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意見交換会 「DAISY図書はどうやったら手に入るのか?」

井上芳郎
全国LD親の会・公立高校教諭

 

 こんにちは。ご紹介いただきました、井上です。全国LD親の会の事務局の仕事をしております。皆さんに配布した資料ですが、雑誌「ノーマライゼーション」8月号に書いたものです。後から別に配布しました一枚もので、両面印刷の資料がありますが、これはスクリーンにプロジェクターで映し出す内容になります。

 全国LD親の会は、実はつい2日前にNPO法人となったばかりですが、設立そのものは18年前になります。先ほどお話しいただいた山中さんは兵庫県の親の会、私は東京の親の会の所属です。全国各地に同様の親の会が50団体程あり、全国LD親の会に加盟しています。会員数は、約3千人になります。

 全国LD親の会として、障害者放送協議会に参画しており、その協議会の中に著作権委員会があります。その初代委員長は河村さんで、私が二代目を引き継いでおります。「放送」協議会とありますが、「放送」に係わることだけでなく、広く著作権全般に関し、障害者当事者団体、支援団体など20ほどの団体が集まり、主として文化庁著作権課や文部科学省さんや関係団体とも協議しながら、障害者の情報保障と著作権のあり方などについて、いろいろな活動をしております。

 はじめに、教科書のバリアフリー化についてお話しします。障害のある全ての児童生徒が「読める」教科書の実現を求め、著作権法の改正の提言をしてきました。障害者放送協議会・著作権委員会は1998年の設立で、全ての障害者の情報保障のために著作権法の改正が必要である、という要望をしてきました。かれこれ10年前になりますが、私は河村さんに呼ばれまして、「LD、学習障害についても情報保障のため著作権法改正の必要がある」ということを、はじめて聞かされました。それ以来、教科書など著作物のバリアフリー化のための著作権法改正について、要望を出してきました。

 細かい経緯については後ほどお話ししますが、昨年の5月と7月に文化審議会の著作権分科会の小委員会があり、「著作権法改正と教科書バリアフリー化は、セットで取り組まれなければならない」という意見を述べてまいりました。

 そして先ほどから話題になっている、「教科書バリアフリー法」ですが、本当は長い名前で「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」が成立し、9月17日から施行されることとなりました。この第7条では、「教科用特定図書等」すなわち、従来の点字教科書、拡大教科書、また、DAISYのようなマルチメディア対応のデジタル教科書も含まれますが、その整備充実をするため、「国の責任として必要な調査・研究を推進する」と書かれています。後ほど文科省の樋口調査官からもお話しがあると思いますが、このための予算措置として、来年度予算要求として出されると聞いております。

 それまでの経緯について補足いたしますと、1999年12月の著作権審議会答申において初めて、「学習障害者等に対し情報保障の要望があり著作権法上の課題がある」ということが明記されました。これは全国LD親の会や障害者放送協議会として要望書を出し、そう書き込んでもらったのです。その後はあまり進展がなかったのですが、2006年1月、著作権分科会報告書には、「ディスレクシア」の文言を書き込んでもらいました。そして去年10月の法制問題小委員会中間まとめにおいて、「DAISY」についても書き込んでもらいました。「LD、学習障害、ディスレクシア等にとってマルチメディアDAISYが有効であり、視覚や聴覚障害の人と同様に、著作権法上の配慮の必要がある」ということが書き込まれました。参考資料として神山先生の手記を、文化庁著作権課や審議会の委員の皆さんに読んでいただいたことも、効果があったのだと思います。

 そして、先ほどの法律ができたわけですが、実は、この法律には付帯決議がされています。直接の法的効力はないそうですが、今後、施策を進めていく上で、最大限尊重すべきというもので、今後に残された課題を考えるうえで重要なものと思います。衆参両院から同様の趣旨の附帯決議が出されております。

 この附帯決議で注目すべきは、以下の部分だと思います。「将来の教科書や教材のデジタル化に備え、すべての児童生徒が障害の有無や程度にかかわらず、快適に利用できる電子教科書や電子教材が開発されることとなるよう、継続的に調査研究を推進すること」とあります。つまり、特別支援教育だけの話ではなく、学校教育全般の場面で、デジタル教材を活用していきましょうということです。バリアフリーをさらに進めて、ユニバーサルデザインされた教材を目指すということになるでしょうか。

 「教科書バリアフリー法」の施行にあわせて、著作権法33条の2の一部が改正されました。このポイントとしては、教科書に使われている著作物、文字はもちろん図版、写真など含みますが、視覚障害、発達障害、その他の障害、要するに、障害種別は問いませんということで、通常の教科書の使用が困難な場合、「必要な方式により複製できる」ということになりました。最後の「必要な方式により複製できる」というところが重要です。

 点字にする、点字については著作物すべてについて今までもできますが、または拡大教科書、音訳の教科書も弱視の児童生徒用に複製できましたが、これからはそれらの方式に加えて、その児童・生徒にとって一番フィットする適切な方式で複製できるということです。これは今、まさに進められている特別支援教育の理念そのものだと思います。一人一人の個別のニーズに応じた教育を目指す、ということになります。

 ただし書きがあるのですが、「非営利の場合に限り」出版社等への通知のみで複製できるということと、営利目的の場合には補償金の支払いが必要ということです。 さて次に、今日のメインテーマである「DAISY図書はどうやったら手に入るのか?」ということについてです。将来性のある素晴らしいDAISY図書なのですが、いわゆるマルチメディアに対応したDAISY図書は、残念ながらまだ簡単には手に入りません。 そのための条件整備をしていく必要があります。学校で使う教科書については、通常の紙に印刷された教科書と同じようにDAISY化された教科書も、義務教育であれば無償で国が責任を持つべきであるし、義務教育以上の高校用教科書や専門学校や大学で使うテキスト類についても、1冊何万円もするのではなく、誰にでも手が届く値段で手にはいるように提供されるべきだと思います。

 実は私は今高校で教えていますが、学年が進むにつれ、授業で使う教材は教科書だけではすまなくなります。学習用の参考図書として一般の書籍、場合によってはDVD等の映像資料もありますが、今後は一般書籍の場合でもマルチメディアに対応したDAISY図書で提供される必要があると思います。

 さらに学校教育の外に話を広げますと、例えば、私など年をとってきて、最近では細かい文字が少々読みにくくなってきたのですが、高齢などの理由で通常の書籍が読みづらい人のためにも提供されるべきだと思います。
ではどうしたらよいのでしょうか。出版されたときに最初からバリアフリーの形式で提供されているのが理想ですが、現実にはなかなかそうはいきません。ですから、出版社あるいは、著作者になりかわって、第三者が読みやすい形式に変換していく、例えばDAISY図書にしていく必要があると思います。

 残念ながら、著作権法では、これは「複製」ということになり、著作権が働くわけですが、実はこれがバリアになっているのです。技術的には十分対応可能なのですが、法律がじゃまをしているわけです。著作権法などの抜本的見直しが必要だと思います。その始めの第一歩として、検定教科書に限ってではありますが、9月17日に著作権法が改正され道が開けたのだと思います。 先ほどの「教科書バリアフリー法」を読むと、出版社のデジタルデータ提供についても書かれています。教科用特定図書を作製する非営利団体等のうち、文部科学大臣が指定した者に対し、教科書出版社がデジタルデータを提供する「義務がある」とされています。

 本当はさらに一歩進めて、せっかくインターネット社会になってきたのですから、限られた財源や人的資源を有効活用するためにも、ネットワークを活用してデジタルデータを集中管理するシステムを作る必要があると思います。著作者側から見た場合でも、このような集中管理システムがあれば、安心してデジタルデータを提供できるのだと思います。

 アメリカの例ではNIMAC(ナイマック)、これはNational Instructional Materials Access Centerの頭文字を取ったものですが、このセンターのサーバに学校で使う教科書や教材などのデジタルデータが蓄積されているそうです。このデータは各学校の責任者がダウンロードし、個々の児童・生徒のために加工して使えるのだそうです。教科書出版社はデジタルデータでの納本義務があるとのことです。具体的にはPDFとXML、DAISY等の、あらかじめ規格化されたフォーマットによるデジタルデータでの納本だそうです。

 そして各学校では必要な児童生徒に対して、それぞれのニーズ応じて使うのだそうです。このシステム本格的にスタートして、3年目ぐらいだそうです。1996年のチェーフィー(Chafee)改正という、アメリカ著作権法の改正により可能になったということだそうです。日本でもこのようなシステム構築をしていけば、少ない予算でも最大限の効果が得られることになると思います。

 最後になります。今日の本題からずれるようにも見えますが、10月29日に「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」から報告書案が出されました。この案では、「日本版フェアユース規定」の導入について検討されているのです。

 「フェアユース規定」とは、「Aの場合はB」「Cの場合はD」など、限定列挙的に条件を定めるのでなく、公正な利用であれば条件を包括的に決めておき、著作物の利用や流通を促進しようというものです。私もこの専門調査会を傍聴してきたのですが、残念ながら商業利用を主に念頭に置いているようで、教科書のバリアフリー化等の障害者の利用については考えてないようです。本来はこちらが先ではないのかと思うのですけれども。

 現在、この報告書案についてのパブリックコメントの募集中で、17日午後5時締め切りです。誰でも意見を述べられますので、ぜひ皆さんからもお願いしたいと思います。 本当に最後になります。配付資料にはしなかったのですが、社団法人教科書協会のホームページを見ると、拡大教科書の作製に関係して、申請方法等について書いてあります。しかし、まだDAISY教科書に関しては何も記載がありません。いずれ近いうちに載るよう、お願いしたいと思っています。
時間になりましたので、以上で終わります。