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デイジー活用事例集 小学校高学年

漢字の読みの確認、読みのまとまり、内容理解に活用した

小学校教諭

1.本人の現況

小学校5年生(11歳)男子で、診断なし。1年生の時には、発音が不明瞭であった。「ケ」が「テ」、「キ」が「チ」、「サ」が「シャ」、「ラ」が「ダ」等、置換している音が多くあった。微妙な音の違いを認識する力の弱さがうかがわれ、聞き間違いがしばしばあった。2年になり、読み書きに関して、他の児童との差が顕著になってきた。WISC-Ⅲの検査結果では、FIQ99であり、知的には平均の力があると推定されるとともに、言語理解はよいが、聴覚的短期記憶、視覚的短期記憶、ワーキングメモリー、視知覚の弱さがあると考えられた。また、促音や長音を正しくとらえることが難しかったり、拗音の音の構成を理解することが難しかったり、単語の音を入れ替えてしまったりがあり、音韻認識の弱さもあると思われた。また、平仮名単音読みテストでは、誤り数の多さや読みスピードにおいて、同年齢の子どもたちと比べ有意に弱いという結果であった。漢字の読みにおいても、思い出すことに時間がかかっていた。

何回か繰り返し練習すると、文章を覚えてスラスラ読めるが、そうではない文章では、たどたどしい読み方になっていた。単語の文字を入れ替えてしまったり、文末の勝手読みをしたりすることも多かった。また、チャンク(意味の塊)をさっと捉えて読むことが難しく、特にひらがな文字が続くところでは、どこで区切るとよいかが、なかなか分からないようだった。漢字の読み(特に音読み)を想起する際には、時間がかかることが多かった。

本児は、通級指導教室において次のような支援を受けてきた。

○文字を見て音を想起するスピードを速くするトレーニング

拗音の想起が特に遅く、読み誤ることが多かったので、まず拗音単音読みトレーニングをスモールステップで行なった。目標タイムで読めるようになったら、拗音を含む単語カードの速読練習を行なった。カードを見て、何を書いてあるかが分かってから声を出すようにさせた。

○文章の読みのまとまりを速く捉えるトレーニング

「正しいのはどれ?」と題して、絵に描いてあるものを正しく文字で表しているものを、3つの中から選択する課題を行なった。また、平仮名を羅列したものを単語で区切ったり、教書教材文を読みのまとまりで区切ったりさせた。これらの課題を、問題数を統一してのタイム向上や、制限時間を決めての処理速度の向上を目指して取り組んだ。読むときには、チャンクを捉えて何が書かれてあるのかが分かってから、声に出すようにさせた。

○語彙を増やす。

本児は、言語理解はよいが、さらに学習単語を増やすことで読みを予測しやすくなると考え、語彙を増やすことも課題に入れた。

4年1学期で、一定の成果が出たことと、自分で学び方を理解できたと判断し、通級指導は終了したので、現在は、同様の支援は受けていない。

2.デイジーの活用による支援

デイジーは小学校3年生の5月から使用を開始した。前述のような支援を行なって、一定の改善は見られていたが、国語の教材文も3年生になるとかなり長くなり、自分ひとりで全部読むことは、初読の段階では、長時間かかりすぎ、勝手読みも多かった。

マルチメディアデイジー教科書については、日本LD学会において、読みの支援に有効だと紹介されていたので、使用してみたいとかねてから思っていた。本児は、様々なトレーニングを積んできて改善は見られるものの、同年齢の平均的な子どもの読み速度と比べると明らかに遅い。今後学年が上がるにつれ、教科書の文章量も確実に増えてくる中で、自分一人で読むことに時間がかかりすぎるために、文字情報から得る知識量が低下するのではないかと危惧した。また、国語だけでなく社会等他の教科でも、読めないと学習効率が悪くなると考え、マルチメディアデイジーを紹介することで、今後、自分で効率的に学ぶ力がつくとともに、デイジー図書を活用した読書の楽しみを知ることができるようになるのではないかと考えたので導入した。

デイジーの使用期間は、1年3カ月で、小学校の国語の教科書を使用している。ほかに、デイジー図書『おばあちゃんからのおくりもの』(日本ライトハウス)も使用した。

デイジーは、パソコンでAMISを使用して再生している。

家庭学習では、居間で母と通級教室の宿題として、出された国語教材を読む際に活用している。

学校では、通級教室で通級担当教諭と教室で習う国語教材の予習として活用している。まず、漢字の読みを確認し、教材文を読みのまとまりで区切ってみてから、デイジーの読みスピードを最低レベルに下げて、読めるところは一緒に声に出して読む。予習として、ハイライトを見ながら読みを聞き、書いてある内容理解を優先課題とした。時間があれば、3回目ぐらいには、消音にしてハイライトされた部分を自分で読んでみることに挑戦した。挿絵がある教材の場合は、だいたいどのような内容の話かを予測してから読み始めることもあった。

課業中は、教材文に追われるため、長期休業中に教材にないデイジー図書を読むことを宿題にした。パソコン操作は、少しずつ自分でできるようにしていった。

デイジーを活用するようになって、読みは、自分で練習することが可能になった。また、チャンクを捉えるスピードが、速くなった。

集中力は弱いが、もともと積極的に授業に参加しようとしていたので、その点では特に大きな変化は感じられなかった。デイジー図書を借りて、余暇に読書をしようという気持ちにまでは至らなかった。