基調報告

日本DAISYコンソーシアム運営委員長/(特活)支援技術開発機構副理事長
河村 宏

河村氏

今ご紹介をいただきました河村です。20年前のことから説き起こしてご紹介いただきありがとうございました。実は今年、DAISYコンソーシアムは20周年で、皆さんよくご存じのノーベル文学賞とか化学賞等の授賞式を行いますストックホルムにありますタウンホールで今年5月に20周年を祝いました。その記念すべき20周年、東京で理事会を2日間開きまして、新しい戦略を随分議論いたしました。たぶんこの後の講演を全部聞き終わった後、皆さんはDAISYコンソーシアムが今度どうグローバルに新しい展開をするのかについて、具体的なイメージをお持ちいただけるのではないかと期待しております。

まず私の役割は、今日の講演の水先案内のようなことです。今日、どんな背景でどういう講演を行うかについて、あらかじめ少し情報を共有しておこうということです。

まずはDAISYコンソーシアムというスイスに設立された非営利団体がどんな組織と活動をしているのかについて簡単にご紹介したいと思います。

DAISYコンソーシアムのウェブサイトを見てみたいと思います。

今スクリーンに映しましたのはDAISYの公式ウェブサイトです。実はこのウェブはものすごく内容がたくさんありまして、全部くまなく読んでいる人はたぶん世界中でも数えるほどしかいないだろうと思います。しかもさまざまなところが常にアップデートされています。ですからちょっと目を離していると、私でも知らないことが公開されているということがよくあります。

この中のメンバーをまずご紹介したいと思います。About Usというところに入りますと、メンバーについての情報が得られます。どんなメンバーがいるのかということを見るのには、リストになっているものと、それを地球上の地図に展開するとどうなるのかという両方が示されるページがあります。地図の下にはテキストでメンバーの一覧が出てきます。メンバーには二つレベルがあります。大きく分けてvoting memberといって意思決定に参加するメンバーと、さまざまな点で協力するけれども意思決定には参加しないメンバーがあります。意思決定に参加するメンバーは理事を選出して理事会を年に2回行うという仕組みになっています。

メンバーの分布ですけれども、世界地図を見ていただくとわかるように、一応全部の大陸、南極大陸はありませんけれども、全部の大陸にメンバーの旗が立っています。実はメンバーになっていないように見えるところにも、例えばネパールといったところにもDAISYについて活動している人たちがいます。モンゴルにもいます。そこが何とか旗を立てようということで今、頑張っている地域がたくさんあります。これがDAISYコンソーシアムのメンバーです。

そして、今日も理事の中で大勢の方が今日の会議に参加していますので、この後、理事とスタッフは16時半にこの会が終わった後、1時間、質問が来るかもしれないから残ってくださいねと言ってありますから、「これ」と思うメンバーに後でコンタクトして、十分意見交換をしていただける時間を今日は用意しています。

そして大変朝早くから夜遅くまで頑張るスタッフをDAISYコンソーシアムは持っています。私どもはこの貴重なスタッフに大変感謝しているところです。EPUBのアクセシビリティはほとんどの部分がDAISYコンソーシアムのスタッフが中心になって開発しています。ですからEPUBを実際に推進しているIDPFという団体は、雇っているスタッフは1.5人くらいです。DAISYコンソーシアムはその約10倍のスタッフがいます。そして世界中に散らばっています。さらに、メンバーの団体がそれぞれスタッフを持っていて、そこのスタッフも協力してアクセシビリティの開発をしています。そういう意味で、DAISYコンソーシアムはIDPFの一メンバーですけれども、アクセシビリティに関しては圧倒的に仕事をしてアクセシビリティを支えてきているということをまず申し上げておきます。

その具体的な活動は、ワーキンググループという形で広く公開もしています。ですから皆さんの中で関心のある方は、特にメンバーでなくても参加できるワーキンググループがありますので、そういったものを活用していただくといことが、双方にとって非常に有益だと思います。

では日本ではどういうふうメンバー構成になっているかということが、次の日本DAISYコンソーシアムの話題になります。

メンバーシップというのは基本的に年間の会費が今のレートですと400万円くらいですね。ものすごく大きい会費なんです。400万円くらいを毎年払わなくてはいけません。それでスタッフの安定した雇用を実現して、世界の第一級のスタッフを維持している。だからIDPFやマイクロソフト、グーグル、アップルといったところの技術者に伍して、むしろ先んじて技術的にもイニシアティブをとってアクセシビリティを国際的にまとめるという役割を果たしています。ですからスタッフのほとんどのメンバーが2倍、3倍の給料でうちへ来ないかという誘いがいつもかかるんですね。それを何とかはねのけて、志を持ってこっちで働いてくださいとお願いするためには、どうしても一定の給与水準を維持しなければいけないし、さらに安定した雇用をしなければいけないので、そのためにこれだけの会費を、先ほどの意思決定に参加するメンバーは負担するということになるわけです。

日本DAISYコンソーシアムの構成メンバーは4つの団体です。正式には日本DAISYコンソーシアムの中でまたさらに投票権を持つメンバーと、投票権を持たないメンバーに分かれますが、日本障害者リハビリテーション協会、支援技術開発機構、日本ライトハウス情報文化センター、それから特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会、この4つの団体が決定権を持つメンバーになっています。ほかに準会員としてNPO法人のNaD(ナディ)と社会福祉法人の日本点字図書館、それから企業からの賛助会員としてオリンパス株式会社、ケージーエス株式会社、有限会社サイパックといったメンバーで構成されています。さらに個人会員も最近は増えてまいりました。個人でも会員に参加する道はございますので、ぜひ皆さま、団体としても個人としても日本DAISYコンソーシアムに参加して支えていただければと思います。

そして、日本DAISYコンソーシアムとしては規格の中の、特にルビに関して、技術的に管理できるのは日本しかないということで、W3C及びIDPFから要請があったルビに関するメンテナンスをする技術委員会を発足させることを決めています。今、規約を整備している段階ですので、また改めて皆さんにお声します。この技術委員会ではルビのことだけではなくて、さらにさまざまなアクセシビリティの技術について取り組みをしていきたい。そして日本語の文脈でのさまざまなアクセシビリティの技術というのは、日本が責任持って解決しなければいけません。そこにさまざまな企業、団体からもご参加いただきたいと思っています。

昨日、EPUBに関する講演会を、私たちの仲間とJEPAとで行いました。その中には香港の方もいらしていましたし、韓国の方もいらしていました。やはり東アジア圏は漢字など共通の文化を持っています。国際化ということで日本が中心になってアクセシビリティの分野で貢献していくということをぜひ実現したいと思います。

DAISYコンソーシアムは国際的なネットワークとしてこれまでさまざまな貢献を行ってきました。特に国連を通じてというものが幾つもありますし、今現在も、レジュメの方にたくさんの国連やNGOの名前が書いてありますが、それぞれDAISYコンソーシアムを通じてグローバルなパートナーシップを持って活動を展開しているところです。具体的に言いますと、それぞれの分野で国際的な活動をするどの団体もアクセシビリティということが、最終的には問題を解決する上で不可欠だと。教育の問題にしても農業の問題にしても気候変動にしても、情報をアクセスできるようにして誰もが理解できるようにして、それでやっと初めてゴールを達成できるということに、だんだん気がついてきています。

したがいましてこういうグローバルな展開の中で、よりユニバーサルデザインに近づいていくという取り組みが進んできました。

個別具体的に言いますと、今日のテーマであります教育、教科書の分野では、個別のニーズに最適化した教科書、教材。そういったニーズに応えられる仕様というのはどういうものなのか。それがこれまでのアクセシビリティの資産を活用したときに最も効率的にゴールに到達できるというのが、私たちが形成してきている核心です。 全体としてはユニバーサルデザインに向かっていく。その中に、さまざまな分野でDAISY及びEPUBのアクセシビリティの技術が必要とされているし、また好事例も次々と生まれてきていると申し上げることができます。その中で新しいパートナーをどんどん拡大していかないといけないということが、DAISYコンソーシアムの理事会でも確認したところです。

日本の教科書のアクセシビリティの現状ですが、そうなかなか簡単なものではありませんが、したいと思っていたのです。この中でDAISY教科書を既にご覧いただいている方も、いただいていない方もあると思うんですが、具体的に説明します。今の日本語の教科書は二次元のページの中にたくさんの情報を詰め込んであります。そして読み上げることが必要な生徒のニーズに応えるためには、どういうふうに読み上げるか。順番に読み上げていけば、なるほどわかったというふうになるという順番が必要です。でもそれが、編集者自身もなかなかわかりにくいような教科書がかなりあるということなのです。したがってDAISY化するときに何が一番難しいか、あるいは読み上げ機能を提供するときに何が一番難しいかというのは、こう読めばわかるという順番が、場合によってはない場合もある。そういう場合にはどこかを省いて読むということが必要になるという難しさです。これらについて今日の講演の中では、オランダではどういうソリューション、解決策を模索し、実際に教室で使っているのか。一般の教室での話として紹介してもらえると思います。

それからさらに、まだ技術的に解決できていない問題は幾つもあります。それらについてはDIAGRAMプロジェクトを中心に、そこの解決のための模索を今、しているところです。その二つの講演がこの後、続きます。 そして、そこに規格の問題でIDPFを中心とした新しいEPUB 3.1、その中にEPUBアクセシビリティ1.0というものを組み込んだ新しい規格を今、提案中です。これはもうすぐ確認のための投票に入ります。それが制定されたときに、何がどういうふうによくなるのか。もちろん規格がよくなっても実践しなければどうしようもないし、コンテンツがよくなってもプレーヤーがなければどうしようもない。さらにそれを流通させる手段がないとダメですし、それを使いこなす人材が必要です。そういった全体のエコシステムをどういうふうに進めていくのか。それらについて三つの国からの体験や展望を紹介してもらいます。イギリス、インド、ノルウェーの三つの国から簡単な現状紹介とコメントをいただくというスケジュールになっています。

これらを通じて、みんなで、次はどこへ進むのが正しく問題を解決できるのだろうかという、大きな共有基盤ができると今日は期待しているところです。

講演の後、もうちょっと聞きたいとか、この人に聞いておきたいという方々のために1時間、この場所を借りてあります。できるだけこの時間を活用していただきたいと思います。

さらに、後ろの方にはDAISY教科書等を実演できる機器も展示しています。それらもあわせて今日を有意義な場としていただければ幸いです。

以上をもちまして基調報告とさせていただきます。

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