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DAISYサンパウロ国際会議報告

野村美佐子
日本障害者リハビリテーション協会

はじめに

 2011年11月2日と3日はDAISYコンソーシアムの理事会がブラジル・サンパウロで開催され、4日と5日はデジタルブックのDAISY国際会議が行われたのでその報告をする。参加は、18国(ドイツ、コロンビア、米国、カナダ、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、イギリス、ノルウェー、スイス、フランス、スペイン、スウェーデン、オランダ、フィンランド、デンマーク)からあった。
 理事会のホストで会議の主催者は、DAISY Latinoとパートナーシップを構築しているブラジルのDorina Norwill Foundation for the Blind である。この財団は、視覚障害者のために盲人のDorina Norwill 女史によって設立され、65年の歴史を持つ。企業やビジネスマンに支えられ、文科省の支援により、視覚障害者等にアクセシブルな技術サポートを行っている。今回の会議においては(注1)、ブラジルの出版会社からの参加が目立っていた。ブラジル政府は、出版社と契約をしてアクセシブルな教科書の調達を始めたところで、出版会社にはまだDAISY製作についてノウハウがわからない人が多く、この会議から学びたいという目的で参加していた。ここでは、今回の多くのプレゼンにおいて特にDAISYを活用した教育的支援に焦点をあてていくことにする。

アメリカの取りくみ

 DAISYコンソーシアムには、アメリカからは正会員として、ベネテック(Benetech)、盲人・身体障害者全国図書館サービス(National Library Service for the Blind and Physically Handicapped -NLS)、ラーニングアライ(Learning Ally)が参加している。
 ベネテックは、ブックシェア(Bookshare) というDAISYオンラインサーバーを運営し、アメリカのラーニングアライやAmerican Printing House for the Blindと同様に教育に焦点を当てている。彼らがターゲットとするプリントディスアビリティのグループは大きく、正確な統計はないが全学生が60,000,000人にとすると1,000,000人以上にも上ると言われているそうだ。2004年には、アクセシブルなフォーマットでの教科書の提供というニーズに応じて個別障害者教育法(IDEA)の改正があり、新たな政府の義務が生じた。そのため出版会社は、アクセシブルなフォーマットであるNIMAS(全国指導教材アクセス標準規格)に沿った電子教科書のソースファイルをNIMAC(全国指導教材アクセスセンター)に提供しなければならなくなった。このNIMAS規格というのは、DAISYのサブセットで、このソースファイルにより、点字、大活字、そしてDAISY形式の教科書が製作・提供されることになった。ブックシェアは、2007年の秋に、OSEP(連邦教育省特殊教育プログラム局)から競争入札で助成を得た。その際にベネテックの代表であるジムフラクターマン(Jim Fruchterman)は、①すべてのプリントディスアビリティのある学生に対して無料でコンテンツ、機器およびサービスを提供し、②教師から依頼された教材を中心に、NIMAC(全国指導教材アクセスセンター)と出版社からデータによるDAISY教科書を加えてブックシェアのコレクションを拡大し、③スキャンしたものを多くの人と共有していくという目的で、次のような契約に署名を行った。5年後(2012年)には100,000人の登録者、80,000タイトルにも及ぶ教材の追加、図書の総ダウンロード数が3,000,000回になると宣言したわけだ。それは、とても大変なことであったが、2011年の第4半期においてすでに145,000人が登録、80,000タイトルが製作され、3,000,000回という目標数に近いダウンロード回数という快挙をなした。出版社やNIMCからデータを入手、TTSを使うことにより2日で製作が可能になったからである。しかしスキャンの場合は、相変わらず4週間から6週間がかかっている。費用については、1冊につき、10ドル以下になっていった。さらに教師は、ブックシェアから直接教材を手に入れることができるようになった。教材には、点字、音声、テキストが含まれている。携帯でも手に入れられるようになった。課題は、テキストの入手とコスト、画像や数学・科学をどのように表現するか、どのように評価するのか及び、インタラクティビティがあげられる。2010年5月からは、OSEPの助成により、DAISYとWGBHのNCAMと連携したDiagram Center(Digital Image and Graphic Resources for Accessible Materials Center)のプロジェクトが始まっている。このプロジェクトのパートナーは、DAISYコンソーシアムである。アクセシブルな画像と図形を作成するために技術やツール開発、事例集作成、研修を始めるプロジェクトであり、現在、基準の作成、ホームページの設立、ツールの開発が行われているところである。

 ラーニングアライ は、非営利の団体で1948年に第2世界大戦後、継続して教育を受けたいとする退役軍人を支援するために設立された。以前は、Recording for the Blind &Dyslexiaと呼ばれており、2011年の4月から、違った方法で学ぶ(learn differently)すべての人々にサービスを行うために名称を変えた。幼稚園から大学にいる学生に教材を提供している。63,000の音声図書があり、2001年から画像に説明をつけたDAISY図書の製作を始めた。製作は、アメリカ国内21か所にいる 6,000人のボランティアによって1年に6,000タイトルが製作されている。教科書は、科学、技術、エンジニアリング、数学などで数学や図形などの説明は、専門家を捜した結果、博士号を持つ2,000人のボランティアにより行われている。図書は、以前は音声が中心であったが、現在はテキストベースが中心となっている。そのため、ボランティアも音訳のボランティアからテキスト作成の研修を新しく受けたが、図形などの説明は今までの能力を発揮している。教材はフルテキストと肉声、あるいはTTSなどでDAISY3.0 の図書が作成されている。配布方法はCD-ROMで、2009年からはダウロードでの提供となっている。利用者は300,000人でその20パーセントが視覚障害者で80パーセントが学習障害者である。2009年からダウンロードが始まっている。読むためのメディアは専用機器、IOSプレイヤー、iPhoneなど様々な再生ツールを使用することが可能となっている。 現在のDAISY図書等の提供は、よりメインストリームのメディアを使用し、メインストリームの学校環境でDAISYが使用されるようになってきたと言える。」と発表者であるPeter Beran氏(leaning Ally Senior Vice President, Information Technology)は語る。
 NLSは、国の助成により視覚障害者にサービスする機関として80年前に設立された。1952年には児童も対象となり、1996年からは身体障害者もサービスの対象となった。ディスレクシアも対象となっている。デジタル録音図書については、2002年から製作が始まっており、2008年からは、フラッシュカードによるDAISY図書を提供しており、ダウンロードでの提供も行っているが、利用者の多くは、インターネットの環境がない高齢者である。彼らに無料の再生機を提供し、2ギガバイトのフラッシュカードに入れたDAISY図書の貸し出しを行っている。DAISYによる教科書の製作・提供は、行っていない。

オランダの取りくみ

 アクセシブルなコンテンツ製作機関、デディコン(Dedicon)は、小学校から大学の高等教育の視覚障害者と学生のためにオンデマンド製作による教育支援を行っており、具体的には、点字、触図、電子テキスト、音声、拡大文字の提供を行っている。また学校の教科書、実力試験、卒業試験なども手掛けている。またディスレクシアに対しては、当事者は小学校と中学校において、音声のみ、合成音声によるフルテキストと音声、KurzweilやSprintと呼ばれる合成音声付きのファイル、教科書、試験、卒業試験などのカタログから注文できる。(http://educatief.dedicon.nl/start (蘭語))それではこのような活動の財政はどうなっているのであろうか。教育省は小学校と中学校の教材について直接的な助成をデデイコンに行ってくれる。また教育省が行うディスレクシアに対する特別なフォーマットに関して入札で費用を勝ち取っている、入試局においても中学の卒業試験について費用を出し、試験実施機関(Testing agency)は、実力試験に費用を出す。学校は配布代を負担する。個人の利用者は,配布コストと購読料を負担してもらうという。さらには、障害を超えた新しい展開が始まっている。フルテキスト・フルオーディオ、そして原本通りの電子図書の製作と独自の再生ソフトを提供しオンラインとオフラインでのサービスを行っている。ディスレクシアの子どもたちをサポートする先生など専門家に対する研修、読むことが困難な子どもたちのための新しい製品の開発など様々な活動を展開している。今後の課題は、高等教育に教育支援を行うための資金調達、インクルーシブな出版、アクセシブルな資料が国境を越えて交換し合うことができることである。そのためには、DAISYコンソーシアムやWBUなど関係団体と協力してWIPOに対してそのための条約を発効するよう活動を行っている。

デンマークの取りくみ

 デンマークには視覚障害者のみならずディスレクシアなどにもサービスをめざして名称を「NOTA」に変更している国立点字図書館がある。この変更には、チャリティから抜け出た総合的な社会経済的なサービスを行いたいという思いがあったとNotaのディレクターであるマイケル・ライト氏は述べている。国立のデジタル専門図書館として音声図書、電子図書、点字本を製作し、それらを貸し出ししている。また視覚障害者のための機器である「Braill Note」を貸し出ししている。  図書館の使命は、プリントディスアビリティの知識や地域活動参加の保障を目指し、またそのビジョンは知識への同等のアクセスにある。2011年11月現在、65人の雇用者と30人にフリーランスのナレータを抱えている。また利用者は32,818人であり、その内訳は、視覚障害者が13,805人、ディスレクシア14,503人、失語症が157人、その他1,466人など当事者が29,931人である、その他として登録している障害を持たない教師、E-17(オンラインライブラリー)の支援者がいる。関係者も登録ができることになる。そこは少し日本と違うところである。
 Notaが目指しているのはインクルージョンとエンパワーメントである。そのために社会貢献に焦点をあてて、生活を改善し、同時に社会に利益を与えることを考え、そうしなければ利益よりコストがかかると思われ、このことは資金不足につながっていく。これらの目的に沿って利用者の調査、エンパワーメントに関する調査、社会経済的な影響に関する調査から浮かび上がってきた事実がある。そうしたことをベースに利用者を増やし、広範囲なサービスを提供、利用者にとってNotaのサービスを簡単で便利にしていくこと、そしてNotaの組織をより効率的にしていくことをゴールとしているということだ。具体的な数字をあげると現在は30,000人だが2015年までには60,000人に利用者を増やしたいとしている。そのためにタイトルを増やし続けているが2011年現在において、20,000タイトルと増加している。今後、現在CDでの配布であるが1,2ヶ月後にスマートフォーンでの配信も考えている。

イギリスの取りくみ

 次のDAISYコンソーシアム会長であるステファン・キング氏がイギリスの正会員であるRNIB(王立盲人援護協会)のDAISYの取り組みについて発表した。
視覚障害者の権利の観点から調査やキャンペーンが行われているが、その観点から2011年5月にフィンランドで開催されたDAISY技術会議でも発表されている(注2)。ここではDAISYによる教育的な視点から彼のプレゼンをハイライトしてみたい。
 RNIBはDyslexia Action との連携で学校のカリキュラムにアクセスができない中学校のディスレクシアなどプリントディスアビリティの児童に対してデジタルのカリキュラム資料のデータベースを構築するプロジェクトをDfE (Design for Economic Environment-環境適合設計)のファンドにより始まった。利用する資料はテキスト、画像、出版されたワークシート、および試験を含む教科書やその他出版された学習教材を含んでいる。主な焦点は、GESEエントリーレベルの5つのコア教科、具体的には、英語、英文学、数学と科学にあてられる。このプロジェクトは100の学校に対して非公開に始めたところである。

 日本からは、DAISYコンソーシアムの会長である河村宏が3月11日に起こった日本の大震災の経験をベースにして. 「DAISYを活用した障害者のための災害対策」についてのプレゼンを行った。日本DAISYコンソーシアムとしてマルチメディアDAISY(デイジー)で東日本大震災に関わる情報を提供しているのでアクセスをしてほしい。
URL:http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/jdc/index.html
 また立命館大学の小澤亘先生を中心にした多言語DAISYテキストに基づく「外国人児童学習支援」に向けたアクションリサーチプロジェクトがある。今回このプロジェクトについて小澤氏は発表予定であったが行けなくなったためATDOの濱田氏が代わりに発表を行った。いわゆる「教科書バリアフリー法」においては、DAISY教科書の提供対象者として外国人の児童・生徒は含まれていないが、彼らのDAISY教科書のニーズは高いように思われる。

おわりに

 DAISYを活用した教育的な支援について世界はどのような状況になっているのかを学ぶことができた。米国では連邦法のもとでデジタル教科書提供システムが出来上がり、北欧でも国立の点字図書館が中心となってDAISY教科書や教材を提供している。ブラジルも国が教科書出版会社にDAISY版も義務付けている。しかし、日本は、ボランティアベースでDAISY教科書の提供が行われており、その限界はあるので外国の事例をモデルに国も検討することを期待したい。
 またEPUB3の公式勧告が11月に発表され、その実践がDAISYの将来に良い意味で影響していくことが考えられる。