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『はじめてのDAISY-自分たちのDAISYをつくってみよう-』

「ディスレクシアへの読みの支援-DAISYを使ってみよう-」キャンペーンの一環として行った事前ワークショップ

活動実録/記録:川本雅子(武蔵野美術大学非常勤講師)

『はじめてのDAISY-自分たちのDAISYをつくってみよう-』

日時:2008年9月23日(火/祝日)10:00-15:00

場所:港区立子ども家庭支援センター内 研修室

対象者:ディスレクシアの小学生、中学生12名

主催:財団法人日本障害者リハビリテーション協会

協力:NPO法人エッジ・独立行政法人福祉医療機構「長寿・子育て・障害者基金」助成事業 

企画:愛を運ぶ人、DAISYキャンペーン実行委員会

トータルファシリテーター:川本雅子(武蔵野美術大学非常勤講師)

【赤グループ】
ファシリテーター:中野千春
支援員:木村綾子

【青グループ】
ファシリテーター:永田絢子
支援員:渡辺悠子

【黄グループ】
ファシリテーター:志賀真智子
支援員:谷晴美

目的

読み書きに困難のあるディスレクシアの子どもたちが、DAISYの絵本づくりを通して、自分にあった「読みの手段」があるということを知り、DAISYの必要性を感じるきっかけの場とすること。

尚かつ、子どもたちが、少しの言葉から広がりを持った絵本の世界を表現できるように導き、表現することの楽しさに触れる。

ワークショップの大きな流れ

このワークショップでは、まず初めて出会った子どもたちの緩やかな関係づくりから始まります。

そして、DAISYの様々な絵本を鑑賞し、DAISYの構造を理解した上で、自分たちだけのオリジナル絵本づくりを行います。

提示した複数の言葉から、みんなで物語を紡いでいき、その物語にあった絵をグループのメンバーで協力して、絵の具と大きな画用紙を使って完成させます。

最後に、パソコンから流れる物語のナレーションを、子どもたちの声で録音し、自分たちだけのオリジナルのDAISY絵本をつくり鑑賞します。

スケジュール

10:00 まず、はじめに…
10:30 DAISYって何だろう?
11:00 DAISYの絵本をつくる(1)-お話をつくる-
11:45 昼食
12:30 DAISYの絵本をつくる(2)-絵を描く-
13:15 DAISYの絵本をつくる(3)-ナレーションの練習と録音-
13:45 もっと!DAISYを知ろう!
14:15 自分たちのDAISY
14:45 集合写真をとったら、おしまい

活動実録/記録

8:30頃

スタッフ集合。天気は晴れ。早速、準備を開始する。会場一面にブルーシートを敷きつめ、子どもたちが製作しやすい場所の確保と、絵の具や画用紙、筆などを準備した画材置き場を作る。そして部屋の隅には、DAISYを投影する大きなスクリーンを設置。

9:30頃

子どもたちが、お父さんお母さんに連れられて来場。受付を済ませる。緊張した面持ちでブルーシートが敷かれた会場に入る。子どもたち同士も初対面が多い。 

まず、はじめに…本日のスケジュール

10:20-

少し遅れて子どもたちが全員集合。お父さんお母さんとは、オリジナル絵本鑑賞の時間まで少しのお別れ。ブルーシートに座り込んで開始を待つ子、緊張からか、ぼーっと佇む子。簡単に挨拶を済ませ、手と手を繋いで大きな輪になる。バラバラだった空間がひとつになる。輪になったまま、その場にそっと腰をおろし、今日一日の流れを説明。

…自己紹介

10:25-

自分の名前と学年、好きなことを紹介し自己紹介を行なう。

まだ子どもたちは緊張した様子で、お友だちの自己紹介を静かに聞いている。「好きなことは…大事なものは命です!」いつのまにか、好きなものから大事なものに変わってしまったが、場をほっとさせる優しい自己紹介であった。

…名前を考える

10:35-

今日一日呼び合うニックネームを考える。ここだけの自分の呼び名。

少しずつ足を崩し、こちらの話を聞く子。「やだ?」とニックネームを考えることを拒否する子。「学校で呼ばれているの」と早速、ニックネームの由来を教えてくれる子。子どもたちは各々名前を考え、名札の紙に自分のニックネームを記入し首から名札をさげた。

…名前を覚える

10:45-

体を使って名前を覚える。自分の名前をジェスチャーで表現し、順番に名前を言いながらジェスチャーを行なう。

恥ずかしがってジェスチャーが決まらない子には、他の子どもやスタッフがニックネームから即興で考える。本人も恥ずかしそうに笑って、そのジェスチャーを受け入れる。

『「やまさこです」の隣の「よっしーです」の隣の「まりです」!』『「やまさこです」の隣の「よっしーです」の隣の「まりです」の隣の「青田です」!』ジェスチャーと名前を繰り返すことで、恥ずかしがっていた子も一緒になって体を動かす。

子どもたちの緊張した顔も、この頃には笑顔が多くなってくる。体を動かすことで身体の緊張も解きほぐされる。「やだ、やだ?」と、初めてのことになかなかスムーズに入ることが難しいA君もみんなの勢いで強引に巻き込む。この緩やかな関係を生みだす力がワークショップの威力である。

…グループにわかれる

名札の色から3つのグループに分かれる。このグループで今日一日の製作を行なう。

…絵本の導入/言葉を身体で表現する

10:55-

「朝/飛ぶ/おばあさん」「夜/泳ぐ/食べ物」など、グループに簡単な言葉のお題を出し、その言葉をグループのメンバーで協力して身体で表現する。

身体を使うことで、「おばあさん」という言葉ひとつとっても、どんなおばあさんなのか、腰が曲がっているのか、曲がっていないのか。「とぶ」どんな飛び方があるのか。など、言葉の広がりを体感してもらう。

入り込むことが苦手なA君もスタッフの声がけから、空を飛ぶおばさんの大役を担って、みんなに体を持ち上げられ、ニコニコの笑顔に変わっていた。

メインの製作の前に、このようなグループによる一体感を生む行程を入れることで、グループ製作の雰囲気も変わってくる。

DAISYって何だろう?…DAISYを見る

11:05-

日本障害者リハビリテーション協会スタッフによるDAISYの紹介。

DAISYの簡単な構造を説明し、「ねずみのよめいり」や、子どもたちのリクエストによる「ごんぎつね」を鑑賞した。初めて見るDAISY絵本に、子どもたちは真剣な眼差しで見入っていた。

DAISYの絵本をつくる(1) …お話をつくる

11:15-

お話を考えるきっかけとして事前にこちらで考えたキーワード「(時)朝/昼/夜」の中から1つ、「(動詞)とぶ/夢を見る/泳ぐ」の中から1つ、「(名詞)女の子/おばあさん/動物/大根/ピーマン/魚」の中から1つを選んで、物語を考える。

事前に主人公になるキーワードを与えることで、主人公のキャラクター性にも広がりを持ってお話を組み立てることが可能となる。

壁に貼ってあるキーワード表の前でキーワードを考える青グループと赤グループ。早速、下書き用紙の周りに集まり、お話を考える黄色グループ。

青グループは、スタッフが機転をきかせ、下書き用紙に絵を描きながらストーリーを考えていき、とても短い時間で考えたとは思えないくらい、長くて深いお話が出来上がった。

赤グループは、ストーリーを下書きする子、その後を追いかけて清書をする子、題名を目立つように一生懸命描く子、分担してお話を作成した。

黄色グループは、物静かなB君とBさんのアイディアを少しでも取り入れようと声がけをするが、なかなか彼らから言葉を引き出すことが難しい。しかし完成した物語を模造紙に書き移す作業でB君もBさんも大活躍する。

それぞれのグループの特徴が出始め、子どもたちは集中して製作に取り組み始めた。読み書きが困難とされる子どもたちも、抵抗無く物語を模造紙に書き綴っていく。

昼食

12:00-

グループのメンバーで昼食。今日初めて出会ったメンバーとは思えないくらい、子どもたちは仲良く昼食をとっていた。

子どもたちの反応がどうなることかと心配していたスタッフからも、この頃には安堵の表情が見られた。

その間、DAISY製作スタッフは、昼食も取らす忙しく動いていた。出来上がった3つのグループの物語をパソコンに打ち込み、ナレーションの録音に備えて、物語に区切りをつけていく。

DAISYの絵本をつくる(2) …絵を描く

12:30-

グループに大きな画用紙を2枚配布。1グループで2つの場面を描く。絵の具は短時間で乾くアクリル絵の具を使用。

鉛筆で下書きをしてから描くグループ。直接、絵の具で描き始めるグループと進行の方法は様々である。

青グループの生き生きした鷹は、下書きなしでグイグイ描いていたのが印象的であった。

なかなか集中してみんなとお話を考えることが出来ないでいた黄色グループのC君も、絵を描いて色を塗る頃には、率先して筆を握っていた。「誰か黄色をとってきて?」この場では、小さなアーティストたちの命令は絶対である。大人たちは小さなアーティストたちの手となり足となって絵の具を運び、子どもたちに言われた所をせっせと塗る。

その頃、別室にてDAISY製作スタッフは、文章にハイライトをつける作業にとりかかっていた。

DAISYの絵本をつくる(3)…ナレーションの練習と録音

13:15-

合計6枚の絵が完成。会場には物語から生まれた6枚の絵がぽつんと残った。

次に子どもたちは、それぞれの別室に別れてナレーションの録音を行なう。

事前にスタッフがつけた区切りに合わせて、ゆっくりと読み上げる。それぞれがどこを読むか相談して何度か練習する。

区切って読むことが難しく、一気に読んでしまう子。さっきまで他の子とふざけ合っていた子も、自分の順番になると真剣な顔でマイクに向かって言葉を吹き込む。

その間、別のスタッフが完成した絵を撮影する。

ストーリーを読み終え、自分たちの名前を吹き込む子どもたちの表情は、とても満足しているようであった。吹き込み終えたそれぞれの部屋からは大きな拍手が聞こえた。

もっと!DAISYを知ろう!…DAISYに触れる

14:00-

一通りのDAISY絵本の製作はこれで終了。ナレーションの録音を終えて、子どもたちは会場に戻る。

これからがDAISY製作スタッフには大変な時間がやってくる。子どもたちがDAISYに直接触れている間に、録音した声と文章を合わせDAISY化する。

別室にて、真剣な顔でパソコンと向き合うDAISY製作スタッフとは対象的に、全ての製作を終えた子どもたちは、少し肩の力が抜けたようであった。

グループの中で数人ずつパソコンのマウスを握り、文字上のハイライトを動かしてみたり、次のページにうつってみたり、物語を選択してみたりと、直接DAISYに触れた。

集合写真をとったら、おしまい

14:30-

しかし、ここで問題が起こる。予定では30分で完成するはずのDAISYが、なかなか出来上がってこない。DAISY製作スタッフは必死に追い込みをかけている。

鑑賞の時間に合わせて、お父さんお母さんも会場に戻って来た。急遽、最後に予定していた集合写真を鑑賞前に撮影するように変更。子どもたちはスクリーンの前で、自分たちの完成した絵を高々と持ち上げ、満面の笑みで写真におさまった。短い時間で子どもたちが描いた楽しい物語を彷佛とさせる絵や、朝この場に集合した時と活動を終えた今、目の前にいる子どもたちの表情の変化に、そこで見守る親たちにも何かを感じてもらえたに違いない。

自分たちのDAISY…完成したDAISYを見る

14:45-

待ち望んだDAISYのデータを持って、スタッフが別室から子どもたちの待つ会場に入ってきた。

まずは黄色グループのDAISY絵本「夢を見るおばあさん」が投影された。黄色グループで物静かだったBさんも、自分たちの絵本がプロジェクターに投影されるのをどきどきした様子で待ち構え、投影された瞬間、わあ!と目を輝かせ、後ろで見ている両親を振り返り、恥ずかしそうに微笑んでいた。朝、「やだ、やだ?」と言っていたA君も本当に嬉しそうに自分のつくったDAISYを見ている。

次にデータが完成したのは、青グループの「飛べよ速風」。主人公の鷹の速風が、伝説の魚グロンを探しに旅に出る。絵の中の速風がとても強そうだ。ナレーションを吹き込んだ子どもたちの声もしっかりとした口調で読みすすめられていく。自分のナレーションの順番がくると、子どもたち同士、顔を見合わせて笑い声がもれる。

そして最後のグループ、赤グループの「空を飛ぶペンギン」は、なかなか出来上がってこなかった。最後まで別室でこもって作業していたDAISY製作スタッフがデータを持って会場に入ってきた。しかし、読み勧められた最後の数行、子どもたちのナレーションが聞こえない。急いでパソコンをつなぎかえ、再度、再生。消えてしまっていたナレーションも無事、最後まで聞くことが出来、DAISY製作スタッフの顔にも安堵の表情が現れた。短時間でのDAISY化は製作スタッフにとって、とても大変な作業であった。赤グループの子どもたちも待ち望んだ分、喜びもひと塩で、恥ずかしそうに自分の声が聞こえると耳をふさぐ子。ぼくの声だよ!と後ろを向いて両親に合図する子ども。大きな拍手と笑顔で鑑賞を終えた。

-15:15

5時間に及んだワークショップは終了。

物語を考える、文字を書く、絵を描く、物語を読む、行程の多いこの活動の中で、何かが不得意だとしても、どの子も必ず何か得意なことで製作に関わることが出来た。不得意なことは得意な人が補い、グループで協力して絵本を完成させた。出来ないことが特化するのではなく、子どもたちにとって出来ることで自信となった活動であって欲しいと思う。

少しの言葉から子どもたちの豊かな感性が絵本となって表現され、集合写真に残った子どもたちの笑顔は、そんな自信に満ちた笑顔であったように思う。そして、この活動の一番の目的であった、この製作活動を通して、子どもたちは楽しみながらDAISYを理解することが出来たと思う。これをきっかけに、自分にあった読みの手段としてDAISYがその選択肢のひとつとなってくれることを望む。