デイジー活用事例集 中学校
音声の後に読む、音声を消して読む、郡読、内容理解を繰り返して学習した
奈良県立明日香養護学校 中学部教諭 村瀬 直樹
1.本人の現況
女子生徒。肢体不自由で、安定した座位ができ、電動車いすを使って移動できる。手指の操作は、細かい作業は難しいが、ひらがなやいくつかの漢字を書くことができる。
次のような読みの特徴があった。
- 文末を勝手読みしてしまうことがある。
- とばし読みをすることがある。
- 誤った場所で区切って読むことがある。
- 文章を読むと、内容が理解できない。
- 読み聞かせると、内容を理解できることが多い。
デイジーを使用する前に受けていた読みに関する支援は、教員による読み上げと絵本をスキャナーでパソコンに取り込んだものを50インチのテレビで提示するというものであった。現在も同様の支援を受けている。
2.デイジーの活用による支援
中学2年生2学期から中学卒業までデイジーを利用した。
導入以前は、絵本をプレゼンテーションソフトで表示させ、教師が文章を読み上げていた。絵本の内容について教師が質問したことに答えたり、感じたことを発表したりして学習していた。音読をさせると、とばし読み、勝手読み、誤った場所で区切って読むことがあった。内容を理解しながら読むことができていなかった。
チーム・ティーチングで国語の学習にあたっていたので、チームの教師にデイジーを提案したところ、生徒の実態にあったツールであるという共通理解が得られたので、導入することになった。
デイジーを再生したところ、再生された音声とハイライトを見て読まれている場所が容易に理解できたことを教員に伝えてきた。
そのあと、再生された音声に合わせて、自分から音読し始めた。内容を理解しながら読むことができていなかったが、とても楽しそうに読んでいた。それにつられ、文字が読めない生徒も一緒になって復唱していた。
参考になる実践例を得られなかったので、試行錯誤しながら指導を進めた。
デイジーを活用するようになったのは、大阪府支援教育研究会のICT活用プロジェクト夏期講座でマルチメディアデイジーについて知ったことがきっかけだった。講義内容から担当する生徒の実態にあったツールだとわかり、導入することにした。
デイジーの使用期間は、約1年6ヶ月で、中学校の国語の教科書を使用した。パソコンで、AMISを使って再生した。家庭学習では使用しなかった。
学校では、生徒が在籍する学級の教室で、教員1~2名と本事例の生徒を含む生徒3名で、国語の学習において使用した。50インチのテレビとノートパソコンのディスプレイを単独か併用して表示し、音読や群読、内容理解において使用した。
具体的な使用方法は次の通りである。
①デイジーの音声の後に読む。
一時停止、再生を繰り返してデイジーの音声の後に丁寧に読ませる。わからない言葉の意味を確認する。(題材になったデイジーの音声スパンは、分かち書きで作られている。)
個別で学習する必要がある場合は、ディスプレイを使用。
②デイジーの音声を消して読む。
一時停止、再生を使い、順にハイライトされた文字や言葉を確認して読めるようにする。
個別で学習する必要がある場合は、ディスプレイを使用。
③群読
デイジーの音声に続いて、または、音声を消した状態でハイライトに合わせて群読する。
④内容理解
学習する段落をディスプレイとテレビに表示(個別で学習する必要がある場合は、ディスプレイを使用)し、デイジーで一通り聞いてから学習する。
⑤繰り返し学習
①~④を繰り返し取り組む。
⑥発表
学部や全校の前で、プロジェクターやテレビを使い、発表する。
デイジーを使用するようになって、読みに関しては次のような変化があった。
<デイジーを使用して読んだとき>
- とばし読みや勝手読み、誤った場所で区切って読むことがなく、正確に読むことができるようになった。
- ゆっくり移動するハイライトに合わせることで、落ち着いて音読することができるようになった。
- 分かち書きにされた短い文が集まった文章であれば、内容を理解しながら音読することができるようになった。
- 黙読することがでてきた。
- 教師から指示代名詞がさしている言葉はどれか質問すると、デイジーで表示された文章の中から、一目で答えにあたる言葉を見つけることができるようになった。
<紙媒体のもので読むとき>
- 分かち書きにしてあれば、短い文が集まった文章なら正確に音読できるようになったが、内容を理解しながら読むことは難しかった。
昼休みに、デイジーを使って読みたいと希望することが多かった。
学部の学習発表会や全校集会で、デイジーを使って音読の発表を行なった。よい評価を得られ、国語の学習がより好きになり、より積極的に取り組むようになった。余暇の使い方、生活態度、学校での参加態度に変化はなかった。
<題材について>
物語や絵本で学習すると、登場人物の感情の動きや情景を表す比喩的な表現を理解して読むことが難しく、内容理解に時間がかかっていたので、説明文を題材にすることが多かった。
説明文は、事実が簡潔に書かれており、内容が理解しやすかった。おもに小学校1年生用国語の教科書に掲載されている説明文を題材にした。
生徒にとって興味がわく内容である、文章構成がシンプルである、指示代名詞が何を指しているのかすぐにわかるようになっているなど、学習するうえで大切な配慮が多く含まれていた。
漢字を含んだ説明文でも学習したが、ひらがなだけの文より漢字を含んでいる文のほうがスムーズに読んでいた。
<デイジーの音声について>
合成音声で作成したデイジーを使用したが、合成音声の特徴やアクセントの違いに注意が向いてしまった。
物語で学習するときは、読み手の抑揚や声の強弱などの表現を頼りに登場人物の感情などを読み取ることがあった。合成音声を使用するには、ある程度慣れることや文章を読み取る力が必要だと感じた。