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報告:DAISYヘルシンキ会議2011

野村美佐子
公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会情報センター

 2011年5月6日にフィンランドのヘルシンキでDAISYコンソーシアムの理事会と総会に合わせて「DAISY Today Conference」と称する技術会議がフィンランドDAISYコンソーシアムの主催で開催された。この会議は、デジタル録音図書の国際標準規格であるDAISYに関する最新の情報とDAISYの技術がデジタル出版にどのように使用されるかについて学ぶ機会となった。また会議はそれらに焦点をあてるだけでなくDAISYコミュニティにおける電子書籍のフォーマットであるEPUBの新たな役割についても言及していた。さらにフィンランドで始まった世界で初となるDAISYデリバリー・オンラインサービスについてのプレゼンもあった。以下その報告をする。

総会の様子

 最初にフィンランドコンソーシアムの会長の歓迎挨拶があり、フィンランドの文化教育省の文化、スポーツ、青少年政策局長( Department for Cultural, Sport and Youth Policy)であるイーロ・ヌンメラ(Ms.Iiro Nummela)氏が多忙にも関わらず駈けつけ、来賓挨拶をしてくれた。挨拶の中で今回の主催団体の一つであるセリア視覚障害者図書館の歴史の紹介があった。昨年、120周年を迎えたとのことで長い歴史があった。セリアは、1890年に上院議員の父を持つ23歳になるセリ・メシュラン(Ms. Cely Mechelin)氏が創設した「視覚障害者のための図書を提供する会」という団体によって創設された。ここでは、点字の機械が出現する1932年までは、本を点字に複製を行った。その後、技術の発展があり、点字出版が始まった。録音図書は1955年より盲人にとって使いやすいということで導入された。1978年には国立視覚障害者専門図書館となり、盲人だけでなくディスレクシアなど他の印刷物を読むことに障害がある人にもと対象を拡大して行った。2000年には名前を設立者の名前をとってセリアと名前を変更した。2004年には、新しく建てられたIiris(The Service and Activity Centre for the Visually Impaired)センターに移った。Iiris センターには、フィンランドの視覚障害者団体連合や関連団体の事務所が入っている。DAISYの技術は、セリアのサービスが大きく変えた。2006年からDAISY図書や本の販売を始め、販売数は増加している。最後に世界のDAISYコンソーシアムとフィンランドDAISYコンソーシアムの今後の発展を述べて挨拶を終えた。

 基調講演としてDAISYコンソーシアムの事務局長であるジョージ・カーシャ(George Kerscher)氏は、「電子書籍革命:印刷物を読むことに障害(print disabilities)がある人々は,他の人と同様に同じ金額と場所で楽しむことができるようになっていく。これはどのように行われていくのだろう。」というテーマで講演を行った。主としてDAISYのもうすぐ発表される次の仕様について述べた。またEPUBの仕様を策定するIDPF(International Digital Publishing Forum)の事務局長であることから、今後、公式勧告が発表されるEPUB3とDAISY4の関係についても詳しく語ってくれた。
 HTML5は、いまだにW3Cの勧告も出ていないが、企業がウェブで現在もっともよく使っ ているフォーマットである。このフォーマットは、ビデオ、CANVAS(flashの代わりとなる標準規格)、インタラクティビティの機能などが含まれ、DAISYで使用している構造とかナビゲーションなども仕様としてとり入れようとしている。
 以前は、ウェブと出版とは別だと思われていたが現在は同じだと考えられるようになってきた。DCは、XMLをベースとしてDAISY3を開発した。本を説明するにはXMLが一番だと考えたがウェブブラウザーは、XMLをサポートしてくれなかった。そうした状況を見て、次のDAISYの仕様については、製作と相互変換(Authoring & Interchange:AI)と配布を別にする開発を行うことにした。相互変換ソフトとしてパイプラインを開発中であり、それを使用して拡大や点字に自動的に変換ができるようになる。DAISY4のAIの仕様版は9月に完成し、仕様は12月に発表できると述べた。
 配布の仕様については、EPUB3と同じにフォーマットになる。EPUB3は、すでにIDPFによる勧告の提案が5月に発表された。7月には公式勧告の発表が予定されている。EPUB3には、構造化(ナビゲーション)音声とテキストの同期などのDAISYの機能が含まれる。またその仕様には、JAVAスクリプト、CANVAS, 音声のオーバーレイ,ビデオが含まれる。さらに電子図書のコンテンツはどのようなメディアで再生されるのかがわからないということを考慮して、コンテンツのリフロー機能も含んでいる。またレイアウトに関してアクセシブルにするためのCSSも使用し、世界の言語がサポートされるので、たとえば縦書きなどが含まれる。しかし必ずしもアクセシブルなEPUBができるとは限らないのでEPUBチェッカーが必要となってくるのでそれらはこれから開発しなければならないとのことだ。今後、多くの再生するメディアがEPUBをサポートし、実装するのには2012年度下半期ぐらいまでかかるであろうと述べた。

 次に次期DAISYコンソーシアム会長である英国の「RNIB(英国王立盲人協会)」のスティーブン・キングは、「電子書籍革命」というテーマで世界盲人連合がリーダシップをとる読む権利に関するキャンペーンを2000年から2010年にかけて行った取り組みついて紹介してくれた。そこには、カーシャ氏同様に「他の人と同様に同じ時期、同じ金額、同じ場所で本を読む権利がある。」というスローガン、さらに「出版される5パーセント以下しか手にいれられるアクセシブルな本がない。」ため、「本の不足」を訴えるキャンペーンにRNIBの責任者として取り組んだ。また世界盲人連合(WBU)、国際図書館連盟、DAISYコンソーシム、出版会社と著作権機関、標準化団体、技術関連企業とパートナーシップを組み取り組んだ。その取り組みの一つとしてRNIBは様々な調査を行った。すでにRNIBのウェブに掲載されている。(注)たとえば2002年の調査では、図書館サービスの欠如を報告した。2003年には利用者の概要とアクセシブルな本がなくていらだつ利用者の声を反映した報告を行った。2004年には、視覚障害者、そしてディスレクシアなど3万人が本を読むことができない状況にあり、95パーセントの本が拡大図書、点字、音声で手に入らない状態にあるという報告を行った。2006年には、英国において、数学や科学のテキストが12パーセントしかアクセシブルな形で手に入らないという報告を行った。これらの調査報告は以下のウェブサイトで読むことができる。
http://www.rnib.org.uk/getinvolved/campaign/accesstoinformation/righttoread/ rightreadreport/Pages/right_read_report.aspx

 次第に読むことに障害がある人々は、アクセシブルな本を楽しむようになってきたがまだ多くのことをしなければならないと述べている。出版社によりよい出版をしてもらうためにRNIBはアクセシブルな電子図書を出版するためのガイドラインを出している。またWIPOは、DAISYコンソーシアムやEditureの協力により「Accessible Publishing、Best Practice Guidelines for Publishers」を出版した。このガイドラインについては翻訳をしてDINFで掲載予定である。  昨年より技術的な解決として電子図書の再生機が登場し、障害者をサポートするリーダーも出てきたが、出版会社がアクセシブルな出版方法を取り入れていくことが必要であるとスティーブンはまとめた。 次にオランダのデディコン(Dedicon)のマーティン・バブーム(Maarten Verboom)氏が15年間のDAISY取り組みとその成果について語ってくれた。DAISYコンソーシアムの会員国との協力、特に最近は配信においては、オーストラリアやノルウェーの会員団体との連携、図書館システムについては、デンマークとスイスの会員団体との連携、製作においては、ベルギーの会員団体との連携など事業を進めている。現在、デディコンはオランダにおけるアクセシブルなコンテンツを作る大規模な製作団体である。 そして公共図書館、教育省、学校が相手であり、4万人の視覚障害者やディスレクシアが利用者となっている。教育市場の大手出版社数社と連携し肉声のマルチメディアDAISY教材を開発しストリーミングで提供するハイブリッド図書のデモも行われたが、当団体に依頼すれば技術移転も可能であるとのことだ。

ハイブリッド図書のデモ

 次にDAISYの専用機器を主とするカナダのヒューマンウェア社と日本のシナノケンシ株式会社による最新の機器についての紹介とデモがあった。両社がお互いに刺激し合ってより良い製品を市場に出すことを期待したい。
 午後からはアメリカのベネッテクのベッツィ・バーモント(Ms. Betsy Beaumonn)氏による「Bookshareにおけるイーリーディング(E-Reading )プロジェクトについてのプレゼンがあった。まずブックシェア(Bookshare)について説明した。ブックシェアとは、読むことが困難な利用者を対象としたアクセシブルなメディアのオンラインライブラリーで、人間の音声ではなく、読み上げソフトで読むテキストDAISYを提供している。現在135,000人の会員(基本的には米国、しかし米国ではない会員もいる。)、10,000人の学校または団体が利用している。100,000タイトルと刊行物を保持しており、毎月2,000に上る本のデジタル化が行われ、ブックシェアのサーバーに追加される。それらのデジタルファイルは、JAWSなどの読み上げソフトや、2つの無料の電子図書再生ソフトに対応している。また専用機器、点字ディスプレイにも対応している。
 ではどのように本をデジタル化しているのだろうか。デジタル化には次のような方法がある。著作権的に問題のない本を裁断してスキャンして校正したのちデジタル化する方法、米国のNIMACセンターのリポジトリ-にあるNIMASファイルをダウンロードして行う方法、出版社から著作権の合意を得てデータを受け取りデジタル化する方法がある。製作のパートナーとなる出版会社はアメリカだけでなく世界には130ある。おもしろいことにO'Reilly MediaはDAISYフォーマットでの提供も行っているので、この出版会社からデータを得たのち、DAISY化したものを送り返している。スキャンや校正は、米国のボランティアでアウトソースとなるインド、ラオスやケニヤでITスキルのある障害者を雇うという障害者の雇用創出も行っている。

バーモント氏のプレゼン

 2007年から、米国教育省特殊教育プログラム局(OSEP)からの助成を得て米国の印刷物を読むことに障害のある学生に無料でブックシェアのコンテンツとサービスを提供し、教師の依頼による教材にも焦点を当て、NIMACと出版社からの教科書を追加するなどブックシェアが持つコレクションを増やしていった。現在、28の国が会員であり、国際的な合意でカナダ、フィンランド、オーストラリアの図書も利用可能になった。またベネテック社(Benetech)は、WGBHの全米アクセシブルメディアセンター(NCAM)および米国DAISY基金(the U.S. Fund for DAISY)をパートナーとして、OSEPより、DIAGRAMセンター設立資金として500万ドルを支給され、アクセシブルな画像と図表のツールと好事例を研究・開発している。このプロジェクトについての詳細はDiagram Centerのホームページ(http://diagramcenter.org/)で得られる。

バーモント氏のプレゼンについての質問では、ブックシェアのインターナショナルな個人会員となるためにはどのような手続きが必要なのかという質問に対して、最初に75ドルの会費、そしてその次の年から50ドルを支払えば、著作権が問題がないタイトルはダウンロードが可能となると答えた。
 次にフィンランドメディア工業連合のクリスティーナ・マークラ(Ms. Kristiina Markkula)氏は、 フィンランドで行われているイーリーディングプロジェクトについて紹介をした。次にデンマーク・ロボブレイルコンソーシアムの ラルス・バリュー・クリステンセン(Lars Ballieu Christensen)はロボブレイル(RoboBraille) プロジェクトを説明した。ロボブレイルとは、デジタルテキストを点字や音声に変換するe-mail サービスである。以下のホームページで更に詳細な情報が得られる。
http://www.robobraille.org/frontpage

ロボブレイルの説明

 フィンランドのヘルシンキ市立図書館のアンティ・パカリネン(Antti Pakarinen)氏とティモ・トゥオミネン(Timo Tuominen)氏は、「電子書籍と図書館:その概念について見直してみる。」というテーマでのプレゼンを行った。
 その中で次の言葉が印象に残った。

“Libraries are not about books , they are about equality and Access”

 日本語では、図書館は図書について関わるだけでなく、平等とアクセスについて関わるとでも訳せるが、図書館はすべての人に対して平等とアクセスを保障するということであろう。

パカリネン氏とトゥオミネン氏

 最後に、2011年2月に大阪で行われた「読む権利に関する会議」でフィンランドの国立点字図書館であるミンナ・ヴォン・ザンセン(Ms. Minna von Zansen)氏よる「印刷物を読むことに障害があるコンビューターを持たない利用者に対するDAlSYコンテンツのオンライン配信(DAVE)」というテーマで講演をいただいたが、今回、ザンセン氏とフィンランド視覚障害者連合のマリア・フィンストロム(Ms. Maria Finstrom)氏によって同じテーマでプレゼンが行われた。

ザンセン氏とフィンストロム氏

 このDAISY技術会議により、DAISYに関連する最新情報を得ることができ、世界各地からの関係者とDAISYを推進する取り組みや手法などについて情報交換を行うことができた。さらなる開発については、11月初めに行われるブラジル・サンパウロでの理事会に合わせて開催予定の技術会議で得ることを期待したい。

 今回の会議で行われた講演者のプレゼンの資料は以下のサイトで手に入れることが可能である。
http://www.daisy-konsortio.fi/index.php/en/daisy-helsinki-2011/daisy-conference