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DAISY教科書の使用事例―スウェーデン・トレクヴィスタ校

報告:情報センター 野村美佐子

2010年1月11日にスットクホルム中央駅から約1時間、地下鉄とバスを乗り継いでエケロー(Ekerö)にあるトレクヴィスタ校を訪問した。

学校の写真

途中、雪に覆われた美しいドロットニングホルム宮殿をバスの中から見ることができた。ここの学校図書館は2007年にTPB(スウェーデン国立録音点字図書館)の「みんなの図書館」という刊行物の中でDAISYを利用していることで紹介をされていた。(1)

そのため、一度この学校を訪問してみたいと思っていたが、TPBのアレンジで学校図書館司書のリンダ スポレーンさんを紹介してもらい、今回実現することができた。以下彼女からの聞き取り調査をまとめてみる。

リンダ・スポレーンさんの写真

トレクヴィスタ校は、幼稚園児から9年生までの公立校である。スウェーデンの教育システムは7歳から16歳が義務教育で小学校が1年から3年、中等校が4年から6年、中学校が7年から9年になる。20学級あり生徒数は450人で、教職員は50人である。

DAISY使用については、2003年から2004年にかけて始まるという早い導入があった。またスウェーデンの著作権が改正する2005年までは、日本の図書館流通センターにあたるBTJから50冊ほどのDAISY図書を買っていたそうだ。現在は、TPBにあるDAISY図書は、学校図書館は公共図書館と同じレベルの権利があるとみなされているので無料でダウンロードができる。しかしDAISY教科書については、大学生は無料でTPBより提供されるが、小学校から高校のレベルの児童・生徒に対しては、学校が買う必要がある。

DAISY教科書を、現在使用しているのは50人だそうだ。ここの学校の1クラスは30人ほどで、そのうちの2人から3人はディスレクシアなど読みに困難な児童が見つかるという。DAISY教科書を必要とするかどうかは、教育の専門家(special teacher)により、小学校1年になる7歳児に対して行なうスクリーニングで判断される。このスクリーニングによりディスレクシアやADHDの児童が見つかるという。専門家は幼稚園から5年生は2人、6年から9年までが2人が学校にいる。対象の児童に対してDAISYの教科書を与えるのは司書の役目となっている。司書であるリンダさんは、パソコンが得意であったためDAISYの導入についてはスムーズにいったと話していた。校長先生とお話をしたが、この学校はスウェーデンでDAISY教科書を使用するモデル校として知られているそうで、「DAISY教科書が読みに困難な子にとても役に立っております。」と笑顔で語ってくれた。

DAISY教科書の製作は「inlasningstjanst」社が行なっている。昨年までは1冊につき1,000スウェデーンクローネを支払わなければならずとても高いと感じていた。しかし今年の月からライセンス制のシステムとなった。エケローのコミュニティに認定してもらい、それぞれの学校でDAISY教科書を必要とする人数分のライセンス料だけを支払うことができるようになったのである。ちなみに、料金は1人につき50スウェデンクローネである。DAISY教科書が学校図書館にすでにある場合は複製をして渡し、まだないものについて希望を出せば業者がすぐに取りかかってくれるとのことである。

「inlasningstjanst」社のホームページにアクセスをすると「ディスレクシアは学校で多く見られる機能障害である。この障害は正しい支援を行えば、幅広い知識と自信を得て、より良い条件で学校を後にすることができる。」と始まる、読むことに困難な児童・生徒に対する教師用ガイドを読むことができる。(2)

DAISY教科書は今のところ音声のみで、フルテキスト、フルオーディオは2~3冊しかない。日本で利用しているマルチメディアDAISY教科書を見せたところ、製作がスウェーデンでも行なわれることを期待したいと述べた。再生プレイヤーに関しては、ハードウェアとしてMP3プレイヤーを30個、ビクターリーダーを20台学校が備えており、ソフトウェアはTPBとAMISを使用している。MP3は小さくて持ち運びが良いので一番多く使用されているとのことだ。

MP3プレイヤーの写真

現在、スピードを遅くする機能を持つ新しいバージョン(AMIS 3.1)がでたことを教えると喜んでいた。通常学級にDAISY教科書をMP3プレイヤーなどに入れて持ち込み、ヘッドフォンを使用して通常の教科書を見ながら利用しているとのことだ。担当の先生はなるべくそういう子に音読は当てないようにしているそうだ。また授業の際、該当する子がたとえば右で先生の話を聞き、左でDAISY図書を聞くという状況にならないような配慮をしているとのことだ。

教師用ガイドにはクラスでDAISY録音図書を利用する際の次のようなヒントが掲載されていた。

  • 録音された教材をクラスに紹介する時には、障害を持つ生徒のみを対象にせずに全員に紹介した方が良い。
  • 聴く、読む、資料に下線を引く、資料中の言葉を発音してみる等の複数の感覚を同時に使うことによる学習効果を話す。
  • 文字を見ながら流れてくる音声を聴いても、文字を追わずに音声だけを聴いていてもどちらでも良いことを生徒に話す。読書の苦手な生徒は、音声を聴くだけの方を好むことが多いためである。
  • 生徒達が聴く、各章の内容について話す。質問をし、生徒達の考えや思想が言葉として出てくるように促す。
  • 難しい言葉や概念に注目させ、具体的な例を挙げる。
  • 何度か繰り返し、もし音声が言っている内容を生徒が書きとめようとするならば、ノートを取る方法を教える。
  • 生徒に合うような長さの章を、同じ感覚の休止を取りながら聴く。内容について話し合い、もし生徒にとって曖昧な言葉がある場合には明確に説明する。

実際に通常の教科書とDAISY教科書を見せていただいたが、数学などすべての科目についてDAISY教科書があるという。数学の場合は、テキストと画像が付いているとのことである。こうした教科書を利用することでディスレクシアの児童など読むことに対する負担が軽減し、読むことに抵抗感がなくなったとリンダさんは述べた。そして、自尊心が傷つかなくてすむと喜んでいた。

宗教の本の写真

宗教の本をDAISY化したCD-ROMの写真

DAISYをパソコンで再生している写真

最後に図書館を見せていただいたが、図書がわかりやすく配置され居心地が良さそうな明るい部屋であった。この図書館では、年間23,000冊が貸し出され、ひとりにつき50冊を読むことになるそうだ。そしてそれらの図書にはDAISY化されたCD-ROMがある場合には、星のマークがつけられ、希望するものには本とセットでDAISY図書の貸し出しを行なっているとのことだ。マークが付いている図書のほとんどがTPBで製作されたものである。

星のマーク付きの図書の写真

その図書の後ろに付いているDAISYのCD-ROMの写真

また先に述べた教師用ガイドでは、DAISYの録音図書により、得られる利点について次のような記述があった。

「明らかな利点は利用する生徒が、自分のクラスメートと同じレベルの知識を得られることである。そのためには録音された教材は、読みに困難のある生徒にとっての補助具ではなく知識を得るための選択肢と見なすことが大事である。」

日本でも学ぶための選択肢としてDAISY教科書が多くの学校で使用され、読むことに困難な子に届くことを期待したいと思う。

参照

(1)
原文:Maria Kimberg. DAISY överallt på Träkvista. Bibliotek för alla. 2007-Nr 1. TPB, 2007, p.4-p.5,
http://www.tpb.se/filer/trycksaker/pdf/BFA_nr1_2007.pdf (accessed 2010-03-04)

日本語訳:トレクヴィスタ校(スウェーデン)のDAISY
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/daisy/0701_mk_bfa_tpb/index.html (accessed 2010-03-04)

(2)
原文:Lärarhandledning
http://www.inlasningstjanst.se/ladda_hem/pdf/0746_katalog_nr14_w_lag.pdf (accessed 2010-03-04)

日本語抄訳(概略):教師用ガイド

1.導入

読み書き困難/ディスレクシアは学校では多く見られる機能障害である。この障害は正しい支援を行えば、幅広い知識と自信を得て、より良い条件で学校を後にすることができる。 この教師用ガイドは読み書き困難の学生を補佐する教師達対象であり、録音図書に関する質問を説明している。

2.デイジー、CD、テープの教材とは何か

これは教科書がデイジー、CD、カセットテープに録音されているバージョンである。 吹き込まれている文章は、印刷版の教科書とまったく同じであり、普通に音読されている速度で録音されている。

これらの録音は学習資料の選択肢の一つと考えられており、読書訓練用の録音資料ではない。

3.録音図書と音声図書の違いは何か

この2つの図書の違いは著作権の観点から見た法的な取り扱いと、法的に許可されている利用者である。

録音図書

録音図書は政府の許可を得た者のみが作成し、コピーすることができる。作成にあたり作者または出版社との契約は必要としない。また作家協会と交わした契約により、どのような機能障害者が利用対象なのかが決められている。

音声図書

音声図書の作成には著作権保持者の許可が必要であり、印税が発生する。録音サービス社は教科書録音に関しては各出版社と契約を結んでいる。音声図書は障害のあるなしに拘わらず誰でも買ったり借りたりできる。ただしコピーをすることはできない。

4.録音されている教材がない場合はどうすればよいのか

そのような場合は録音サービス社に連絡を取る。録音をする際の図書の決定は各出版社の推薦と共に、各学校から寄せられる要望によるからである。

図書館または学校図書館の委託により、録音サービス社がそれぞれの学校の為に録音図書を作成することもできる。また生徒が担当の教師と相談した上で同じような内容の別の録音図書を使うこともある。

5.すでに録音されている図書が、正しい版かどうかどのように知ることができるか

録音サービス社の予約ナンバーは印刷版のISBNに対応している。これにより録音されている図書が学校で使用する図書と対応しているかどうか簡単に調べることができる。

6.テープ、CD、デイジー版の中から、求める教材をどうやって見つけ出すことができるのか

どのテープにもA面とB面に吹き込まれている内容が記述してある。また各カセットには早送り巻き戻しの際にすぐに希望の箇所を探し出せるように、検索用の信号が吹き込まれている。

CDにはどのページが収められているかが提示されている。各インデックス(番号)毎に新たなページが始まるようになっている。デイジーでは章、見出し、ページ等様々な方法で中を検索することができ、ブックマークを入れることもできる。 多くのテープには検索に用いるカウンターが付いている。

7.どのような生徒が録音されている教材を利用することができるのか

録音図書版は印刷版の図書を読むことに何か問題を持っている生徒達が対象である。特定の読み書き困難を持つ生徒の他、移民の生徒達や一時的な読み書き困難の生徒達もそれに含まれる。

音声図書に限っては録音教材は、全生徒が学習上の選択肢として利用することができる。 多くの生徒達にとって、学習時に複数の感覚を用いることが良い効果をもたらす。しかし録音教材の取り扱いに関しては、各生徒の前提条件が異なることは踏まえておかなければならない。

8.録音された教材を授業にはどのように取り入れたらよいか

以下に挙げたのは授業で教材の録音図書テープを利用する為の幾つかのヒントである。

  • 録音された教材をクラスに紹介する時には、障害を持つ生徒のみを対象にせずに全員に紹介した方が良い。
  • 聴く、読む、資料に下線を引く、資料中の言葉を発音してみる等の複数の感覚を同時に使うことによる学習効果を話す。
  • 文字を見ながら流れてくる音声を聴いても、文字を追わずに音声だけを聴いていてもどちらでも良いことを生徒に話す。読書の苦手な生徒は、音声を聴くだけの方を好むことが多い為である。
  • 生徒達が聴く、各章の内容について話す。質問をし生徒達の考えや思想が言葉として出てくるように促す。
  • 難しい言葉や概念に注目させ、具体的な例を挙げる。
  • 何度か繰り返し、もし音声が言っている内容を生徒が書きとめようとするならば、 ノートを取る方法を教える。
  • 生徒に合うような長さの章を、同じ感覚の休止を取りながら聴く。内容について話し合い、もし生徒にとって曖昧な言葉がある場合には明確に説明する。

9.録音された教材を利用するように、生徒達を惹きつけるにはどうしたらよいか

一つの方法は前の項目でも述べたように、クラス全体に紹介することである。またクラス全体で図書の各部分を聴くようにするのも効果があるだろう。またグループ活動で使ってみるのも良い。

クラスの中に技術コーナーという場所を作り、コンピューター、カセットプレイヤー、CD及びデイジープレイヤー、それにヘッドフォン等を置いておいて、そこに録音された教材を置いておくのも良い。

10.録音された教材の利用によりどのような良い効果が得られるか

明らかな利点は利用する生徒が、自分のクラスメートと同じレベルの知識を得られることである。その為には録音された教材は、読みに困難のある生徒にとっての補助具ではなく知識を得るための選択肢と見なすことが大事である。

その他に得られる効果

  • 読みに困難のある生徒が学校嫌いになる可能性を低くする。
  • 読みに困難のある生徒が、自分の問題に真正面からぶつからないで済むため、自己を否定的に見る危険性が低くなる。
  • 文章が読み上げられるので、生徒の読み書きの能力を発達させることができる。

11.ディスレクシアとは何か

明白な読み書き困難、またはディスレクシアと呼ばれる症状の原因に関する研究の結果は色々あるが、全ての人々が賛同できる理論はまだ存在しない。それに対して誰もが賛同しているのは、ディスレクシアの人々が言語機能に困難があるということである。たとえば幾つかの個々の音韻を聞き分けること、音声において相互に影響する複数の音韻の順序を正しく理解すること、話している言語の文字や各音韻などによる構造を理解すること等に困難がある。

12.読み書き困難はどの程度の割合で発生するのか

スウェーデン人の中では、約50万人が程度の差はあれ文書の読み書きに困難がある。これらの人々が全てディスレクシアと診断されているわけではなく、その他の理由によるものもある。また5,000~10,000人程度の生徒が、十分に読み書きができるようにならないまま学校を卒業する。

13.もしある生徒にそのような兆候があると思われた場合、どこに相談するべきか

FMLS(読み書き障害協会)またはスクリーブクニューテンに連絡を取るべきである。 この2つの団体は読み書きに困難がある人々に関する問題を取り扱い、相談を受け付け、アドバイスをしている。

14.読み書き困難/ディスレクシアという分野について知識を深めたい人々への推薦図書

ディスレクシア問題及び様々な読み書き訓練に関する図書は比較的多い。以下に挙げた図書はそれらのうちの一部である。

より多くの図書を挙げてあるリストはFMLSに連絡を取ると入手できる。

Vad alla lärare och rektorer bör veta om läs- och skrivsvårigheter
av Torbjörn Lundgren och Karin Ohlis. Kan rekvireras fran FMLS, Stockholm.

Dyslexi. En introduktion.
av Ester Stadler, Studentlitteratur 1994

Det skrivna ordets tystnad (skönlitteratur)
av Torbjorn Lundgren 1993. Finns utgiven som “En bok för alla”.

Dyslexi
av Torleiv Hoien och Ingvar Lundberg, Natur och Kultur 1992

Läkande läsning och skrivning
av Sigrid M99adison, Tiden/Fksam 1992