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「DAISYによる教科書づくりを考える」 -欧米から学ぶ-

セッション1:各国のDAISY版教科書提供の現状

アメリカ合衆国におけるDAISYフォーマットによる教科書の提供

ジョージ・カーシャ
DAISYコンソーシアム事務局長、RFB&D

ありがとうございます。本日はお招きいただき、大変光栄です。短い時間ではありますけれども、DAISYをさらに日本において推進することができるようお役に立てればと存じます。DAISYというのは優れた技術だと思います。アメリカはとても関心を示しましたが、正しい方法でではありませんでした。いろいろな問題がありまして、そういう事態になりましたが、私が今日お話しすることで皆さんが同じ間違いをしないようになれればと思います。

まず最初に、RFB&D(Recording for the Blind & Dyslexic)は、60年ほど前から7,000人以上のボランティアを使って、全国のレコーディングスタジオに集まってもらって、そこで肉声録音で本を作ってまいりました。5年前にDAISYのレコーディングシステムに移り、DAISYをCD-ROMで提供することになりました。フルナビゲーション、見出しやページ番号があり、ボランティアが本を読みます。これはテキストはありません。音声だけであります。アメリカ国内で非常によく使われるようになりました。視覚障害者の方々が使っているわけですが、ディスレクシアの人あるいは学習障害をもっている人も使っています。ディスレクシアの人々あるいは弱視、学習障害のある人たちというのは、本を見ながら実際に音声を聞くということをしておりますので、実際に本を見ているわけですけれども、音声を一緒に聞くということで非常に学習の役に立っています。今はそういうことが続けて行われているわけです。来月、RFB&D からDAISYの本がインターネットでダウンロードできるようになります。

それからもう1つの組織がアメリカにはあります。それはBookshare.org(ブックシェア・ドット・オルグ)という組織です。視覚障害者たちは、本をスキャニングしてBookshareに対してこれを提供し、全国で配布をするということをやってもらっています。このやり方も非常に人気が出てまいりました。これはテキストだけでオーディオ、音声はついておりません。したがって本を読む人たちは合成音声を使います。コンピュータが読み上げるわけであります。あるいは点字をコンピュータで使ったり、それから文字を拡大して使うことも可能です。それも大変よく使われるようになりました。しかし教科書のスキャニングは非常に難しいものでありまして、Bookshareにおいては教科書というのがあまりありませんでした。主に一般書とか小説などの書籍で、教科書はこういう形で使われるようにはなっていませんでした。

アメリカでは学生への教科書の提供において問題がありました。学生たちはテキストを見るのと同時に聞くことができなければならないということになっています。ある1つの委員会が作られました。全国指導教材アクセシビリティ標準委員会というものでありまして、この委員会において、教科書を提供する上で一番いい技術は何かということを審議いたしました。当時は出版社に対してDAISY版の本を提供するようにという要求はいたしませんでした。しかしながらDAISYのXMLファイルを作って、それをナショナル・レポジトリに提供するということを義務づけました。そこで現在、13,000の教科書のXMLファイルがナショナル・レポジトリに提供されています。

この法律の意図は、RFB&Dがフルテキスト及びフルオーディオ録音を簡単に製作できるようにすることにありました。それからBookshareにとっても、スキャニングを使ってではなく出版社のソースファイルを使って教科書を作りやすいようにしようというのが意図でした。そういうことは基本的に良い進歩でした。

法律の実施の仕方ですけれども、出版社に対してXMLファイルをナショナル・レポジトリに無料で提供するということを義務づけ、今お話ししたような組織を使って本が作られるようにしました。そのDAISYの本を見て、みんな「何てすばらしい本なんだ。みんな学生たちはこれを欲しがるだろう」と言いました。視覚障害の人たち、あるいはディスレクシアの人たちだけではなく、普通の学生も今までのオールドファッションな紙媒体の本ではなく、これを欲しがるだろうと思ったわけです。そして出版社はとても恐れて、法律の実施に抵抗しはじめました。ごく限られた人数の人々だけがこのようなDAISY版の本を入手することができるようにしなければならないと主張いたしました。視覚障害者そして重篤な障害をもっている学生にだけ提供でき、そうすることによって、印刷版の教科書が学校で売れなくなるということがないようにしようとしました。このような法の実施にあたっての間違いが、Bookshare.orgとRFB&Dと、出版社との間での対立が発生してしまいました。法律の実施にあたっては、こうした組織・団体が協働で仕事をし、すばらしいデジタル教科書を作ることができるようにすべきでした。でもそういうことにはなりませんでした。

現在、出版会社は、いろいろな技術、デジタル書籍を幼稚園から12年生までの教科書を作るということになっていますが、NIMASによって幼稚園から18歳ぐらいまでの人の教科書が提供されています。しかし大学になるとちょっと違います。大学生というのは自分で教科書を買います。とても教科書は高いです。それから様々なコースが大学レベルにはありますので、いわゆる幼稚園から12年生までに使われている教科書の数と比べると、使われる教科書の数も非常に多くなります。何千種類というような本が大学では提供されます。RFB&DやBookshareへ教科書の提供希望が多くなり、製作が難しくなります。したがって教育レベルが高くなれば高くなるほど、本が入手しにくくなります。

そこで高等教育のレベルでも出版社に対してソースファイルを提供を義務づけ、教科書が提供できるようにするというような法案が通過しました。その中で、DAISYの出版は非常に有益になり、出版社は、XMLファイルを作り始めましたが、まだ十分ではありません。DAISYのXMLファイルを提供するということは法律で義務づけられてはいませんけれども、そうしてくださいということが求められています。現在出版会社は非常に限られた数の大学生にだけ提供しています。

それと同時に、アメリカではいわゆるデジタル出版というのが活発に行われるようになってきました。例えばソニーのリーダー、Kindle(キンドル)、Eink(イーインク)といったような会社が、非常にすばらしいディスプレイ・テクノロジーを出しています。デジタル書籍をメインストリーミングの人々にとっても人気のあるものにしてきています。これはつまり障害をもたない人たちに対するイーブックです。

DAISYコンソーシアムにおきましては、インターナショナル・デジタル・パブリッシング・フォーラム(IDPF)と共同で活動し、スタンダードのePubというフォーマットを作りました。先ほど河村さんのほうからもお話ありましたけれども、DAISYナビゲーションモデルを一般的に使っている人、HTMLも、DAISY XMLも、どちらでも使うことができるようになっています。これで作られた本も非常にいいんですけれども、DRM(Digital Rights Management)でプロテクトされています。つまりコピーができないようになっています。このDRMというプロテクションなんですけれども、自分の技術を使って視覚障害のある人たちがこれを使うということができない形になっているんですけれども、今後、多分、向こう6か月の間に大量のePubというフォーマットの本が出てくるでしょう。今後はこれが非常に重要になってくると思います。

それからもう1つアメリカが犯した間違いがあります。世界の人口の5%が住んでいるわけでありますけれども、世界の弁護士の50%がアメリカにいます。ですから弁護士がいろいろなことに常に関与してくるというのがアメリカです。出版会社においては、電子書籍を高等教育のために出版しはじめるようになりました。7つの最大のアメリカにおける出版会社がまとまって作ったCourseSmartという会社がありますが、CourseSmartを通じて、オンラインでデジタル・テキストブックを提供するようになっています。これはアクセシブルではありません。ファイルはスクリーンリーダでは読めません。ダウンロードはできるようになっています。おそらく向こう数ヶ月ぐらいの間にePubでCourseSmartの本をダウンロードする方向になってくると思います。

大学がオンラインの本を使っているとしたら、これは法律ではアクセシブルにしなければならないことになっています。いろいろな裁判が起こされるのではないかと思います。デジタル製品を作っている出版会社に対して、障害をもっている人にもそれらをアクセシブルなものにするということを要求する裁判です。ですから向こう半年から1年ぐらいの間、電子書籍に関してはいろんなことが起こってくるでしょう。私たちもこれに注目していかなければならないと思います。

このコンテンツの出版社が理解すべきことがあると思います。それは何かというと、技術を開発して、その技術が社会のすべての人に使えるものにしなければならないということです。障害者権利条約はアメリカにおいてはまだ調印をされていません。しかしオバマ大統領は調印すると約束しました。これが調印されますと、情報に対するアクセスについての基本的な人権が守られることになります。そしてアメリカの国内法においても、障害をもった人たちが、すべて他の人と同じように情報にアクセスすることができるようにしなければなりません。テクノロジーがそれを可能にするのです。DAISYはePubの中に入っています。DAISYはすべての人がアクセスすることができる形になっています。DRMがこのアクセスを防止するような形になってはならないと思いますから、私たちはそのために活動しなければなりません。

Googleブック・プロジェクトも非常に興味深いです。何百万冊という本をスキャニングしております。すべてのパブリック・ドメインにある本は、今障害を持っている人たちも、スクリーンリーダを使ってオンラインで読むことができるようになりました。Googleはアクセシビリティということを非常に強く推進していますし、オンラインの読書ということに関しては、特にパブリック・ドメインの書物に関しては、もちろん著作権のあるものは読めないんですけれども、パブリック・ドメインの書籍はオンラインで読めるようになっています。Googleのプロジェクト、それから、著作権のある書物であっても、そういうものを出版している企業は、このアクセシブルな技術を提供している組織と共同で活動をしていかなければならないようになると思います。したがってGoogleも大変注目すべきものだと思います。

最後にお話したいのがDAISY規格の変更です。今行われようとしているものですが、ePubとDAISYが、それによってもっともっと近いものになるでしょう。すなわちePubフォーマットのテキストも、DAISYの再生システムでも読むことができるようになるでしょう。それからDAISYのマルチメディアも、おそらく将来的にデジタルパブリッシングが、方向性として求めるものになると思いますが、テキストだけでは十分ではないと思います。音声もビデオも求められるようになると思います。これはデジタルパブリッシングの世界では自然の発展であって、DAISYも、音声付き、映像付きというものをどんどん提供していかなければならないでしょう。

いずれにしても、出版会社にしても、今後はマーケットとして障害をもっている人たちを読者として考えていく必要があると思います。情報にアクセスするということは基本的な人権の一部でありますから、そういう方向に動かなければなりません。

ご清聴ありがとうございました。