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【世界の動向に視点をあてて】

ジョージ・カーシャ

IDPF会長、DAISYコンソーシアム事務局長

皆さん、こんにちは。今日はここに来られて大変嬉しく思っております。今日はDAISYの技術について、そしてEPUBについてお話をしたいと思います。これを活用することによって幼少期から高等教育に至る障害のある学生たちを助けることができるからです。そしてそれには、日本でもこれから決定をしていかなければなりません。

その参考になるように、アメリカでは法的な状況や、あるいは技術的な状況がどういうようなことが起こっているのかについてお話をしたいと思います。

私の講演では、教育に関する出版界を二つに分けたいと思います。一つは「K12」といわれるもので、幼稚園から高校生に至るまでの教材を扱っている業界であります。そしてもう一つは高等教育のための教材を出版しているところであります。

K12と高等教育の一番大きな違いは、誰が本を買うのかということです。誰がお金を出しているかということです。つまり高校生までは州とかあるいは学校が本を購入し、教室で使用します。しかし、高等教育については、学生が直接本を購入します。例えば教授が指定する教科書を学生がお金を出して買わなければならないわけです。そのコースが終了すると、その教科書は非常に高額なため、他の学生に売ったり、あるいは本屋に戻したりするのです。このようにして、この本は何度も売買され、転売されることになります。ですので、出版社は最初にその本が売られるときに収益を得ますが、そこから先は出版社は知りません。

アメリカにはデジタル出版のほうが、いわゆる普通の本の販売よりもお金が儲かるという理論があります。学生に安くそのデジタル本を売ることはできますが、しかし、読み終わった後に、転売することはできないのです。また出版社のほうは印刷代とか、あるいは倉庫代であるとか、あるいは流通のコストというものを節約することができるのです。その結果、収益は多くなるのです。

大学は最近、このデジタル本を学校で使おうという実験を始めています。AmazonのKindle、ソニーのeリーダー、そしてその他のディバイスを使おうという動きがいろんな大学で起こっています。アメリカで最大の大学でありますアリゾナ州立大学には、だいたい7万人ぐらい学生がいます。この大学で、Amazon Kindleの試験的使用を始めました。そこで、「読む権利同盟(Reading Rights Coalition)」が、このKindleに関して構成され、アリゾナ州立大学はまったく視覚障害の人たちのために何も考えてないということを訴えたのです。「全米盲人連合(National Federation of the Blind)」、そして「米国盲人委員会(American Council of the Blind)」もアリゾナ州立大学を訴えました。アクセス可能な技術というものを確保していないということです。視覚障害者、そしてまた活字を読めないような学生のために、アクセシブルな本を提供しなければいけないということを訴えたのです。そして障害のある学生に対しても同じような価格で提供しなければいけないということも訴えました。そしてその結果、司法省との合意で、電子書籍というのは、いわゆる普通の本とは違うということを言ったのです。つまり電子書籍というのは、箱を開ければすぐに利用できるもので、それらはアクセシブルでないといけない。ということを言ったのです。

他に三つの大学でも同じような状況がありましたが、全部で四つの大学がこの司法省の申し入れに合意いたしました。そして今後、高等教育における電子書籍というのは、アクセシビリティが確保されなければならないということに合意したわけであります。これからは高等教育で使われる電子書籍というのは、これにかなったものになるということになるわけであります。これは、現在オバマ大統領が署名をし、今批准のプロセスが行われている「障害者権利条約」にも当てはまるのです。つまり情報というのがすべてアクセシブルなものでなければならないということであります。

それで今、焦点はK12に移っております。学校に電子書籍が導入されるときには、アクセシビリティが確保されなければいけないということです。数年前のことですが、著作権に関しての法律が可決されました。障害者のために非営利団体が非営利のために本を製作する団体があり、DAISYやその他のコンテンツの製作を実現するには、良いソースファイルというものが必要であるというのです。そして法律ができました。その法律によって、ナショナルアーカイブに対して、すべてのテキストのフォーマットが提供されなければいけないということになったのです。今、ナショナルアーカイブには2万のタイトルが蓄積されておりますが、そのフォーマットには、いろいろな研究が行われましたし、またいわゆる特殊教育部(Office of Special Education)というものが関わりましたが、全国的な教材に関しての基準というものもできました。それを「NIMAS(ナイマス)」(National Instructional Materials Accessibility)と呼んでおります。

私たちはこれからフォーマットを見つけようとしているわけであります。つまり出版社が、その本の構造並びにコンテンツ両方に関して DAISY XMLをNIMASのスタンダードにするということになったのです。現在ではすべての出版社はXMLでプリントしなければなりません。そのときにはDAISYの規格に合わせなければいけないことになっております。そしてそれをアーカイブにも適用しなければならないことにもなっております。

DAISYのXMLですけれども、これは構造とコンテンツだけであります。完全なDAISY版ということにはなっておりません。それを完全なDAISY版にするためには、ナビゲーションセンターが必要ですし、またシンクロナイゼーション・ファイルが必要であります。またオーディオファイルも必要になってくるしょう。ですから、いわゆるナショナルアーカイブの目標は、XMLファイルを生のデータとして入手するということです。そしてそこからどのような種類の、アクセシブルな商業用の出版物もできるようにするということであります。

DAISYのXMLのスタンダードですが、これは国際的な電子書籍にも適用されるようになっています。これをEPUB(イーパブ)というふうに呼んでいます。このDAISYのXMLはXHTMLとともにEPUBの規格にも含まれています。DAISYのナビゲーションモデルですけれども、世界中で使われるようになりましたが、これは非常に一般的になってきました。これもやはりEPUBの仕様の中に含まれています。ですから、K12に関しては、今、もしこのファイルが、ディスレクシアや視覚障害者のための組織のほうに提供されるのであれば、DAISYフォーマットで作ることができるようになるということであります。そしてこれらのXMLファイルを使って、DAISYプレイヤーで再生することができるのです。それから、別の組織が同じXMLファイルを使って、点字図書や拡大文字を作ることもできるのです。XMLを手に入れれば、どのようなものでも作ることができるからです。

アメリカは、日本ではぜひ避けていただきたいと思う大きな間違いを犯したと思います。そのミスの一つは、それぞれの学校そして州政府に対して、これらのファイルを獲得し、独自で教材を作ってくださいと要請したことであります。これは非常に大きな問題であったのです。学校の先生はどういうふうにXMLを使えばよいのかが分からないのです。やはり学生がその日から使えるような完全な本が欲しかったのです。先生が教科書を作ってくれるであろうと期待してしまったのが間違いだということです。組織がやはり技術的にそのXMLを処理するコンテンツを作る必要があったのです。そしてコンテンツを作った上で学校に提供しなければいけないということです。そうすることで、それぞれの学校に任せるのではなくて、やはりそれは集中的にどこかがやらなければいけないということです。これが一つの教訓です。

これから、EPUBのスペックと、そしてDAISYの改訂について、お話しをします。EPUBはDAISYのXMLを使っていますが、EPUBとDAISYの間に非常に緊密な関係が育ちつつあります。DAISYコンソーシアムは、まさにDAISY 4スタンダードの改訂中であります。この改訂は二つのステップで起こります。まず一つの部分、それはオーサリングとインターチェンジです。DAISYのXMLがアーカイブのために使われていますが、それは改訂によってよくなりますが、オーサリング・インターチェンジができるようになる、アーカイブの目的のために、それができるようになり、さらなる処理ができるであろうということです。

もう一つのスタンダードですけれども、それは流通=ディストリビューションに関わるものです。すなわち製品を人に届けるというような場合には、これはもしかすると、オーディオブックになるかもしれないし、あるいはマルチメディア、オーディオ、テキストがシンクロナイズされたものになるかもしれませんし、テキストだけになるかもしれません。そしてテキストだけであるならば、EPUBのスペックは、今のDAISY XMLよりも優れたものになります。つまり私たちはこれからEPUBのスペックとDAISYとの統一を考えています。つまり本を作って、それを流通させるときに、いろいろな流通フォーマットが可能になるようにということであります。マルチメディアになるかもしれないし、オーディオになるかもしれませんけれども、このディストリビューション・フォーマットを、それぞれのターゲット市場に合わせて選べるようになるということであります。

EPUBのリーディングシステムというのがあります。Sony Readerもあるし、それからKindleもありますし、バーンズ&ノーブル (Barnes & Noble) の Nook などもあります。今、いろんなものが出回っております。DAISY プレイヤーで、DAISY コンテンツも、E-PUB フォーマットも読むことができます。今、いくつかのシステムが使われておりますが、これからさらに DAISY のリーディングシステムで、すべてのフォーマットが読めるようになるというのが私たちの目標であります。

 基本的に最も重要なことですけれども、K12 の、いわゆる小学校、中学校、高校の学生に対して、もっと豊かな読書経験を与えたいというふうに思っております。DAISY のディストリビューション・ファイルというようなものが実現すれば、それが実現できると思います。子どもたちがだんだん大きくなっていきますと、それにつれてますますアクセシブルな EPUB の出版物が増えていくと思いますので、ますます活用できるようになるわけです。それらは、肉声ではなかったり、ベストな合成音声を使用していない場合もあるかもしれませんし、DAISY Pipeline を使用しないと、アクセシブルにならないものもあるかもしれません。けれども、今後、幼少期のころから大学を卒業するまでの間に、今よりももっと優れた図書を活用できるようになると思います。どうもありがとうございました。