしてさらに制約の多い社会生活を経験しています。アクセシブルなフォーマットによる図書、新聞、雑誌および情報資料の不足は、この不平等な状況に追い打ちをかけるばかりです。

このニーズを認識し加盟各国は、2008年11月の第17回著作権・著作隣接権常設委員会(SCCR17)において、即刻かつしかるべく慎重に、全盲および弱視の人々のニーズに対処し、著作権で保護された作品へのアクセスを促進し、強化できる手段を決定せよとの指令をWIPOに与えました。これは、制限および例外の分析、そしてWIPOにおける関係者のプラットフォーム設立の可能性を含むものでした。この指令を達成するためにWIPOは、出版された作品を適正な期間内にアクセシブルなフォーマットで利用できるようにするという目標を掲げたVIPイニシアティブを組織しました。

視覚障害者の文字を読む機会を増やし、自立を促し、生産性を高めるために、権利所有者の正当な利益を無視することなく、著作権によって保護されているアナログ、デジタル両方の資料を、これまで以上に大量に、時宜を得た方法により、アクセシブルなフォーマットで利用できるようにし、複数の管轄地域に普及することが可能であるのは明らかです。これは、WIPOの主導による関係者のプラットフォームの活動の中心となっています。このプラットフォームは、著作権所有者と読みの障害のある人々の代表を含む主要な関係者を一つにまとめ、彼らの具体的なニーズと懸念を調査するもので、運用上の実践的な取り決めを作成することを目的としています。

今年1月と4月に開かれた2回の関係者会議では、多数の公共セクターおよび民間セクター関係者が参加するWIPO主導のプロセスの焦点を形成することができる一連の要素が確認されました。これらの要素には、(1)権限を付与する法体制(2)作品変換のための技術的ツール(3)フォーマット、標準規格および相互運用性に関する問題(4)開発および開発途上国特有のニーズに関する懸念(5)情報資料および研修モジュールの作成と普及、そして(6)デジタル環境が引き起こす特別な課題の評価の検討が含まれていました。複雑な技術的課題への理解を深め、VIPコミュニティおよび権利所有者の間のさらなる信頼関係の促進に貢献する新技術、信頼できる手段、および技術フォーマットに関する数多くの研究が確認され、委託されました。5月に開催された第18回著作権・著作隣接権常設委員会(SCCR18)では、WIPOが発表した中間報告書を基に、加盟各国がそれまでの進展を是認し、提案された次の対策を承認したことを嬉しく思います。多数の加盟国から提起された、開発途上国の参加と課題とが前面に打ち出され、認められましたが、これは今後も受け入れられていくことでしょう。

VIPイニシアティブの進展に伴い、これが加盟国によって進められる、WIPOに与えられた特別な指令に基づくイニシアティブであることが明らかになっています。その継続的な進展は、加盟各国の参加と支援、そして関係者全員の利益を理解する能力にかかっています。加盟各国にとって、技術と技術条件をより深く理解し、権限を付与する法体制と実行可能な実践的な技術的枠組みの様式に関するコンセンサスを得るために不断の努力をしていくことが不可欠です。このイニシアティブにより、VIPの大多数に変化をもたらす必要があるのなら、開発途上国特有のニーズと状況に取り組んでいかなければなりません。WIPOの役割は、無理のない期間で望ましい成果をもたらすプロセスを促進することです。

この会議を通じ、関係者の皆様と加盟各国が意見交換し、関連のある問題への理解を深められることを願っております。また、オープンでインクルーシブな協議により、関係者の皆様の間の信頼が強化され、コンセンサス構築のプロセスに役立てられることを期待しております。