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「DAISYによる教科書づくりを考える」 -欧米から学ぶ-

セッション2:パネルディスカッション「DAISY版教科書製作をどう促進するか」

それではお待たせしました。これからパネルディスカッションを始めさせていただきます。先ほどの神山先生のコメント及び少し詳しい自己紹介を皮切りに、これからパネルディスカッションを続けるわけですけれども、先ほど休憩前に、タイのモンティエン・ブンタンさん、モンティエン・ブンタン「上院議員」というふうに申し上げないといけないのかもしれませんが、モンティエンさんからの質問がございます。それについて、まず答えをいただいてから、その後、それぞれまずパネリストの間でコメントをいただきたいと思います。そしてこのパネルディスカッションのテーマは、これからどのように製作し、待っている利用者の手に届けるのか、そのために今どこまで来て、あと何が課題で、それをどうやって解決していくのか、そのための展望を明らかにしようということがテーマです。

それでは最初に、モンティエンさんから規格の動画に関する拡張が1点。それから著作権の問題はそれぞれの国でどうなっているのかというご質問だったと思います。著作権の問題は各国でそれぞれ取り組んでいますので、これは後でコメントの中に含めていただくことにして、規格の動画の問題については、こちらから指名をしてジョージ・カーシャさんに、今どうなっているのかということをまず伺い、その後、この規格に動画を含めるようにということを積極的に提案したのは、実はスウェーデンの文部省なので、スウェーデンでの取り組みについてはシェル・ハンソンさんにお話をいただきたいと思います。それではまずジョージ・カーシャさん、お願いします。

ジョージ・カーシャ●

宏さん、ありがとうございます。DAISYのスタンダードですけれども、今、改正されているところです。そして、6か月ぐらいかけまして新しい要求がどういうものかを明らかにしようとしているわけですけれども、動画も1つのリクエストとして、いろんなところから上がってきていますので、DAISYスタンダードの中に付加されつつあります。おそらく今年の夏ぐらいからそれが実現するのではないかというふうに思います。そして2010年の初めぐらいのときに、おそらくテストユースのためのビデオを含んだ動画の拡張が規格の中に入ってくると思います。

また、そのためにはキャプション機能が必要になってきます。聴覚障害の方のために映画あるいは動画の字幕や音声ガイドも必要になってくると思います。したがってこの2つが同時に付け加えられることになると思います。そうすると完全なアクセスを保障することができます。私たちはこのように前進して、テストユースのためのドラフトバージョンを2010年の初めぐらいに実現したいと考えています。

河村●

ありがとうございました。それではシェル・ハンソンさん。スウェーデンでの取り組みの状況を少し教えてください。

シェル・ハンソン●

我々はDAISY規格の開発、すなわち、もっとマルチメディア化したいということに大変関心を持っております。現在、スウェーデン政府からの要求で、手話の図書を大量に作らなければいけないということがあります。これは学童のためのものであります。我々の視点から見ますと大変これは面白い開発であると思っています。ですから、このような仕様の更新、つまりマルチメディア、そして手話を聴覚障害者のために付与していくということについては、大変関心を持っております。

河村●

先ほどリチャード・オームさんから、イギリスで実際に実態調査をしてみたら、ディスレクシアの人たちのニーズが非常に具体的に分かってきたというお話がありました。これまでのいろんな国の取り組みではディスレクシアの人たちは動画が欲しいというニーズが結構あると聞いているのですが、この動画について、イギリスでの調査結果の中では何かそれについて触れられたようなものがあったでしょうか。リチャードさん、お願いします。

リチャード・オーム●

イギリスの現状としましては、伝統的な代替的なフォーマットの中にはグラフィックは入っていませんでした。というのは、おそらく音声、大活字、あるいは点字があるというふうに考えられていたからであります。しかしながら、こういうような教材の必要な人たちというのはもっと多いということが分かってきました。そしてとにかくディスレクシアの学習者にとりましては、このようなグラフィックの表現ができるということがとても重要だと思います。それから弱視者にとっては、やはりグラフィックがはっきりと分かるということが学習にとってはとても重要です。また触図もイギリスでは注目されております。動画とかビデオにおいては、我々は非常に成功してきたと思います。したがって我々が成功すると、印刷字を読めない障害のある人たちのみならず、すべての学習者のために、こういうものを作っていきたいというようなことで、出版社の注目を惹くことができると思います。ですから私たちが本当にすばらしいということを示すことができれば、おそらくどのような出版社も、こういう技術を使いたいと思うはずです。DAISYはすばらしい、アクセスを可能にするような技術ですので広がっていくと思います。つまり出版社もDAISYは非常にすばらしい革新的な技術で、それを活用することによって自分たちの競争力が高まると思ってくれると思います。したがって、学習の資源として、将来的には動画やグラフィックも入れていくことがDAISYの発展過程において重要な点だと思います。

河村●

ありがとうございました。

それでは次にエドマーさんに聞きたいんですが、先ほどみんなが「ああ、こういうの、できたらいいな」という本のプレゼンテーションを見せていただいたんですが、質問にありました動画については、これからはどんなふうに取り組む予定をお持ちでしょうか。

エドマー・シュット●

私たちはプロトタイプを作りました。それを出版社に示しましたので、ある程度こういうようなことができるんだというふうな感触はつかんでもらえたと思います。デモンストレーションをして、動画の可能性がDAISYにはあることを示せば、多分需要は多いんじゃないかと思います。DAISYの中に動画が取り込めるかどうか、それは分かりませんけれども、それができれば興味を持てるんじゃないかなと思います。そうすると完全にマルチメディアになりますので、素晴らしいことだと思います。

河村●

それではもう1つの質問。これを答えていただきたいと思います。著作権です。4人のプレゼンテーションしてくださった方々それぞれの国で、著作権について。先ほどから様々な、私どもから見ると優れた方法で、DAISYの図書が提供されているわけですけれども、著作権の上で、それはちゃんと認められているのかどうかということについて、著作権の状況をそれぞれ簡単に、またお1人ずつ伺いたいというふうに思います。それではジョージさんから。アメリカの著作権の状況についてお願いします。

ジョージ・カーシャ●

1996年に著作権法が改正されました。出版社の許可を得ず、一般の図書、出版されたものをアクセシブルな図書に変換することができるようになりました。NPOだけがこれをできます。販売はできません。そして少額の料金を受け取ること、請求することはできますけれども、いわゆる営利が目的ではないわけであります。ほとんどこのような著作権法の例外のもとに仕事をしてきたわけであります。DAISY図書、点字図書、大活字図書、オーディオブックス、Eテキストなどを作ってきました。フォーマットは制限されておりません。それをいわゆる主流のビジネスとは別にやっていかなければいけません。すなわち我々としては他の人たちにそれを使わせないというようなことですよね。それを守らなければいけないわけです。つまり通常に利用できる、読めるような人にはそれを使わせないというようなことであります。そしてやはりそのサービスを提供する相手というのは障害のある人に限られるわけであります。

そして私たちがこれから前進していくためには、このような著作権法の例外規定があるのは良いことですし、このまま維持されるべきだと思いますが、出版業界と協力したい場合には、少し問題になります。つまり本を成功させたいと思うようになると、ちょっと手枷足枷になります。したがって、この著作権法の例外規定というのはとてもいいと思いますが、しかしながら出版社と一緒に協力したいというものであれば、彼らが使っているファイルを使いたい、そのような場合には出版社とパートナーになっていなければならない。そしてその本のアクセシブルなバージョンを作っていかなければいけないということになるからです。

それからあともう1つ。世界的に、世界知的所有権機構(WIPO)において、ワールド・ブラインド・ユニオンと協力して、国際的な著作権法の例外規定を進めていこうというようなことも、現在検討されています。カナダでは、アメリカで出版されているものがたくさんありますが、DAISYバージョンをカナダに送ることはできないんです。著作権法の例外規定がアメリカ以外のところでは通用しないからです。このような例外規定は、ワールド・ブラインド・ユニオンが導入したもので、これは非常に重要です。これがあるからこそ、いわゆる国境を越えてコンテンツを共有できることにつながるんじゃないかと思います。

河村●

NPOの活動について補足させていただきますと、つい先日、ジュネーブのWIPOの本部で、権利者側と、ワールド・ブラインド・ユニオン及びそのサポーター側とで会議を開きました。WIPOの立場はとてもはっきりしていまして、障害者権利条約をきちんと実施する方向で著作権条約を改定しなければならないというのがWIPOの立場です。その前提の上で集まりまして、私もDAISYコンソーシアムを代表してワールド・ブラインド・ユニオン側でそれに出席したんですけれども。

5月にWIPOが次の重要な会議を開きます。これは政府間の会議です。その前に新しい条約案あるいはガイドラインといったもので、どういうふうにしたら、すべての障害のある人たちの著作権のある著作物へのアクセスを向上させることができるかという立場で新しい提案があるという見通しになりました。したがいまして、これから、これは世界中に効果をもたらす動きですので、日本からも大いに注目していきたいというふうに思い、ちょっと補足をさせていただきました。

それではシェル・ハンソンさん。スウェーデンでの著作権の状況についてお話しください。

シェル・ハンソン●

ジョージさんが今おっしゃったことですけれども、国境を越えて本のやりとりができないということで、その結果いろいろなことが起きていると思います。私たちだけではなく、いろいろな大学生に教科書を提供している組織に影響が出ていると思います。スウェーデンの場合タイトルの30%ぐらいが英語だと思います。かつては簡単に、例えばアメリカから本を借りることができたんですけれども、この新しい著作権法ができた結果、こういったDAISY図書を借りることがアメリカからできなくなってしまいました。これは私たちにとって非常に経済的負担が大きくなっております。100万米ドルを追加的に払わないと、こういった本を独自につくることはできません。

私たちスウェーデンにおいても新しい著作権法が出ております。これは2005年に出たものです。この中で、印刷物を読めないすべての人たちはアクセシブルな形での図書を保障されるべきであると書いてあります。つまり、このような印刷物を読むのが困難な人たちは地元の図書館に連絡を取り、そしてこの著作権法の特例が適用された、そういった図書が提供されるべきであるということを意味します。

もちろん公立図書館にはこういった学生が登録されております。トーキングブックの利用者として登録されております。したがって作者ですとか出版社から許可を得る必要はありません。あくまでも作者に対し、例えばこういった本をアクセシブルなものに作り替えるということを伝えれば十分ということでありますし、それによって政府からも非常に少額でありますけれども、お金をもらうこともできます。

政府にいろいろと相談をする場合、特に著作権に関しては「そんなたくさん質問を聞くな、行動を取れ」という回答が戻ってきました。とりあえず私たちは行動を取るようにしました。そしてそれによって出版業界、そしてまた作者の様々な団体がどういった反応を示すかを見ていくしかないと思います。

さてインターネットを通してタイトルをダウンロードする場合、これはウォーターマークシステム、いわゆる電子透かし技術を含めてでありますけれども、これもまた誰かがこの本に違法にアクセスしようとした場合、それを見ることができます。誰が読んだのかも分かります。

河村●

ありがとうございました。大変興味深い重要なポイントが話されたと思います。とにかくあまり心配しないで、まず行動を取って必要なニーズを満たして、それから調整をすればいいんじゃないかというヒントが得られたと思います。

それでは次にイギリスの著作権の状況について、リチャードさんからお願いします。

リチャード・オーム●

2002年、視覚障害者の著作権が法律として導入されました。もちろんこれはタイトル、題名から分かるように、かなり限定的なものであります。これまでの方々がおっしゃっていたように、これはもはや1人1人個人、ないしは代替図書を作る人たちが毎回毎回許可を得る必要がないということであります。したがってこれは、例えば点字ないしはその他代替図書を得るための権利ということであります。

さて、この対象となっている人たち、これは視覚障害のある人たち、ないしは身体障害のある人たち、つまりページをめくったり本を持ったりすることができない人たちだけで、ディスレクシアの人たちは含まれておりません。この例外規定を使っている人たちは、例えば私たちのRNIBといったような団体、そしてまた学校区また個人となります。1つ重要な点は、もし既に今、商品としてアクセシブルなものが用意された場合、さらに作ることはできません。これからそういった商品はもっと増えるだろうと思いますので、この点は注意しなくてはいけないと思っております。

さて、商品として作られたものが増える中で私たちが分かってきたことは、例えば本の中の挿絵の権利保有者の問題があります。挿絵の権利は出版社に必ずしもないという厄介な問題があります。それからもう1つ、いわゆる著作権とコピーの保護というのは違うと思いますけれども、ですから出版社というのは、自分たちのいわゆる知的所有権にかなり注意を払っております。これはあまりにも皆さん心配しすぎているような感もありますけれども、イギリスにおいては、必ずしも私たちは技術的に何か保護するというのはいいとは思っておりません。例えば音楽とかビデオを鑑賞するないしはイーブックを利用する人たち、この技術的な保護というのは我々にとっては障害になると思っております。例えば合法的にこういったものを利用する上で障害になると思いますし、そしてまた小売の業者にとってもあまりいいとは思いません。したがって電子透かしですとか、そういった身元識別などをやるべきであり、そのような議論はあまり出版社とはやりたくないと思っていますが、彼らにとってはこれは問題のようであります。

河村●

ありがとうございました。イギリスでの著作権の状況の中で、まだまだこれからという部分も確かにあるとは思いますけれども、非常に興味深いのは、イギリスでは読めないように、鍵がないと開かないようにするような、そういう暗号化ですね。それについては利用者は受け入れないという姿勢が非常に強調されていたというふうに思います。その代わりに、これが正当なコピーであるということを証明するためには電子透かしという方法で、アクセスはできる、でもこれが正当であるかどうかということについて改ざんできないように電子的な透かしを入れる。紙幣に透かしって入っていますね。そういうふうな技術といったものが検討されているんだというお話でした。

それでは出版社と大変うまく協力している事例をお話いただいたオランダの場合で、著作権というのはじゃあどういうふうになっているのか、何か著作権が邪魔をしているのか、それとも非常に追い風になっているのか。そのあたりをエドマーさんからお話ししていただきたいと思います。

エドマー・シュット●

ありがとうございます。まず著作権というのは、私の専門外でありますので、私のディレクターにそのへんを後で補足してもらえればと思うのですが。ただ、このハイブリッド図書のデモンストレーションの中でお見せしたようなもの、これはまったく著作権の問題はありません。これは出版社のほうから作ってくれと言われたものでありますし、そして出版社が配布・流通しているので問題ありません。マーティンさん。マイクを使っていただいて、オランダの著作権の状況について、もう少し詳しくお話しくださいますか?

マーティン(会場)●

ありがとうございます。こちらに伺えて大変嬉しいと思います。さてオランダの著作権の状況についてですけれども、かなり他の国と似ていると思います。例えばスウェーデンのハンソンさんが言われたような状況に近いと思います。ヨーロッパにおいては著作権指令というのがあります。これは欧州委員会が打ち出したものです。そこにはすべてのヨーロッパの国において、例外規定が設けられるべきであるということでありまして、障害のある人たちを対象にした例外規定を設けるべきであると書いてありますけれども、一部の国々においてはこの例外規定に関しての解釈が多少違っているようであります。

オランダにおいて私たちは、様々な出版物の代替フォーマットを作ることができます。活字を読むのが困難な人たちは、必ずしも視覚障害者だけではなくディスレクシアの人たちもそうです。これはいいことだと思います。それ以上に重要なことは私たちが出版社と非常にいい関係を持っているという点だと思います。私たちは出版社との間にこの法律の解釈についての合意があります。これをいかに流通の面で、またこれらの出版物の、図書の製作において実践すべきかについても合意ができていると思います。

オンラインでの配布・流通に関しては、私たちはストリーミングを近く導入する予定です。これに関して著作権の問題は特にないと思いますが、ただ、この先、ダウンロードサービスにおいて問題が発生するかもしれません。したがってそういった場合には、先ほどスウェーデンの話の中で出たような技術的な保護措置を導入するかもしれません。

河村●

マーティンさん、ありがとうございました。今は、ここに登壇しておられる方たちの、先ほどのプレゼンテーションを受けてのモンティエンさんからの質問の一連の回答をいただいたところです。他に自分の国では、今までここで出されていなかった著作権上の何かユニークなトピックがありましたら、それを紹介していただきたいんですが、何かありますか。会場の皆さん。

メイヤー・マックスさんがいらっしゃいますので、メイヤーさんにお願いしたいと思います。メイヤーさん、簡単な自己紹介も含めてお願いします。

メイヤー・マックス(会場)●

メイヤー・マックスと申します。マイネット・リサーチセンターというアメリカのNPOから参りました。かつてそして河村さんと一緒にDAISYプロジェクトをやった経験があります。ゴア副大統領のスタッフであった時代ですけれども。

カーシャさん、そしてパネリストの方にお聞きしたいんですけれども、どうやって7,000人のボランティアに手伝ってもらって、当初出版に成功されたのでしょうか。そしてこういった人たちを、DAISYを習得させるためにトレーニングするのは、どのぐらい困難であったのでしょうか。特に大学生を対象、もっと若い人たちを対象にした図書の訓練というのはどうだったのでしょう。

河村●

今の質問、ジョージさんに答えてもらいますけれども、それでは、著作権については一応これで、さっきモンティエンさんから問題提起があったことへの回答は終わりということにして。

これからもうちょっと他の質問あるいは他の議論に進みたいと思います。今のメイヤーさんの質問は、ちょっとジョージさんに後で回答をとっておいてもらって、実はお1人、ここで皆さんにパネリストとして紹介したい方がおります。それは、フィンランドからいらっしゃいましたマーク・レイノさんです。マークさんはフィンランドでのDAISYについては、明日から2日間あります国際会議で発表を準備しておられまして、今日は教科書について特に集中して議論するところで、コメントをいただくために登壇していただいております。皆さんご存じのように、今世界中でフィンランドの教育に注目が集まっています。フィンランドは、マークさんは「セリア」という図書館に勤務しておられますが、フィンランドの学校の特徴は、いわゆる特別支援教育あるいは特殊教育の学校は1つもなくて、すべて子どもたちは一般の学校に通っていて、その子どもたちに読める教科書を提供する、あるいは読める資料を提供するというサービスになっているということだそうです。この後さらに議論を深めるために、少しフィンランドの学校での読書の状況について、それから今日のこれまでのプレゼンに対するコメントがありましたら、まずマークさんのほうからご意見をいただいて、それから先へ進ませていただきたいと思います。

マーク・レイノ●

ありがとうございます。大変興味深いご質問をいただいて、簡単にひと言でお答えできるということではないんですけれども。フィンランドでは読書をすることを小さいときから教えられています。そして図書館と学校が非常に密接に連携を取っておりまして、図書館から人が学校に出かけていって、例えばこういう本を読んだらいいですよをというような話をしてくれるということになっています。そういうことがよくいろんな学校で行われておりまして、図書館は、その学校の状況に応じたお話をするというようなこともあります。それから図書館について特別なところだという説明をします。読書というのはフィンランドの人たちにとっては、インターネットを使うとか、あるいはその他の、子どもたちがやる日常生活の一部と同じようなものになっています。

それから河村先生からお話がありましたけれども、フィンランドでは特殊学級とか特別学校というのがありません。養護学校というのはありません。すべて通常の学級・学校に統合されております。したがってまったく同じ教育を、障害をもった子どもたちも受けているわけです。同じ教科書を読みます。

本に関しては、セリア・ライブラリーという図書館がありまして、視覚障害をもった子どもたちに本を提供しています。録音されている書籍を提供いたしますがDAISYフォーマットになっています。これが一番いいと私たちは考えています。そして2003年からDAISYフォーマットで本を作るようになってきました。

河村●

何かの統計にありましたけれども、確か小中学生の読書量が日本とフィンランドを比べると、確か桁違いにフィンランドの子どもたちのほうが本を読んでいるという統計があったと思います。つまりみんなが本を読むことがとても当たり前になっているという背景がひとつあって、それとフィンランドのごく最近の教育の評価の指標になっているPISA(ピサ)という国際的な比較の指標がありますけれども、それでフィンランドがいくつかの項目で最高になっているということに関係があるのかないのかということが、教育関係者の上では大変興味を引いているところだと聞いております。これからの議論の中で、そのフィンランドからの視点でのコメントも後ほどいただきたいというふうに思っています。

それではここで、先ほどの、どういうふうに人手を確保しているのか。これは一番最初のご質問にも共通するんですね。どうやって作っているのかということになるかと思います。いくつか、それに関わる答えもいただいているんですが、特に7,000人ものボランティアをどういうふうに育て、あるいは働いていただいているのか。そのあたりについてジョージ・カーシャさんから、まずご紹介いただきたいというふうに思います。

ジョージ・カーシャ●

私どもの団体は、視覚障害者のために録音サービスを提供するということでRecording for the Blindという名前が1995年までは使われていました。年間2,500タイトルの本を製作していました。2,000人から3,000人のボランティアがいました。それからその後、ディスレクシアの人たちも私たちの作る本を使うようになり、視覚障害者だけではなくディスレクシアの人々のための録音サービス機関ということになりまして、Recording for the Blind & Dyslexic (RFB&D) という名前になりました。75%のユーザーが現在ではディスレクシアです。

ボランティアは7,000人に増え、年間7,000冊の本を製作しています。ボランティアの人たちに「なぜ、毎週来てマイクロフォンの前に座ってボランティア活動をするのか」というふうに聞いてみると、家族にディスレクシアがいるという答えを出す人は少なくありません。とても興味深いんですけれども、団体の名前を変えたときは、視覚障害者のニーズはだんだんと注目を得られなくなるというような状況でしたが、しかしより多くの人たちがボランティアをしています。なぜかと言うと家族の中に読書という点で問題を持っている人たちがいるからです。

67の異なるカテゴリーがありまして、例えば物理の本だと、物理についてよく分かった人が、そして例えば図についてきちんと説明できる人が本を読むことになっています。数学でもそうであります。数学の本を読む人は、その資質がある人でなければならないことになっています。したがってボランティアの人たちは、6か月活動をしていただいて初めて、それぞれの自分の教育バックグラウンドによって、小説とかどの分野の本を読むことができるかということが決まります。複数の分野のものを読むことができるという資質を持つ人もいますけれども、いずれにしても資質がある人に読んでもらいます。

ブースがありまして、マイクの前に座って本を読みます。実は自分の声で本をレコーディングするということが大好きという人が少なくないんですね。自分自身もそれから家族の中にもそういうことをやった人がいる。そういうレコーディングに自分の知識を生かすことができる。専門能力を生かすことができるということを喜んでやってくださっています。

河村●

ジョージさんにもうちょっと伺いたいんですが、レコーディングブースが、かなり大学のキャンパスにあるように思うんですけれども、大学とボランティアとはどういうふうな関係になっているんでしょうか。

ジョージ・カーシャ●

32のスタジオが全米にあります。ですからたくさんの人がいる所にスタジオを設けるようにしています。ロサンゼルスには3か所ありますし、シカゴには2か所、ボストンにもあります。非常に人口が多い地域ですね。小さな町にもあるところがありますけれども、そういう所では大学の近くに置いています。技術的な能力を持った人たちがやってきて、例えば教授とかそういう方たちがやってきて本を読んでくださることができるようにしています。

例えば住宅のようなものを提供してくれる大学もあります。私たちが部屋を借りなくてすむようにです。ということで、しばしば私たちのスタジオは大学の近くとか、あるいはハイテク産業の近くに設置するということがあります。それはとても重要なことなんです。

河村●

ありがとうございました。とても重要なことが今指摘されたと思いますね。大学レベルあるいは専門書を読むためには67のカテゴリーに分けた専門の読み手を養成しているんだと。その多くの人たちは大学の先生であるとか、あるいはハイテクの分野の技術者であるとか、そういう専門の知識を持った人たちがボランティアとして読んでくれることが必須なので、それでそういったところの近くにレコーディングスタジオを設けている。つまりちょっとでも時間が空いたらそこに来て読んでもらえるように、スタジオを、防音してある録音スタジオを、そういう人たちがいる近くに設けて、それで読み手を養成しているという努力が披露されたというふうに思います。

それでは日本と多分ちょっと似ていると思うのは、イギリスではないかなと思うんですね。製作にかなりボランティアの人たちが関わっているというふうに聞いております。リチャードさんに、イギリスではDAISY製作にボランティアの人はどういうふうに関わっているのか、またどのように養成しているのか、お話しいただきたいというふうに思います。

リチャード・オーム●

アメリカでは7,000人ということですよね。アメリカの人口がイギリスの人口と比べると10倍以上になると思いますから、私たちの目標とするボランティアの数は700人ということになります。録音図書それからコンテンツ、それからそれを使う人たちのことを考えますと、今私たちは300人ぐらいのボランティアがいます。どのような本を録音したらいいのかとか、どんな支援が必要かということを考えます。

加えてその人たちは家庭訪問をしてサポートをするということになっています。地元のコミュニティではレコーディングなどをする、あるいは音楽など、あるいは点字にするといったようなことで、200人ぐらいの人が支援をしてくれています。そして教育セクターの中でも同じようなことが行われています。

ちょっと私の答えでお役に立つことがあるかと思いますのは、やはりボランティアの方々の活動が一番よく活用できるように努力をしているわけです。いろんな分野で協力をしていただいています。例えばお金を集めるとか、家の中でコンピュータの使い方を教えるとか、そういうところでもボランティアの力を使っています。もちろんボランティアというのは無料ではありません。時間を提供して、あるいは自分の能力を提供してくれているわけで、やはりボランティアもサポートが必要です。イギリスでは法律的な要件もあります。ボランティアは犯罪者であってはならないというような要件があります。そこで例えばものを書き出すという点についてはチームがありまして、技術的な支援をこのボランティアに対して行っています。それからまたトレーニングコースも提供しております。その努力を、いろいろなトランスクリプション・センターで、イギリスの中でですけれども、共有することにしています。また大学などともそのトレーニングコースは共有しています。

もう1つ申し上げたいのは、ボランティアに関しては私たちの人材資源ベースの一部であるというふうに考えています。ですから例えばスタッフは会長から理事からニュースレターが届けられているわけですけれども、ボランティアの人たちもニュースレターを届けるようにしています。ボランティアの人たちもそのチームの一員だというふうに考えることができます。

私もボランティア活動をしています。週末でありますけれども、ボランティアをするということは、自分自身にとっても非常に生きがいを感じさせてくれるものですから、やはりボランティアを支援するということが重要だと思います。

河村●

ありがとうございます。ボランティアというのは、実際に製作する人はもちろんのこと、さらに様々な分野にボランティアがいて、例えば彼の組織でありますRNIBの会長、理事、みんなボランティアで、ご自身もボランティアであるというお話でした。

そういう意味で、いろんな意味で、ボランタリーな活動というのが確かに製作では大事だと思いますが、違ったモデルで製作している、そして大きな成功を収めるということも、もう1つあります。お1人ずつ、シェルさん、それとエドマーさん、マークさんに、それぞれスウェーデン、オランダ、フィンランドでは、誰がDAISYを製作しているのか、ボランティアなのかそれとも契約したり、あるいは雇用したりする、そういう収入を得て製作している人なのか。そこについてひと言ずつお答えいただきたいと思います。ではシェルさんからお願いします。

シェル・ハンソン●

スウェーデンでは我々はボランティアを使っていません。契約を結んで商業的スタジオに任せています。そこで人を雇って、DAISY図書を作ってもらっています。朗読もしてもらっているわけであります。だいたいはフルタイムであります。大学の分野では、なかなかそういう技能のあるナレーターを見つけるのが難しいです。先ほどジョージさんから話がありましたけれども、同じような問題がスウェーデンにもあります。現在私たちが外注している企業は、みんなストックホルム地域に集中しており、人の数も限られておりますけれども、大学の教材を朗読する十分な資格はあります。

それで、他の大学にも何とか広げたいというふうに思っているんですけれども、なかなかうまくはいきません。それから時には特別な地域があって、1人のナレーターがいて2冊3冊ぐらいの本を並行して朗読して、それを3人の異なった学生に届けるというようなこともしている場合があります。それはその企業がナレーターをどのようにトレーニングするのかということにかかってくるかと思いますけれども、我々のほうはガイドラインを提供しています。DAISYの場合はどういうふうにレコーディングをするのか。それからどのような要求が、この本のレコーディングには必要なのかというようなことを知らせるようにしています。

河村●

ありがとうございました。オランダではどうなっているでしょうか。

エドマー・シュット●

オランダの場合には、だいたい700人ぐらいのボランティアがいます。その半分ぐらいがプロダクションに関わっています。例えばリーディングとか、あるいは教材の朗読などをしているわけなんですけれども、しかしながらもっともっとプロを増やしたいというふうに思っております。これはオーディオでありますけれども、テキストの場合にはスタッフを使っています。ボランティアは使っていません。我々のスタッフでやっています。

河村●

それではフィンランドではどうでしょうか、マークさん、お願いします。

マーク・レイノ●

我々の状況はスウェーデンに似ています。我々はボランティアを使っていません。プロだけです。プロだけを使っています。我々には製作のデパートメントがあって、そこでDAISY図書を作っているわけなんですけれども、外のプロデューサーに契約をしたりしています。

河村●

少し次の結論に向けて議論を進めたいと思います。やはりDAISY教科書・教材を効率よく製作して、できるだけ早く、タイミングが間に合うように学生・生徒の手に届けるというふうに問題を設定した場合に、今何が一番ネックになっていて、そこのところをみんなで協力して解決していったらいいと思っているか。全然問題がないという国もあるのかもしれませんが、何かここがポイントではないかということについて、特に教科書ですね。教科書の供給をDAISYの形で促進するとすれば、ここがポイントだろうなということについて、ご意見をいただきたいというふうに思います。どなたか準備できた方から手を挙げていただければと思います。パネリストの方でどうでしょうか。ジョージさん、お願いします。

ジョージ・カーシャ●

非常に重要だと思う1つのコンセプトがあります。コンピュータサイエンスでは、幅を先に考えるのか、深さを考えるのか、質を考えるのか、あるいは量を考えるのかというようなことがよく言われます。先ほどエドマーさんのほうからデモンストレーションがありましたけれども、本当にすばらしい質の高いものだと思いました。しかしながらそれを作るには時間がかかりますよね。

一方で幅、つまりGoogleがやっているようなもの、とにかくスキャニングをずっと自動的にやって変換をしていくということですよね。時間をほとんど使わずに、それぞれの本の変換ができるというようなアプローチがあります。もちろんスキャニングのエラーもありますよね。それが直されない場合もありますよね。Googleのサーチでパブリック・ドメインの本を読んだことがありますが、間違いがありました。

我々にとっての課題の1つというのは、つまりバランスを取ることです。量と質のバランスを取ることであります。肉声のナレーションがあればすばらしいと思います。質の高いプロを雇えるのであれば、それはいいに決まっていますけれどもお金がかかります。ですからやはり障害のある人たちのニーズをよく考えて厳しい選択をしていかなければなりません。つまり質を取るのか、あるいは量を取るのかということです。初等教育においては重要なのは、最高の質の教材を最も小さな子どもたちに提供しなければいけないということなんです。しかし、高等教育の学生の場合には、合成音声でも、より簡単に対応することができると思いますし、それから良い教育を受けることもできると思います。TTSエンジンの合成音声のほうがより適切であるという判断もあります。

ですから、なかなか難しいんですけれども、どういうふうに私たちが、すべての情報をアクセスできるようにするかということで、はっきりしているのはテクノロジーを使わなければならない、ただ単に肉声にばかり頼ってはいけないということであります。つまりテクノロジーを使って大量の情報をアクセシブルにしていく必要があると思います。

河村●

それでは次にリチャードさん、お願いします。

リチャード・オーム●

ありがとうございます。ジョージさん、その通りだと思います。私もいくつか書いたことがあるんですけれども、もうすでに言ったこともあります。1つは資金の問題です。どこで資金を見つけてくるのかということ。それから技術の技能ということですよね。これは学習者それから教育スタッフが、それをどういうふうにサポートしていくのかということであります。それからDAISYにおいて何ができるのかというようなこと、こういうことを考えていかなければいけない。

イギリスでは、すべての教科書が、この利用可能なフォーマットになっているわけではありません。イギリスにおいては、少なくとも、先生方にとってはどの教科書が学習者に必要なのかということを聞いておくということが重要だと思います。後になってこちらのほうがいいんだというふうに分かっても意味がないわけでありますので、できるだけ早い段階で教師に、どういうようなものが適切なのかというようなことを聞いておくということが重要だ思います。そうすると我々にとってよりよい解決策を講じることができるのではないかと思います。

河村●

ありがとうございます。エドマーさんいかがですか。

エドマー・シュット●

もっと出版業者と話し合う必要があると思います。製作のプロセスなんですけれども、すでに印刷されて出版されているものをアクセスできるような形態にしたいということになると、ちょっと遅いと思うんですよね。ですからやはり、アクセシビリティを製作のプロセスの中にあらかじめ組み入れる必要があると思います。そうするとプロセスの結局最後のところで利点が出てくると思うんですよね。つまり自動的にアクセス可能なフォーマットに変換できるというようなことができると思います。今のところ出版社は、それほど興味を持っていないようなんですけれども、しかしながら、ディスレクシアの人たちが非常多いということになりますと、多分関心を持ってくれるのではないかなというふうに思います。

ヨーロッパそしてオランダにおいては、このDAISYに対する関心が、出版社の間で高まってきていると思います。そしてとにかく、もっときちんとアクセシビリティの大切さを彼らに認識してもらうということが必要ではないかと思います。つまりアクセス可能なものを作っていくということがすべての人にとって恩恵があるということを認識させることが必要だと思います。

河村●

ジョージさん、どうぞ。

ジョージ・カーシャ●

テクノロジー会社との間のパートナーシップが必要ですよね。私たちは出版社との協力について話をしていますけれども、出版社には、アクセシブルなDAISYコンテンツを製作するツールを持つ必要があります。ですから我々としてはやはり彼らが使っているオーサリングツールに注目しています。マイクロソフトとの関係を構築し、マイクロソフトのWordに「Save as DAISY」というDAISYで保存できる機能がつきました。製作者は、どういうふうに書くのかということを学ばなければなりません。ドキュメントをDAISY XMLに変換するために正しいスタイルの使用法なども勉強しなければなりません。フルテキスト、フルオーディオのDAISYブックにする方法を学ばなければなりません。ツールは、だれでも利用できるようになっています。Open OfficeにはDAISY XMLにするユーティリティがあります。それで出版社はDAISY図書を製作するための良いツールを持っていなければなりません。非常に簡単に、アクセシブルなコンテンツが出版できるようする必要があると思います。そういう意味でオーサリングツールとオーサーとアクセシブルなコンテンツ製作がきちんと確立されているということが大事なんです。我々は「Save as DAISY」を推進してきました。これをすべてのオーサリングツールの中に入れるようにというようなことを進めてきました。これからさらに進展していただければいいなというふうに思っています。もっと情報をアクセシブルにするにはテクニックが必要であるということです。

河村●

シェルさん、どうぞ。

シェル・ハンソン●

肉声のナレーションのコストというのは将来問題になってくると思います。それからまた届けるタイミングですね。学生にタイムリーに提供するということも問題になってくると思います。合成音声、これは1つの解決策でありましょうね。コストも安くすみますし、また早く届けることができます。

著作権の問題は今も大きな問題だと思います。DAISYは2本の足があると思います。1つはきちんとしたDAISY規格でしっかりと立っています。もう1つの足はやはり著作権のほうであります。こちらの足はまだ地面をしっかり踏みしめていません。ですから例えば同じようなタイトルを、いろんな国々でそれぞれにレコーディングをしているようなことがあるわけですので、そのお金を、もうちょっと効率的に将来使うようにしなければいけないんじゃないかなと思います。そしてまたアクセシブルメディアの範囲を拡大して、すべての障害のある人たちがカバーできるようにしなければいけないと思います。

河村●

今の点について、これから教科書の製作を促進するのに、ここらへんがポイントじゃないかなというご意見がありましたら、ぜひいただきたいんですが。マークさんいかがですか?

マーク・レイノ●

いわゆるグローバル図書館、そして図書館の間で貸し合うということ、これはとても重要なことだと思いますし、これによって教科書の問題は、特に大学レベルにおいてはかなり解消できるのではないかと思います。私たちはその点を今努力しております。

河村●

ありがとうございました。それでは神山先生、今一連の、ここがポイントじゃないかという意見を伺いたいと思います。

神山●

はい。出版社との対話というのは大きなポイントだと思いました。教科書バリアフリー法案が通って、日本でも4月から提供していける体制にはなりましたが、日本だとNPO、ボランティア団体が一生懸命作っているんだけど、出版社とのつながりが、まだまだ問題点があるので、日本でこれから進めていくポイントとしては、出版社と製作者側とのコネクションと言うかつながりが大事だと思います。

それプラス、製作者と必要とする子どもたちとのつながりというのも大事かなと思います。まだ、支援者、当事者、必要としている子どもたちも、このようなものがあるんだということが知られてない現状があり、そのへんも鍵になってくるかなと思いました。

河村●

ありがとうございます。今日、実は会場には内外からたくさんのDAISYの製作に関わっておられる方、それから教育関係の専門家、そしてこれからDAISYに関して技術開発を進めようとする方、そしてアメリカの高等教育の、大学において障害のある学生を支援する専門家の集まりでありますAHEAD(アヘッド)のメンバーの方、いろいろおられます。

これから会場にマイクを持ってまいりますので、お1人3分ぐらいで、こういうふうにすることが大事なんじゃないかなというご意見、ぜひいただきたいと思いますので、ぜひ積極的に手を挙げてください。いかがでしょうか。インドからいらしているディペンドラ・マノーチャさん。

ディペンドラ・マノーチャ(会場)●

ディペンドラ・マノーチャと申します。インドから参りました。DAISYコンソーシアムの仕事をしております。この機会をありがとうございます。

1つ、ハンソンさんが今言われた点についてお話したいと思います。つまり海外と著作権法の制限があるがために、なかなか本のやりとりができないということでありますけれども、ぜひDAISYの皆さま方に一歩踏み出していただきたいと思います。コンテンツ、少なくとも著作権のないものをやりとりするということをやっていただきたいと思います。現在のデータベースの構造は、こういった情報、例えばこういった図書は著作権が切れている・切れていないという情報が入っておりません。したがって我々としては、例えば本のやりとりをしたいと思っても、特に著作権が切れているものに関してもやりとりができません。リクエストは出せません。著作権のあるものは、私たちDAISY図書においてはあまりありません。ですから我々としてはまずそこからスタートすべきではないかと思います。そのような連携を通じて、それをきっかけに、少なくとも著作権のないものをハイライトして、リストを作って、交流プログラムに基づいて、他の図書館とやりとりするということができるのではないでしょうか。そして交流を可能にするための情報が欲しいと思います。

「マーク」によって、何について著作権が切れているのか知ることができます。交換プロセスを考えていただければと思います。

河村●

ありがとうございました。今、「マーク」って出てきたのは目録のデータのことですね。目録データについては著作権は適用されないので、少なくとも何がDAISYで読めるようになっているのかという目録の交換は世界中で、これは全然著作権の問題なくできるだろうと。それからさらに、既に著作権が切れたものとかは今からでも国際交換で問題ないでしょうと。そういったものを手がかりにして、とにかく国際的に1つ作ったものが、みんなで共有できるようにしようという提言だったと思います。とても大事な点ですね。

それで、ワールド・ブラインド・ユニオンは、そのことを国際条約、著作権の国際条約の中に盛り込むべく条約の改正案を提案しているわけですね。ここにぜひ期待をかけていきたいというふうにDAISYコンソーシアムでも考えております。

それでは他のご意見、いかがですか。一番後ろの方、自己紹介からお願いいたします。

会場●

学校図書館と教育工学の分野で研究をしております。先ほどの皆さん、各国のすばらしい事情を知ることができて、今日はとても貴重な機会をありがとうございました。神山先生のお話の中にもあったんですけれども、やはり日本の状況を考えると、日本の場合には学習の困難にどのくらいDAISYが役に立つかということの基本的な情報が、やはりあまり知られていない。私自身も、まだこういうDAISYの会議に出て2回目なんですけれども、教育関係者とか図書館関係者の中でも知っている人が非常に少ないと思うんですね。もし諸外国で、ボランティアとかあるいは組織化をしていく前の段階で、いわばDAISYコミュニケーターみたいな形で啓発というか広報をするような人を養成するというようなことはされているのかどうか。もしそういう事例があればお聞きしたいと思います。

ちょっと補足的に言いますと、日本では2010年に国民読書年というのを今企画しているようなんですけれども、そういうところに向けて何か組織的なキャンペーンをしていくということも1つのアプローチではないかなというふうに思っています。よろしくお願いいたします。

河村●

ありがとうございました。もう少し会場の方からご意見をいただいて、最後にまとめのひと言ずつをパネリストからいただたいと思います。それではモンティエンさん、どうぞ。

モンティエン・ブンタン(会場)●

ありがとうございます。いくつかの点があります。まず、DAISY図書の数を増やさなくてはいけないと思います。特に公的な情報がもっとDAISY化されるべきでしょう。世の中にはいろいろな情報があります。そして人間の生存、安全保障、また生命に関わるような情報もあると思いますので、そのような情報は誰しも関心があることだと思います。したがって、こういったものをまず手がけることによって、一般の人々に対し、DAISYはすべての人たちにとっていいものであることを伝えることができるでしょう。そしてさらにそれを受けて、出版社もこのように人のためになる形で本を出版しようというふうになり、その中でDAISYは中心的な役割を果たすんだという認識を持つようになると思います。

2つ目ですけれども、すべての人たちのためのDAISY、万人のためのDAISYという、理念に基づくことです。政府が政策を立案します。彼らが教科書の製作もコントロールしています。少なくとも基礎教育においてはそうです。私の国においてはアメリカとは違って著作権法の改正案は可決されておりません。したがって私たちは政府に対し、この種の教科書を、幼稚園から中学3年生までDAISYフォーマットですべての本に対し作れるようにという許可を得ております。これはあくまでも政府が作っている教科書です。それを受けてDAISYの教科書をすべての学校、全国に配布することが可能になっています。こういったことを通じて、DAISYというのはある特定のグループだけのためのものではないということが証明できると思います。これは特に途上国が参考になると思います。私たちは政府からそのような助成金は得られませんけれども、こういった許可を得るだけでも、そして一般の人たちに対し、特に教育者に対し、こういったアプローチがあるのだということを伝えることができれば、おそらく最終的には、シュットさんがおっしゃったような、同じような状況が生まれると思います。

ですからいちいち印刷された本をDAISY化するだけではなく、むしろその本の製作の最初の段階からDAISYを組み込むことが可能になると思いますし、そういった意味ではDAISYは、私たちのコミュニティからすべての人たちへのすばらしい贈り物になるのではないでしょうか。

河村●

ありがとうございました。特に日本だけではなくて、いくつかの他の国でも同じだと思うんですけれども、日本の最近の事例では、私が直接関わっているだけでも、大変勉強しておられる学校の先生が、2人、ディスレクシアではないかと思われる小学生のためにDAISYの再生のためにPCとテキストもボランティアグループから入手して、その2人の生徒に渡そうとして校長先生に許可を求めたところ、そんなものを使うことに責任が持てないと言って却下されてしまったという事例があります。この近所の市のことですけれども。一歩前進している一方で、大変残念な状況がまだまだたくさんある。そういうふうな状況をふまえて、じゃあもう一歩、どういうふうに前へ進んだらいいかというところで、みんな大変な苦労をそれぞれされていると思いますが。いかがでしょうか。もう少し会場の方から、こういうことをやってみたらどうか、あるいはこういうことをやるべきだというふうなご意見、いただけないでしょうか。はい、後ろの方、どうぞ。

会場●

若者の理科離れということが言われておりますけど、私は子どもや若い女性にこそ理科、科学に興味を持ってもらいたいと思いまして紙芝居を使っておりました。たまたまDAISYで試験的に作ってみましたら、とても評判がいいのです。ですから、そういった意味でもDAISYで幼少の頃から、小さいところから科学に興味を持つような格好で育てていくのはとてもすばらしい手段だと思いました。

河村●

ありがとうございました。一般の科学教育の教材としてもすばらしい可能性があるというご意見をいただきました。こちらに出版社の方、それから実際にDAISYを使っておられるお子さんの家族の方、あるいはDAISYを製作しておられる方、たくさんおられると思うんですけれども、そういった方からのご意見をもう少しいただけないでしょうか。どうでしょう。

会場●

私は教科書の会社で働いている者で、最近は拡大教科書の製作をする担当をしておることと、もう1つデジタル教科書というのを作るのに関わっておりまして、そのデジタル教科書の部分での勉強に今日来ました。

今、一般の学校向けのデジタル教科書は、健常者の子どもが使うための、いろんなことを作り込んだようなものが作られていますけれども、遠からず、全ての教科書について電子教科書がないと教科書を販売していく上で競争にならないという時代がやってくると考えています。その中にユニバーサルデザイン的な観点がないと、せっかく作っても使えない子がいるということになってしまうので、できればDAISYの良さを取り込んだものか、それともDAISYのエンジンを使ってもっと何か別のものを加えたようになるか分かりませんけれども、そんなものを作るのかなと、漠然と個人的にはイメージしていまして。

大変興味があるのは、DAISYのXMLというのがあるというのを、ちょっと不勉強で初めて知ったんですが。さっきどなたかが、元のデータを作るときの作りかたをちゃんとすれば、ワンソース、マルチユースとして使えるということをおっしゃったと思うのですが、私もまさにそこだと思っていまして、紙の教科書を作るときに、きちっとデザインしておけば、どこに持っていくのにも、ほぼ、なかば自動で持っていけるようなところがあって、図版の色の調整なんかはしなくちゃいけないかもしれませんが、それもいろいろ配慮しておくことによって、それほど手がかからなくできるかもしれないと思っていますので、ぜひ会社の上のほうの人たちの合意を得ながら、うまく何か試作ができたり調査ができたりするととても面白いとは思っていますが。まだ、会社の合意があるわけではありません。

河村●

どうもありがとうございました。突然指名して申し訳ありませんが大変貴重なご意見をいただけました。他にいかがですか。はい、どうぞ。

会場●

教科書をDAISY化する上で、教科書の構造が複雑すぎるのでDAISY化しにくいところがあるので、シンプルに、見た目派手じゃなくていいのでシンプルに作っていただいたらありがたいかなと思っています。DAISY化を含めて、あまりに複雑な構造していると、生徒さん、児童さんにも使いにくいんじゃないかなと思っております。

河村●

ありがとうございました。それではこれからまとめに入らせていただきます。それぞれパネリストの方に、まとめのご意見・コメントをいただきたいと思います。だいたい1人1分ですね。ジョージさんから順にお願いいたします。

ジョージ・カーシャ●

大変興味深いコメント、それからご質問をいただきました。トップダウンのアプローチ、それからボトムアップのアプローチをとってきたと思います。DAISYコンソーシアムでは国連世界情報社会サミット(WSIS)にも参加をいたしましたし、DAISYそれからW3Cウェブ・アクセシビリティ・イニシアティブの会議でもこういうことを言ってきました。障害者に関する文言がWSIS文書に盛り込まれるよう河村さんが素晴らしい貢献をしてくださいました。障害者の権利条約が採択されるようにという点でも私たちは努力をしてきたわけであります。著作権と私たちの人権というものはバッティングするところがあるかもしれませんけれども、いずれも解決しなければならないと思います。すべての人が理解できるように政府の文書というのは、例えばDAISYフォーマットにしなければならないと思います。

それからボトムアップのアプローチも重要です。こういったことを先生方のため、あるいは学生たちのために伝えていく、それによってエンドユーザーがDAISYが欲しいという要求を出すようになるように。DAISYの技術を使うということによって読書が非常にやりやすくなる。とてもパワフルで効果があります。ですから、視覚障害者やディスレクシアの人たちが、こういうものを要求するというボトムアップのアプローチ、それから政府のほうからも働きかけをしていくトップダウンのアプローチ、将来それらが真ん中で折り合いがついて、すべての情報がアクセシブルになるということが重要です。

河村●

シェルさん、お願いします。

シェル・ハンソン●

大変興味深いセミナーに参加をさせていただきました。いろいろな国の方々に、しかも同じ分野で活動していらっしゃる方々にお会いするというのは、とても興味深いものです。いろんな問題があるし、いろいろな可能性もある中で、私たちの国でも同じなんですけれども、今回皆さんにお会いして、こうしたセミナーに参加をすることができましたこと、とても興味深かったです。日本にも問題があるということが分かりました。DAISYフォーマットで情報を入手可能なものにするということは、なかなか難しいことがわかりました。同じような問題が、10年ぐらい前に私たちの国でもありまして、DAISYキャンペーンを行いました。情報を普及させて、いろいろな組織、いろいろな個人がDAISYに関心を持ってくれるようにという活動をいたしました。DAISYの将来性が高いと認識したからです。

その運動は実はとても成功を収めました。私たちにとって、その後の活動がとてもしやすくなったということがありました。それからまた私たちは、ナショナルDAISYコンソーシアムという国内のコンソーシアムを作ることにいたしました。図書館それから今では大学の図書館もメンバーになってくれています。スウェーデンDAISYコンソーシアムのメンバーになってくれているわけです。ですからコミュニケーションがやりやすくなりました。それからDAISYの製作に使うソフトウェアなども提供し、トレーニングもしています。情報に関するキャンペーンは重要だと思います。まだまだいろいろやらなければならない大切なことがたくさんあると思います。世界の情報バリアを崩していく必要があります。

河村●

それではリチャードさん、お願いします。

リチャード・オーム●

私はロンドンから飛行機で日本にまいりました。12時間の長いフライトでしたけれども、飛行機がどうやって機能するのか、エンジンがどうやって機能するのかというような複雑なことが分からなくても、日本に来ることができたわけです。ちゃんと食事ができて、そして飛行機の中で映画が見られると。飛行機に乗ってくれば日本に来ることができたわけであります。そのサービスが使えるということが分かればいいわけですね。

DAISYのシステムも同じことだと思います。素晴らしい、本当に高度な技術です。いろいろな事ができますし、将来的にはビデオなども提供することができるようになるでしょう。しかし、ユーザー、すなわちクラスにいる子どもたちにとっては、DAISYは読むことを助けてくれる、そして仲間と同じように本を読むことができるようになるということだけなのです。イギリスで調査をしました。教室でDAISYを使ってみました。教材にアクセスすることができるテクノロジーはとても素晴らしいものだということを紹介しました。自分でもDAISYの教材を作ることができる、ですから決して複雑な技術じゃないんです。これは子どもたちにとっては技術ではなくて学習そのものなんですね。

一番最初はやはりしっかりとした基準があって、例えば飛行機についても、どうやって飛行機が作られているのかという、きちんとしたスタンダードがなくて、パイロットがきちんとトレーニングを受けていないということになれば、とても怖くて飛行機には乗れないと思います。DAISYについても同じことが言えるでしょう。DAISY独自の規格だけではなく、ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアムに承認されていること、そして、より良いコンテンツが製作されるための競争が行われるということが重要だと思います。

河村●

ありがとうございました。エドマーさん、どうぞ。

エドマー・シュット●

5年前DAISYの本を作るようになったわけですけれども、非常に大きな、アナログからデジタルへの移行がありました。2003年12月31日、カセッテテープからCDでの配布に移行しました。それから5年たったわけでありますけれども、その間にいろんなことが分かってきました。DAISYのXMLを提供するようになりましたけれども、今テキストとオーディオを使っているわけですね。DAISYの製作と開発ということが始まったときから見ると、随分進んできたと思います。時間はかかります。DAISYについていろいろ議論が出てきます。例えば5年前には誰もDAISYなんていうことを知っている人はいませんでした。でもスーパーマーケットに行くと、今ではスーパーマーケットに来ている人もDAISYについて話をしているということがあるくらいなんですね。

出版社の方々にはぜひアクセシビリティの重要性を認識し、興味深い本を作ってほしいと思います。出版社も学校で誰もが関心を持つ、アクセシブルな本を製作したいと言っています。これは視覚障害のある人だけのものではありません。障害をもっている人たちだけのものではなく、すべての人が使えるものだと思います。出版社も今、そういうことを認識しはじめているのではないかと思い、とても嬉しく思います。

河村●

ありがとうございました。マークさん、お願いします。

マーク・レイノ●

1つだけ付け加えさせていただきたいと思います。私たちの図書館でDAISYブックが使われるようになりましたのは2003年、最初は教科書でした。小さな図書館ですから、最初は私たちの本は非常にハイテクだったとは言えないと思います。あるいはとてもすばらしいというものではなかったかもしれませんけど、とにかくやりました。いろいろと試しながら学習をしていったわけです。DAISYコンソーシアムは非常にすばらしい仕様と、それからインストラクションを提供してくれています。

河村●

それでは神山先生、お願いします。

神山●

はい。今日、いろいろお話聞かせていただいて、再確認と言うか実感したのは、こういう技術というのは、障害があるからじゃなくて、誰もが知ると豊かな人生につながるのかなということを実感しました。学びやすさにもつながりますし、友達の見方なんかも違ってくるような気もしますし。誰もがこの先迎える老いによって視力が低下するとか、聴力が低下するとか、そういうものも悲観的じゃなく、楽しく老いも迎えられる、そういうところにつながっていくのかな、何かその可能性を秘めているDAISYの教科書化、そんな隠しキーワードみたいなものがあったのかななんて感じを受けて、今日は参加させていただきました。ありがとうございます。

河村●

ありがとうございました。パネリストの皆さん、会場の皆さん。私のほうからは、もうこれ以上付け加えて申し上げることはありません。今日はこのパネルセッションは、教科書をもっとどういうふうに手に入れようかというテーマで、それをどう促進するかというテーマで話し合いました。これに関連して、明日、明後日と、実はそれを補完するような国際会議がこの同じ会場であります。それの中で、さらにもっと地域で広がっていく、あるいは国際的に様々なDAISYユーザーに広げていくということについて、お話がされる予定です。特にアメリカの事例、モンタナ州、ミズーラという地域で、具体的に大学や地域でどういうふうに、このDAISYを具体的に活用し得るのかというふうなお話もございます。そして、いくつかの国ではどうしているのかということも、また教科書の周辺の状況も含めた話がございます。

本日は教科書をどういうふうにするかということ、及びその周辺ということに議論を集中したわけですけれども、さらに最後の神山先生の結論にありましたように、単に障害のある人だけではない、あるいは教科書だけではない、今、小学生・中学生は、いずれは成人になり、社会人になって仕事を持ち、自立していく、そういった生涯を地域で支え、さらにグローバルな視点を持って連携をしていくということが、今日いくつか出た課題の解決につながっていくという印象を持ちました。ありがとうございました。