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Keynote Speech

基調講演
「DAISYとEPUBを活用した障害者・高齢者の読む権利の保障 -図書館と出版のユニバーサルデザイン-」

河村 宏
(国際DAISYコンソーシアム会長、IFLA/LPD常任委員会委員)

テキスト1

テキスト 1

おはようございます。

それでは私の今日の基調講演と言いますか、この後のスピーカーがどういうことをお話しするのかの前提、イントロを務めさせていただきたいと思います。

今日の趣旨ですが、「読む権利」という権利について語ろうということで企画しております。国連の障害者権利条約は人権条約として設定されておりまして、障害のある人も共に生きる社会における基本的人権、すべての人が持つべき人権の一つとして読む権利を保障しています。その読む権利をどうやって実際に実現するのかということが今日のテーマでして、それに向けて世界中でいろんな取り組みをしています。その取り組みを持ち寄って、そして日本では日本で一番合った取り組みを探ろうと、そして今日は少なくとも 12 の国からここの会場に人が集まっておりますので、それぞれ、他の国のいいところを学んで、自分の国に持ち帰る、そういう機会になれば今回は成功だったというふうに言えると思います。

テキスト2

テキスト 2

そして主催は、先ほどご挨拶がありました日本障害者リハビリテーション協会ですが、ご後援をいただいております国立国会図書館、あるいは日本図書館協会、そして私どものDAISYコンソーシアムといったところが後援をしております。さらに協力として、国際図書館連盟のLPDというセクションです。それから社会福祉法人日本ライトハウス、そして国際DAISYコンソーシアムの日本の会員団体であります日本DAISYコンソーシアムという団体が協力をしております。

テキスト3

テキスト 3

今日のキーワードとしては三つあります。すべて詳しいことはWebサイトにありますので、三つのキーワードを今日は覚えていただければありがたいなと思います。

まず最初が「DAISY(デイジー)」です。これは、ご存じの方が当然多いと思いますが、DAISYの公式のWebサイトはwww.daisy.orgになります。

次が「EPUB」。読みは「イーパブ」です。これも、これからのキーワードになります。このサイトは、IDPFという団体がやっておりますので、www.idpf.orgになります。

最後、これはまだほとんど誰も聞いたことがないキーワードだと思います。「GPII(ジーピーアイアイ)」というものがあります。これはGlobal Public Inclusive Infrastructureの略で「公的な、誰もが使えるインクルーシブな基盤」という意味で、スイスに新しく設立されました。これのWebサイトは大変簡単です。gpii.orgです。ぜひこの三つのWebサイトを、今日お帰りになりましたら、チラッとでもいいですからご覧いただいて、こんなこと話していたな、ということをご確認いただきたいと思います。

テキスト4

テキスト 4

私のタイトル、今日のお話のタイトルになっておりますDAISY4とEPUB3、これがどういうものか、まず、ご存じの方もいると思いますが、おさらいをさせていただきたいと思います。

DAISY4というのは6月制定を目指して今作業中、改訂中です。DAISY4はどこに現れるかといいますと、DAISY4を作るツールですね、これはエディターとかあるいは場合によっては、例えばWordとか、あるいは普通の、どんなワードプロセッサーでも、それに「アドオン」というふうに私たちは言っていますけれども、ちょっと追加のソフトを付けて、そして「タグを付けられるようにする」という言い方をするのですが、「ここからここまでの範囲はこういう意味だよ」、例えば「見出しだよ」あるいは「ここからここまでは数式だよ」、「ここからここまでは外国語だよ」、あるいは「ここの範囲の読みはこう読んでください」、いろんなことを、それぞれの役割をする「タグ」というものでくくって、それで意味づけをしていく、そういうやり方で、ソースファイルというものを作ります。DAISY4は、そのソースファイルを作るための規格として今開発しています。
ですから「DAISY4とEPUB3が統合する」というふうに言っても、ソースファイルのレベルではDAISY4というのは独立して存在します。そしてそのDAISY4からいろんなものを配布するために、実際皆さんの手に届かなければ読めないわけですから、配布するためにいろんな形で出すことができます。その一つの最も多様な形で配布する形式が決められているのがEPUB3という形になる、そういう予定です。

実はDAISY4の配布用のフォーマットというものを開発するつもりでいました。ところが、EPUBのほうがDAISY4のいいところを全部取り入れるという決定をしました。それでDAISY4を独立して開発するよりは、EPUB が普通の電子出版のこれからの標準になって、市販される電子図書もそのフォーマットで配布される、それをアクセシブルにするほうに全力を傾けたほうがいいだろうということで、DAISYコンソーシアムの開発チームは今、配布用の形式としてはEPUB3の開発に全力を挙げて当たっています。ですからIDPFという団体とDAISYコンソーシアムという団体は、今協力してEPUB3を開発するという活動を一緒にやっているということになります。

では、そのEPUB3、配布形式としてのDAISY4は、どういう機能を持つのかということです。
これはもともとDAISY4が目指していた機能を全部含むことになります。一番ハイエンドと言いますか、一番複雑なものは、これまでのマルチメディアDAISYと呼ばれていた、音声と静止画像とテキストがシンクロして表示されるだけではなく、そこに動画をシンクロさせることができる。
静止画像とともに、あるいは静止画像に代えて動画を入れられるということになります。この動画というのは、言葉で説明するとわかりにくい動作の説明などには大変威力を発揮しますし、あるいは手話通訳が必要な方が手話の通訳のビデオをそこにシンクロさせて入れることですので、手話で理解することができる、そういう機能を目指したものです。そしてこれまで通りのマルチメディアのDAISY、それからテキストだけのDAISY、そして音声だけの録音図書で目次がありページが使える録音図書としてのDAISY、これらすべてがEPUB3の中に入ってきます。

これで万々歳かと言うと、ちょっとそうでもありません。なぜかと言いますと、EPUB3には、それにさらに JavaScriptという動画、アニメを入れる機能があります。そこの部分が本当にアクセシブルになるのかどうかというのはこれからの課題です。ですから私たちはDAISYという立場からいきますと、EPUBの中にアクセシブルでないものも出てくる可能性がある。それに対してはアクセシビリティのガイドラインを作って、こういうふうにすると誰もがアクセスできるEPUBが作れるよと、そういう活動を進めなければいけないだろうと考えています。

ですから、EPUBとDAISYが一緒になると、もうDAISYの開発は要らないのだというふうに思うと、まだそこまで私たちを仕事から解放してくれるわけではなくて、現在の状況はちょうどWebが、Web アクセシビリティ・ガイドラインに沿って作ればアクセシブルだけど、アクセシブルでないWebもいっぱいあるという状況になっておりますが、ちょっとそれと似た状況になるかなというふうに考えています。

ただ重要なことは共通のプラットフォーム、技術的な標準規格の上でいろんなことを改良していくというのは、まったく違ったプラットフォームの間をつなぐよりは遙かに易しいのです。すべてをアクセシブルにしていくという目標に向かっては共通プラットフォームがあるということは大きな前進ですので、それが市場向けの電子出版物と、それからこれまで紙で出たものを何とかアクセシブルにしようというふうに代わりに作る、オルタナティブ・フォーマットとか代替資料とかいう言い方をしていましたが、代わりに作っていたものとが、規格が統一されるというのが大きな前進であると考えております。

河村 宏

それからDAISY4のソースからは、今私どもが準備しておりますのは、できるだけ自動的に点字・点図、こういったものを出そうというPipelineというものを開発しようとしております。さらにそこから例えばPDFも出せる、PDFのほうが合っているという場合には、これは「テキストブロック」って言いますけれども、それぞれのテキストのかたまりごとに読む順番をきちんと指定できる、いわゆるアクセシブルなPDF、そういったものも出せる。そしてそれを使えば普通にプリントアウトして、いわば普通の図書、あるいは少し大きくして大活字の図書を作っていく、そういったことにも使える。一つのソースからさまざまなニーズを持つ人が、それぞれの一番合った読み方ができる、そういう読む権利の保障に近づいていこうという大きな前進を期待しております。

そしてここで三つめのGPIIというキーワードになります。GPIIは「クラウド」という技術を使ったものというふうに考えてください。日本では私の推定では、少なくとも1,800万人もの人が読みたくても自由に読めないでいる。この1,800万人もの人にアクセスを保障するというのは、何か特別なものを配るということではとてもできないわけです。つまり、普通に使っているもの、どこにでもあるもの、それがみんな、その人のニーズに合わせて動作するような、そういう工夫をしないとダメだろうと思います。

テキスト5

テキスト 5

具体的には、例えば自分はこの携帯電話だったら自由に使えるという携帯電話があったとします。これは一つの例です。その携帯電話に、自分は、字の大きさはこういうほうがいい、色のコントラストはこれが一番見やすい、そして音はあったほうがいい、あるいはないほうがいい、そういういろんな自分の条件を登録する。そうしておくと、例えば電話経由で、日本中あるいは世界中どこに行っても、このクラウドというのはインターネット上にありますので、そこに電話回線経由あるいはインターネット経由でアクセスをすると、自動的にクラウドのほうがその人が持っている端末と、その人の条件とを解釈して、その人が読みたい情報の持っている端末への送り出し方を一番適したものにする。そういうことを自動的にやるということを考えているわけです。

テキスト6

テキスト 6

それが、世界中どこへ行っても使えて、それぞれの国が、「NPII」というのは、Globalの代わりにNationalのNですけれども、NPIIというものを共通の規格で各国作って、それぞれがみんなクラウドの上にあって、それをお互いに利用し合うということができれば、いつでもどこでも使える。
そして誰でもというのは、最終的には自分は点字がいいという人は点字の端末が必要です。自分は操作するのには特別なスイッチ、口で操作するスイッチが必要という人は、そのスイッチが必要です。でも、みんなが口で操作するスイッチが必要であるわけでもないし、点字が必要であるわけでもないです。その必要な人は、必要なその特別の支援機器を手に入れて、それがあると世界中どこへ行ってもそれが接続できる、そういう環境がある、そういうことを考えています。

これは、非常にいいビデオがこのGPIIのWebサイトの上にあります。全部で8分ぐらいかかるので、もう私の手持ち時間がないので、チラッとだけお見せして、これは面白い、見てみようというふうに思っていただければいいなと思います。

これは、副音声の解説付きのビデオです。ですから、視覚障害の方は、このオリジナル音声と同時通訳を同時に聞くことはほとんど無理ですので、後でgpii.orgを皆さん見ていただきたいと思います。画面をちょっと説明しますと、画面にはアニメーションが映っております。ですからアニメだけを見てもだいたい類推ができる、どんな内容なのかを類推ができます。そして表のナレーションはキャプションが付いています。字幕が付いています。そして画面に何が出ているかを視覚障害の方は見えないので、副音声が付いています。30秒ほどこれから流しますので、見たり聞いたりしてください。

ビデオ上映(ビデオ音声:英語)

目が見える方に、多分、一番日本人の方だと有利だったと思うのですが、画面上のロービジョンの方のアプリケーションが映っておりました。最初字がぼやけていたのが、だんだんはっきり見えるというふうな調整ができる端末機というものが、今スクリーンに出されていました。ここでGPIIが言いたいことは、電話であれ、パソコンであれ、あるいは読書器であれ、さまざまなディバイスがいったんインターネットへつながれば、この「クラウド」というふうに今呼んでおりますけれども、インターネット上のサービスをする中間のつなぎをするシステムが、全部自動的にその人の「プロファイル」って私ども呼んでおりますが、その人がどういうふうな状況で読むのが一番適しているのか、それを自動的に分析して最適の環境を作り出す、そして送り出す。そのためには「ユーザーインタフェース」と呼んでいる、一番私たちが手にするところ、そこの開発が必要です。これがアクセシブルでないといけません。同時にコンテンツですね。そこで送り出すものがちゃんと最適な形を選べるものになっていないと、端末の機器だけあってもダメなのです。ですから、DAISYとEPUBというのはコンテンツの規格です。そしてGPIIというのは、これからみんなで世界中で規格をそろえていこうよ、規格をそろえるときの目標として、「いつでもどこでも誰でも」というそろえ方をして、できるだけそれをインターネット上のクラウドに置こう、それを連結することによって、誰もが情報に自分の一番適した形でアクセスできるようにしていこうという考え方です。

私たちは、これはシステムの話ですが、具体的にはやっぱり教育であるとか、自分の仕事を得ていくであるとか、あるいは医療であるとか、具体的な目的を達成するために情報・知識が必要なわけです。ですから、こういうシステムを作ったからと言って、まだ目的が達成されるわけではないのですが、今日の午後には、それじゃ教育というのをめぐって各国でどんな今取り組みをして、それがこれから先、このDAISY、EPUB、GPIIという考え方と合わせて考えていったときに、世界中でみんなでどんな大きな絵と夢を持ってこれから協力していけるんだろうか、そういう議論になっていけばいいなと思っております。

以上をもちまして私の前座を終わらせていただきます。どうもご清聴ありがとうございました。