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【世界の動向に視点をあてて】

グレゴリー・カーニー

西オーストラリア盲人協会アクセシブルメディア担当マネージャー

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こんにちは。私はグレゴリー・カーニーと申します。私は成人でありますけれども、かなり重度のディスレクアです。おそらくそれを認める数少ない成人ディスレクシアの一人だと思います。私は8歳のときにディスレクシアだというふうに診断を受けました。当時ディスレクシアの人々のための学校、特別な教育機関というのはアメリカではありませんでした。ロイヤル・ナショナル・インスティテュート・フォー・ザ・ブラインド(Royal National Institute for the World Blind)というイギリスにあった学校に通いました。その後アメリカにランドマークスクール(Landmark School)というのができ、1971年にアメリカのランドマークスクールに受け入れられました。

当時は卒業ができなかったので卒業とは言えませんが、最終的には、ランドマークスクールを出てメイン州の小さな学校に行きました。最初は全然ものが読めなかったのですが、3年生のレベルぐらいまで読めるようになりました。学校を卒業するときに、読みの能力テストを行いましたが、4年生のレベルの読書能力までしかありませんと言われたのです。そして、現在はDAISYユーザーとなっております。私はパースにある西オーストラリア盲人協会でアクセシブルメディアのマネージャーをしております。

資料2

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私のプレゼンテーションですが、まずディスレクシアとDAISYの使い方についてお話をさせていただきます。ほとんどが私の個人的な経験に基づくものです。かなり強い意見を持っています。ご存じない方もあるかもしれませんけれども、これは身体的な障害であって、文字を処理することができないという障害です。私の場合は、典型的な男性に見られるディスレクシアだと思います。文字が裏返しに見えてしまうとか、それからいろいろな障害が発生します。これは物理的と言いますか身体的な障害であって、知的な障害ではありません。しかし知的にも影響をしてしまうことがあると思います。

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ではDAISYをどのように使うのかということですが、いろいろな使い方があると思います。この障害は、例えば視覚障害のある人はメガネをかければいいという場合もあろうかと思いますけれども、メガネを取ったら車の運転をすることができないようなレベルというのがあるでしょう。ディスレクシアの場合も同じです。どんなに教育努力をしたとしても読むことができないというような重度のディスレクシアの人たちもいますし、それほどひどくないディスレクシアの人もいるわけです。それぞれにDAISYの使い方が違いますし、教育の段階によっても使い方が違ってくると思います。

ディスレクシアの人の小学校レベルのDAISYの使い方としては、読み書きを支援する、学習を支援するためにDAISYを使います。同時に言葉を聞いて、そしてそれを見ることができるということによって、DAISYがなくても読むという能力が高まるという、そういう形に使われるわけです。

私が小さいとき、若いときは様々な手法が使われました。実はディスレクシアを治すというふうに考えられたような手法が試されたわけですけれども、どれもうまくいきませんでした。私は個人的に最新のDAISYを使って教育をするという方法も、あまり効果がないのではないかと疑っております。しかし、それほどディスレクシアの重度が重くない人にはうまくいくかもしれません。

それから情報を入手するために使うというのが次のDAISYの使い方です。私の使い方もそうですが、おそらく成人でディスレクシアの人はほとんどそうではないかと思います。文字がどのように見えるかということは重要ではありません。DAISYの音声化されたものを使うというのは、映画に行って字幕付きの映画を見るようなものなのです。私は字幕付きの映画を見るというのは大嫌いです。必ず全部読み終わらないうちに消えてしまうからです。DAISYというのも似たようなものなのです。例えばDAISYのスピードをゆっくりして、文字をゆっくり読んでいくということであるならば、そんなことをしないで活字を読んだほうがいいのです。DAISYの使い方ということを考えますと、例えばDAISYの読みのスピードを、通常の人が読むようなスピードにまで上げてしまったら、私は読めないわけですから意味がなくなってしまうわけであります。したがって私が知っているディスレクシアの人たちは、やっぱり文字を読みながら、聞きながらということを非常に嫌がります。

私たちが欲しいというのは、テキストを例えば音声で聞いたときに絵が見えるという、そういうシステムにしてほしいということです。時には、大学で私もそうでしたが、活字の本と音声になったDAISYと両方を使いながら学習してきたのですが、通常の、大半のディスレクシアの人たちは活字の本も見ながら、DAISYの音声を聞くというやり方をしています。

しかし皮肉なことに、DAISYの最初のプレイヤーというのは、ディスレクシアのために、あるいはLDの学生のために作られたのですが、テキストは出てくるけれども絵が出てこないというシステムであったのです。それは、一番欲しいものがなかったわけです。そこで、ディスレクシアの人たちは、そういうような形でDAISYを使いたい、あるいは使いにくいということを知っていただきたいと思います。

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DAISYというのは治療法ではありません。人々は、まさにディスレクシアの人々にとって、ドアを開いて問題がなくなるという治療法を探しているのだと思いますが、DAISY というのはそういうものではありません。DAISYは一つのツールであって、私たちがものを読むことを助けてくれるツールであるわけです。魔法のような治療法ではありません。何か治療法があって、2~3年後にはディスレクシアの人たちも自分の好きなスピードで効率的に本を読むことができるようになるというようなことがあると考えるのは間違いだと思います。

いろいろなディバイスあるいは技術が試されてきたわけですけれども、そういう治療法というのは見当たりませんでした。ディスレクシアの人々であっても、いろいろな障害のレベルがありますから、この技術によって助けられる人もあるでしょう、しかしながら本当に根本的な治療法となって、教育の面における問題も解決されるということはないということを知っておいていただきたいと思います。

資料5

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次にお話ししたいのがベストプラクティスです。どういうDAISYがいいのかということですが、ぜひ絵の入ったものを作ってほしいと思うのです。テキストと絵の両方があるというのが一番いいものだと思います。しかし、本があるのと本がないのとどちらがいいかと言われれば、もちろん本があったほうがいいのです。肉声での録音というのがいいですが、非常に時間もかかりますし、お金もかかります。ウェスタン・オーストラリア大学で合成音声でのナレーションを使った教科書を使った例もあります。

もう一つ、ディスレクシアの人々にとっての問題は、かなりのメモを取らなければいけません。ノートを取らなければならないことがあります。ここにHumanWare社のVictor Reader Streamがあります。これを西オーストラリアで使用していますが、アメリカンカートリッジシステムというものです。これは、アメリカで使用されているUSBカートリッジなのです。このシステムはとてもいいです。音声をメモに取ることができるからです。私は大学で講義を聴いていてノートを取る必要がありません。大学の先生は「なぜノートを取ってないのか」と聞いてきます。でも私はノートを取っても、家に帰って自分で自分のノートを読むことはできないわけですから、そんなことをしても意味がないと先生に言うことがあります。でもこのような機械を使うと、レコーディングのボタンを押すと、私ができなかったメモ取りということをこの機械がやってくれるのです。

おそらく視覚障害者のためにも役に立つのではないかと思いますけれども、大切なのはページナンバーを打つということです。私たちはパースでいろいろな本を作っています。古いテープのマスター、それからDAISYのナビゲーションなどを使った手法も使っていて、ページナンバーを入れるということにしています。ページナンバーを入れるというのは、ディスレクシアの人にとっても視覚障害の人にとっても非常に重要なことなのです。なぜかと言うと先生方は「25ページから30ページまで、75ページから130ページまで読みなさい」という指示を出すことがあるのです。でも自分でメモを書いても、それは読むことができません。しかしこの機械ですと、ボタンを押せば、その印をつけることができます。ページの印をつけることができますので非常に便利です。ディスレクシアの学習者にとっては非常に重要だと思います。もちろん小説を読んだりするということには必要ないかもしれませんけど、教科書の場合にはぜひ入れてほしいと思います。

資料6

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さて西オーストラリアでこれをどのようにやっているかということですが、私どものところとSpeld Dyslexic Foundationと共同で「本を越える、障壁を越えて(Beyond Books Beyond Barriers)」というプログラムを実施しております。障害者用録音図書ライブラリーで、障害者や一般市民のためにDAISYの本を提供したいと考えています。ディスレクシアの人たちだけではありません。

録音図書のライブラリーには二つのセクションがあります。一つはパブリックドメインのもので、もう一つはいくつかの出版社と協定を結び、著作権で保護されている作品のものです。この録音図書の中には、自分たちがスタジオで作っているというものもあります。ほとんどがフィクションものですが、著作権で保護されているものも録音をしているのです。それから西オーストラリアの大学の教科書なども作っております。

こういうことをしていますが、いろいろな問題に直面することがあります。

資料7

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例えば、こちらのホームページ(www.guidedogswa.org)から、この「Beyond Books, Beyond Barriers」というところに行くことができます。これは検索のページです。6万本ぐらいサーチをすることができます。録音された本もありますし、録音されていないものも入っています。例えばTwainと検索しますと著者名Mark Twainが表示され、著作権があるものだと思いますけれども、「ハックルベリー・フィン(The Adventures of Huckleberry Finn)」を探すことができます。これ全部、製作されていないのです。「プロダクション」をクリックするとフォームが表示されますので、私たちのほうで肉声録音をする、もしくは合成音声録音をするといったことを入力します。Eメールで「あなたの希望した本は録音されましたからどうぞ取りにおいでください」と連絡がきます。リクエストを受けてから録音が終わるまでに48時間ぐらいかかるということになっています。これは著作権のない場合です。

資料8

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著作権がついている、まだ保護されている本の場合には、そうはいきません。まず障害を持っているということ、それからちゃんと登録していることがリクエストをする側に必要になります。しかしその要件を満たしてリクエストが出された場合には、私たちはそれを録音図書にすることもできますし、ユーザーの希望に沿って点字にもできますし、あるいは大型の活字を使って本を作ることもできるということになっています。そして希望した人に対しては「できましたよ」ということでお知らせすることになっています。

資料9

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できるときには、人間のナレーション(肉声)を使うことにしています。肉声録音ができないときには合成音声を使って録音をいたします。合成音声の技術ですね。オーストラリアではアップル社のものを使用しています。アップル社においては、いわゆる録音図書を作るにあたっては、無料でこのソフトを使わせてくれているからです。したがって中西部のアメリカの発音で読まれていたとしても、それはかまわないのです。お金をかけずにそれを利用しているわけですので。

それから配布するのは、インターネット経由で行なっています。ユーザーがダウンロードすることができるようになっています。それからCD-ROMでも行なっています。それからCD-ROMを作る場合には、2枚作って大学に提出します。そのうち1枚はその学生に提供し、1枚は大学で保管するようにしています。

資料10

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それから、本を郵送することもします。どの国にも似たようなシステムがあるかと思いますが、無料の郵送システムがあります。このようなカートリッジに昔のカセットテープに入れて、郵送します。これは実は古いのが1万箱あったものですから、それを流用しているわけです。この古い箱を修正してカートリッジ用に使います。オーストラリアの郵便局は、この黄色い箱が何であるかということをよく知っています。私たちも使っていますし、その他の団体も使っていますから、郵便局に対してこれは特別なものだということを教える必要もないということで、この古いものを流用しています。

最後に、オーストラリアでは、もちろん著作権法というのはアメリカのもの、おそらく日本のものともよく似ていると思いますが、基本的に変わらないわけです。そしてオーストラリアでは、著作権を使って、エージェンシーがやるよりも、出版社に対してDAISYの本を作ることを奨励するために使っていると言えると思います。出版社がDAISYの本を販売していなければ、DAISYの本を作ることができるのです。出版社に対して、点字本と同様にアクセシブルの本を作るように奨励しているのです。我々は、出版社が点字本を作っていないときに点字本を作ることが出来るのです。DAISYでも、出版社にDAISY版を作ってほしいということを奨励しているわけです。誰かが点字本あるいはDAISY版を作ってほしいと言ってきたときには、出版社にそれを作っているかどうかをまず聞くようにしています。

資料11

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それから政府のミスであったと考えられていますが、教育を受けていない人たちに録音図書を使ってもらうこともあります。オーストラリアのアボロジニの人たちは、公的な学校における教育を受けることが長い間できませんでしたから、その人たちのために録音図書が必要とされているのです。これはオーストラリアに特有の問題であり、オーストラリア特有の解決策でありました。以上です。