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国内外における DAISYの動向 河村 宏(DAISYコンソーシアム会長)

まだご覧になりたい方とか、私を含めて興奮がさめない状態で、いろいろ話し合いたい方がいらっしゃると思いますが。後半の前座を務めるお話をさせていただきたいと思います。概して私の話というのは最近の状況なので、ざっと国内外の特徴ある状況をまとめさせていただきたいと思います。

DAISYに関わる国内外の状況:

資料01

まずは、国際状況から言いますと、何と言っても障害者権利条約がどこまできているのかというのが、大変重要な国際的な環境です。

スティービー・ワンダーがご存じのように国連の親善大使になり、今、精力的に世界中を歩いています。その中の一つが、著作権条約の改定を早くしろ、その中で、出版物にアクセスできてない人たちのアクセスを実現するようにと。大変重要な課題について国連の著作権の専門的な団体である WIPOに行って訴えています。

12月3日は障害者の日

資料02

もう一回、国連障害者権利条約のおさらいを簡単にさせていただきますと、2006年 12月に、今世紀最初の国連の人権条約として採択され、その後、既に批准が 96だと思います。署名が147。国連の加盟国は 200カ国くらいです。日本は急がないとそろそろ真ん中より後になります。そういうみっともないことにならないように、早く国内体制を整備して、少なくともアメリカより先に批准してほしい。

国連障害者権利条約

資料03

アメリカはというと、ブッシュのときに、「こんな条約」って感じでそっぽを向いていたんです。

ところが大統領が代わりましたら途端に促進に回りました。これからはこの権利条約を促進する国々を支援するというアメリカの外交政策が出てきそうです。

なぜかというと、これから帰還米兵で傷ついた人たちが大勢国内に入ってきます。その人たちの活躍する場所を確保する、そのために国内体制を全力を挙げて整備するということが、着々と、法整備、仕事の拡張という形で進んでいます。ですからアメリカは急速に権利条約を批准していない国とは仲よくしにくい、早く批准しろというふうに、自分が批准した途端に言ってくると思います。

障害等により情報から疎外されている人は1800万人以上

資料04

ですから、それがいろんな意味で政府調達とか貿易の障壁にもなりかねない状態が今、出てきています。日本も今後、きちんと国内ニーズに対応することはもとより、重要な輸出の相手国のハードルをきちんと越えられるようなアクセシビリティの確保、その中に情報アクセスの確保は大変重要ですので、それが日本の産業界においても非常に重要な問題なんです。そのことに日本の産業界は気づいていないんです。何かあるとすぐに、「障害者・高齢者にやさしい」というお題目をたてながらいざ予算をつけるところになると全然違うところにつけて、結果はどうなったのかというと怪しいというのが随所にあります。

ですから、そういったものがお題目ではなく、これからの高齢社会、そして今障害を持っている若い人たちが仕事を持てるように、この権利条約の批准というものをしっかりやっていくべきなのです。
その中に、重要な課題として、教科書の確保ということがあります。そういう文脈の中で考えることが重要だというふうに思います。

国連権利条約を改めて読む方は、ぜひこの二つの条項、第2条それから第 21条。この二つだけでいいです。まずこの二つをよく読んでいただきたいと思います。そうすると一日くらいじっくり考えられるテーマがそこに出てきます。今、皆さんが DAISYに関わっていて、これを読むと、いろんな感想が出てくると思います。特に「アクセシブルなマルチメディア」という言葉が、条約の中にあるんです。このことは大変重要なことで、それを実際に実現するのは DAISYなんです。

そして、その中に「合理的配慮」という言葉も出てきます。これは、そう大変ではないならば、やらないと差別になるよということです。DAISYはボランティアの皆さんで作れているんです。それを政府や出版社がやらないというのは、私は差別に当たると思います。

障害者差別禁止法ができたら真っ先に、やらない政府や教科書出版社は、差別禁止法から見ると障害者差別をしているという状況になります。これはそういう意味では、出版社にとっては危機管理に相当するものだと、もし出版関係の方がいたら、私は申し上げておきたいと思います。

そしてマーケットとして出版社あるいは産業界の方に考えていただきますと、大体 1,800万人くらい、人口の 15%くらいが日本で読書から疎外されている。この人たちを市場として獲得すると考えたら、嫌々やる仕事ではないだろうと思います。ですから私たちは、もちろん、今、印刷物を読めない人のニーズに立った問題の立て方をしているわけですけれども、仕事として商売の対象として考える人たちも、十分パートナーになり得ると思っています。

そういう意味で、非常に幅広い人たちが待っているんだということを明らかにして、それをきちんとマーケットとして実現していけば、権利条約をクリアすることだって、別に難しいことではないはずです。

ですから皆が参加して、どうすればそれが実現できるのか、新しいマーケットが産業界には確保できて、そしてこの 1,800万人の人には読める文化が自分たちのものとして、参加できるようになる。学校では読める教科書が手に入る。そういう次の社会を目指すパートナーシップというものが目標になるだろう。それが権利条約が目指す将来の社会像であるわけです。将来というか、すぐに実現したい社会像であるわけです。

それらをもう少し細かく砕くと、文部科学省自身も、手引きの中では、この絵を見ますと、普通教室の一番先頭にいる子はパソコンを持っている子です。こういう絵を入れて、ICTを活用して障害のある児童も一緒に普通教室で授業を受けようと言っているのです。それを文部科学省は推進しているパンフレットを出しています。今でもウェブサイトにもあります。これがなぜ現場に浸透しないかが問題なんです。そういう意味では文科省は政策的に何もやっていないのではなくて、正しい指針を出している部分もあります。正しくない部分もありますが、正しい部分をきちんと現場に定着させる努力が十分ではないということだろうと思います。

ICTを活用して障害のある児童生徒も一緒に授業を受けている様子

資料05

具体的に言いますと、次のような言い方をしています。「教育の情報化に関する手引き」。これは去年3月ですから、まだ新しいものです。

そこでは、「読字の支援としてはコンピュータでの使用を想定して製作された教科書の録音教材がある」。これは DAISYそのもののことです。DAISYを見て書いています。

「教育の情報化に関する手引」(文部科学省 21年3月)

資料06

「機能としては文章を音声朗読しているところが自動的に反転表示されるため、読み手は視覚的にわかりやすい。反転表示は一文ごとや文節ごとなどの設定ができる。また朗読箇所に対応して挿絵や写真を表示することができるため、言葉のイメージをつかみやすいという特徴がある」。このようにはっきり言っているわけです。

これを活用して実践をしている先生が、「よくやっている」と褒められているかどうかが問題なんです。ひどい場合には、「何でそんなことをやっている?」というふうに、今日もお話がありましたけれども、管理職の校長先生や教頭先生から、「そんなことやめろ」と言われているケースもある。それからせっかく機材を揃えて、読みの障害のありそうな子どもに、「DAISYを使いたいんだけど」と言うと、「そんなことをやって責任を誰が取るんだ」と、そんなふうに校長から言われたという学校の話も聞いています。

こういう指針で明らかにしてあることを先進的に取り上げて自分の目の前の生徒に、何とか対応しようとする努力が皆でやっていこうとなっていないところに根本的な問題があると思います。

DAISY版教科書を実際に必要とする、欲しい、どっちでも選べるとなったら、そっちを選びたいような生徒は何人ぐらいいるのかということですが、いろんな計算がありますが、1,000万人ぐらいの義務教育段階の生徒だけで見ても、4.5%前後だとすれば、50万人というすごい数になります。

DAISY版教科書の対象者は50万人?

資料07

このすごい数の生徒に必要な教科書を提供するのは、全部用意して、必要な子はその中から選ぶというコレクションを作るということでないと、個別にニーズを聞いてそれに応じて作ることをしていたら間に合わないんです。

ニーズを聞いて作るとどうなるかというと、来年の4月から使う教科書が、いまだに一部しかデータが手に入らない。それで来年の4月に間に合うように作れる方が奇跡です。つまり出版社で、もう教科書の採択が決まっていて、多分、版元のデータはあるんだと思います。それがいまだに製作者の手に渡っていない。その間にいろんな手続があって、いまだに来ていないというのが、もう一つの改善できるはずの問題です。

それは、選択的に要請のあったものについて、積み上げていくことをやって、それで外注してということをやっているからだと思います。むしろ、すべての教科書は採択されたら、すぐにDAISY化に着手する。そして、どの教科書を使っている子も、必ず DAISY版がある。アメリカはそのようにして2万タイトルの高校までの教科書を全部揃えています。2万タイトル以上あります。日本は義務教育の四百数十タイトルですら全く揃ってないです。ボランティア頼りなのです。今あるのは百数十です。それだけですね。やはり政府が対応して 400億円を投入して毎年教科書を買っているわけですから、その買うときの発注仕様の中に、DAISY版の教科書を作るための何らかの義務的な条項が入るべきだと思います。そうしないとこれは全然解決できないと思います。

その一方で、文化審議会の著作権分科会ではDAISY版が有効であるということを認めて、一歩、法律の整備は進みました。つまり、ボランティアその他が作るときには著作権法の 33条と 37条を整備して、教科書及びその他の資料については、教科書は誰でも、その他の資料については図書館等が製作できるようにするというふうになって、著者の許諾は要らなくなりました。この改正著作権法は今年1月1日に施行されて今年が元年でした。この元年をどう終われるかが今、問われています。

文化審議会著作権分科会報告書  平成21年1月

資料08

2010年1月1日改正著作権法施行

資料09

教科書ネットワーク、今日も会議がありましたが、来年4月、子どもたちに必要な DAISY教科書が届くんだろうかというところで、皆、今非常に苦しい思いをしているのだと思います。

アメリカでは、全国的にとにかく、教科書であれば幼稚園から高校まで、連邦政府の法律で制約をかけています。DAISYと同じフォーマットですが、NIMASという名前をつけて、国の基準として必ずDAISY形式の電子ファイルを用意するということになって、それがどこでも手に入るという基盤を作りました。これは大変いいインフラです。その基盤の上で先生たちが活動するということになっています。教科書について先生が選べるのです。DAISYにするか、点字にするか、DAISYから点字も自動的に出るようになっています。それとも普通の紙のままがいいか。だからアメリカでは特別支援教育の文化が変わったというふうに教育省は言い始めています。今までは特別支援の生徒がいると、生徒のことを皆で見て、どうしようとやっていた。今は、その生徒と読むものの間にミスマッチはないかというチェックが入ります。つまり、読めないものを与えられているという環境の問題はないか。だったら読めるものがいろいろなタイプがあり、それが DAISYから作れるので、それのどれがいいのかという次の段階に入っていく。それがいいとなったら、すぐに提供できるようなインフラの整備が終わったということです。

米国のNIMASと特別支援教育

資料10

北欧に続いて、米国でもDAISYを活用してインフラからのディジタル・アクセシビリティ推進

資料11

さらにアメリカでは、仕事と教育とを結びつけています。高等教育までいって自分がやりたい仕事に就くための専門教育が終わったら、その後は仕事を持たなければいけないというのが基本的な考えです。ですからその仕事場が、先ほどの合理的配慮という、政府が率先して政府機関が障害を持った人に仕事が持てるように環境整備をしているかのチェックをやります。そしてソフトウェアを買う場合には、そのソフトウェアが障害を持った人も使えるものになっているか。文書を発行しているなら、その文書は障害のある人が読める形式が揃っているか。全部そういうチェックが入ります。

そういう形でアクセシビリティを、アメリカではデジタルアクセシビリティと言って、インフラを変えていく、インフラとは環境のことです。環境を変えていくんだと。その中で障害のある人も普通に暮らしていける、社会参加ができる、仕事を持てる、そういう社会を作るのだということが政府や社会の共通目標になっています。

その中で EPUBというのが、新しい電子書籍のどんどん発展していく市場を制覇するであろう形式です。

この EPUBと DAISYは次のバージョンで一緒になるということを双方で決めました。

DAISYとEPUBの協調

資料12

DAISYは世界中で既に使われていて、さらに国際的にも、著作権のあり方を議論するような場所では、DAISY抜きでは議論できないところにまできています。

DAISYの国際的な広がり

資料13

それを反映して、先日、国立国会図書館で、国際図書館連盟、出版社の団体、著作権を管理する WIPOと国立国会図書館で国際セミナーをやったりしています。私も国際図書館連盟側のスピーカーとして参加しました。

本を読むという文化ーデジタル時代における展開

資料14

今、画面に出ているように、DAISYの次の世代は四つの形式を持ちます。
一つは、音声です。目次のついた音声です。その次がテキストです。音声がない、目次がついたテキストです。その次が今教科書などで使っているマルチメディア DAISYです。静止画像と音声とテキストが使えて目次がある。もう一つできます。それは、手話と動画をそこに付け加えることができる新しい DAISYです。ここまでの四つのパターンが、DAISYの形式に全部のっかることになります。

知識基盤のグローバルな変革

資料15

さらには、EPUBと統合することによって、パソコンだけでなく幅広い機器で読めることになると思います。もう既に iPhoneや iPadで読めるんですけれども、いずれ Kindleとかそういったものも対応せざるを得ないだろうと私は見ています。

このように全体は、知識基盤というふうに呼びますが、図書館とかネットワークの情報源、電子書籍、新聞、雑誌、普通に読む本、そういったもの全体のグローバルな変革を引き起して、そしてすべての読むものが、今 1,800万人いる読めない人たちにも読めるようになっていく。そういう展望が持てる状態が確実に進んできたと思います。
来年6月、これがリリースします。

もう一つ。今日、一番後でデモをやっていてご覧になれたかどうかわからないんですが、プレーヤーをインストールする必要のない DAISYコンテンツが実現できます。フラッシュメモリや CD-ROMに入れておくと、プレーヤーが自動的に立ち上がって中を読める。イージーリーダーというものが立ち上がって読める。そういうものが実現できたので、来年あたりから徐々に広めていきたいと思います。

プレイヤーインストールのいらないDAISY

資料16

最後に申し上げたいのは、ばらまき予算の一つに「住民生活に光をそそぐ交付金」というのがあります。これは総務省と内閣府がやっています。片山総務大臣は、図書館などの整備・充実に使ってほしいと言っているそうです。学校図書館協議会のウェブにはそのように書いてあります。図書館協会もそう言っています。文部省の初等・中等局の通知にもそのようなことが書いてあります。

住民生活に光をそそぐ交付金

資料17

そこでは、不登校対策とか教育支援センターとか、学校図書館、図書の充実、そういったことが挙げられています。全体として弱い、これまで光が当てられなかった、声の出せなかった人の対策に使ってくださいと言っています。全国の自治体に 500万円です。来年1月に交付があって、3月までに終わるというんです。

地域活性化交付金について

資料18

私はこれは、DAISY教科書を全国の教育委員会や図書館が、自分の自治体で1タイトル作ってくれたら、高等学校の教科書まで全部できる財源になると思います。自治体は 1,700あるんです。高校の教科書全部入れたって、1,700いかないですよね。1タイトル作るのに 500万円もかからないんです。それぞれ手を挙げて、このタイトルは自分のところでやろうとネットワークを組めば、あっと言う間に教科書はカバーできる。全部で1,000億、予算はあります。

バラマキ予算をネットワークで活かす

資料19

これが来年4月に、教科書を皆でそれぞれできることをやって4月に間に合わせる、ラストチャンスの予算だと私は思います。

さっきツイッターに、#DTXTというハッシュタグを作りまして、こういうアイデアはどうですかと出しましたら、数人からいいアイデアだと反応があったようで、少し自信を持っているのです。ぜひ皆さん、今のリハ協のネットワークのメーリングリストやツイッター、あるいは私に直接メール連絡をくださっても結構ですので、このラストチャンスをどう生かすのか。そこに新年の休みを活用してみませんか? それが私の話の締めくくりです。

何から始めるか

資料20

どうもご清聴ありがとうございました。