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「DAISYとEPUBは読書のユニバーサルデザインをどう実現するのか」

河村宏
DAISYコンソーシアム会長

スライド1

 今ご紹介いただきました河村です。こんばんはと申し上げていい時刻ですね。今日は雨模様でこれから大荒れになるという予想のようですけれども、そういう大変な中をわざわざお運びくださいましてどうもありがとうございます。
これから1時間ほど時間をいただきまして、タイトルとしては「DAISYとEPUBは読書のユニバーサルデザインをどう実現するのか」という題でお話をさせていただきたいと思います。

 日本DAISYコンソーシアムという国際DAISYコンソーシアム(1)の日本の正会員にあるコンソーシアムがございます。今日この直前に日本DAISYコンソーシアムの運営委員会と総会とを開催いたしまして、日本でのDAISYの活動をこれから少し組織的にきちんと整備していこうという話をしたばかりでございます。
私は国際DAISYコンソーシアムの方の会長もしております。これは法人格はスイスにありまして、スイスの法人になっております。それと同時に日本DAISYコンソーシアムの1メンバーでありますNPO法人の支援技術開発機構(2)の副理事長を務めさせていただいています。

 前歴はと申しますと、東大の図書館に27年ほど勤めておりまして、大学の図書館員という仕事をしておりました。その中で今日もご出席いただいています静岡県立大学の石川准さんとお話をして、そこで目を開かれたというのが私の、特に情報についてハンディを持っている障害のある人々への関わりの初めでございます。
その後、国際図書館連盟(3)という団体がございまして、図書館の国際団体です。UNESCO(4)と連携してやっている団体ですが、こちらとしては情報を収集するつもりでそこで役員をして、その中の視覚障害者のためのサービスをするセクションというのがございまして、そこの役員になって情報収集していたんですが、いつの間にかだんだん古株になりまして、お前そろそろ世話役をやれということで議長にさせられまして。それが1990年、はるか昔でございます。1990年から5年間、国際図書館連盟の視覚障害者へのサービスの部門の連絡責任者をしておりました。

 その時期の最後の方で、いよいよ世の中がパソコンの機能がものすごくよくなって、それからデジタルメディアの機能がよくなって。そういう中で、カセットテープがいつまでもつんだろうという疑問が出てまいりました。そのカセットテープがなくなると、次にそんな簡単に一朝一夕にそれまで蓄積してきた録音図書がスポンと入れ替わるわけではありません。また作り直さなければいけない。
実は大昔に大変苦労した経験がございます。それはオープンリールテープからカセットテープに移る時期に10年かかったという国際的な経験があります。その苦い思い出というのを世界中で持っていまして、そのときは大変だと。カセットテープに切り替えながらオープンリールテープのサービスを継続しなければいけない。倍の手間がかかる、倍の資産が必要になるということでした。
それを何とか、今度切り替わるときにはスムーズにしたい。また切り替わるときには、今までできなかったことをもっとよくできるようにしたい。それを、災い転じて福となるではありませんけれども、どうせ切り替えなければいけないものならば、そのときに国際的な規格を統一して、今まで夢だった、ああいうこともしたい、こういうこともしたいということを盛り込んで、新しいものに切り替えよう。そういう議論をいたしました。

 その結果が1995年から始まりましたデジタル録音図書の国際標準化という仕事です。私が国際図書館連盟の仕事をした最後の公式の仕事です。トルコのイスタンブールで大会を開いたときに、あと2年間でデジタル録音図書の国際標準を作ろう。それまで世界中のそれぞれの国々で、てんでばらばらにデジタル化するのは待ってくれと。そういうお願いをしました。そしてそれから全力疾走でその2年間の間に、みんなで走ったんですけれども、ものすごい勢いで走りまして、今のDAISYの原形を作ったということであります。
その際に、世界中の約1,000人の視覚障害者の方にモニターをしていただきました。日本からも大勢、点字図書館経由でモニターの参加をしていただきまして、実際にDAISYのプロトタイプで本を読んでいただいて、その結果を感想をもらうということでした。その際にはシナノケンシさんに大変なご尽力をいただき、そのモニターとなる機械を500台設置いただきまして、今ではおそらく博物館ものだと思いますけれども、それを世界中30ヶ国に配りました。大陸で言うと全部の大陸に配りました。そして先進国だけではなくて途上国の人たちも含めて新しいデジタル規格に移行するんだと。そういう取り組みを世界中でみんなかなり熱い思いで繰り広げたのです。
そのときに今、厚生労働省の方が自覚しているかどうかちょっとよくわからないのですが、当時の厚生省はテクノエイド基金というのがございまして、そのテクノエイド基金の助成があったからこそ、世界中にそのプロトタイプを配る、そういうシナノケンシのご尽力もいただけた。
そしてその結果、ものすごくたくさん注文がいろいろつきましたけれども、でも方向としてはこの方向でいこうということで、モニターをしてくださった皆さんから、これが目指すべき方向だという完璧な合意をいただけたということがございました。
それが今のDAISYとEPUBに至る前史でございます。

 電子書籍ということで、今日もブックフェアをやっていますよね。この中には何人かブックフェアからいらした方もいらっしゃいます。まさにフィーバーだと思います。電子書籍がフィーバー。これは、私は当然だと思うのですが、私どもDAISYの関心というのは、やはりみんなが新しい技術によってできる、英語でフィーチャーリッチ(feature-rich)と言うんですけれども、障害者のいろいろな思いが実現できるような、そういう機能を持った読書、こういうものが本来あるべきものだと。
最先端の電子技術を使うからこそ、今まで読書したくてもできなかった人たちが、みんな参加できる。そういう読書ができる電子書籍でなくて一体何なんだろう。今のフィーバーの中で私とDAISYに関わる仲間たちは、今、疎外されている読書がこれからどうなるのか、そちらに強い関心を持っているわけです。
おそらく今日この会場にいらした方の多くの方が何らかの形でこれまでの紙の図書、あるいはインターネットでもそうですし電子書籍でもそうですが、障害のある方、あるいはさまざまな読書に困難を持つ方たちが十分に参加できない、そういう読書機会というものがこの電子書籍でどう解決されるんだろうかということに関心をお持ちなんだろうと思います。私もその一人であります。

どんな人がこれまで疎外されてきたのか、もう一回振り返ってみたいと思います。

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 印刷物を読めない全盲の方。視力を通じて読めないということですね。それから多少見えるけれども大きな文字やカラーコントラストがまぶしすぎないとか、目がチカチカしない、そういう疲れないものでないとなかなか読めない。あるいは視野が限られていて、ただ大きくしても読めない。さまざまな弱視の人々。
それから視力は視力検査をするとある。でも視角から情報を得てそれを理解するということがとても難しいディスレクシア、あるいは識字障害と呼ばれる方々。
人口的には、いわゆる医学的な分類では、視覚障害の方は先進諸国で総人口の0.1%くらいという統計があるようですね。ただこれは加齢による視力の低下というのを十分に含んでいないと思いますので、65歳以上人口がいずれは3,000万人を超そうという時代では、もっともっと大きな率の人たちが、この視力の問題で読めないという人になっていると思います。
では、視力はあっても読むことが難しい識字障害、ディスレクシアの人たちはどれくらいいるんだろうということなんですが、アフリカとかヨーロッパの統計では少ないところで1%、多いところでは10%と言っています。ですから1%から10%。1%だとしても日本では120万人。10%だと1,200万人。ものすごい数の人たちです。
それから私の母もそうだったんですが、パーキンソン病になりますと筋肉の動きがいろいろ難しくなってきます。目の動きについても難しくなります。つまり読むのが難しくなるわけです。パーキンソン病の方たちにかなり意識的にDAISYを勧めたデンマークの経験では、多くのパーキンソン病の方がDAISYによってもう一回読書することができるようになったという報告があります。日本でももう既にそういう取り組みを始めておられる方はいるかと思いますが、おそらくパーキンソン病の多くの方に読書は嫌われるという、これまでの状況があるとすれば、ぜひ近くにいる方でパーキンソン病の方がいらしたら、耳からの読書、あるいはDAISYによる読書、マルチメディアによる読書、いろいろな方法がありますので、そういったものを声をかけていただくといいのではないかと思います。

 あと、私がここ数年特におつきあいをしております精神障害の方たちは、何らかの形で薬を飲むことが多いです。薬を飲むと集中が難しくなるんですね。そういうときにどうしたらいいのかということなんですが、私のおつきあいしている「べてるの家」(5)という北海道の浦河町の自助グループの皆さんは、DAISYだったら集中できるということをおっしゃっています。
それから、本を持つことが難しい方。これはいわゆる両手が不自由な方とか寝たきりの方とか、いっぱいいらっしゃいます。そういう本を持つことが難しいからなかなか読書できないという方も、実はたくさんいるんですね。特に、日本もそうなのかもしれないんですが、私がモンゴルに行きましたときに、モンゴルにJICAから派遣された専門家がいる、重度の肢体不自由の子どもたちの施設を訪問しました。6年生くらいの女の子がいました。脳性マヒなんですね。本が持てないんです。「教科の学習はどういう教科書を使っているんですか?」と聞きました。そうしたら、「教科の学習はできないんです」という答えでした。「何でですか?」と。「教科書を持てないので教科の学習はできないんです」ということでした。私は愕然として、たまたまそこで持っていたパソコンに入っていたDAISYを見せました。
今、パソコンは肢体不自由の方が使う方法はいっぱい確立していますので、どこか体の一部が随意で動けば、パソコンがコントロールできますよね。それとDAISY図書を組み合わせればその子が読めるのではないかということで、何とかしたいなというふうに言われております。これもできるだけ早く、日本からそういう技術を移転するのはそんなに難しいことではないし、ノウハウとほとんどのソースはただで手に入る。ソフトだけでよければ手に入るし、またハードウェアが必要であれば、いいハードウェアがそんなに高くなく売っています。その子どもたちの学習というのが早くスタートできるのになと思って帰ってきた次第です。

 あと、日本ではあまり出てこないんですが、そこのコミュニティの支配的な言語の読み書きができないので、いろんな注意書き、例えば薬のラベルに書いてある注意書きとか、学校の教室で配る教科書が特定の言語のものだと読めないという人たちが、多言語国家にはものすごくたくさんいます。特に私の経験では南アフリカ。アフリカでも一番の経済力を持っていると言われながら、南アフリカは11の公用語があって、その11の公用語以外にも何百も言葉があるんだそうです。公用語を持つ子どもですら教室の中では自分の読める言語の教科書を持っていないという子が圧倒的に多数であると聞いています。
今、日本でブラジル人の子弟でブラジル人学校が経済危機で閉鎖になって、一般の教室に通うブラジル人子弟がいるんですね。そこで起こっているのは、DAISYの教科書を使わせてもらえないだろうかということなんです。今の著作権法ではできないんです。DAISYの教科書だったら日本語の漢字仮名まじり文がよくわからなくても、耳から聞き、文章を読めればよくわかるのに、という声がたくさん聞かれます。
つまりその言語の学習機会に恵まれなかった人々、あるいは非識字者の人たちにも情報を伝えられる。こういった人たちが今までの読書に疎外された人たちだと思います。
電子書籍というのは、そういう人たちの思いを実現できるものであってほしいと考えるものです。

スライド3

 先ほど、意外と多いんですよと言った読み障害に関しては、映画が好きな方はこの左右の二人がわかると思うんですが、写真に出ているのは、右側がトム・クルーズで左側がオーランド・ブルームです。二人とも、自分が読み障害であることを公表している俳優さんです。また支援もやっています。真ん中の人は投資証券関係に詳しい方はハッと思うかもしれません。チャールズ・シュワブという、アメリカに行くとどの都市にも支店のある投資証券会社の社長さんです。この方はやはりディスレクシアで、今画面に出しているのは、イエール大学に「ディスレクシアと創造性」というセンター(6)を寄贈したんですね。そういう、ディスレクシアの学生を高等教育で支援するという活動をやっています。スタンフォードにも同じようなセンターを寄付しています。随分あちこちでやっているのだと思います。
日本の大学では読みに障害のある学生さんの支援というのはまだほとんど行われていないですね。そもそも入学試験のときにペーパーテストで完全に弾かれてしまいますので。そこを特別の理解、何が理解できているかをきちんとはかるという、ペーパーテストではない方法を使わないと、そこに入れないんです。

 ではDAISYはどのように、読みから疎外されている人々にアプローチしているのか。このことを次に申し上げたいと思います。

スライド4

 DAISY、これはアブリビエーション(略語)ですので正確にはDigital Accessible Information Systemと言います。電子書籍の一つのフォーマットで、アクセシブルな電子書籍のフォーマットであると言えると思います。
DAISYコンソーシアムという、スイスに籍を置く国際非営利団体が無償で提供している技術スタンダードです。
XMLをベースにして、アメリカの標準規格でありますANSI/NISO Z39.86の2005というのが最新のものです。一つ前のバージョンは2002です。さらにその前のバージョンはDAISYの2.02と呼んでいます。今、録音図書として日本全国で使われているもののほとんどがDAISYの2.02規格のものです。両方共通して、2.02はXHTMLのものを使っています。機能としてはほとんど同じです。 すぐれたナビゲーションがあります。これは目次とかページとかで必要なところにすぐにいけるナビゲーションというものがあります。それからテキストを音声で読み上げてくれる。これは人間の肉声を使うこともできるし、あるいは肉声を入れるのが大変だという場合はシンセサイザーで読み上げることもできます。両方入り交じっている場合には、プレーヤーの設定によって、テキストがあって肉声が入っていないところはシンセサイザーで読み、肉声があるところは肉声で読むということを自動的にやることもできるものがあります。
それから画面にテキストが映るタイプのものですと、読み上げている部分をハイライト表示します。「カラオケのように」と言ったらわかりやすいかと思います。今そこを読んでいるよということを画面の上でも表示をします。
そして文字の拡大・縮小、色の反転、スピードを速くしたり遅くしたり。速くするのが視覚障害者の方に好まれます。遅くするのは認知に障害のある方に好まれます。認知に障害のある方でも速い方がいいという人もいますから一概には言えませんけれども、やはり遅くできて速くできる、両方が必要です。
このようなDAISYの特徴をとらえまして、米国では調査研究の結果、障害者用の電子教科書の標準形式というものを連邦政府が決めています。略称、「NIMAS(ナイマス)」と呼んでいます。これは中身はDAISYそのものです。DAISYなんですけれども、National Instructional Materials Accessibility Standardという名前をつけた。違うものではありません。DAISYを参照していますので、DAISYがアップデートされると自動的にNIMASもアップデートされるという仕組みになっています。
これを幼稚園レベルから高校までのすべての教科書の出版社に、このNIMAS形式の電子ファイルの提供を義務づけています。ですから今現在、ケンタッキー州のルイヴィルというところにあります「American Printing House for the Blind」(7)という団体がありますが、そこにNIMAC(ナイマック)、NIMASの最後のスタンダードのSがCに変わるんですね、NIMACというセンター(8)があります。そこのサーバに全部アップロードされています。そこから手続きがありますけれども、ダウンロードして使えるようになっているという仕組みです。
このようにアメリカでは教科書の標準フォーマットとして正式採用されてもう何年かたっていまして、ほぼ行き渡っているところです。
現場でどのくらい使われているかという問いですけれども、それについては中間でサービスする団体が二つありまして、必ずしもNIMACからダウンロードして使うということが主流ではありません。ただその中間のサービスをする団体がNIMACにあるものをダウンロードして作って提供するということができるようになっています。
これらのDAISYのコンテンツというのは、パソコンやiPadのほか、たくさんの再生専用機、あるいは携帯電話のアプリケーションなどで使われるようになっています。

 ここで少し具体的にどんなものかというものをご覧いただきたいと思います。その上でDAISYのアクセシビリティがどういうものかを評価していただければと思います。

スライド5

 ここでDAISYのデモンストレーションを、先ほど前の方で自己紹介をしておりましたNPO法人支援技術開発機構の濱田さんにやっていただきたいと思います。

濱田●それではDAISYのデモンストレーションを幾つか行います。
最初に、AMIS(アミ)という無償で誰でもダウンロードすることができ、リハビリテーション協会のホームページからもダウンロードができますが、AMISというソフトを使って、国語の教科書に出てくる「ごんぎつね」の再生をしてみます。

(再生音)ごんぎつね。ある雨のことでした。2、3日雨が降り続いたその間、ごんは外へも出られなくて穴の中にしゃがんでいました。「停止」

濱田●これは国語教科書で、人が録音をしたものです。前のスクリーンには文字と画像が表示されています。センテンスごとに黄色くハイライトが出て、読み上げの声がハイライトしている部分を読み上げています。
文字を大きくすることができます。5段階まで拡大することもできます。

(再生音)ごんは、ほっとして穴からはい出ました。空はからっと晴れていて「停止」

濱田●コントラストを変えることができます。今、背景が濃紺で文字の色が白で、ハイライトしている文字が黒文字に黄色のハイライトの画面になっています。背景は薄いピンク色で文字の色が黒で、黄色のハイライトの文字になっています。
ディスレクシアの人には、後ろの背景に少し薄い色がついている方が見やすいという方が多いです。今、4つだけAMISに登録されているコントラストがありますが、それ以外にも、図書を作るときにいろいろな色の組み合わせを変更することができます。 次に、社会の教科書を開いてみたいと思います。

(再生音)明治維新から世界の中の日本へ。黒船の来航。1853年、浦賀、神奈川県の沖にペリーが率いるアメリカ合衆国…「停止」

濱田●この文は横書きで教科書からとったものです。教科書に入っているのと同じ画像が入っています。画面の左側には見出しが階層構造になってついています。一番大きな見出しが「明治維新から世界の中の日本へ」という見出しで、その中に幾つか小見出しが入っています。

(再生音)黒船の来航。2、新政府による政治。3、条約改正と中国、ロシアとの戦い「停止」

濱田●小見出しの中にさらに小見出しが入っています。

(再生音)3、条約改正と中国、ロシアとの戦い。不平等条約の改定を調べる。中国、ロシアと戦う…「停止」

濱田●それぞれ再生をしたい見出しを選んで、その中でセンテンスごとのナビゲーションができます。

(再生音)19世紀末になると欧米諸国はアジアの国々に進出し、工場や鉄道などをつくって大きな利益を得ようとしていました。日本の不平等な条約を…。19世紀末になると欧米諸国は…「停止」

濱田●今、1つセンテンスを巻き戻しましたが、再生をしているときにもう一度聞き直したいというセンテンスがあったときには1つ前に戻って再生をすることができます。また、読みとばしをしたいときには早送りをしてセンテンスをとばすこともできます。見出しとセンテンスのナビゲーションができます。
それ以外にページ番号がついている場合は、ページを使ってナビゲーションができます。この本にはページ番号は録音していないんですけれども、ページの番号が出てきてそれを検索するか、もしくはページ番号を入力してそのページに飛ぶことができます。

(再生音)ページへ移動。8、2、ダイアログ終了、停止

濱田●ちょっとページ番号の読み上げがないのでわかりにくいかもしれませんが、82ページにジャンプしました。 次に、数式の入ったDAISY図書のデモをします。これは英語の図書なんですけれども、英語で再生をします。GHプレーヤーという再生ソフトを使います。

(再生音・英語)

濱田●画面上では数式が出ていて、それを読み上げているんですが、数式の要素1つずつをハイライトとしてそれを合成音声が読み上げながら再生をしています。
表の入ったDAISY図書を簡単に。こちらも英語の図書です。

(再生音・英語)

濱田●表が縦横5列ある層に入りましたというものです。

(再生音・英語)

濱田●このように表は放っておくと上から右に、一番上の行をまず左から右に読んで、次の列を左から右に読んでというように、左上から順々に読んでいきます。DAISYフォーマットでできていれば、表の中を上下左右に自由に動いて読むことができます。 左の列を読んでみようと思います。

(再生音・英語)

濱田●このように4種類の星があります。

(再生音・英語)

濱田●表の中を今読みましたが、太陽からの距離がそれぞれの星に関して書いてあります。このように縦・横・上下・左右に表の中を移動することができます。
最後に「EasyReader」というプレーヤーを使って、DAISYフォーマットからEPUBに変換した、EPUBボックスを開いてみます。EPUBなので音声は入っていないので、合成音声で読みます。

(再生音)あなたの大切な家族の一人が万一……、家族がガンになったとき。あなたの大切な家族の一人がガンと診断されたとき、あなたの心には何が起こるのでしょう。

濱田●このEPUBの図書も左側に見出しが階層構造で出ていて、それぞれセンテンスごとにハイライトをしながら構成の下の読み上げが入っています。ページ番号も入っています。
以上でデモを終わります。

河村●すみません、今、最後のケースですけれども、EPUBをDAISYからコンバートして作ったと言いましたけれども、どういうふうにして作ったか、ちょっと説明してくれますか?

濱田●まず、最新の「イージーパブリッシャー」というソフトを使って、DAISY3フォーマットの図書を作って、それをPipelineという変換用のDAISYコンソーシアムが無償で提供しているソフトを使って、DAISY3からEPUBフォーマットに変換をしました。

河村●確認したいんですが、DAISY3形式のDAISY図書があって、テキストが入っていれば、それはPipelineを使うと全く自動的にEPUBに変換できるということでいいんですね?

濱田●はい、そうです。

河村●ありがとうございました。それでは次のページ。パワーポイントの方に戻って、次は「DAISYとEPUB」というところです。

スライド6

 これからDAISYとEPUBの関係についてお話をいたします。EPUBは、実は前世紀末、1990年代の後半から作られているんですが、当時はオープン・イーブック・フォーラム(Open eBook Forum)という団体が、今のEPUBに当たるものの開発をやっていました。今、そのオープン・イーブック・フォーラムはインターナショナル・デジタル・パブリッシング・フォーラム(IDPF)というふうに名前が変わっています。
DAISYコンソーシアムは、このオープン・イーブック・フォーラムができるときに、最初から参加をしております。ですから私はこのオープン・イーブック・フォーラムがどういうふうにして作ろうかという議論をやっている頃からIDPFの会議には参加をしておりました。
当時日本では、電子書籍コンソーシアムという経産省のプロジェクトがありまして、実証実験というものが行われていました。この実証実験のウェブサイトに、このオープン・イーブック・フォーラムの模様が当時伝えられたりしていたんです。ですから電子書籍コンソーシアムもオープン・イーブック・フォーラムの動きを横目に見ながら実証実験をやっていた。
私自身は、この電子書籍コンソーシアムのウェブサイトは今もありますけれども、そこに、高齢者と障害者に優しい電子書籍を目指すんだという表現が書いてありましたので期待をしていたんですけれども、結果的には今現在、日本の電子書籍のフォーマットは必ずしも高齢者と障害者にアクセシビリティを保障していない。もう一方のアメリカでスタートしたEPUBはDAISYの技術を取り込みながら高齢者と障害者、あるいはもっと広く読みに障害のある人たちにも手の届くような機能を持っている。
この落差はどうしてなんだろうといつも思いながら来たわけですが、やっと日本でも最近、JEPAを中心にEPUBを日本語対応にしようという積極的な動きが起こってまいりましたので、大変歓迎しているところであります。
EPUBはDAISYと同じXMLをベースにしたオープンスタンダードです。そしてDAISYはこのEPUBの早期から参加をして、どこに貢献したのかということなんですが、EPUBのファイルをお手元にお持ちで、それがプロテクトがかかっていないものであれば、次のようにするとすぐ確認がとれます。ファイルの拡張子がepubとなっているものをzipにしてください。で、unzipしてください。そうするとNCXというファイルが出てまいります。このNCXはDAISY3のNCXと全く同じものなんです。つまりナビゲーションについてはEPUBはDAISY3のものをそのまま使っております。それからアクセシビリティ。これもDAISY3のものをそのまま活用しています。
EPUBの方はこれから日本語対応するために改正をするんですけれども、そのワーキンググループの中には大体JEPAの提案は受け入れられるという見通しがついたと聞いています。そしてそれを今、漢字を使っている日・中・台・韓、この4つの国と地域で使えるものにしていこうという共同の動きになっている。ということで大変歓迎をしているところであります。

スライド7

 「EasyReader」という、さっきデモをしてもらったんですが、「EasyReader」というDAISYプレーヤーは、EPUBの再生もできます。そこまで互換性が高いんですね。DAISYプレーヤーはちょっと複雑なので、DAISY3対応のプレーヤーをEPUBが再生できるようにするのはそんなに難しくない。それが逆に、EPUBのプレーヤーを開発されている方がもうちょっと手を伸ばしてDAISY対応にするのもそんなに難しくないと言えると思います。
そして先ほど説明してもらいましたように、DAISYのパイプラインというオープンソースのソフトウェアで、DAISYからEPUBに自動変換ができる。変換を保障しています。DAISY3形式で作ってあれば、EPUBに自動変換できます。
それからDAISY編集ツールの幾つかは、EPUBのソースファイルとして読み込むことができます。これはDAISYを製作するときにとても便利なことです。テキストファイルから始まったり、あるいはPDFからテキストを取り込んでやると大変なんですね。でもEPUBであれば最初からNCXがありますので、それをスムーズにDAISY編集ツールで読み込んで、肉声をつけたり、DAISYにもTTSをつけたりすることができます。

スライド8

 そしてEPUBの日本語対応は、日本電子出版協会がIDPFに加入してEPUBの日本語要求仕様案を提案をしています。そしてその中で縦書きと横書き、禁則処理等の対応が図られる。これがEPUBのたぶん2.1ということで、遅くとも本年中には対応はされるというふうに期待をしています。
もしここにJEPAの関係の方がいらして補足していただければ幸いだと思います。
DAISY4の方も今、改訂中ですので、日本語対応も同じ方式で実施できる見通しを持っています。
なぜこういうふうに両方の対応が同じ方向でいくというふうに楽観しているのかということの根拠を一つ申し上げますと、もともとEPUBとDAISYというのは技術的に非常に互換性が高い。その上にIDPFで今、会長を務めておりますのはDAISYコンソーシアムのスタッフでありますジョン・カーシャという人なんですね。IDPFの会長ですけれども、彼はDAISYコンソーシアムのスタッフでもあるんです。つまり両方に責任を持っているということが一つ。
それからIDPFが正式にワーキンググループの責任者を決めました。規格改訂の責任者。それはスウェーデンにおりますマーカス・ギリングという人で、これはDAISYコンソーシアムの技術主任で、DAISYコンソーシアムの規格を改訂するワーキンググループの中心でもあるんです。
つまり両方のワーキンググループは共通するチェアを持った。これは単純に秘密でも何でもありません。それを承知で両方ですり合わせをしようという意図があって、同じチェアにしているということでございます。

 ここで少し、組織の関係を図解したいと思います。

スライド9:関連団体の関係

スライド9:拡大図

スライド9:テキスト

 日本DAISYコンソーシアムというのがまずありまして、国際DAISYコンソーシアムの正会員で、決定権、投票権を持つ会員になっています。日本DAISYコンソーシアムのメンバーが先ほど最初に正会員として紹介がありました4団体が、投票権を持つ、DAISYコンソーシアムの方向を決めるときに発言権を持つ団体です。そしてDAISYコンソーシアムは今、規格の改正をして、今度はアクセシビリティの拡充と各国言語の対応等の改訂作業をDAISY4を作るということで進めております。

 その中で特徴がありますのは、一つは手話をサポートするための動画の対応です。この動画の対応というのは、スウェーデン政府の中にあります、日本で言いますと久里浜にある国立特殊教育総合研究所に当たるんだと思うんですが、SPSM(9)という団体がスウェーデンにあります。これは国の文部省の機関で、そこでは手話の教科書を作っているんですね。手話の教科書を作るときにDAISYが一番よさそうなので、DAISYに手話の対応をしてくれないかということを、DAISYの場合は規格を改訂するときには誰でもいいから希望を出せるという、そういう希望を公募します。DAISY規格をこう改善してほしいというのを、別にDAISYコンソーシアムのメンバーでなくても誰でもいいんです。誰でも投稿できるところで募集をします。そこにスウェーデン政府から要望があった。それを取り上げているのが手話対応です。
もう一つありますのは、手話と同時にビデオに対応するということですので、自閉症あるいは知的障害の方たちで、言葉での説明ではなかなかよくわからないけれども、動画で説明された方がよくわかる、そういう方への対応もそこで図られるだろうと考えております。
それからもう一つが、先ほど来申し上げております、各国言語への対応をもっと強める。縦書き、ルビ等、漢字圏の特徴、それからアラビア語圏は右から左に書いていって、数字なんかが来るとそこのところだけ左から右になるんですよね。1行の中に両方から読む文字が混在する。これも対応しようということが今回の規格に含まれています。
あと、あるつづりをどう読むのかということが、かなり特別な読み方をする場合に、それをマークアップして指定して読めるようにしようということも検討されます。
それからテストなんかで使うときに、インタラクティビティと呼んでいますが、インタラクティブな教材として使えるようにというニーズが非常に強いです。読みに障害のある人たちが正当な試験を受けるチャンス、それを保障する。インタラクティビティと呼んでいますが、それを含めようと。

 ということで結構、盛りだくさんの開発項目がDAISY4に入っています。その中に数式、化学式、ダイアグラム、いろんなものをみんなで手分けして入れていくんだということで、例えばアメリカのブックシェアというところは、アメリカ政府から5億円くらいの研究費をもらいまして、ダイアグラムは自分のところで開発し、それを最終的にDAISYの規格の中にモジュールとして埋め込んでいくという取り組みをしております。
数式は先ほどご覧いただきましたように既に装備しています。あとは日本語でどう処理するかです。規格としては、数式が既に入っています。
EPUBの方ですが、日本では日本電子出版協会(10)がIDPFに加入しました。ここで提案する権利を持ちましたので、EPUBツールを拡張するということで、たぶん2.1だと思いますけれども、その作業を進めているところです。

 DAISYコンソーシアムの方では、このEPUBの作業とDAISY4の作業をシンクロさせることによってどういうメリットを考えているのかということを次に示したいと思います。

スライド10:DAISY4とEPUB3

スライド10:拡大図

 まず今現在、DAISYについてはマルチメディアのDAISY、それから音だけのDAISY録音図書、そしてテキストだけのDAISY。それからそれとは別にEPUBというのがあります。これが、改訂されたときには、弁当箱みたいに考えてください。一番大きな1つの弁当箱、それがDAISY4だと思ってください。その弁当箱の中に3つの箱が入っていて、その1つの弁当箱の内側に3つの箱が入っていて、その1つの箱の中に2つの小さい箱も入っている。そういうふうに考えると少しわかっていただけるのではないかと思います。
具体的にどういうことかというと、フル規格、全部の規格というのが弁当箱全体です。その中にあるちょっと小さい内箱、それが今のマルチメディアのDAISYと思ってください。テキストと音声と静止画像。そこまでが入っている。そのマルチメディアDAISYの箱の中に、テキストDAISYとDAISY録音図書という小さい箱が2つ入っている。つまり全部で4つなんですけれども、テキストだけ、音だけ、両方組み合わせたマルチメディアDAISY、さらにそれにビデオや手話やインタラクティビティが入ったフル規格のDAISY。この4つが最終的にできる。
その中のテキストDAISYをEPUB3と同じものにすればスムーズにいくのではないか。それからEPUBの方でもっとマルチメディアの方に展開したいということでしたら、同じ基盤の上に立ってどんどんマルチメディアに展開できる技術がDAISYの規格で提供されるということなんです。
つまり、EPUB3で入っても、DAISYで入っても最終的に拡張しようと思えばフル規格のマルチメディアまで入りますよと。最初から入っているフル規格であれば、コンバータを通してテキストだけのEPUBもできるし、マルチメディアのDAISYもできます。
そういうふうに、最終的に1つのソースファイルを管理しておけば、すべてのものはそこから出せる。そういうふうに統合することによって、電子出版向きの比較的軽量のテキストだけのDAISY、またはEPUB3とフル装備のDAISY4、その間に2つ、音だけもあるし、マルチメディアもあるというふうな、4つの構成をやっていこうという考え方です。これはこれからワーキンググループでそれぞれじっくり話し合って展開をしていこうと。

私どもの願いは、どんな人も、どういう条件のある人も、知識のアクセスから疎外されないようにしたい。今までの紙の図書というのは偉大な発明でした。それをベースにした世界中の図書館というものも大変重要な役割を果たしてきています。これをさらに発展させる。場合によっては紙も出せるし、音だけの出力もできるし、点字も出せるし、あるいは手話ビデオも出せる。
どういうニーズに対しても、この1つを管理しておけば、即座に対応できるというものを最終ゴールにしているんですね。
最初から全部を追い求めなくてもいい。スタートできるところからスタートする。でも規格が一致しているから、それをずっと進めていけば、ゴールはみんな一致する。そういうものがオープンスタンダードとして必要なのではないか。それが今DAISYが考えているDAISY4とEPUB3の関係であります。

 それを少し予見できそうなところで、どんなところで前に進みそうな実感が得られるのかというウェブサイトをご紹介したいと思います。

スライド11

Open libraryのウェブサイトhttp://openlibrary.org/(英語)

 Open libraryというのはお聞きになったことがあるかと思います。インターネットアーカイブの中にあります。Open library(11)にいくと、accessible booksというものがあります。「open library、accessible books」とグーグルで引けば一発でいくと思います。
そこに本文が並んでいますので、どれか1つ。ここでは「Homer Iliad」をひもといてみます。

スライド12

Open libraryのウェブサイト "The Iliad of Homer translated by A.Pope"
http://openlibrary.org/books/OL19367527M/The_Iliad_of_Homer(英語)

 「Iliad」の中の列に入りますと、今、画面の方にあるのは、DAISYとEPUB、あるいはRead Onlineというところに、上から順にいきますと、PDF、Plain Text、DAISY、EPUB、あとMOBIとあります。こういうふうに、既にEPUBでもDAISYでも読めるコンテンツがたくさん、インターネット辺りでは提供されています。これはほとんど無料です。
これを、ではDAISYをクリックすると次の画面になります。

スライド13

Open libraryのウェブサイト "Download the DAISY.zip for The Iliad of Homer"
http://openlibrary.org/books/OL7215633M/The_Iliad_of_Homer/daisy(英語)

こう書いてあります。
Books for people who don't read, 訳しますと、紙の印刷物を読めない人たちのためのものですよと。インターネットアーカイブは、100万冊のこのフォーマットの本をこれから提供することを誇りに思っていますと言っています。今、50万冊ちょっとです。
ここで明らかなように、どんどんこれから増えていくんですけれども、このインターネットアーカイブ、まだ英語の本が中心ですが、そこを訪問していただくと、「give your contents」でダウンロードできます。同時にEPUBもダウンロードできます。 ここでぜひEPUBとDAISYをそれぞれ試してみていただければと思います。

 ではDAISYはどうやって読むんだということですが、日本障害者リハビリテーション協会のウェブサイト(12)に来ていただければ、先ほどのAMISのフリーダウンロードがあります。それでDAISY3とDAISY2.02、両方読めますので、そこからとっていただくことができると思います。
EPUBの方ですが、先ほどのようにクリックするとこんなふうに出てきます。すぐファイルのダウンロードが始まるんですね。そこにAdobe digital editionsというところが出てきます。これは今、InDesignをお使いの方は既にご存じかもしれませんが、アドビ社のInDesignを使いますと、デジタルエディションのところのエクスポートの選択肢に2つございます。EPUBともう一つがDAISYです。
このようにいろんなところでDAISYとEPUBというふうに考えれば、すぐ身近なところに体験できるコレクションができていますし、評価もしていただけるかと思います。

 ではDAISYの製作ツールはどうなるだろうということです。

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 一般に入手可能なものだけさっと申し上げます。DAISY2.02規格のもの、これは非営利に限られますが日本障害者リハビリテーション協会から2種類、入手可能です。「SigtunaDAR3」というものと、「MyStudio PC」。それから有償ですがシナノケンシさんから「PRS」。それからイギリスにありますドルフィン(13)という会社から「Dolphin Publisher」、これは2.02を製作できるものです。
DAISY3の製作ツールは、「Save as DAISY トランスレータ」。これはWORDのアドインです。これは無償でNGPLライセンスの完全にフリーなオープンソースのものです。これも日本障害者リハビリテーション協会のサイトからダウンロードできますし、ほかにソースフォージュ(sourceforge)あるいはDAISYコンソーシアムのサイトからもダウンロードできます。
あと、音だけのものですと、「Obi」。これは「MyStudio PC」の後継に当たります。DAISY3規格のものまで作れます。
そして「SigtunaDAR3」の後継に当たりますのは「Tobi」です。この「Obi」と「Tobi」もフリーでオープンソースです。しかもLGPライセンスと言いまして、自由に加工して付加価値をつけて売ってかまいません。ですからメーカーの方はこの「Obi」と「Tobi」を解析して付加価値をつけて売って、DAISYの普及に貢献していただくことができるというものです。
その下にあります「Dolphin Publisher」というのは、先ほど来、話に出ておりますドルフィン社の有償のソフトです。これはすごく高いです。商業用のライセンスは年間30万円くらいです。本格的なそれ用のソフトです。DAISYコンソーシアムのメンバーになると、それは3万円になります。それはメンバー特典というものですね。そして非営利団体ですと10万円くらいになります。これは結構有用なソフトだと思いますし、私も現に使っております。

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 再生システムの方は、毎週と言ったら大げさかもしれませんが、ものすごい数、次々と世界中で出てきていると言っていいと思います。特に中国辺りではいつ何が出たのかよくわからないくらい開発がされているように思います。
音だけのもの、CD-ROMベースのもの、あるいはデジタルメディアのもの、さまざまなものがあります。携帯電話も最近では多く使われていますし、あと、最近の特徴としてはiPad等、新しいデバイスにも既にDAISYが動くものがあります。 ちょっとiPadのデモを今、用意していますので、その間に先に進みます。

 DAISYの国際的な広がりを地図にアップしますとこのようになります。

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 もう全部の大陸に旗が立っています。ヨーロッパ、北米は多いんですが、アジアが意外と多いということにお気づきかと思います。
これは日本財団(14)が大変多大な援助をDAISYコンソーシアムにいただきまして、DAISY for ALLプロジェクト(15)というもので、13ヶ国にDAISY拠点を作ることができました。それがアジア中心だったのでアジアが多くなっています。
それで作った拠点の中の、タイ、インドは既に周辺の国々を支援しています。ですから、水が乾いた大地に染み込んでいくみたいに、見て、これはいい、これが欲しいというふうに、どんどん広がりを見せているところです。
モンゴルにももうすぐ旗が立つ予定ですし、中国は北京に既に旗が立っています。

 ここで、iPadのデモをお願いします。
今の話題のiPadの画面にDAISYが動いているということを確認していただけたらと思います。

濱田●ちょっと見えにくいかもしれませんが、後で見たい方がいたら声をかけてください。
DAISY図書を再生します。最初に見出しが並んでいて、見出しを選択するとその見出しから再生をすることができます。再生する図書はリハビリテーション協会の「マッチ売りの少女」です。

(音声)マッチ売りの少女。ハンス・クリスチャン・アンデルセン。すごく寒い日でした。雪も降っており、すっかり暗くなり、もう夜。今年最後の夜でした。

濱田●画面上にテキストと画像が表示されていて、黄色くハイライトされたところが読み上げられています。読みたいところを、タッチパネルなので指で触ると、そこを再生することができます。また、文字の大きさを変えたり色を変えたりすることもできます。

(音声)ええ、確かに履いていたんです。家を出るときには頭に何もかぶらず……家を出るときには…

濱田●センテンスごとの移動も、マルチメディアDAISYですので同じようにすることができます。以上です。

男性●アプリケーションの名前を教えてください。

濱田●今、まだベータ版なんですが、サイパックという会社が出しているVODというソフトで、今日もサイパックさんからいらっしゃっています。

河村●サイパックの方、立っていただけます? 詳しくはコンタクトしてください。今立ってくださいましたから。

濱田●iPhone用のものが販売されているんですが、iPad用のものは、今はまだ販売されていなくて、近々されると思います。

河村●ありがとうございました。それでは、まとめに入ります。

 DAISYの場合には国際コンソーシアムということでさまざまな国際舞台で、今、知識のアクセスがなくて社会的に疎外されている、あるいはさまざまな困難にある人たちのニーズを私たちの技術の中に生かして、それに応えていくという活動をやっています。
したがいまして国連のサミットであるとか、あるいは国連の障害者権利条約の議論等、国際的な活動に非常に活発に参加をしているわけです。
例えばユネスコのパビリオンがワールドテレコム2009という、去年スイスで行われましたけれども、非常に大きなユネスコのパビリオンの中にDAISYが大きな位置を占めるというふうな形でユネスコと連携をしたイベントも行いました。
それからITU (16)からDAISYコンソーシアムは2008年にWorld Telecommunication and Information Society Award、訳しますと世界通信情報社会賞というものだと思いますが、そういうものも受賞しました(17)
YouTubeで授賞式の模様(18)がありますので、私の下手くそな受賞スピーチをご覧いただけるかと思います。そのときに表彰された理由なんですけれども、障害があってアクセスできない人たちにアクセスの道を開くという活動。それから社会の中の少数の人たちに、知識へのアクセスの道を開く。そして非識字者の人たちはこれで知識へのアクセスができるようになる、ということが理由に挙げられていました。大変印象に残っております。
国際団体とは、World Wide Webコンソーシアムのオープンスタンダードをベースにしています。したがいまして私どもも、こういう機能を新しく追加したいな、仕様サポートがそれなんですけれども、そういうときには、今あるスタンダードだけで足りないパーツがあると、そのパーツを何とか国際スタンダードで調達するということです。
何をやったかと言いますと、手話をサポートするためにW3CのSMILのワーキンググループにかなり力を入れて参加をしました。そしてSMILの3.0を完成させてSMIL3.0の中にDAISYプロファイルというものを書くということをしました。そしてそのDAISYプロファイルを使って今、DAISY4の開発をやっています。
つまり、スタンダードをきちんと生かしていかないと、自分たちだけで独自のことをやると弱いんですね。ずっとそれを維持できるかどうかというのは非常に弱いんです。だから必ずみんなが使うスタンダードを集めて、ないときにはそれを一緒に作って、そして次へ前進するというのが、私たちの基本戦略です。

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 そういう意味ではW3Cとは非常に緊密な関係を持っています。
同様に、これから出版をもとから変えるというためにはどうしても、商業用の出版物のフォーマットを決めているIDPFとの連携も不可欠ですので、先ほどのようなDAISYとEPUBの統合というものを戦略化しています。

 それから図書館の国際連盟、これは今まで本をベースにしてきましたが、これらはデジタルライブラリーと、これまでの図書とを融合したサービスを作る拠点として重視しております。
そしてずっと一番最初からの古いパートナーでありますWorld Blind Union (19)、視覚障害者のアクセシビリティを基本にする、どんな新しい技術ができても、今までアクセスできていた人たちが、その新しい技術によってアクセスできなくなるということがあってはならない。それは私どもの基本スタンスですので、World Blind Unionとはしっかりと連携をしております。
先ほど申し上げました日本財団からは多大のご助成をいただいて、途上国に波及することができました。ITUその他、最近の世界銀行などもDAISYに注目をしてくださいまして、これからは途上国には国連の書記官と一緒にDAISYを広げていくことができるのではないかと期待しています。

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 まとめますと、DAISYはEPUBと連携して出版と図書館の変革をまず行いたいと考えています。そしてすべての人が知識と文化から疎外されることのない、そして地域社会でそれぞれみんなが役割を持って生きることが保障される。それが、DAISYが出す戦略の目標であります。
そういう意味ではDAISYは、標準を開発している団体ですが、もうちょっと人間を中心に考えていく。それは言ってみればDAISYの哲学です。すべての人が知識を共有できるようにしていく。それをデザインしていく。そういう意味で、スタンダードを開発しています。そのために利用者のニーズに応える、機能が豊かで無償であるオープンスタンダードを開発して、これを持続させるということをやっています。
また、教育、エイズ、防災、あるいは少数民族の言語文化の保存と振興、こういういわゆるグローバルイシューですね、グローバルな共通課題について積極的に取り組んで、知識による問題解決を推進するということをモットーにしております。
最終的に、いつでも、どこでも、誰でもDAISYで支えられる、そういう社会の実現を目指していくということが、DAISYの今進めている戦略であります。
その中でEPUBとDAISYとが次の規格改訂を通じて、より緊密に連携し合いながら、この目標に向けて一歩ずつ前進していくということを今、目指しています。
以上、ちょっと駆け足になりましたけれども、ご清聴ありがとうございます。

講演をする河村氏


掲載者注: