全国視覚障害者情報提供施設協会:サピエについて

藤野克己(全国視覚障害者情報提供施設協会事務局長)

 皆さんこんにちは。私たちの団体の名前は大変長いものですから、普段略して「全視情協」と、漢字4文字で読んでいますので、ぜひこの言葉を覚えていただければと思います。

 今日は10分という、大変限られた時間ですので、私はタイマーを持っています。10分たつとブルブル震えるようになっていますので、時間通り終わりたいと思います。

 全視情協は、全国全ての点字図書館、それから一部の公共図書館、ボランティア団体など、合計99の施設・団体で組織しているNPO法人です。その中核的な事業として、今日ご紹介するサピエに取り組んでいます。資料では、視覚障害者情報総合ネットワークとなっていて、視覚障害者等を含めた方々に情報提供するネットワーク「サピエ」についてお話しするのですが、時間が限られていますので、特にその中で、サピエの推移と課題について絞ってお話をさせていただきたいと思います。

 視覚障害者への情報提供ネットワークというのは、今まで大きく三つのステップできています。今日お配りした資料に歴史として書きましたが、まず最初は1988年、「てんやく広場」という名称で私たちはネットワークを作りました。名前どおり、当時は点字のデータをコンピューターで作って、それをネットワークで共有するというものでした。これは日本IBM社の社会貢献で作っていただいたもので、最初わずか11団体、それも半数以上がボランティア団体と一部の点字図書館で始めたのが1988年です。

   初めは、私たちはそれをプリンティングセンターと呼んでいて、点字図書館、あるいはボランティア団体の間でデータを共有するというクローズドの形で始めたのですが、せっかくネットワークがあるんだから、これを視覚障害者個人にも使っていただこうということで、発足から6年後の1994年に、視覚障害者個人、それに私たちが作った点字データを活用してぜひ公共図書館にも視覚障害者サービスをしてほしいという願いを込めて、ネットワークの開放を行いました。これによって、特に視覚障害者にとって、それまでの情報入手の方法がガラッと変わって、匿名で情報が得られるという環境ができたと思っています。個人会員の方には、年間6000円の会費を頂くという形で私たちは運営をしてきました。

 次のステップは2001年です。これは、先ほど河村さんのお話にありましたけれども、それまで自主的な運営をしてきた「ないーぶネット」に、国の補正予算を頂くことができました。それによってインターネット化しました。これが二つ目のステップです。このときに、それまで年会費6000円頂いていた個人会員については、会費を無料にしました。

 三つ目のステップは今のサピエです。2010年、これもやはり国の補正予算を頂いて、この表題にもありますように、視覚障害者情報総合ネットワーク。それまでは点字データのダウンロードと、点字・録音の書誌をネットワーク上で検索できるというシステムだけだったものを、その後始まってきた音声データであるとか、あるいはテキストデータであるとか、あるいは図書データ以外の視覚障害者の日常生活に必要な情報、地域・生活情報であるとか、そういったものを組み込んだ総合ネットワークとして、サピエがスタートしました。

 このように、私たちのネットワークも、国の補正予算が2回入ることによって大きく変化してきたと言えます。資料ではその次に「個人会員の推移」について書いていますが、この三つのステップで大きく個人会員の数が変わっています。1994年、年会費6000円頂いて個人会員の利用を認めたときには、初めの年は全国で158名の方々が登録されました。その後インターネット化し、会費を無料にするまでの個人会員は662名にすぎなかったんですね。平均しますとこの間、年間84人ずつ利用者が増えているというささやかなネットワークでした。これが、インターネット化し無料化することによって、その次のサピエになるまでは年間平均600人の個人会員が増えています。サピエになるとさらに増えていまして、現在は年平均1400人ずつ個人会員が増えています。このように、ステップごとに視覚障害者の利用の状況がかなり変わってきています。

 特にサピエになる時期に著作権法が変わり、著作権法で視覚障害者等という言い方をされましたので、私たちはそれまで、視覚障害者だけを対象にしていたネットワークでしたけれども、視覚障害者等というところまで利用対象広げることにしました。その「等」の部分を私たちは、一応便宜上B会員と呼んでいまして、直近の今年1月31日現在、B会員は272名、まだこの程度です。全体の個人会員は1万4224名いらっしゃいますので、B会員は1.9パーセントという、まだその程度しか入っていませんけれども、そういう方々にもサピエで情報を提供しています。

 私たちは、サピエを利用する視覚障害者は全国で8万人いると受け止めています。個人会員は1万4224名とここに書いてあるとおりですけれども、多くの方々は全国にある点字図書館を利用していて、点字図書館を通してサピエからデータをダウンロードして借りるとか、書誌を検索して借りるということをしていますので、全国の点字図書館の利用者、多少の重複はありますけれども、約8万人の方々が直接・間接でサピエを利用していると言えます。

 今日いらっしゃる方の中には、「サピエって何?」という方がいらっしゃるかもしれないんですが、サピエとは何かを話すと10分どころでは終わらない話になりますので、改めてサイトを見てくださるようお願いいたします。このサピエは、私たち全視情協と日本点字図書館の二つの組織で協力し合って進めています。その役割分担も、この資料の3番の(4)に書いておきました。

 このサピエを進める上の課題として四つ挙げました。一つは運営経費の安定的な確保です。今説明しませんでしたが、日本点字図書館が分担している部分については厚生労働省の補助金が出ているのですが、全視情協が分担している部分については公的補助が一切ないんですね。従って、公共図書館等の利用料金、あるいは個人会員の方には毎年ご寄付をお願いしています。それで足りない部分は全視情協が補てんするという形で、極めて不安定な運営状態なんです。ぜひこれを、もう少し安定した形で進めたいというのが、まず大きな課題です。

 それから国会図書館との連携ということですが、2014年6月から、国会図書館が収集している全国の公共図書館が作った音声DAISYとか点字データを、サピエを通して利用できるようになりました。また現在は、サピエでは、音声DAISYの逐次刊行物の登録が3号までという規定があるものですから、サピエから落としたものを国会図書館のほうで収集していただいて、サピエから利用しようとか、あるいはサピエでは、音声DAISYは重複登録しないという方針でやっていますので、重複のために登録できないコンテンツを国会図書館に収集していただいて、サピエから利用できるようにしようとか、そういう形で国会図書館との連携を考えています。

 それから、先ほどお話ししたように、B会員を新たに受け入れているのですが、まだまだ少ない。これは一つは、私たち自身が、当事者の方々の状況把握がほとんどできていないという問題もありますし、受け入れ施設が少ないということもあります。今日の資料に、B会員受け入れ施設を表に書きましたけれども、現在公共図書館は124あるうち47館、55%の館がB会員の受け入れをしていただいています。点字図書館は何と86館中24館、28%しか受け入れしてないんですね。もっと公共図書館に、そういう方々の受け入れをしていただき、サピエを利用していただければと思っています。

 あとは、公共図書館の利用登録促進、先ほどから、この4月から施行される差別解消法の話がありましたけれども、合理的配慮の一つの有効な手段としてサピエの活用はとてもいいのではないかと思っていますので、ぜひお勧めしたいと思います。一昨年私たちは、全国の都道府県立、市町村立公共図書館、計930館に、サピエについてのパンフレットを作って、ぜひ利用してくださいとのお願いを込めて配りました。しかし実際には、それほど公共図書館が増えていないというのが状況です。そういうことですので、私たちはもっと努力しますが、この中に公共図書館の関係者がいらっしゃいましたら、こういうネットワークを利用して障害者サービスを進めることもぜひお考えいただきたいと思います。

 タイマーが鳴ってしまいましたので、大ざっぱですが終わらせていただきます。どうもありがとうございました。


資料1

視覚障害者情報ネットワーク「サピエ」

2016.02.05
全国視覚障害者情報提供施設協会(全視情協)
事務局長 藤野 克己

1.歴史

1988年 「てんやく広場」発足(発足時は「IBMてんやく広場」)11団体
   【パソコンを使った点訳と点字データの全国共有化】
   【運営は、「てんやく広場」運営委員会】
   【加盟施設・団体の年会費によって運営:アップ会員4万円、ダウン会員6万円】
1994年 ネットワークの開放(個人会員、関係施設)
   【「情報入手時の匿名性」の確保】
   【個人会員は、年会費6,000円】
1998年 「ないーぶネット」に名称変更(全視情協が管理)
2001年 総合ないーぶネット(インターネット版)稼働 【補正予算】
   【個人会員の会費無料】
2004年 「びぶりおネット」開始(日点、日ラ)
2010年 「サピエ」スタート (B会員受け入れ)  【補正予算】
   【点字図書、録音図書、テキストデイジー、地域・生活情報、図書製作支援】
   【施設会員4万円、ボランティア団体1万円】
2014年 国立国会図書館「視覚障害者等用データ送信サービス」(1月)
     同上サービスをサピエから利用可能(6月)
※サピエ=サピエンティア(sapientia 「知恵、叡智」を意味するラテン語)
  URL https://www.sapie.or.jp/

2.個人会員の推移

 1994年度       158名 ※年会費6,000円
 2000年度       662名
 2001年度     1,763名 ※補正予算でインターネット化、
                     会費無料(協力金依頼)
 2009年度     6,272名 
 2010年度     8,403名 ※補正予算で「サピエ」に
                   うち、B会員 41名(0.5%)
 2014年度    13,446名 ※うち、B会員226名(1.7%)
 2016.01.22    14,158名 ※うち、B会員269名(1.9%)

※ サピエを直接・間接に利用する視覚障害者は約8万人
(「日本の点字図書館30」平成25年度実態調査から)。

3.サピエの機能

(1) サピエ図書館
(2) 地域・生活情報
(3) 図書製作支援
(4)日本点字図書館と全視情協の役割分担
 平成27年度から、全視情協と日本点字図書館との協議によって、以下のように役割分担を行っている。

日本点字図書館:
(1)サピエ図書館システム及びサーバの維持
(2)会員管理システム及びサーバの維持

全視情協: 
(1)運営全般
(2)会員サポート
(3)地域・生活情報システム及びサーバの維持
(4)図書製作支援システム及びサーバの維持

4.課題

(1) 運営経費の安定的確保
(2) 国立国会図書館との連携
(3) B会員受け入れ

サピエ登録施設・団体:309
A会員受入施設・団体:165
B会員受入施設・団体: 81
 (内訳)公共図書館: 47
   点字図書館: 24
   ボランティア団体:  5
   その他:  4
   盲学校:  1


資料2

<サピエの推移>

2016.01.22

年月 2011年3月 2012年3月 2013年3月 2014年3月 2015年3月 2015年12月
目録数・データ数 総目録(書誌)数 529,308 555,248 621,595 793,343 951,430 965,997
データ数
(タイトル数)
点字 124,073 134,582 145,765 155,616 165,755 173,901
音声デイジー 22,505 33,798 42,795 50,591 61,849 68,829
テキストデイジー 39 92 196 534 1,491 2,420
マルチメディアデイジー 0 10 22 41 63 79
シネマ・デイジー   68 150 210
年間ダウンロード数
(タイトル数)
点字(音声利用多数) 708,944 689,543 741,827 710,756 709,155 539,629
音声デイジー 357,024 1,034,564 1,490,929 2,102,975 2,490,930 2,075,235
テキストデイジー 1,483 2,596 5,154 29,158 108,958 117,364
マルチメディアデイジー 0 448 946 2,004 1,948 1,957
シネマ・デイジー 53,810 129,038 86,249
利用会員数 個人会員 8,403 9,964 11,208 12,476 13,446 14,158
  うち B会員 43 94 128 174 226 269
施設・団体会員 223 237 261 271 291 309
  うち 点字図書館 86 86 86 86 86 86
  うち 公共図書館 58 70 87 94 110 124

  (注)年間ダウンロード数以外は、すべて累計です。

menu