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ディスレクシアへのDAISY の有効性-発表1

山中香奈
兵庫県LD 親の会たつの子副代表

ディスレクシアへのDAISYの有効性
-保護者と教師から見た子どもの変化-

 

 皆さん、こんにちは。兵庫県神戸市から参りました、山中香奈です。
LD親の会たつの子の副代表をしておりますが、今日はDAISY教科書を使っている一保護者の目からの話ということで、よろしくお願いします。

WISC-Ⅲという、知能検査の一種です。
言語性の検査と動作性の検査に分かれております。これは長男が小学校3年生のときの結果です。見ていただきますと、動作性の検査が低くなっているのがわかると思います。 動作性の検査でも、一番下の「迷路」が8歳10カ月になったときに、5歳10ヶ月程度。 紙と鉛筆を使う力、注意力、見通しを立てて行動する力が弱いということなんです。

長男の特性グラフ

動作性検査の結果

 こういう検査からわかる長男の苦手な部分は、「年齢に比較すると知識や語彙がやや少なく言葉の意味で混乱しているところがあります。読み書きの困難さがあり、時間がかかります。線の傾きを正確に捉えることが難しく、そのために、文字の形を正確に再現することが難しい様子です。短期記憶、特に、作業記憶が弱いため、その場で理解したり、作業を正確にすることが苦手です。考えを切り替えることがうまくできず、同じところで混乱していることがあります。」 このようなことを言われました。

検査から分る長男の苦手な事

 そのために、療育に通ったのですが、「かたつむり」とか「かまきり」とか「くわがた」とかというのは、1つ1つ、ふだになっていて、それを子どもにシールで貼らせて、「1つの単語だ」ということを教えた授業のものです。 奥のは、本当は横になっています。色がついているですが、最初は色がついてない、点だけのものです。

 上のほうがモデルになっています。 「Z」を書きましょうというふうに。 本来は回転していますので、「N」を書きましょうとなるのですが、長男はうまく「N」の傾きがわからなくて、一番下のところは反対に書いていたりします。 これを何年も練習していくと、できるようになるので、ずっとこのままではないですが、当時、「斜めだよ、右から下だよ」と言ってもわからないので、点に色をつけて、「赤から黄色だよ」「黄色からピンクだよ」と、線の傾きや方向を教えていきました。 先ほどお話ししたような点が苦手ということで視機能の検査をしました。 赤く囲んでいるところが低くなっているのが分かると思います。

読み書きの訓練

 視覚で苦手なのは図と地、視覚形態形成のところです。赤い部分だけを読みます。 「教科書の中で、先生が指摘したところを探して読むことが苦手だ。漢字や図形などまとまりとして把握することが苦手だ。」 これらが視覚検査からわかりました。

視機能視知覚検査結果より

苦手なところ

 簡単に言うと、長男がどういう子かというと、発達障害児です。特にLD、学習障害です。読み書き、計算。ですから学校の授業は大嫌いです。ついていくのが精一杯です。視覚認知、先程検査結果がありましたが、視覚認知にも困難があります。

簡単にいうと長男ってどんな子

 例えば目の前にあるティッシュを、「ティッシュどこ?」って探すこともよくあります。 消しゴムの場所、ノートの下に隠れていて半分出ていてもわからない。そういうことも多々あります。

 DAISYとの出会いですが、去年、2007年11月に横浜でLD学会がありました。 そこで長男が低学年の時、療育でお世話になった西岡有香先生との再会がありました。西岡先生より、DAISYの実証実験をする大阪医科大学LDセンター、並びにDAISYコンソーシアムの河村先生を紹介していただき、2007年より奈良DAISYさんにDAISYの教科書を作っていただき、使用を始めました。

DAISYとの出会い

 まず、年末に、息子にサンプル、「ねずみのよめいり」を見せました。 大喜びして、「もっと何か違うのないの?」とか、いろいろ言ってきました。インターネットを検索して、ダウンロードできるものはしました。いいのがあれば、教科書ではないですが、物語などを聞かせたり、見せたりしました。サンプル図書として、「ごんぎつね」がありました。「ごんぎつね」は4年生の教科書にも入っていて、同じものがサンプルとして手元にありました。それを教科書用に、奈良デイジーさんが作ってくれたので、読みやすくなって年初には手に入りました。

DAISYを使用しはじめて

 それを読むようになって家庭での変化は、当時、小4の息子ですが、パソコンへの興味も重なって、DAISY教科書を毎日のように使用し始めました。拾い読みだった朗読も、DAISYで学習した文はすらすら読み、文章の理解も進みました。なにより、国語は大嫌いだったのですが、嫌いではなくなったというんです。「ママ、学校の先生が読んでいるところがわかるようになった」とうれしそうに報告してくれるようになりました。

家庭での変化

 視覚にも困難があり、読んでいるところから目線が外れると、どこを読んでいるか分からなくなってしまうんですね。それがなくなったというのです。 先生が読んでいるところがどこかわからなくなっている授業をそれまではずっと受けていたわけです。とてもしんどかったと思うのです。ところが、DAISYの学習を初めてから、目線がはずれても、読んでいる場所を自分で探せるようになりました。このことは私以上に息子のほうがびっくりしているようでした。

 特に思うのは、息子が自ら学習するようになったということです。漢字が読めないし書けない状態での学習でした。今、5年生ですが、3年生の漢字も、あやふやな状態です。 でも、今までは、教科書が新しい単元に入ると、漢字に全部ふりがなを振る作業がありました。それは、親がつきっきりでやらないとできなかったのです。でも、DAISYを始めたら、その作業がいらなくなりました。これは驚きました。ひと言では親が楽になったということです。

 学校での変化は、学校の先生に、聞いて文章を書いてもらいました。読ませて頂きます。 先生が気を遣って、息子の事をAさんと書いてくれたので、そのまま読みます。 Aさんの学校での学習の様子について。小学校4年生当時教諭から。 「Aさんは、これまで、教科書を使って文を読むという活動に不安がありました。たとえば、その都度ふりがながないことや、目の当たりにした、文章の多さにとまどうことも多かったように思われる。4年生2学期の「ひとつの花」の学習では、家庭での事前学習や予習読みを行って授業に臨んでいた。国語の学習に参加することについては、そのようなサポートもあり、少しずつ意欲が生まれつつあった。気づいたことや思ったことを発表しようとしたのもこの時期である。しかしながら、読み取りや感想の記入はノートやワークシートに2行程度のことが多かった。内容も「~が・・していたね」という、話し言葉の文体での記入が多かった。3学期になって、家庭でDAISYによる学習導入後、「ごんぎつね」の授業を開始した。開始前から「いつから始まるの?」と、授業のスタートを気にする姿があった。これまでの国語学習ではなかったことである。本教材では、主人公のごんの気持ちに寄り添い、ごんになりきって、場面ごとに気持ちを理解することを狙いとしていた。児童はワークシートのごんの挿絵に、吹き出しをつける形で、ごんの気持ちを出し合っていった。Aさんが、これまでと明らかに違って意欲的だったのは、書き込みの量と発表回数である。事前の家庭学習で自信をもって教材にあたれたことによって、周りの児童が参考にできるような深い読み取りをいくつも発表できた。また、何度も発表することで、自分の意見が周りの児童の意見とつながったり、周りに広まったりする、発表や意見交換の楽しさにも気づくことができたようだ。個別の学習で自信を得て、それが認められるフィールド(=学級)があることで、さらに効果的な歩みになったのではないかを推察される。さらに、ワークシートへの書き込みも、たとえば、「~したときのお父さんの気持ち」をお父さんになりきって書きましょうという課題に対し、今までは問いと答えの不一致が多かったが、「ごんぎつね」の学習では、ごんの気持ちを想像して書くことができるようになってきた。作品に触れる(読み返す、聞き返す)回数が増えたことが、主人公に感情移入することができることにつながったのではないかと考えられる。」 以上が、4年生のときの先生の文章です。

もう一点。
 2年生当時の担任で、現在は特別支援コーディネーターを担当している先生からも文章をいただきました。 「3年前、小2のAさんは、国語の学習はもちろん、教科書を使用する教科において、個別の支援が必要だった。最初は、机間指導の際、漢字の読みを教えたり改行場所を指示したりした。しかし、本人自身のできる感にはつながらなかった。そこで、学習以前に漢字にふりがなをつけたり、行にシールを付けたりするなどの工夫をした。(このシールとは、ある行の最後に赤いシールを貼って、また次の行の頭に赤いシールを貼って、赤から赤へ、と飛びます。行をまたいで読まないための工夫です。)教科書全体の大きさが限られており、Aさんに適したものとは言えなかった。夏休みには、国語の教材をゆっくり読む声を担任が録音し、それに合わせて読む練習もした。この読みの練習は、はじめのとっかかりはとまどいが大きかったが、学習に慣れると自分で読めるという意識が芽生えたように感じた。今年度から、特別支援コーディネーターとして、Aさんに関わってるが、5年生の国語の教科書を自力で読む力がかなりついてきた。改行時におけるブレがなくなり、読めない漢字の割合が大きく減っていた。このことは昨年度からのDAISYを使った学習の効果だと考えられる。また、教科書以外の作品内の熟語を読める漢字から推測して読むなど、自分で考えて読もうとしていたことから、DAISYを使った学習で自分で読めるという自信を生み、自己肯定感が高まっているように感じる。どうしても「読む」ことから始めざるを得ない国語学習において、読むことに多大な時間と労力を使っていたAさんだが、今後はDAISYを使うことで読むことに使っていた精力から解放され、「読むだけ」のことから、読みながら作品を味わったり内容を把握したりすることに、Aさんの力が発展することを期待する。 また、読み取る力をつけることがコミュニケーションのモデリングとなり、社会性の向上にもつながることを期待している」という文章をいただきました。

 これは先ほどの、「ごんぎつね」のワークシートです。
「早く体を動かしたいな」とか、「ひぇ~」とか「逃げないで」とか、ごんのセリフを書き込んでいます。こういうことが今まで、質問と答えが一致しなかったような子どもが、本の内容、吹き出し、挿絵が全部一致しているんですね。

「ごんぎつね」ワークシートより

 「ごんぎつね」に関しては予習時間が長かった。年末からずっとやり、3学期に入ってからの授業でしたので、予習期間が長かった、お話しの内容が、本人が気に入ったこともあり、プラス要素が沢山あったせいかもしれないのですが、主人公の心情もしっかり理解できていました。このようなことは今まではありませんでした。 しかも、それは音読にも現れてきました。

 「かぎかっこ」のセリフが抑揚をつけて音読するようになりました。今までは拾い読みだったのですが、明らかに、劇的な変化がありました。 息子の変化として、国語が嫌いでなくなってきたとか、自分も本が読めるとか、もっといろいろな本が読みたいとか、漢字も大嫌いでしたが、ちょっと勉強しようかなと、意欲が出てきました。

 ここに挙げた以外にもいろいろあります。 ある日息子に、「DAISY使って、どう思った?」と聞いたら、「僕、DAISYあったら何でも読めるのにな。なんでもっと、いろんなDAISY、ないの?」と言われたんです。 私は息子に「何が読みたいんや?」と聞いたんです。「ハリー・ポッターが読みたい」と。 学校にも並んでいるらしいんですね。 私もハリー・ポッターを借りたくて、点字図書館に電話して、こういう状況でと説明したんですが、やはり借りることはできませんでした。

 また、ある日の話。
「DAISYやって、何か感じることあった?」と聞いたら、「僕は国語大嫌いやったけど、DAISYあったらな、先生の言っていることがわかるようになったんやで。先生の質問してることがわかるねん。ほんで答えられるねんで。僕はみんなみたいにはできへんけど、DAISYあったらできるんやなって思ったわ」と言うんです。

 私はこの言葉を聞いたとき、本当に救われたような気がしました。 私以上に、息子のほうがもっとDAISYに救われたと思っているかもしれません。 最後に、DAISY教科書のより効果的な使用方法のご提案です。 私達が使ってみて、こうやったらどうかという、あくまで一例として見ていただきたいです。 DAISY教科書は予習として使用します。物語などは、寝る前に、絵本を読み聞かせるような感じで勝手に流しておくだけでもいい予習になります。 最初は音を聞くだけでいいと思います。声に出して読まないほうがよいです。 ハイライト部分が目で追えるようになった頃には、ヘッドフォンで集中して黙読するといいと思います。

最終的に音読をしてみると、びっくりするほど上達していました。

 教科書には説明文も数多くあります。 奈良デイジーさんには教科書どおり作っていただくので、説明文も全てDAISY化してもらっています。 はじめの時は、そこをとばしてでもストーリーのおもしろいものを先にやらせたほうが効果的だと思います。 特に文章に引かれるような教材がぴったりだと思います。 最初は時間をかけて、ゆっくりじっくり予習したほうがいいと思います。 まだ学習していない漢字が盛りだくさんな状態でも、音から入っていく、聞くことだけなので、漢字が読めなくても構わないんです。 読んでもらっているという感覚でいいと思います。 そのうち慣れてくると、ハイライト表示されている箇所を子どもが目で追えるようになります。 「読み」が先に頭に入っているので、後で出てくる漢字を知らなくても読んでいるような状態になります。

 息子を見ていると、漢字が読めるようになってくると、音声を消して自分の声で読むようにもなります。逆に、教科書を開いて、音声で教科書の文字を目で追うこともします。 DAISYを使うことで、自分なりの学習が親の手を借りなくてもできるようになってきました。 高学年の子どもには、とてもありがたいことです。これはすごいことだと思っています。

 DAISYを使い始めて、去年の暮れからなので、約1年弱ですが、読める漢字が増えてきていることに気付きました。 漢字に興味を持ち、ドライブ中でも看板や標識などの漢字を読むようになってきています。それまでは多分、景色の一部でしかなかった漢字が「読むもの」と認識し、動いている車の中から、「あれ、○○倉庫だ」とか言ったりするようになりました。 DAISYの効果をさらに感じている今日この頃です。ご清聴、ありがとうございました。

息子の変化

DAISY教科書のより効果的な使用方法のご提案