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質疑および意見交換

モデレータ:河村宏(国立身体障害者リハビリテーションセンター 特別研究員)

河村:今日、大変包括的に今のEasy-to-readの読みやすい本の概念と活動についてブロールさんからまとめていただきました。ブロールさんとは私は、障害のある人の災害の時にどういうふうにして自ら防災力を高めて、災害の時にまず生き延びるのか。そのためにどういう取り組みがあり得るのかという研究の中で最初にお会いしたと記憶しています。今日、障害者権利条約が既に発効した後、民主主義ということを大変強調しておられた、というのが今日のブロールさんの講演で特に印象に残っているところであります。

この後、意見交換と質問に入りたいと思うのですが、まず2人の方に主催者のほうでコメントをお願いしていると伺っております。お一人は、日本国際児童図書評議会の攪上久子(かくあげひさこ)さんです。もうお一方は、先程野村さんのプレゼンテーションの中でもご紹介のありました、京都府立向日が丘(むこうがおか)養護学校におられる先生で、同時に研究者としてご活躍されている藤澤和子(ふじさわかずこ)さんです。最初にお二方にそれぞれお願いをいたしまして、その後、みんなで討論をする、あるいは質問をするというふうにさせていただきたいと思います。
それでは、攪上さん、よろしくお願いいたします。

攪上: 日本国際児童図書評議会、Japanese Board on Books for Young People、JBBYと申しますが、そこの攪上と申します。今日は、今日本でLLブックを進めていこうとしている皆様や関心を持ってくださっている皆様が、こうしてトロンバッケさんを囲んでこのように一堂に会することができたということを、とても嬉しく、また力づけられる思いでおります。
実は私どもは3年間にトロンバッケさんを、今日もいらしてくださっていますけれど国会図書館のほうのお力添えで日本に招聘をいたしました。それから3年間経ちましたけれども、その時大阪と東京でLLブックのシンポジウムを開き、大阪のほうの開催者が後でお話する藤澤先生だったのですけれども、その3年間の間にさまざまなやはりLLブックの動きが日本でも生まれてきました。また、今日のトロンバッケさんのお話は、3年前のお話に加えられて、ストリーミング・プログラムのお話とか共同出版のお話とか、28か国のネットワークのお話とか新しいお話をたくさん聞けて、今日はとても、私もまた新たにいろいろな思いをたくさん貰って帰ることができます。

ちょっと私どもの活動の紹介をしながら、トロンバッケさんにもう少しつけ加えてお話いただきたいと思っているのですけれども、まず、少し私どもJBBYとLLブック、JBBYの本部は71か国の世界のネットワークで、スイス、バーゼルにあるIBBYというのが本部になるのですけれども、そことLLブックの関わりを少しお話をさせていただきたいと思います。

私どものIBBYではノルウェーに1985年に障害児図書資料センター、IBBY Documentation Centre of Books for Disabled Young Peopleというセンターが設立されました。
ノルウェーのほうに障害児図書資料センターというのがIBBYのほうで設立したのですけれども、その設立に力を尽くした方が、知的障害のある息子さんをお持ちのお母さんでしたので、またノルウェーという、北欧という土地柄もありまして、センターの設立、つまり1980年代くらいからもう既に知的障害と言われる人たちの読書のことをたいへん中心に、このセンターは考えてきています。

センターの主な活動は、世界71か国、現在支部があるのですけれども、そこからの障害児関係の図書の資料を集めて、推薦図書リストを作って、それらの図書を世界で展示してそのアプローチを紹介するということが、一番のプロジェクトになっています。1991年くらいから今の形の図書リストを出すようになって、各国に配布をしているのですけれども、1991年のリストで既にEasier to Readということへのはっきりした意見表明というのですか、そのことの紹介と、具体的な本の紹介というのを始めています。その時には、ニュースペーパーとマガジンの紹介もしています。たぶん、トロンバッケさんのところのスウェーデンの取り組みの仕方も、そのような紹介でした。それから1997年のリストでは、やはりスウェーデンの2冊の特別に作られたLLブック、Special Easy to Read Booksを紹介しています。2005年度のリストの中では、フィンランドのムーミンの、LLブックというのが取り上げられていて、これは今までにないアプローチをもった本でした。

まずその国で一番人気のある図書をLLブックにしたということのスパイスもありますけれども、このLLブックの特色は、普通の版の中にLLの要するに読みやすい部分も組み込んでしまって、1冊の中で読みやすい図書も、それから普通の方の読む図書も一緒になっているというアプローチのものです。みんなと本が別々なのではなくて、みんなと同じ本を読みたいという願いも大事な願いではないのかなと思っています。

それから、一番新しいリストは2007年度に出たこのリストなのですけれども、この中で、今日私の隣に座っておられますけれども、日本での初めてのオリジナルLLブックが推薦図書として紹介されています。ちょっと今手元に無いのですけれども、「ひろみとまゆこの2人だけのがいしゅつ」という本なのですが、その他に、オランダやイタリア、ノルウェー、デンマークのLLブックを今回は紹介しています。このリストは、日本障害者リハビリテーション協会さんのご厚意で、ホームページで全部の訳が読めるようになっていますので、ぜひアクセスしてご覧になっていただきたいと思います。(http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/info/ibby07/index.html)それから、この絵本展を今年の夏、8月から熊本の全国学校図書館大会を皮切りに1年間の巡回をいたしますので、どこか近くに絵本展が行った時には、全部無料の絵本展でございますので、ご覧いただけたら嬉しいと思います。この中には非常にDAISYとも共通するようなものもあるのですけれども、簡単な操作で複数の読み方を選択できるようにパワーポイントを利用したLLブックの紹介とか、採り上げられている内容とかテーマの、結婚とか恋愛とか、親からの自立というようなことも積極的にとりあげています。私たち、JBBYはこうした図書の紹介をここ5~6年行っていて、今までで約全国100か所以上の巡回展をしてまいりましたけれども、ちなみに当初と比べてやはりLLとか知的障害の人たちへの読書への関心が広まっている実感というのは、絵本展を主催していまして非常にあります。主催、巡回を始めた当初、知的障害の方たちに合っている本ってありますか?という質問を受けることはまだ無かったのですが、そうした質問を来場者の方から積極的に出るような、そのような会場の反応というものは私どもも実感しながら、絵本展を巡回しております。

ブロールさんにぜひもう少し付け加えてお話いただきたいことは、今たまたまフィンランドの本などを紹介しましたけれども、やはりスウェーデンよりもLLセンターで出されているものの他に、いろいろなアプローチが世界のLLブックの中にあると思うのですけれど、もしブロールさんのご存知のもののなかで、ちょっと他の国のLLブックも少し紹介していただけたら嬉しいなと思います。それから共同出版のお話が出てきてとても関心を持って聞いたのですけれども、日本でもそこに一緒に共同出版するような道というのはありますでしょうか。お知恵がありましたら、お聞きしたいと思います。その2点をちょっと、よろしくお願いいたします。

河村:どうもありがとうございました。それでは続きまして、藤澤さんのほうから、コメントと、さらに追加のご質問があると思いますので、それをうかがいましてから、それに対するブロールさんのお考えを述べていただきたいと思います。

藤澤:藤澤です。
私も、2年、3年前にお話を伺って、また今日お話を伺って、特にホームページを非常に活用されていることと、ストリーミングのプロジェクトというのがあるということで、活字以外の媒体をすごく有効活用されてきているのだな、ということが大きな変化かなと思いましたので、ホームページへの実際、アクセスの様子とか、どういうところが非常に評判が良いのかとか、そういう具体的なところもお話をおうかがいしたいなと思いました。
それから、大阪のほうで、近畿、視覚障害者の研究グループのところでLLブックの研究会を作っています。私もその中で参加しているのですが、そこで日本のLLブックのリストアップをしようということで、このあいだ1年かけて図書館の司書の方とかと一緒にやったのですが、やはり2年ではまだ本当に50冊あるかないかというようなところだったのですね。これからそういう本が増えていくことを非常に願っているのですが、スウェーデンでは政府からの補助があるのでいろいろな本が出せると思うのですけれど、まずは日本が最初のうちにこけてはいけないと思うので、どういう本がポピュラーというのか、スウェーデンでウケたのかなという、いろいろなものがうけたのだと思うのですが、どういう本を出したらいいかということを伺えたらと思います。以上です。

トロンバッケ:再びお招きありがとうございます。 私にとっても、このように皆様方からいろいろな経験をお聞きすることは興味深いことです。日本での事例をお聞きしたということ、こちらで達成されたことについて、いろいろ努力がなされていると思います。DAISYであるとか、読みやすい図書、読みやすい新聞なども非常に大きな進展を遂げていると思います。そういった意味で、このような各国の間での意見交換は非常に有意義だと思います。もっとさらに多くの国でLLブックが普及することを願っています。他の国々における活動、スウェーデンや日本、フィンランドやその他の北欧諸国における活動がありまして、読みやすい本や読みやすい新聞がこういった国々で出されています。またスペインでもこういった活動があります。スペインのバルセロナ、カタロニア地方では、やはり読みやすい本というものが出版されています。今日私たちが話したような読みやすい本の概念に基づいて作られています。その他にも、多くの国々で関心が高まっています。たとえば南アフリカ、こういった国々もLLブックの需要が高まっています。ですので、読みやすいフォーマット、DAISYのフォーマットは今いろいろな国々で出版されています。たとえば南アフリカ、ここでは、あるいはその他の国々でも、いろいろな共同のプロジェクト、出版というものが行われています。

それからまた、どういったものが非常に人気があるのか、ウェブサイトやどういった情報に皆さんが関心を寄せてくださっているのかという質問もあったと思います。ちょっとスウェーデンのEasy-to-readセンターにおける状況でありますが、最近一番人気のあるサイト、ホームページ、これは私たちは新聞ではないかと思います。8PAGESであります。というのは、これはいろいろな人たちに読まれていると思います。必ずしも知的障害者だけではありませんで、たとえばこういった分かりやすい情報を見たい、新しい情報を見たいという人たちが見ているようです。

もう一つ、どういった本が一番知的障害者の間で人気があるかという質問ですが、知的障害のある人たちは他の人たちと同じようなものを読みたがっています。他の人たちの状況についても知りたいと思っているかもしれませんけれども、私の知っている限り、この人たちの間で人気のある本はいろいろな仕事に関する本、たとえば歯医者に行ったらどういった経験をするのか、ですとか、それからまた自然に関するもの、また動物に関するもの、たとえば消防士とはどういった仕事なのか、というようなことに興味があるようです。一般には、一般の方々と同じ関心を持っていると思います。

それからまた、ストリーミングプロジェクトに関しての言及があったと思います。私どもは単に活字媒体だけではなく新しいITを使うことにも関心が強いのですが、まだそれほどやっておりません。まだまだやらなくてはならないことが多いので、技術的にも専門性がありませんので、他のパートナーとの協力を通じてやることが多いと思いますし、またいろいろなところから資金を提供していただきながらやっています。ある程度資金、政府から補助を貰っていますけれども、これは全体の5割くらいをカバーしていると思います。通常の私たちの出版の費用の半分くらいを賄っていますけれども、しかし開発に関わるような作業、情報技術に関するものの場合、さらなる資金を他のところから調達しなくてはなりません。したがって共同でやるということがいいと考えております。
他に何かご質問はございますか? 答えていない質問があったらおっしゃってください。

河村:さらに質問を受けていきたいと思いますので、全体で様々な質問を出していただいた後に、もう一回ブロールさんからお話をしていただきます。
ちょっと分かりにくかったかもしれないというので、実は事前に、今日の前に、ブロールさんと私とで話をした中で、南アフリカのプロジェクトという話があって、皆さんにはちょっと補足をしたほうがいいかなと思います。

それは、つい5月の初めに南アフリカの様々な障害団体、知的障害、あるいは自閉症の団体も含めまして、DAISYの制作講習会を実施しました。その中で、ターゲットにしたのは、AIDSの、障害者団体が編集したAIDSのマニュアルがあります。AIDSの予防と、人口の20%もの人が南アフリカではAIDSの、HIVの陽性ですので、トリートメントと言っていますが、AIDSになった後の社会参加をし、生活を充実させるためにはというトレーニング・マニュアルが、障害者団体が作ったものがありまして、それをみんなでDAISY化したというトレーニングをして、その時にやはりこのLLブックのノウハウというのがすごく役に立つと思うのだけれども、という話をしたんですね。
そうしたら、スウェーデン政府はAIDSに関しても南アフリカに関しても非常に関心が高いので、それは共同のプロジェクトとして発展できるかもしれないね、という話になりましたので、そのことをブロールさんは念頭においてくれたと思いますので、それぞれの国の持っている良さを活かしてさらに開発途上の国を支援していく、そういったところに共同の事業もあるのではないか、という提案だと思いましたので、ちょっと補足をさせていただきました。

それでは、会場で質問やご意見のある方がどれくらいいるか、まず手を挙げていただきたいと思います。遠慮なくまず、手を挙げてください。自分は言いたいという方。かなりいますね、ありがとうございました。 全員行き渡るためには、お一人について、1分半で質問や意見をまとめていただいて、最後にまとめてブロールさんからお答えをいただくというふうになります。

会場:用語の質問なのですが、LLブックスとしきりに出ているのですが、これは何語の略だと思うのですけれども、結局Easy-to-readのことを表しているのかどうか、私のコンテクストからはどうもそのように思うのですが、どうでしょうか。
所謂言葉の場合、ディクショナリー、辞書という問題が起こりますが、自分で勉強していく場合、セルフ・ラーニングとかセルフ・スタディの時にディクショナリーが必要なことがあります。ホーム・スタディやなんかでも。そうすると、そういうEasy-to-readの運動の中でディクショナリーというものが存在するのかどうか、それからEasy-to-readの教育だったらシラバスなどというのをどこかで作っているのかどうか。どうもありがとうございます。

河村:ありがとうございました。それでは次の方、どうぞ。

会場:スウェーデンで、国で基金を作って、基金によって輸入する図書センターが作られているとか、国の取り組みとしてそのようなガイドラインが作られるとかというお話、非常にすごいことだなと思いました。日本でも、福祉、障害者当事者の方たちに理解していただくためにということで、日本の制度に対して、たとえば日本における障害者自立支援法、そういう制度とか、あるいは今年金特別法とか、そういうものを当事者に分かってもらうために分かりやすい文書を作るということは、だいぶ出てきました。ソーシャルワーカーの集まりにおいても、そういう知的障害の方たちにもその制度を理解してもらうにはどういう表現をしたらいいかとか、そういうプリントも研究というか話し合いを持ったりということも出てきています。
スウェーデンについては、ところが、ウェブサイトから見たときにアクセシビリティというのも非常に難しい部分で、それこそ図書館とかそういうところでも、国立国会図書館のウェブサイト自体がたとえば視覚障害者がアクセスしにくいとか、そういう事態も出てきています。スウェーデンではそういう、読みやすさについて国が何らかの指針を持っているというところで、そういうウェブサイトへのアクセス、特に国が関わる機関のウェブサイトについてもそのような考え方が普及しているのかどうか、教えてください。

河村:ありがとうございました。それでは、次の方、お願いします。

会場:とても私の普段知りたかったこと、それから実現したいことを、たくさん今日はお話いただきました。ありがとうございます。
その中で、ネットワークについてお伺いします。去年1年間、DAISYを作るためのネットワークを作りたいということで助成金をいただいたのですが、なかなかそのネットワークづくりがうまくいかないというか、コンサルテーションができなかったということと、お互いの団体を尊重するあまりになかなかいろいろな方にご協力をいただくというよりも、それぞれの団体のやりたい事が先に出ていて、発表の段階でもうまくできなかったのですね。それが私の去年の1年間の反省なのですが、そこで、連携をはかることが大切だ、共同プロジェクトの形をとる、といろいろな指針をいただいたのですけれども、その中で知識を広めて意識を広げるという、その中でどのような、私たち個人というか、小さな団体が一つのことをするのに、DAISYをするのに当たって、日本の中でどんなネットワークの作り方があるのだろうか、何か私にアドバイスをいただけたらと思います。よろしくお願いします。

河村:ありがとうございました。次の方。この列のまだ後ろのほうにいらっしゃいますよね

会場:70歳になる4年前に突然目の見えなくなった人の問題をみているのですけれど、認知症の入口だと2年くらい前にお医者さんにも言われています。認知症という言葉は以前はあまりなくて、身近の人間怒鳴る、怒るということがあります。彼に話をすると、最後に話したこととか、何が大事なことであるかが分からないことがあって、かなり困惑します。そのようなことにスポットが当たったことが、何か本でも出ているだろうかお尋ねしたいと思います。

河村:ありがとうございました。今度は後ろへ行きます。一番後ろの列の方からどうぞ。

会場:失語症の人への支援をしています。質問が2件あります。
当事者の方から、たとえば読みやすかったとか分かりやすかったというような評価とか、こうして欲しいというフォーマットに対する要望の汲み上げをどのようになさっているのかという点が一点。二点目が、分かりやすい文とか、簡単な言葉ということの客観的な基準のようなものとか、リストとかがあるのかどうかということをお伺いしたい。よろしくお願いします。

河村:ありがとうございました。次の方、どうぞ。手を挙げてください。

会場:非常に基本的な質問をさせていただきます。LLブックをスウェーデンのほうでこれまで何タイトルくらい、何種類くらい作られたということと、年間にどれくらい発行点数があるのか。それから、販売のチャンネルが一般の書店で販売されているものなのかどうかをおうかがいしたいと思います。あと、図書館にたとえばかなり所蔵されているものなのかどうかということも、分かれば知りたい。
あとこれは、出版社の人間なものですからどうしても知りたいのですが、だいたい何部くらい制作されているかということも知りたい。併せて、定価ですね。本の値段が、一般の本と比べてだいたい同じくらいの値段なのか、どうしても高めになってしまうのかどうか、ということも知りたいと思っています。
もう一点だけ、以前にちょっと伺ったことがあると思うのですが、作家というか、先程も「クリエイターの人との連携をとっている」とのお話でしたが、そのへんで具体的に何か、作家の方との話し合いをされているのかを知りたいと思います。

河村:ありがとうございました。では、こちらの列でまだ発言されていない方はみんな手を挙げてください。

会場:朗読代理人という日本語訳で訳されていましたけれども、具体的にどのような活動をなさっているのでしょうか。私が想像するのには、視覚障害者の人に音声で朗読してやるのか、それとも文章が分かりにくい人に分かりやすい言葉で朗読してあげているのか。あるいはまた、スウェーデンのほうでは文章が分かりにくい聴覚障害者の人に手話で本を対面朗読みたいなことをしてやっている活動があるのでしょうか、ということを聞きたいと思います。

河村:ありがとうございました。

会場:弱視者ですが、基本的な質問をさせていただいて申し訳ないのですが、LLブックというのはユニバーサルデザインといったことをおっしゃっていましたけれども、この本というのはディスレクシアが使えるためのものなのか、ディスレクシアも使えるものということなのか、今の現状を教えていただきたいというのがあります。
それと先程、培われた読みやすさという技術というのですか、ハイテク関連企業などからも、取扱説明書だったのでしょうか、そういう依頼も来るという話があったのですが、たとえば実際そういう取扱説明書に関しても、ディスレクシアが読むためのものの制作なのか、ディスレクシアも読める制作なのかというのがやはり知りたいというのが一点の質問です。 それと、私自身弱視者であることから、スウェーデンのテキストデータの事情をお聞きできればと思うのですが、日本だとなかなかテキストデータを出版社が提供するというのが難しい状況でありまして、著作権の問題等難しいのですが、スウェーデンとか英語圏ですと、日本とは少し事情が異なると考えられる点としては、日本はそのテキストデータをスキャナで読み取ったとしても非常に認識率が悪くて、実際になかなか使えない、使いづらいのですが、スウェーデンだとほとんど100%読み取ってしまうのではないかと思うのですが、そこらへん、事情から、実際にテキストデータの提供の現状を教えていただければありがたい。

河村:もうお一人。

会場:今日はためになるお話、どうもありがとうございます。
一点だけ質問なのですが、DAISYに関しまして、マルチメディア化する際のフォーマットというのは公開されているのでしょうか。また公開されている場合、それを自由に使うというか、利用することはできるのでしょうか。お願いいたします。

河村:一番最後のは、たぶん私から答えたほうがいいと思いますので、ブロールさんにはたくさんの質問に回答する準備をしていただく間に、一番最後の質問は私から答えたいと思います。
DAISYコンソーシアムの責任者として回答いたしますが、フォーマットは公開されています。そして、完全に無償で使うことができます。さらに、2年に1回そのフォーマットは完全に公開のプロセスで新しいリクワイアメント、追加すべき機能というのを公募しまして、それについて改訂する委員会を2年に1回開催しています。詳しくは、DAISYのウェブサイトに全て公開されていますので、ご覧ください。ウェブサイトは、(http://www.daisy.org/)です。ここに、改訂の要望、今100項目以上新しく出ていますが、今検討中の改訂要望の中には、スウェーデンの文部省から出しているものもあります。手話のサポートというのがスウェーデンの文部省から改訂の要望として出ていますので、そういったものも含めて今、改訂の作業中です。現在のものは、完全に公開で、アメリカの規格として公開しています。それも出て参りますので、詳しくはそちらをご覧ください。
それでは、ブロールさんにたくさん質問が出ましたので、回答するのがたいへんだと思いますが、よろしくお願いします。

トロンバッケ:かなり質問をいただきました。なんとか、最善を尽くすのみであります。
まず最初のご質問、LLブック、これはなんなのか。これは、スウェーデンのEasy-to-readの略称、したがって両者は同じであります。
Easy-to-readの辞書があるのか。そして辞書として使えるものはあるのかということですけれど、今のところはないと思います。とてもいいアイディアだと思います。こういった案は初めて聞きましたので、この読みやすい辞書を作ることによって多くの人が助けられると思います。知的障害者の多くがこの種の辞書が使えると思いますので、いい案をいただいたと思います。

それからもう一つ、ホームページ。たくさんのホームページはなかなか検索が難しいという指摘がありました。また、えてして、政府当局、公共機関のホームページなども数多くありますけれども、スウェーデンの場合もなかなか検索は難しい、使い勝手が悪いというのは事実だと思います。かなり複雑なものも多いと思います。しかし、ここ数年間、少なくともスウェーデン当局はかなりEasy-to-read、読みやすいホームページを用意していると思います。ですから、ここにアクセスしてEasy-to-readのフォーマットで見ることができるものも多いと思います。これは公的機関の話であります。

それから、ネットワーキングに関する質問がありました。ネットワーク活動を他の国などと一緒にできないかということでありますけれども、ネットワーキングというのは一方では簡単ですけれども、もう一方では難しい側面があると思います。どういった人たちがネットワークに参加するかによってずいぶん違うと思います。ですので、全員が積極的に関わる、そういった意志がない限り前進はないと思います。これはEasy-to-readのネットワークにおいても同じことが言えると思います。ですので、こういった問題に関心のある人たちが自ら参加することが必要でしょう。これはどこに行っても共通していることではないでしょうか。

それから、Easy-to-readがたとえば認知症の人たちに使えるかということでしたけれども、スウェーデンでの経験では、認知症の方々にもうまくいくと思いますし、また朗読代理人の考え方ですけれども、こういった人たちは一緒になって読みます。認知症の方たちと一緒になって朗読をします。この種の活動でたとえば記憶が戻るということもあります。そして、本を通じていろいろなことを思い出すということがありますし、認識できるようになるということもあります。いずれにしてもEasy-to-read、これは認知症の方々にはかなり効果的であることが分かってきています。

それからEasy-to-readがたとえば失語症の人たちに使えるかということですけれども、あまりこの研究はなされていないと思いますが、しかしこういった失語症の人たちにも効果はあると思います。ただ残念ながらまだ十分な研究はされておりません。我々が見る限り、おそらくは失語症の方々にも効果があるのではないかと思っております。
それから、国際的な基準、たとえばEasy-to-readのための基準、そういった基準の要件があるかということだったと思いますが、そういった国際的な規格はありませんが、しかしこれもまたEasy-to-readネットワークで今後検討すべき課題かもしれません。なんらかの基準、国際的に使えるものを作れないかを検討する価値はあると思いますし、そして場合によっては、基準の科学的な評価方法も見つけられるかと思います。

それから、どれだけのLLブックがこれまで出版されているかということがありました。スウェーデンでは800タイトルが出版されていまして、年間30冊ずつ出版されています。 マーケティングはどうしているかということですが、こういった読みやすい本が最近一般の書店でも買うことができます。
それから、スウェーデンが行う読みやすい図書センターでは通販、メールオーダーで注文することができます。年に何回か冊子を出版していまして、それに基づいて、通販で買うことができます。たとえば私どものオーディオブックaudiobookというウェブサイトを使って買うことができます。

それから、どのようなタイトルかにもよりますが、1,000部刷ることもありますし、5,000部刷ることもあります。ベストセラーとなりますと、部数としては、第2版、第3版が出ることがあります。1年3,000部出版されれば、スウェーデンではかなりLLブックとしてはベストセラーと考えられています。

それから読みやすい本の定価ですが、むしろ安いのですね。同じようなタイプの同じようなサイズの他の一般の本に比べますと、安いですね。かなり安いというわけではありませんが、少し安くなっています。5ドルから20ドルくらいでしょうか。もちろん、どういう本かにもよって定価は違ってきます。
LLブックの作家ですが、それぞれのLLブックを出版するにあたって、プロジェクトを立ち上げます。つまり編集者が作家と緊密に連絡をとります。またイラストレーターとも、あるいはデザイナーと緊密に連絡をとります。非常に長い時間をかけてプロジェクトは行われます。1年以上プロジェクトを続けることもあります。このように、作家との緊密な連携をとって吟味しながら本を作っていきます。

朗読代理人の役割についての質問がありました。どのように活動しているのか、どういうことをしているのかというご質問だったと思いますが、基本的には読書に関する関心をかきたてるということが主な役目です。読書の体験を持ってもらう手助けをします。グループで声に出して読んだり、知的障害者と一緒に音読をしたりします。あるいは、認知症の人たちと一緒に音読をしたりします。そして読みやすい本を素材に音読をします。テキストのコメントを使って質問に答えたりします。ですので、こういった形が実現できればより読みやすい本の普及につながっていくでしょう。

それから、読みやすい本はディスレクシアの人向けなのかということですが、ディスレクシアの人にも非常にトレーニングの素材となるでしょう。ディスレクシアの人々がその読解力を改善する手助けになります。いろいろな方法がありますが、LLブックも一つの方法です。たとえば、LLブックをDAISYのフォーマットで読むことで、ディスレクシアの人も楽しむことができます。

それから我々の委託事業、コンサルティングに関してですけれども、私たち、マニュアルもこういったLLブックにあるかということでありますが、まだそうした作業はそれほどやっておりませんけれども、しかしLLブック、マニュアルのものは需要が非常に大きいと思います。また、たとえば先程申しましたけれども、保険会社の情報、年金の情報、銀行の情報など、Easy-to-read、読みやすい形態にしてほしいという要望があります。たとえ読書障害がなくても、なかなか分かりづらい内容が多いと思います。 それから、著作権に関するご質問もあったと思います。私は完全にそういったことにお答えできる立場にあるかどうか分かりませんが、しかし著作権の問題、これはスウェーデンの場合他の国と比べてそれほど複雑ではないと思います。ですので、たとえばDAISY版を作るといった場合、スウェーデンのトーキングブック、点字図書館など、こういったものを作ることに関してはさほど問題はありませんし、著作権料としてあまり払う必要もありません。ですので、読みやすい図書を作りたい場合、まず著作権を持っている会社と交渉しますが、通常、多少は払いますけれども、しかしそれほど大きな金額にはなりません。著作権の問題は、それほど、スウェーデンの場合は他の国ほど複雑ではないと思います。

河村:全体として、非常にたくさんのものを達成しているので、それを消化するのも難しいほどなのですが、実はスウェーデンのウェブサイトにたくさんスウェーデン語で書かれているのですよね。先程のEasy-to-readネットワークのところは、英語で書かれています。ですから、ぜひ紹介のあったwww.easy-to-read-network.org、そこをまず手がかりに、そこだけでもたくさんの情報がありますから、まずそれで今日なかなか十分には消化できない部分もありますけれども、ぜひ補ってみていただきたいと思いますし、そこから先、スウェーデン語の文献についてはぜひリハビリテーション協会の情報センターにがんばっていただいて、日本語にしてみんなに広げていただきたいなと思います。
それで、もう一つ、主催者側のテーマはやはりディスレクシア、あるいはDAISYとの関連でとうかがっておりますので一言申し上げますと、今日ブロールさんがおっしゃった中で、800タイトルのLLブックが既に出ている。そのうちの600以上がDAISYになって貸し出されている。中に写真がありましたのは、音だけのDAISYを耳で聞いて、LLブックを開いて読む、標準型の読書のしかたとしてですね。そういうスタイルを紹介されました。そういうDAISYの使われかたというのが、LLブックと共存してあるということも一つの新しい知見だと思います。これまで日本でマルチメディアDAISYというときには、マルチメディアで全部オリジナルの本を作るというところにかなり力が置かれていましたけれども、スウェーデンの場合には音だけのDAISYがあり、そしてオリジナルのLLブックがあれば、それを聞きながら目で見るという読書のスタイルが、この対象となっている方々には合っているのではないかという、そういう現状の報告でありながら、やはりご提案だったと思います。それだったら日本でもすぐできるのではないのか、普通の本とDAISYとを組み合わせ、やがて本がどんどんLLブックに、必要なものがなっていくというアプローチもあるように思いました。
以上、拙いコーディネートで本当に申し訳ありませんが、時間になりましたのでブロールさんに、今たいへん骨を折って全部の質問に答えていただいたと思いますので、拍手をお願いしたいと思います。

トロンバッケ:ありがとうございます。私もこちらのほうにうかがえてたいへん嬉しく思っております。

司会:野村のほうより、アナウンスしたいことがありますので、よろしくお願いします。

野村:少しだけ、先程言い忘れていたことがございまして、お話を申し上げたいのですが、今年、2008年5月15日に、ITU国際電気通信連合が、DAISYコンソーシアムのアクセシビリティ問題に関わる活動やこれまで情報へのアクセスが著しく制限されていたかあるいは全く不可能であった印刷物を読めない障害がある人々や少数派言語を話す人、書き言葉を持たない先住民族、そして読み書きのできない人々などへの情報へのアクセスを確保することによって、デジタルデバイドを解消しようとする取り組みを評価し、DAISYコンソーシアムに、今年、名誉ある2008年電気通信連合情報社会賞を授与いたしました。その際に、DAISYコンソーシアムの会長である河村宏様が代表していただいたということで、実はトロフィーを持っているんです。それをお見せして、お知らせができればいいかなというふうに思いました。

司会:ありがとうございました。
以上をもちまして、全てのプログラムを終わらせていただきます。今日は、この講演会のためにお忙しいところスウェーデンからいらしたブロール・トロンバッケ氏にもう一度皆様、あたたかい拍手をお願いいたします。

皆様、本日はご参加いただき、ありがとうございました。
最後になりますが、この講演会を陰で支えてくださいました、同時通訳、手話通訳、要約筆記の方々に心から感謝し、皆様あたたかい拍手をお願いいたします。